第150話 門を破る者
「……」
真耶は右目でヘルメスを見つめる。ヘルメスは何もしてないのにただ一人で笑っていた。
「……夢の中では、俺を倒したんだな」
真耶はそう言ってヘルメスに近づき、額にデコピンをした。すると、夢の中へ行っていた意識が引き戻される。
「どうだ?夢の中では俺を倒せたか?」
真耶は意識を取り戻したヘルメスに向かってそう問いかけた。すると、ヘルメスは驚いたような表情をして真耶の顔を見る。
「びっくりしたか?」
「な、なぜお前が生きている!?今殺したはずだ……!」
「残念。今俺を殺したのはただの幻想だ。どうやら夢に囚われていたらしいな」
「っ!?」
真耶の笑みを見ていたヘルメスは何かを察し怒る。しかし、そんな様子のヘルメスを見ても、真耶は未だに笑っている。
「怒らせたな。容赦はしない!”呪言・凍てつく文字”」
ヘルメスは怒ると本を広げる。そして、そこに書かれた文字をなぞると、その文字が浮きでてきた。その文字は魔力を持っており、少し冷たい。
そして、その文字が地面に触れた時、急に地面が凍てつき始めた。
「呪言か!」
真耶はそう叫ぶと後ろに飛び退く。そして、持っている剣を地面に突き刺し魔法を唱えた。
「”深紅・地獄炎”」
真耶の剣から放たれた強力な炎は瞬く間に凍てつく大地を溶かしていく。真耶はその様子を確認すると、剣を引き抜きヘルメスに襲いかかった。
「フッ、舐めるなよ!」
ヘルメスは夢の中と同じように真耶の剣を本で挟んで止めた。
「やっぱり同じことになるのさ。たとえその左腕と右目が治っていたとしてもね。俺は伝令神だから情報をいち早く手に入れなくちゃならない。だから知ってるんだよ。その腕が治ってたことも、その理由も。まぁ、強くなったことには変わりないから今のうちに殺しておきたいけどね」
「ほぅ、よく調べてるな。その様子だと俺のプライベートは何でも知ってそうだ。だったら俺が今何を考えているかわかるよな?」
「簡単さ。『もしアイティールが捕まったら、多分下の穴から風船を腸や胃袋に詰め込まれて膨らまされるみたいな拷問を受けるんだような』だろ?」
「っ!?」
真耶はその言葉を聞いて驚くと同時にヘルメスにひく。なんせ、全部当てたからだ。真耶が変な妄想していたことすら当ててしまった。
「ちょっ!真耶!変な妄想するにゃ!」
「悪ぃ悪ぃ」
「フッ、戦闘中に余計なことを考えていて大丈夫なのか?俺を甘く見るなよ」
「大丈夫じゃなかったらしてないだろ?」
「……」
ヘルメスは真耶の言葉を聞いて顔をしかめる。そして、怒りのオーラを放ち真耶の剣を挟んである本を握りしめ言った。
「へし折ってやるよ!この剣を!」
ヘルメスはそう叫んで本の中を光らせる。恐らく何かしらの呪言を使っているのだろう。
「出来るものならやってみろ。”深紅・炎羅”」
真耶はその剣から凄まじい勢いの炎を放つ。その炎の威力はヘルメスが夢で見たものとは比べ物にならない。
「ちっ!」
ヘルメスはその炎を見て思わずその場から離れてしまった。そのせいで本も剣から離れる。
「”戻れ”」
ヘルメスは離れたところから本を自分の元へ呼び戻した。そして、本を開き怒りを顕にしながら言った。
「やってくれたな……!俺の本が燃えただろ……!」
ヘルメスはそう言いながらその燃えた本を修繕していく。
「別にいいだろ?それに、相手の武器破壊は常識だ」
真耶はヘルメスに対してそう言い返した。そして、剣を構える。
「1つ言ってやろう。俺はこれまでお前にやられてきた奴らとは違う。”呪言・終焉を呼び込む言葉”」
ヘルメスの本から文字が浮き出てきた。その文字はこれまで見たこともないようなもので、到底読めるとは思えない。
そんな文字が地面や空に吸い込まれていく。溶け込むように消えていく文字は、より一層嫌な雰囲気を醸し出した。
「……アイティール!結界を張れ!ルリータもだ!」
真耶はアイティール達にそう言った。そして、静かに集中する。
「真耶!大丈夫なの!?」
「黙ってろ!」
