第147話 再会
━━ふとした時我に帰ることがある。なぜ自分はこんなところで戦っているのだろうと。誰かに強制された訳でもない。だったら、戦う必要などないのではないか?
そんなことが頭の中に浮かんできてしまう。しかも、そんな考えが1度頭に思い浮かぶと中々離れない。何をしても頭に残り続けてしまう。
彼はそれにずっと耐えてきた。理由もないのに無理やり理由を作って戦ってきた。こじつけでもなんでもいい。そう思って戦ってきた。
だが、そんな彼に残ったものはなんだろうか?振り返ってみれば、残っていたものは彼の足跡と絶望だけ。前を向いても後ろをふりかえっても、あるのはただ大切なものが死んでいく……壊れていくという絶望しかないのだ。
もしかしたら、今立っている場所にも誰かの死体があるかもしれない。神を殺すと言っているが、本当はそんな度胸などないのかもしれない。
そう思うと彼は、だんだんとおかしくなっていくのを感じる。まるで重力魔法のようにのしかかる現実は、彼をどんどん壊していく。
『もう全てどうでもいい。俺は……俺は……もうたたかいたくない………………………』
━━真耶はそこで目を覚ました。まるで頭の中で襲われたかのように勢いよく飛び起きると慌てて辺りを見渡す。
「にゃ!?大丈夫にゃ!?」
その声を聞いた瞬間真耶の思考は一瞬止まった。そして、ごちゃごちゃになっていた考えは全て消えてしまう。
「……アイ……ティール……?」
真耶はなにかに怯えるような目でアイティールを見た。そして、涙を流しながらアイティールに抱きついた。
「にゃにゃにゃ!?真耶!大丈夫にゃ!?何かあったにゃ!?」
アイティールは慌てて真耶の頭を撫でる。さすがにこんなことは初めてだったからか、アイティールもどうしていいか分からなくなり困る。
「な、悩み事があるなら言うにゃ」
「俺……もう戦いたくないよ……!」
真耶の口から放たれたその言葉を聞いたアイティールは目を丸くした。そして、直ぐに優しい笑顔を作り優しい声で言う。
「別にいいんじゃない?無理して戦う必要なんて無いんだにゃ」
真耶はその言葉で救われたような気分になった。しかし、唐突に頭の中に流れ込んでくる、これからゼウスと戦わなくてはならないという事実が、再び真耶を苦しめる。
「目の前に……足元に……背後に……四方八方どこを見てもしたいだらけだ。こんな四面楚歌で俺は……!」
真耶は小さくそう呟くと。すると、アイティールはゆっくりと頭をなて始めた。
「……大丈夫にゃん。落ち着いて……」
その言葉は真耶の心に安らぎを与える。そのせいか、少し真耶の精神状態は安定しだした。
だからか、真耶はアイティールから離れてベッドの上から降りる。そして、静かに服を整えた。
「……悪ぃな。取り乱しちまったよ」
真耶な はそう言ってリーゾニアスを手に取る。
「ん?」
その時、リーゾニアスから普段とは違う魔力をいくつも感じた。そして、何故か装飾も変わっている。
「そうか……これの力も戻ったか」
真耶はそう呟いて目を瞑ってリーゾニアスとプラネットエトワールを自分の前に突き立てる。
「何するの?」
「……なぁ、ひとついいか?」
真耶は真剣な眼差しで聞いてくる。
「何?」
アイティールは少し疑問に思いながらも聞き返した。すると、真耶は少し間を置いて話し始める。
「アイティールはさ……戦うことが怖くないのか?」
「っ!?」
その言葉はアイティールに衝撃を与えた。なんせ、これまで真耶がそんなことを言ったことがなかったからだ。何かあれば戦いで決めていたような人が、突如そんなことを言い出せば誰でも驚くだろう。
「急にどうしたの?らしくないよ」
「真面目に答えてくれ。戦うことが怖くないのか?」
真耶は少し暗い表情で聞いてきた。アイティールは少し考えて言う。
「……怖いよ。でも、戦わないと行けない時だってあるからさ」
アイティールはそう言って真耶に微笑みかけた。すると、真耶は少しだけ顔を俯かせてから顔を上げ言った。
「そうか。じゃあ、今だけでも頑張らないとだな」
