第158話 強大な力のぶつかり合い
真耶は剣を振るって直ぐに飛び上がった。そして、霧のように煌めく斬撃で瞬きする暇すら与えない。そのまま上からトドメをさそうとする。
「”アルテマソードウエポン”」
青く光る魔力が剣にまとわりついた。真耶は右手に握ったその剣を勢いよく振り下ろす。
「”天焼”」
アポロンは小さくそう呟き右手を剣に向けて突き出した。そして、全身から炎のように燃える魔力を吹き出させる。
その時、真耶はアポロンの右手に魔力が溜まって行くのが見えた。真耶は危険だと感じながらもその手を止めない。強力な一撃は容赦なくアポロンを襲う。
しかし、たった一瞬……アポロンの手に剣が触れたその一瞬で剣が魔力ごと燃え始めた。
「っ!?」
真耶は慌ててその剣を手放しアポロンを蹴り飛ばす。そして、なるべくアポロンから距離をとった。
アポロンは燃えるように揺らめく魔力を全身に纏いながら飛ばされていく。しかし、途中で体勢をなおし上手く地面に着地する。
「……」
「殴り合いを選んだことを後悔することだ。”天分身”」
アポロンがそう言うと、突如体に纏う炎が大きくなった。そして、7人ほど炎の分身ができる。
「後悔しないさ。どうなろうと勝つ自信があるからね」
真耶はそう呟いて振り返ると、その場から凄まじい速さで逃げ出した。アポロンはそれを見てニヤリと笑うと、同じかそれ以上の速さで追いかける。
8人のアポロンが真耶を追いかけた。紅い森の木すら燃やしてしまうその炎は強烈な熱波を放ちながら真耶を殺そうと襲いかかってくる。
「なぁ!?なぜ逃げる!?俺と戦えよ!」
「目の前にヤバいのが現れたら逃げるのが普通だろ!」
真耶はそう言って木々の間を飛びながら逃げる。しかし、気がつけば、あれだけ離れていたはずなのにかなり距離を詰められている。
「やれ」
アポロンのその言葉と同時に分身の1人が襲いかかってきた。真耶はその一撃を綺麗に躱す。
「”水禍・暗雲の渚”」
真耶はアンダーヴァースで攻撃した。暗闇のような波のような物はアポロンの体にべっとりとこびりつく。そのため、分身の1人は動きがかなり鈍くなった。
しかし、分身1人を相手していると、別の方角から他の分身が攻撃を仕掛けてくる。その攻撃のどれもが1発でも当たれば致命傷になりかねない。
真耶は必死に躱す。体をひねり、その空間全てに目を凝らし、全力で躱す。
「”プロミネンス・バースト”」
その刹那、真耶を目掛けてアポロンの本体が襲いかかってきた。両拳には紅蓮の炎が全てを焼き尽くすべく揺らいでいる。
真耶はそれを見て華麗に躱した。そして、すぐに攻撃を繰り出そうとする。しかし、気がつくとアポロンの姿はそこにはなかった。炎と分身だけがそこに残り、本体が居ない。
「……っ!?」
そして、真耶が気がついた頃にはアポロンの足が真耶の腹に突き刺さるかのように当たっていた。
「”メテオ・インパクト”」
灼熱の炎を纏い、固い鉱石のようにガチガチの足は真耶の体を蹴り飛ばす。そして、真耶は近くの大岩に叩きつけられた。
「”クリムゾン・オメガ”」
そして、アポロンの炎を纏った両拳が真耶の頭目掛けて突き刺さる。大岩は一瞬で瓦礫と化した。
当然真耶がそこにいれば一溜りもない。生きていたら不思議なくらい強烈な一撃をアポロンはお見舞した。
「……」
「”天氷・紅花氷”」
その時、真耶の声が空から聞こえる。そして、アンダーヴァースが振り下ろされた。
アポロンはそれを咄嗟に手で受け止めた。すると、自分の腕が凍りついていくことに気がつく。
そして、気がつくと辺りはビキビキと音を立てながら氷で埋め尽くされていた。そして、紅く色付いた氷が辺り一面に咲き誇っていた。
アポロンは瓦礫と化した大岩に目をやる。すると、そこには真耶の上着がぬぎすててあるのが見えた。そして、真耶の上着が消えていることも直ぐに理解出来る。
どうやら真耶はギリギリでアポロンの攻撃を避けたらしい。しかも、自分の上着を身代わりにして。
アポロンは慌ててその手をどけ、少しだけ距離を取った。なぜなら、そうしないと体が持たないからだ。右手で受け止めてしまったせいで右手は霜焼けのようになっている。
「”氷神・霊氷凍”」
更に真耶の追撃が決まった。先程まで轟音を立てて燃えていたその場が急に静まり返り、凍りついていく。まるで、幽霊が通って行ったかのような恐怖心がアポロンを襲う。
「っ!?何なんだ……!?この力は……!」
アポロンは呻くように言葉を発した。そして、目の前で空中に立つ真耶を見てすぐに身構える。
「凍りつけ。”氷神・蓮華菩薩・氷天蓮珠・神華”」
真耶は剣を鞘に収めると、顔の前で印を組んでそう唱えた。すると、真耶の体から凄まじいほどの冷気が溢れだしてくる。そして、それは一瞬にして結晶化し、ビキビキと音を立てて菩薩のような形を形成した。
更に、その周りには大量の氷で出来た蓮華の花が咲き誇り、そこから氷の花粉のようなものを大量に排出していた。
アポロンはそれを見た瞬間に死を悟った。このまま氷漬けにされて殺される。そう感じとった。そのためすぐにここから逃げなければならない。それもすぐに理解できた。
