第153話 闇の真実
「……」
クロエは復活するなりボーッと空を眺めている。まるで、気の抜けた風船のように、光のない目で空を眺めていた。
「おい」
真耶は少し面倒くさそうにクロエに声をかける。しかし、クロエの異常さに気が付き慌てて駆け寄った。
「っ!?まさか、失敗したのか!?まるで目に光がない……!まずいな。1度魂を取りだして定着させ直さなければならない……!」
真耶は慌ててクロエを寝かせる。そして、クロエに寄り添い、クロエの胸に手を当てる。しかし、その時に気がついた。口元が少しニヤついていることに
「……」
真耶は真顔で立ち上がると、クロエの腹を踏んだ。そして、ぐりぐりと押さえつけると睨みつけながら言う。
「起きろ。寝坊助」
「ご、ごめんごめん……謝るから足退けてぇ……」
「……」
真耶は起きたクロエを見ながら更に踏みつける。そして、少し足をどけると今度は胸を踏んだ。
「ひゃあっ!?そこは……らめぇ……♡」
「エロい声出すなよ。これも俺を騙した罰だ。散々俺の事を弄びやがって。考えてみたら、アイティールとか奏とかよりお前が1番エロいわ。ずっと俺の体の中で俺の心をまさぐってたんだからな」
「っ!?そんな……エロい事してないよ……♡」
真耶は泣きそうな目でみてくるクロエに軽蔑の目を向ける。
「……効かないよね。分かってたけど」
「……はぁ、さっさと行くぞ」
真耶はそう言って歩き出す。
「目的地はどこなの?」
「王城……と言いたいところだが、目的地はそこから少し逸れた紅の森だ」
「何で?」
「気が変わった。それと、そこになんかいる気がする」
真耶はそう言って歩き出した。さすがにアイティールも呆れて言葉が出なくなる。そして、無言で真耶の頭を強く叩いた。
「……え?」
真耶は何が起きているのか分からず混乱する。そして、少しだけ考える素振りを見せると、どこか納得したような顔をしてポケットから何かを取りだした。
「はいこれ。口枷だよ」
「違うにゃ!!!」
「あ、じゃあ媚薬?」
「それも違うにゃ!!!」
アイティールは真耶が出すものに1つずつ文句をつける。真耶はそんなアイティールを見て一瞬無言になると、突然ハサミを取りだした。
「にゃにゃ!?」
「髪の毛伸びたから切りたいのか?」
「にゃんでそうにゃるにゃ!?」
真耶の発言にアイティールはツッコミを入れる。そして、過呼吸になりながらしっぽを振った。
「からかって悪かったな。とりあえず行くぞ」
真耶は不敵な笑みを浮かべると、アイティール達の意見を聞くことなく勝手に歩き始める。アイティール達はそんな真耶について行った。
それから少し歩くと、紅の森に着いた。そこは、その名の通り紅に染っている。紅の草木に、紅の川。炎さえも紅に染っている。
「Srが使われてるな」
真耶はそんなことを呟きながらその森の中へと入っていく。アイティールは一瞬だけ笑うとニヤニヤしながら真耶の後を追った。
ルリータ達はそんな真耶のつぶやきよりも、その異様な光景に目を丸くさせている。
「なんでここに来たのです?」
「王城に入るためだよ。真正面から入っても、直ぐにエンカウントするだけだろ?だから、こうして裏から回り込むんだよ」
そう言って真耶はスイスイと森を抜けていく。
「あと、多分ここにいるからだね」
「いる?誰がですか?」
「敵と味方が」
真耶はそう言ってさらに奥はと進んでいく。気がつくと、そこは王城からかなり離れた場所だった。見た目的にかなり時間がかかりそうな位置に来ている。
「なんでこんなに離れた場所に来るのよ。王城は反対でしょ?」
「ま、黙って着いてこいよ」
真耶はそう言って歩き続ける。そして、唐突に真耶はこう話した。
「お前らも本当は分かってんだろ?あそこに門番がいたってことは、おそらくあの門を抜ければ敵だらけだ。そんな中に入れば疲れるだろ?」
「いや、疲れるどころか殺されますよ」
「ま、そういうことだ。何度も言うが、俺はお前らを死なせたくない。仲間を失いたくないんだ。何があってもな」