真耶はそういうと立ち上がり突き刺したふたつの剣を強く握りしめる。そして、両手にデウスエネルギーを溜め始めた。
「今はまだやるべきことがある。だったら、すぐに終わらせて平穏な日常を過ごす」
そして、2つの剣が混ざっていく。神々しい光を放ったその剣は、光が収まると全く別の剣へと変貌していた。
「冥王剣・アンダーヴァース……とにかく今はゼウスを潰す。そして、この事件の発端を調べることにしよう」
真耶はそう言って歩き出した。
「てか、ここどこだ?」
「ここは王都の宿屋だよ。たまたま壊れずに残ってたんだ」
アイティールはそう言ってにっこり笑う。真耶はそんなアイティールの笑顔を見ながら少し笑って扉に手をかけた。その時だった。
「っ!?」
突如扉が吹き飛ぶ。そして、扉があった場所の奥から人影が見えた。その人影は小さく子供のようで、段々とハッキリ分かるようになる。
「……え?なんでここにいるのですか?」
そんな聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……いや、まぁ、来たかったから……かな」
真耶はそんなことを言う。そして、そこに現れた人を抱き上げた。
「はわわ!お、下ろしてください!」
「あはは!久しぶりだな!ルリータ!」
真耶はそう言ってルリータのほっぺに自分のほっぺをスリスリさせお尻をニギニギと触りまくった。
「変態!」
そして、すかさずアイティールと無為に頭を殴られた。
ボコッという鈍い音が鳴り響く。そして、半泣きのアイティールガフィトリアの元まで駆け寄った。
「なんじゃ?この変態は?」
「わっちも見た事がないのう」
「何この変態?消えてしまえばいいわ」
女性陣はことごとくそんなことを言い放つ。真耶はそんななかムクリと起き上がって言った。
「ジョークだよジョーク。そんなのもわかんねぇのかよ」
「度が過ぎてるのよ。妾にはただの気持ち悪い人にしか見えなかったわ」
「うっせ。とりあえず無事でよかったよ。お前らは何をしてた?」
「たまたまここで懐かしい魔力を感じたから来ただけなのじゃ」
「まぁ、真耶さんなんだろうなって思って来ました。久しぶりですね」
ルリータはそう言ってにっこり笑う。その笑顔を見た真耶は再びルリータを抱き上げた。そして、胸の隙間にに顔を埋めて息を吸い込む。
「「「変態!死ね!」」」
そう言ってその場の全員が真耶に向けて武器を構えた。真耶は慌ててその場から逃げ出し外に出てルリータの陰に隠れたのだった。
「おいこら!ルリータの陰に隠れるな!顔を出せ!殺すぞ!」
アイティールはそんなことを言って武器を構える。その怒りは本物らしく、語尾のにゃんまで忘れる始末だ。
「悪かったってば!ほら!謝るから!な?ルリータも許してくれるだろ?」
そう言ってルリータを見る。すると、ルリータが蔑むような目で見ていることに気がついた。
「っ!?そ、そんな目で俺を見ないでくれ……!」
真耶はそう言って後ずさりし、汗をダラダラと流す。そして、アイティール達がそんな真耶に近づき始めた。
「や、やめろ!わ、悪かったから!なんでも奢るから……っ!?お前ら!来るな!”黒繭”」
その時、真耶の顔が引き攣りさっきまでのふざけた様子はなくなる。そして、アイティール達と自分をそれぞれ黒い玉で囲った。
そして、その数秒後に真耶達に向けて光線が降ってくる。その光線は容赦なく真耶達を襲った。
しかし、真耶の作りだした黒い球体はそれらをひとつも通さなかった。そして、真耶はその光線の雨が降やむまで待つ。それらが降やむと真耶は黒繭を解いて上を見上げた。
なんとそこには気持ちの悪い目玉の天使がいた。ルリータはそれを見て目を見開く。
「っ!?まさか着いてきてたの!?」
「まずいわ!あれはやばい!逃げるわよ!」
無為がそんなことを言って逃げようとする。しかし、真耶は何故か平然とした目でその目玉を見ていた。
「またアイツかよ……めんどくさ」
真耶はため息を吐きながらそう呟いた。
読んでいただきありがとうございます。