しかし、アポロンは逃げなかった。なんの理由があってか急ブレーキをかけて真耶が作り出した菩薩と対峙した。
「それがお前の本気か?」
「それのうちの一つではあるかもな」
「だったら、それを打ち砕いて俺はお前を殺さなければならないって訳か」
アポロンはそんなことを言って笑みを浮かべる。そして、手の平をパンっと音を立てながら合わせた。すると、アポロンの体から獄炎が溢れ出てくる。
「俺は光明神であり太陽神である。そして貴様を殺す者だ。”神羅焼・天恵”」
その刹那、その場を支配していた氷の空気が一瞬で溶かされた。氷の花粉は溶かされた挙句蒸発させられ、氷の蓮華の花はほとんど溶けてしまった。氷の菩薩でさえその形を維持するのがやっとのようだ。
「ヤキツクセ。”プラズマセイバー”」
アポロンがそう唱えた瞬間、巨大なプラズマ化した炎が真耶を襲った。真耶はそれをいち早く察し、全力で回避する。しかし、アポロンがその炎を剣のように振り回し始めたせいでさらに回避が難しくなった。それでもカスミは全力で回避する。
「俺はオリュンポス……貴様ごときが勝てると思うなぁぁぁぁぁぁ!”神羅焼・神華”」
アポロンの叫び声と共に突き出された手のひらから炎が放たれた。そして、その炎は花を形成し、豪華の花びらを散りばめながら真耶を襲う。
「おいおい、俺のをパクるなよ。”氷神・冷扇華”」
真耶はそう言ってそこら辺に落ちていたちょっと大きい葉っぱを拾いながら後ろに逃げる。そして、襲いかかってくる炎を見つめながらその葉っぱを強く振った。
すると、葉っぱが風を起こす。その風は瞬きをする間もなく強大なものへと変わっていき、更には冷気まで持ち始めた。そのせいなのか、その冷風に触れた部分がビキビキと音を立てながら凍りついていく。
そして、アポロンが放った灼熱の炎と真耶が放った極寒の冷風が正面衝突する。すると、巨大な水蒸気が空高く上がった。そして、ジュゥーという氷が熔け、水が蒸発する音が大音量で鳴り響く。さらに、蒸発する水のせいなのか、周りに霧がはって視界が悪くなった。
「ハハハハハ!燃え尽きろ!」
アポロンはそう叫んだ。
「黙れよ。現実から目を背けるな!」
真耶はそう言い返す。そして、指をパチンと鳴らした。すると、アポロンが放った炎が完全に凍りついた。それだけでなく、当たりを支配していた水蒸気がビキビキと音を立て凍りついていく。
結晶となった水蒸気はまるで星のように明るく煌めいていた。そして、その輝きを増すかのように真耶は凍りついた炎を砕き氷の結晶を増やした。
「っ!?」
アポロンはその状況を見て驚愕し言葉を失う。さらに、自分の周りも凍りついており、熱気を持った自分の体の1部さえも凍っているのを見て真耶に恐怖の念を覚える。
「まさかこの体を凍りつかせるとは……手加減など出来ぬか……”神羅焼・極楽天樹・炎帝之開花”」
アポロンは手を空に掲げながら呪文を唱えた。すると、アポロンの少し後ろから巨大な木が伸びてきた。その木は瞬く間に成長していき、開花する。
「炎の花だ。死を導くもの……そして、全てを焼き付くすものだ」
アポロンはそう言って全身からとてつもないほどの炎を放つ。そして、周辺を炎の海へと変えてしまった。真耶は咄嗟に上空に飛び上がり炎から逃げると、炎に埋め尽くされた地面を見て少し集中する。
「やるか……”冥波楼・透き通る世界”」
真耶はそう唱えて手の平をパンっと合わせる。すると、突然真耶の周りに桜の花びらが舞落ちてきた。その花びらはゆっくりと落ちていく。そして、業火に埋め尽くされた地面に落ちていった。
真耶はそれを見て地面に着地する。炎で埋め尽くされた、灼熱の大地に足をつける。しかし、表情ひとつ変えずにアポロンを見た。
「何だ?その技は」
アポロンは問いかけた。しかし、真耶は答えない。ニヤリと笑うだけで口を開こうとしない。
「答えろ!”神羅焼・覇動”」
アポロンはさらに魔法を唱えた。すると、灼熱のオーラが全身にまとわりつき、背後に巨大な炎の化身を作り出した。その化身はまるで魔神のような形をしていた。
「天界……聖域に住み着くオリュンポスが、魔の神の化身を作り出すとはな。どうした?堕ちたか?」
真耶はそう聞いた。
「堕ちてなどいないさ。屈服させただけだ」
アポロンはそう言い返す。
「戯言を。そこまでしないと俺に勝てないんだな」
そして、真耶はさらにそう言った。すると、アポロンの魔力が揺らめく。どうやら今の言葉で怒りが沸点を迎えたらしい。膨大な魔力が全身を駆け巡っているのが見えた。
「今の攻撃が何か教えてやるよ。今のは触れたものの実体を奪う魔法だ。要するに、すり抜けてしまうって訳だ。ただし、これには条件があってな、実体を奪うものを先に決めておかなくてはならないんだ。だから、それ以外は効果がないんだよ。お前はこれを聞いてどう出る?」
真耶はそう言った。すると、アポロンは少しだけ炎を小さくさせる。どうやら自分自身の実体を奪われるのを避けているらしい。
「……フッ、馬鹿なヤツだ。その選択でお前は死ぬ。”冥覇楼・天聖刀・斬”」
その刹那、地上を埋め尽くす業火が瞬く間に切り裂かれた。
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