「何そのフラグみたいなこと言ってんの?」
フィトリアがそう言ってプンスカ怒る。真耶はそんなフィトリアを見て優しく笑うと、前を向きながら言った。
「フラグをへし折るのが俺だろ?」
真耶がそう言った途端、ルリータがすかさず言った。
「違いますね。フラグを増やして自ら危機に陥らせ、その後私達を助け出し好感度を上げ、最後に全員分のフラグを背負い込み致命的な傷を負うのが真耶様です。そして、その手に引っかかって恋に落ちた愚かな人の1人が私です」
ルリータもプンスカ怒りながら饒舌にそう話す。真耶はその話を聞いていて複雑な心境となった。
そして、そんなこんなしながら歩いていると、開けた場所が見えてきた。そこには木々が少なく倒木も多い。
さらに、そこからは強い魔力を感じる。どうやら誰か戦闘を行なっていたいるようだ。
「誰か戦っておるな。1度隠れて戦況を確認する……え?ちょっと待って」
無為は物陰に隠れて戦況を確認させようとした。しかし、真耶は止まらず戦場に入っていこうとする。
「待ちなさい!」
その時、フィトリアが横から真耶を押し倒し止めることに成功した。そして、真耶に問いかける。
「何を考えてるの!?死ぬかもしれないでしょ!?」
フィトリアはそう言って叫ぶ。
「ルリータに防音魔法をかけてもらったから言わせてもらうけどね、なんでそんなに自分のことを考えないの!?皆心配してんのよ!」
「悪いな。誰になんと言われようと、俺は止まれないんだ」
「何で!?何をしようって言うの!?」
「罪を……償う事だよ」
「罪……?」
フィトリアは真耶の言葉を聞いて言葉を失う。しかし、ルリータがすかさず言った。
「要は、私の目を潰した男がすぐそこにいてサタン様達と戦闘しているから、罪滅ぼしに1発殴ろうってことですよ」
「おい!そんなペラペラと言うなよ!」
フィトリアによって押さえつけられた真耶は首だけ横に向けてルリータに怒る。
「そういうことだ。あの時殺しそびれた男がいるんだ。絶好のチャンスだろ?」
「殺しは許さないわ」
フィトリアはムッとした表情で言った。
「はぁ!?何でだよ!?」
「何ででもよ。殺した瞬間全員で真耶の嫌いなものを食べさせるわ」
「おいやめろ。……ったく、なんでそんなに俺に人を殺させたくないんだ?ルリータだって憎んでるんだろ?アポロンのことと……俺の事を」
「「「っ!?」」」
その言葉でルリータと真耶以外の全員が動揺しルリータを見つめる。
「本当……なの……?」
アイティールは少し怖がりながら問いかける。
「……」
しかし、ルリータは不思議な笑みを浮かべるだけだ。何も答えてくれない。すると、アイティールがルリータの胸ぐらをつかみ言った。
「答えなさい!」
「答えたところで何がどうなるんです?もしかして、私が憎んでるって言ったら殺しますか?それだったら答えたくないなぁ」
ルリータはそう言って不気味な笑みを浮かべた。その様子は、普段のルリータからは考えられないほど恐怖に満ちていた。
「それは真耶を恨んでいると取っていいのよね?」
フィトリアはルリータに聞く。
「ご自由にどうぞ。どうせ何も変わらないから」
「変わるわよ!どうして……どうして憎んでるの!?仲間でしょ!?」
「それとこれとは別ですよ。そもそも、片目潰されて憎まない人の方がおかしいですよ。それに、いつだって恐怖に支配されている……。もしかしたら、次は左目かもしれないって言うね……」
「待つにゃ!おミャーはそう言うけど、あの時左目を潰されたのはおミャーが油断していたからだにゃ。真耶のせいじゃにゃいにゃ!」
「違いますよ。あれは真耶様のせいです。だって、あの時あの光線が放たれたのは……真耶様がトラップに引っかかったからなのですから」
「「「っ!?」」」
ルリータのその言葉を聞いたアイティール達は、唐突に突きつけられた真実に言葉を失い真耶の顔を見た。
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