第156話 貫く灼熱
真耶は直ぐにその場から動こうとした。しかし、技の反動のせいなのか全く体が動かない。まるで、強力な金縛りにあっているかのようだ。
「クッ……!」
真耶は必死に足を動かそうと努力する。しかし、その努力とは裏腹に体は全く言うことを聞こうとしない。
そうこうしていると、ヘファイストスが追撃をしてきた。しかし、先程とは違って大きさも小さい。
「クッ……!」
真耶は何とか足を動かした。その瞬間、右目の視界が真っ白になる。そして、強烈な頭痛と共に倒れてしまった。そのせいで木の上からも落っこちてしまい、地面に叩き落とされたような形で横たわることになる。
「……はぁ、はぁ……!」
真耶は持てる力を振り絞って体を起こし、近くの木にもたれかかった。そして、ヘファイストスを見る。すると、既に攻撃を繰り出してきているのが見えた。それは、先程よりは少し小さい隕石だった。
「舐めるなよ……!”時眼・狂い時計”」
真耶は血まみれの右目をさらに開いた。そして、凄まじい魔力を放つ。それと同時に狂った時計がいくつも現れ、向かってくる隕石を拒んだ。
その狂っている時計は隕石を消し去り吸収する。すると、狂っていた時計が正常に戻った。
「グッ……!ガァッ……!」
真耶は強烈な痛みを右目に感じた。その痛みは耐え難く、目を開くことは愚か、手で押えてなければ頭がおかしくなりそうだった。
真耶は痛みが引くとゆっくりとその手を離す。そして、手のひらにべっとりとこびりついた真っ赤な血を見ながら違和感に気がついた。なんと、右目が見えないのだ。真っ白なモヤがかかっている。
「っ!?」
真耶は見えなくなった片目に少し手を当ててみる。すると、大量の血がこびりつく。
「……最悪だな……」
真耶がそう言った刹那、なにかが飛んでくるのが見えた。真耶は咄嗟に左目を開き、魔法を放つ。
「まずいっ……!”神眼””物理変化”」
今度は左目を開き魔法を唱えた。すると、真耶の目の前に壁ができていく。真耶はそれを神眼を使い物質を変え、炭素硬化をさせたカーボン製の壁へと変えた。さらに、そこにオリハルコンを混ぜ込む。そうすることで、かなり強固な壁を作った。
しかし、それは全く役に立たなかった。飛んできたものが灼熱の槍だったせいで、カーボン製の壁は溶かされ貫通した。
「っ!?」
ゴポゴポと音を立てた溶岩の槍が真耶の左胸を貫く。そして、真耶の左胸を溶かし始める。
「クッ……ソッ……!」
真耶は必死に体を動かし逃げようとする。しかし、再び飛んできた槍が今度は右脇腹に突き刺さってしまった。真耶の右脇腹がゴポゴポと音を立て沸騰する。
「……っ!」
「馬鹿ね。私の属性は炎とその派生の灼熱。炭素の壁なんて溶かしてしまうわよ。でも、考えは良かったわ。普通の攻撃なら防げたんじゃない?」
ヘファイストスはそう言ってハンマーをクルクル回すと振り上げる。真耶は壁の向こうにいるヘファイストスの位置を声で確認すると、1度目を閉じ魔力を溜める。そして、目を開き魔法を放つ。
「”天眼・天の輪”」
その刹那、金色に光る輪が大きくなりながら飛んでいき、真耶の目の前にあるものをほとんど全て消滅させた。
しかし、消せないものもあった。なんと、ヘファイストスとヘファイストスが作ったオリハルコンの壁は消せなかった。
「っ!?」
「……残念ね。昔のあなたの方が強かったわ。なんでなんでしょうね……?」
「……ハハッ……」
真耶はヘファイストスの言葉を聞き取ると、少しだけニヤける。そして、少しだけ後ろに下がると気にもたれかかった。
「ごめんなさい。もうさようならしましょ。あなたと出会えてよかったわ。少しの間だけだったけど……いや、もういいわ。さようなら。”大地の剣”」
ヘファイストスは悲しい顔をして地面にハンマーを叩きつけた。すると、ボコボコと地面が蠢き土の巨大な剣が生成される。そして、それは真耶の真下でも生成された。
地面から生えてきた巨大な土の剣は雲すらも切り裂いた。そして、真耶がもたれかかっていた木を突き刺し粉々に砕く。そのため、その場にいた真耶も確実に殺されたと思われた。ヘファイストスも、真耶を確実に殺したと思い、サタン達を殺そうとする。
しかし、その時初めて違和感の正体に気がついた。なんと、ヘファイストスのいる場所が変わっているのだ。しかも、先程までいた場所とかなり酷似した場所に。
「どこ……!?なんでこんな所に……」