真耶はその状況に慌てているのか、少し苦しそうな顔をして謎の構えを取る。
「……」
「フフフ、君が次に使う技を教えてあげようか?それは、冥剣だ。君は突如現れる俺に対してそれを使う。どうだ?君のビジョンではそうなってたか?」
ヘルメスはそう言った。
「……」
しかし、真耶は答えない。その構えをとくことなく集中している。
「そうならないわけが無い。なんせ、それが一番勝ち目があるからな。下手を打てば殺さね兼ねない。そんな状況で弱い技を出すのは馬鹿だ。それに、これまで使ってきた技は理滅があってのもの。その理滅も自分のものでは無い。だったら、自分の魔力を使用するのが当たり前だ」
「……」
「さて、俺の考察はここまでだ。なんせ、もうお前は死ぬからな」
へるあはそう言って本を閉じた。その瞬間、その場に巨大な地震が起こる。その地震はまともに立っていられるものではなかった。
真耶は多少ふらつきながら剣を立て何とかその場に留まる。だが、その地震でふらついてしまったため構えは崩れた。さらに、剣を杖の代わりにしているため、剣も使えない。
「まだ終わりはしないさ。終焉にはまだ遠い!」
ヘルメスがそう言うと、地面から灼熱の剣が飛び出してくる。真耶はそれを難なく躱した。
「っ!?」
しかし、たった1回躱したところで収まるはずなどない。さらに数本の炎の剣が地面から飛び出してきた。それらは容赦なく真耶を襲う。
真耶はその炎の剣も全て何とか躱して反撃をしようとする。しかし、目の前から黒い球が飛んできていることに気がつき即座に体をそらし避けた。その黒い球は地面に激突し、地面を抉りとっている。
「なるほどね。こりゃまずいね」
真耶はそう呟いてアイティール達の元まで駆け出した。その速さは凄まじく、一瞬にしてアイティール達の元までたどり着く。
「お前ら、少しの間耐えろ」
真耶はそう言って右目を見開く。すると、アイティール達の体ら結界ごと時空間に飛ばされた。
「古代武器・精霊達の羅針盤の力だ。転移魔法を強化した」
真耶はそう呟いて今度はヘルメスを見る。ヘルメスは楽しそうに笑っていた。そして、禁忌経典から禍々しいオーラが放っている。
「強い力にはそれなりの力を与えればいい」
真耶はそう呟いて再びピクシーズコンパスの力を使う。そのため、これから発動する魔法や技は威力が倍増する。
「”星雲・銀河破壊”」
真耶は剣に星の魔力を込め振り下ろした。すると、切れ目から空間が砕け始める。パリンッと音を立てガラスのように砕けるその様は、まるで何か幻想的なものでも見ているかのようだった。
しかし、現実は違った。世界は必ず平衡を取ろうとする。砕けた空間は必ず修復する傾向にあるのだ。だが、砕け散ってしまったものはそこにあるものだけで治すことは難しい。
だったら、他の場所から補えばいい。砕けた空間はその周りのものを凄まじい力で吸い込み始めた。すると、崩壊していたはずの場所が繋ぎ合わさっていく。
「……」
壊れた空間は少しして完全に修復した。その場は少し歪みが残っているが、もう壊れてはないようだ。
更に言うなら、先程まであれだけ荒れていた魔力が全て無くなっている。禍々しいオーラも消え去ってしまった。ヘルメスの放った魔法は瞬く間に真耶によってかき消されてしまったのだ。
「っ!?な、なぜ……!?」
「ハハッ……ハハハハハハハハハハハハ!」
真耶は呆気にとられた顔をしているヘルメスを見て高笑いをする。そして、少しだけ笑うと落ち着き俯いた。
へるはそんな真耶に少しだけ恐怖感を覚える。しかし、特になにか思うことは無かった。
そんな時、ヘルメスの背後からトリスタンが来た。トリスタンは怯えた様子でヘルメスに言う。
「逃げろ!この感じはやばい!これまで見てきたからわかる!死ぬぞ!」
「っ!?」
トリスタンの言葉を聞いたヘルメスは即座にその場から逃げ出した。離れて離れて、誰も来れないほど離れようとした。
しかし、彼らは逃げられなかった。そしてそれは、終わりを意味する……絶望をよびよせるものだった。
読んで頂きありがとうございます!!!