第145話 森羅万象を斬る者
真耶の体が真っ二つに切り裂かれた。しかし、真耶は驚きはしない。なんせ、即座に回復することが出来るからだ。
だからこそ、真耶には隙ができた。真耶の頭の中にあった慢心が、彼を死に近づけさせたのだった。
「……どうやら、俺の方が強かったらしい」
ケイオスはそう言って燃え上がる怨嗟の炎を体に纏わせた。
「っ!?何……だ!?この力……!?」
「冥界の王……だったか?見下してたやつに負けるのはどう言う気分だ?」
ケイオスはそう言ってその怨嗟の炎を剣に纏わせた。そして、それを振り下ろそうとする。しかし、ケイオスはその刃を途中で止めた。
「お前がなぜここにいるのか、なぜ敵対するのか、まだ疑問に思うところが多い。だからこそ言わせてもらう。俺はペルセポネをここで潰しておこうと思っている。そっちの方がいいだろ?」
ケイオスはそう言って剣を収めた。そして、静かに真耶を見つめる。そこで真耶は気がついた。ケイオスが全てを察していることに。
「……ま、もう親離れの時だよな。というか、親が子離れをする時期だよな」
「そういうことだ。俺も馬鹿じゃない。真理を見抜けない人が強くなれるわけないからな」
ケイオスは素敵な笑みを浮かべながらそう言う。
「そうだね。それで、どうするつもりだ?」
「……俺はお前なんだ。だから、考えていることは同じはずだよ」
「……なるほどね」
真耶はケイオスの言葉を聞いてニヤリと笑った。そして、ケイオスは時間を進め始める。
「「「っ!?」」」
そして、止められていた2人が驚いたような表情をして固まっていた。どうやら今起きたことを理解しきれずにいるみたいだ。
「真耶!?」
ペルセポネは動揺するなか両断された真耶を見てそう叫んだ。そして、直ぐにケイオスを睨みつける。
「よくもやってくれたわね!」
そして、右腕を振り上げた。その右腕には濃い紫色で禍々しい化け物の腕が武装されていた。
「死ね!」
ペルセポネは激怒しそう叫びケイオスに向けて拳を振るう。すると、その拳から怨霊にも似たおどろおどろしい衝撃波が放たれた。ケイオスはそれを見て剣を構えると、横に一振した。
「”この世に存在する空間全てを切り裂け。森羅万象斬”」
その刹那、ケイオスの目の前に空間の裂け目が現れる。ペルセポネが放った衝撃波はその裂け目の中に吸い込まれていった。そして、空間の裂け目は閉じる。
「っ!?何!?見たこともない力だわ……!なんでそんなもの持ってるのよ!」
「逆に、なんで分かんないの?お前の子供のことだろ?我が子のこと1つ分かってないとは親失格だな」
ケイオスはそう言って指をパチンっと鳴らす。すると、奏の体の周りに3つの魔法陣が現れた。それは、まるで時計のような模様を描き奏の傷を癒していく。
「ペルセポネ……お前は一体何がしたかったんだ?こんなところに真耶を閉じ込め、自分のエゴを押し付ける。なぁ、お前は何を求めたんだ?」
「閉じ込めてなんかないわ!真耶が望んでここにいたのよ!」
「果たしてどうかな?確かに真耶は強い。特に、ここにいる真耶はな。だが、仮にもお前は神だ。普通は人が神に対抗出来るはずがない。向こうにいる真耶のように特殊な技があれば別だがな。だが、恐らくこっちの真耶はお前に太刀打ち出来ないだろう。だから、お前はそこをついた。真耶を力で支配してここに監禁したんだ。そうだろ?」
ケイオスは少し殺気を放ちながらペルセポネにそう言う。ペルセポネはその言葉を聞いて少しだけ怒ったような表情をした。
「だからなんなのよ?私はあなたたちのことを思ってやったのよ」
「例えそうでも、余計なお世話だったってわけだ。な?真耶」
ケイオスがそう言うと、真耶は立ち上がった。どうやら半分になっていた体を繋ぎ終えたらしい。
「真耶!生きてたのね!早くケイオスを殺りましょ……う……」
ペルセポネがそう言って笑みを浮かべ真耶を見た。しかし、直ぐにその笑みは消え失せる。なんせ、真耶が剣を構えていたからだ。
「あぁ、そう、あなたもそんなことするのね。ねぇ、誰があなたを育てたと思ってんの?」
ペルセポネは呆れたような口調でそう言う。それに対し真耶は言った。
「知らないな。俺は1人で生きてきた。そもそも、俺は霊体だ。食事などなくとも生きていける。それ故に、お前からなにかしてもらったことは無いはずだ」
「違うわ。実体の方よ」
「そっちも同じだ。お前からなにかしてもらったという記憶は何一つない」
ケイオスはペルセポネに向かってそう言い切った。すると、ペルセポネは怒り怒鳴るように叫ぶ。
「何でよ!?あなたを産んだのも育てたのも私よ!なんで記憶にないのよ!」
「バカが。その記憶を消したのはお前だろ」
ケイオスは冷たい声でそう言い放った。朦朧とする意識の中その言葉を聞いた奏は、聞きなれた声だったのにも関わらず、何故かいつもより冷たくかつ、酷いものに聞こえてしまった。
その時のケイオスは、まるで体の中の奥底に化け物を飼っているかのような、いつもとは違う何かを感じた。
「……俺はお前を殺そうと思ったが……それは止めだ。どうやら今のお前は殺す価値すらないらしい。俺はお前が育てた真耶じゃないから言えることだがな、悪役になれないのだったら無理になろうとするな。素の自分を見せろ。ペルソナがなければ人は生きれないと言うが……お前は仮にも神なんだろ?」
ケイオスのその言葉はペルセポネの胸に深く突き刺さる。
「……そう、もうバレてたのね……」
「……多分真耶もね。仮にも俺らはオタクだから。漫画知識は凄いほうだと思ってるよ」
「そう……だったのね。もう私の知らない真耶だっているのよね」
「ま、そういうことだな。どうする?まだ戦うか?」
「ううん。本当の目的は戦うことじゃないわ。ケイオス……早く真耶の魂を連れてって。真耶が殺される前に」
「……了解した。直ぐに連れていくよ」
ケイオスはそう言う。
「やっとか。さっさと行くぞ。俺を取り込め」
すると真耶はそう言ってケイオスに近づいた。
「分かった。こっちに来い」
ケイオスはそう言って真耶を自分の体に取り込む。そして、冥界を出る扉を開いた。奏は最初は寝ていたが、ケイオスの声で起きると魔法陣の中から飛び出してケイオスの元まで来た。
「記憶はいじらない方がいいよ。それと、真耶本人が本当の記憶を取り戻せるのはもっと後になりそうだね」
ケイオスはそう言い残してゲートをくぐった。ペルセポネはそんなケイオスを見て嬉しそうに笑っていた。
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