第149話 門の番人
「30秒だ」
真耶はそう呟いて立ち上がると、門番の前に出て堂々と歩き出す。
「っ!?」
「待って!」
4人は慌てて真耶を止めるが、間に合わず真耶は行ってしまう。
「っ!?何者だ!?」
当然門番は真耶の存在に気が付き武器を突きつけた。そのやり取りを聞いたアイティールは少し慌てる。
「てか、さっき魔法かけてたけどなんだったの!?」
フィトリアは少し怒りながらそう言った。すると、真耶はちらりとアイティール達を見てニヤリと笑う。
「なぁ、そこを通してくれ。中に入りたいんだ」
「あ?お前みたいな不審者を通すわけないだろ!ここはアーサー様から絶対に通すなと言われている!」
「アーサーから?……なるほどね」
真耶は一瞬門番の言葉に疑問を抱くが、直ぐに何かを察し納得する。そして、恐怖に満ちた笑みで門番に近づいた。
「止まれ!お前は既に包囲されている!」
門番はそう言った。周りを見渡すと、塀の上や櫓の上、左右前後に門番がいた。
「俺が包囲されてるって?」
真耶は楽しそうにそう聞く。しかし、門番は何も答えない。ただ武器を突きつけるだけ。
「……フッ」
真耶は少し笑うと左目に冥界の眼を浮かべた。そして、両手を広げて門番に言う。
「本当に包囲されてるのは誰かな?」
その刹那、その場にいる門番全員の周りに淡い紫色の人影がいくつも出てきた。そして、それらは一瞬で門番全員を包囲し呪う。
「死ね」
真耶がそう言った瞬間、その場にいた門番全員が倒れ込んだ。そして、まるで魂を抜かれたかのように白目を向いている。
「さて、行くか」
真耶はそう言ってアイティール達のいる方向をむく。そして、ニヤリと笑うと歩き始めた。アイティール達はそんな真耶を見てゆっくりと歩き出す。
「……」
そして、5人は静かに堂々と城の門を突破した。
「ま、城の門をくぐれたのはかなりいいことなんじゃないか?この門を突破するのが難しいからな」
真耶はそう言って振り返る。すると、そこにはコソコソとした動きの4人がいる。その姿を見た真耶は4人を呆れたような目で見つめる。
「あのなぁ……そんなにコソコソしなくてもここはもう制覇したんだよ。だから堂々と歩いて良いって」
「本当にそう思うか?」
「っ!?」
真耶が4人に向けてそんなことを言っていた時、門の奥から声が聞こえた。真耶はその声を聞いて直ぐに振り返る。そして、背中にあるアンダーヴァースに手をかけた。
「油断大敵と言うやつだ。勝った気になって勝手に死んでいけ」
そんなことを言いながら人がこっちに向かってゆっくり歩いてくる。真耶はその姿を捉えると、ニヤリと笑った。
「ほぅ、お前か」
「俺が誰か分かったか?やはり裏切り者なだけあるな。アーサーが向かったから確実に殺したと思ったが、まだ生きてたとは驚きだ」
「ハハッ!それはこっちのセリフだな。円卓の中ではお前が特に弱かったからな。ゼウスにこの世界を侵略された時死んだと思っていたが、まだ生きていたんだな。しぶといやつだ。自分でもそう思うだろ?なぁ、トリスタン」
真耶はそう言ってバカにするような、煽るような声でトリスタンの名前を呼ぶ。すると、トリスタンはしかめっ面をして真耶に言った。
「減らず口を叩くな!」
「それはお前だ。口の減らないガキはすっこんでろ。”冥剣・震廻羅”」
真耶はトリスタンに向けて攻撃した。震える剣から繰り出される回転する波動は赤黒く染まりトリスタンを襲う。
トリスタンはそれを見て咄嗟に空に飛び上がることによってその攻撃を躱した。そして、腰につけている剣を抜く。そして、急降下しながら真耶を襲った。
「無駄だ」
しかし、真耶に攻撃は当たらない。トリスタンは素早く繰り出したにもかかわらず、そのほとんどの攻撃を剣で防がれ、その他は全て躱されてしまった。
真耶の言葉は無慈悲にもその場に留まり続ける。まるで黒い何かに包まれたような雰囲気に包まれる中真耶はさらに黒い笑みを浮かべる。
「どうやら俺の勝ちは決まっているらしい。諦めて死んだ方がいいぞ」
真耶はそう言って剣に魔力を流す。
「”冥閃・淡紫光”」
そして、空を飛ぶトリスタンに向けて攻撃を繰り出した。トリスタンは真耶が自分の元まで大ジャンプをしてかつ、見たこともないような攻撃をしてきて慌てて剣を構える。しかし、それは間に合わない。
「っ!?」
トリスタンの体に4つの淡い紫色の光の点が出来た。そして、それは一瞬で小爆発する。そして、トリスタンの体は飛ばされた。
「がハッ!」
「終わりだな」
真耶はそう言って淡い紫色の光を放つ剣を振り上げた。
「クッ……!」
「死を持って償え。この世に生まれたという罪を。そして、俺の邪魔をした罪を」
そう言って剣を振り下ろそうとした時だった。突如真耶の背後に光の柱が立つ。
「「「っ!?」」」
アイティール達はその光の柱を見て驚き言葉を失う。真耶はその光の柱を見てニヤリと笑う。
「やはり来たか。来ると思ってたよ。ヘルメス」
真耶はそう言ってヘルメスの方を向いた。剣を構えてかけ出す。そしてそのままヘルメスに攻撃した。
「気が早いなぁ。いきなり殺しにくるなんて、楽しみが無くなるだろ?」
ヘルメスはそんなことを言いながら真耶の剣を本で挟んで止めてしまった。
「……本……か」
真耶は何かを考えると、その剣から強力な炎を放った。
「そんなものじゃ燃えないよ、この禁忌経典は」
「へぇ……」
真耶はヘルメスの言葉を聞いてさらに強い炎を放つ。そのせいか、その炎は黒く変色してしまった。
「だから無理だって」
そこまで聞いた真耶はさらに強い炎を放った。黒い炎はどんどん色が落ちていき淡い紫色に変わる。
すると、ヘルメスはその炎を凍らせ始めた。ビキビキと音を立てながら剣と炎を凍らせていくその氷は、まるで氷龍が湖を凍らせてしまうかのようだった。
真耶はそんな凍りついていく様を見て少し驚く。なんせ、氷なんていとも簡単に溶かすような炎が凍らされているのだから。
「なるほどな」
真耶はそう呟いて剣を引き抜こうとする。しかし、抜けない。凄まじい力でその剣は押さえつけられ抜くことが出来なくなっている。
「残念だ。まだ俺の力の方が強いみたいだね」
ヘルメスはそう言って剣を折った。そして、本を開き文字を手でなぞる。すると、その文字は光を放ち巨大な釘のようなものを飛ばしてきた。
その釘は真耶の体を何度も刺し貫く。さらに、その本からは巨大な剣を飛び立たせた。その剣は容赦なく真耶の頭をかち割る。
「っ!?」
真耶の頭からは大量の血が吹き出た。鮮やかな色をした血はヘルメスの服を赤く染めあげる。ヘルメスなその様子を見ながら楽しそうに笑った。
「あははははは!呆気ないな!」
そう言ってヘルメスは笑う。
その様子を見ていた真耶は、右目だけを開いた状態でニヤリと笑っていた。
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