第152話 復活
目を覚ますと目の前にはトリスタンとヘルメスが立ち上がり武器を構えていた。どうやらあの一瞬で体勢をたて直したらしい。
しかし、真耶はそんなことを気にする事はない。何事もなく剣を構える。
「……殺しは……」
(ダメだよ)
真耶の小さな呟きでクロエの言葉がフラッシュバックする。だから、真耶は少し目を瞑った。もう一度自分の心に問いかけ、何をするか決める。
「……はぁ、そんなに俺の事信用してないのかな」
真耶がそう言って走り出そうとした時、突如その場の次元が変わった。そして、すぐに元に戻る。
「っ!?」
「っ!?」
「っ!?」
3人の思考が止まった。そして、真耶は目の前に現れたアイティールを見てさらに思考を止める。
「な……!?」
「真耶。殺しはダメだよ」
アイティールは怒ったような表情で真耶にそう言う。その言葉を聞いて真耶は理解した。どうやらアイティールは真耶に殺す気がないことを知らないらしい。
真耶はニヤリと笑ってアイティールに言う。
「そうだな。お前が俺とお前の子供を作りたいとかそんなことを思っているなら考えてもやらんぞ」
真耶がそう言うとアイティールは顔を真っ赤に火照らせて恥ずかしそうにポカポカと真耶に向かって殴ってくる。
「あはは!冗談だよ」
「え……それも許さんにゃぁぁぁぁぁぁ!」
「何でだよ!?」
2人はそんな会話をする。すると、トリスタンが言った。
「俺を忘れるな!”空海斬”」
トリスタンの攻撃が真耶に向かって飛んでくる。しかし、真耶はそれを弾きすぐに反撃をする。
「隙だらけだね!”呪言・闇……」
「”深紅・加具土命”」
ヘルメスが本を広げ魔法を唱えようとした時、アイティールが横から黒い炎を放った。それは、ヘルメスの本を燃やし、動きを止める。
「クソ!」
「よくやった。アイっぴ。”天照……」
真耶はアンダーヴァースに白い炎を灯らせる。そして、一瞬でヘルメスと距離を詰め、その剣を構えた。
「……聖神楽”」
真耶の剣が振り下ろされる。それは、まるで何かの芸術のように綺麗で煌めいている。そして、ヘルメスはその一撃を受けて気絶した。
「安心しろ。峰打ちだ」
真耶はそう言って剣を鞘に収めた。その後には、まるで花火でも落ちたかのように光る火の粉が舞い落ちていた。
「トリスタン、お前はどうする?このまま戦うのであれば、俺だって容赦はしない。殺しは……しないが、行動不能にはさせてもらう」
真耶はそう言って拳を構える。どうやら真耶は拳でトリスタンと戦うつもりらしい。殺さないようにしているのだろうが、それが逆にトリスタンを怒らせる。
「黙れよ!俺が!お前ごときに殺されるとでも思ってるのか!?”空撃波”」
トリスタンが手を横に振り払う。すると、鋭い風の刃が2つ真耶を襲う。真耶はそれを見ると直ぐに自分の前に手で円を作った。すると、何故か風の刃が軌道を変えてどこかよく分からないところに飛んでいく。
「無駄だ。もう諦めろ」
「クッ……!そうやって上から見下していい気になりながって……!」
「なんだ?まだやるつもりか?なら、こうでもしないと分からないのか?」
真耶はそう言って剣の柄に手をかけた。すると、そこからおどろおどろしい泥沼のような赤黒いものが溢れ出てきた。それは、ねっとりと真耶の腕に絡みついていき、恐ろしい腕を形成した。
「っ!?」
しかしその時、トリスタンはある異変に気がつく。それは、何故か真耶が逆立ちをしているのだ。だが、髪が逆だっている様子は無い。
「っ!?」
そして、その時初めてトリスタンは自分の首が切られたことに気がついた。トリスタンはそれに気がつくと驚きのあまり声が出なくなる。いや、本来首を切られたものが声を出すことなんて出来ないだろう。生きているのもおかしいくらいだ。だから、何故トリスタンは自分が生きていて、痛みを何も感じないのか分からない。
「ま、全部嘘だけどね」
真耶がそう言った瞬間トリスタンは我に返る。どうやら真耶の殺気に当てられ意識が朦朧としていたらしい。そんな時に真耶が軽く魔法をかけたみたいだ。
「これで分かっただろ?殺されたくなければ去れ」
真耶はそう言った。そして、静かに剣から手を離す。トリスタンは少し怒ったような表情を見せ、立ち上がると直ぐにその場から去っていった。
「真耶……」
「……どうした?」
「……なんで?」
アイティールは真耶にそう尋ねる。しかし、真耶は答えない。ただ、何もせず、振り返ることもなく立っている。そして、その手をアイティールの胸に伸ばしていた。
「……変態にゃ」
「当たり前だろ?俺は変態だ」
「……もう取り返しがつかないにゃ。今すぐ病院に行った方が良いにゃ。そして電気ショックで頭空っぽにして戻ってきて欲しいにゃ」
「そんなことしたら、お前の大好きな真耶さんが消えちゃうぞ♡」
真耶はふざけながらアイティールにそう言った。すると、アイティールはぷいっとそっぽを向いて言う。
「消えろにゃ」
その言葉を聞いた真耶は素直に落ち込んだ。手を胸から離し、肩を落として死んだ目をする。
「……そうだよな。俺なんか消えた方がいいよな」
「にゃにゃ!?ち、違うにゃ!消えちゃやだにゃん♡って言ったにゃ!にゃ?だから落ち込むにゃよにゃん!」
「ほぅ、そうかそうか。やはりそうなんだな。やっぱりお前には俺が必要ということだな」
真耶はコロッと態度を変えてそんなことを言ってくる。どうやらアイティールは嵌められたらしい。顔を真っ赤に染め上げて煙を出している。
「とまぁ、アイっぴをいじるのはこの辺で良いかな。とりあえず今は進もう。城に近づけば何か起こるだろ」
真耶はそう言って歩き出す。
「……と、その前にこれだよな」
真耶はそう言って上着の内ポケットから小さな小瓶を取り出した。その中には灰が詰まっており、不思議な力を感じる。
「本当に出来るのだろうか……?」
真耶はそう言って魔法陣を描き地面に貼り付ける。そして、その上に小瓶を投げ捨てた。すると、小瓶が割れ中の灰が溢れ出てくる。
「”甦れ”」
真耶はそう唱えて手をパンっと合わせた。すると、魔法陣が光を放つ。そして、辺りに舞い上がった灰が光を上げて形を作っていく。
さらに、真耶は体から魂を1つ放出させた。それを作ったからだの中に入れ、定着させる。
「……本当に出来るんだな」
真耶はそんなことを呟いてゆっくりと呼吸をした。
そんな真耶の目の前にはクロエが立っていた。
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