ヘファイストスは頭が混乱する。そして、広範囲に探知魔法を使った。すると、情報が頭に流れ込んでくる。すると、この空間にヘファイストスの仲間が1人と、よく知る魔力が1人、そして、魔力を少し持った、よく知る人の中で感じていた魔力が1人いた。
「まさか……!?」
ヘファイストスは思わず顔をあげる。そして、目を凝らして飛んでいた何かを見た。
「真耶!?生きていたの!?」
そう、なんとそれは真耶だった。真耶は刺される直前にクロエによって助けられていたのだ。
「っ!?」
ヘファイストスはそれを見て言葉を失う。そして、真耶はそんなヘファイストスを見て力なく笑っていた。
「もぅ!なんでそんな笑ってるの!?」
クロエがそう言って真耶に向かって怒る。
「……とりあえずどこかに止まって回復するわ」
クロエはそう言ってどこか着地できそうな場所探した。そして、木の上をみつけ止まろうとする。
「っ!?ま……て……!」
「うるさいわ。いいから黙ってなさい」
クロエは真耶の制止を聞かずに木の上に止まる。そして、真耶を下ろして回復しようとした。その時だった。
「馬鹿野郎!」
真耶がクロエのお尻を全力で抓った。
「ひゃあ!いだい!」
クロエはその痛みにお尻を押えて飛び跳ねる。
「もぅ!何するのよ!?」
「馬鹿!今すぐこの場から離れろ!」
真耶はそう言って軋む体を無理やり動かし、クロエと一緒に木の上から落下した。すると、先程までいた木の上に鋭い剣が生成される。
「っ!?」
それを見たクロエは言葉を失った。そして、直ぐに真耶の体を掴み上空へ飛び上がる。
「死にたくなけりゃ飛び続けろ!あと、俺を否定したからおしりペンペンプラスケツバットな」
「ひぇっ!」
真耶はそんなことを言って自分の肩と腹に付着する溶岩を、その部分を物理変化で削ることによって落とした。そして、直ぐに体を物理変化で再生させる。
「クッ……!……ったく、なんつー力だよ」
真耶はまだ体に付着する溶岩を手で払い落としながらそう言った。その時、払った溶岩がクロエに当たる。
「熱っ!なにこれ!?」
「何って、溶岩だろ?」
「いや、それは分かってるけど……よくこんなのが着いた状態で生きてたわね」
「俺はタフなんだよ。そんなことより前を見ないと死ぬぞ」
真耶がそう言うと、クロエは前を向く。すると、巨大な剣が迫ってきていた。
「きゃっ!」
クロエは慌ててそれを躱す。すると、真耶はちょっと笑いながら言った。
「馬鹿だな〜。よくあんな強敵の前でよそ見できるな。もしかしてあれか?あの灼熱の槍みたいなので心臓を突き刺されたいのか?」
「い、嫌よ!そんなことされたらまた死んじゃうわ!」
クロエはそう言ってムッとする。そして、頬をふくらませてそっぽを向いて怒る。
「ほんとか?実は、超ドMなクロエさんは灼熱の棒で下の方をあんなことやこんなことされたいんじゃないのか?」
「うっ……!さ、されたいけど……で、でも!今は戦いに集中するのよ!変なこと考えてないで!」
「ま、それもそうだけど、その言葉はお前が1番意識しておいた方がいい」
真耶はそう言って前を指さす。すると、巨大な壁がそこにあることに気がついた。クロエは急ブレーキをかけるが、間に合わずに激突する。そのせいで、体の前半分を強打した。
「うぅ……いだいよぉ……!」
クロエは真っ赤になった顔で、泣きながら真耶を見る。
「……はぁ、助けてくれたことは感謝するけど、足は引っ張らないでくれよな」
真耶はそう言って右腕に着けていたシューターから糸を出す。そして、それをクロエに引っつけると、後ろに大ジャンプしながら自分に向かって引いた。
そうすることでクロエを自分の体に引き寄せ、しっかりと抱きしめるとすぐさまその場から離れる。すると、先程までいた場所に巨大な剣が生成された。
「もう一度言う。止まれば死ぬぞ」
真耶はクロエをお姫様抱っこで抱き抱え、凄まじい速さで地上を駆け巡りながらクロエにそう言う。
「んっ!分かった!」
真耶はその返事を聞くと、優しく笑って再び大ジャンプをした。そして、クロエを離すと、背中に背負っている剣の柄に手を伸ばす。すると、真耶達を狙って地面が盛り上がってきた。真耶はその盛り上がった地面を足場にしてどんどん駆け巡っていく。
そして、蠢く地面の中心にいるヘファイストスを見て、ニヤリと笑った。
読んでいただきありがとうございます。