第142話 激戦
「……ふふ、やっぱりケイオスも苦戦するのね。思った通り勝てそうにないわ」
ペルセポネは2人の戦いを見ながらそう言う。そして、力強く奏のお尻を叩く。すると、巨大な悲痛な音が鳴り響く。
「ひぎぃ!ひぐぅ!や、やらぁ……!もうやめてぇ……!お、お腹が……も、漏れそうだよぉ……!」
奏は泣きながらそんなことを言う。しかし、ケイオスはそんなことを気にしてはいられない。絶え間なく繰り出されるその攻撃を何とか受け流しながら反撃の隙を伺う。
しかし、そんなものなどあるはずもない。淡い紫色の光を纏ったそのグーパンからは嫌な気しかしなかった。そんなもので殴られては生きている可能性が少なすぎる。だからケイオスはそれらのことを考えながら戦う。だから、中々隙を見せないため反撃ができない。
「ちっ、イージスの盾みたいに防御力が高いものがあればいいんだがな」
ケイオスはそう呟いて1度距離を取った。
「まぁ、やるしかないよな」
ケイオスはそう言うと、剣を1度鞘に収める。そして、集中力を高め剣に魔力を圧縮させ始めた。
「決める。”理滅・重力斬”」
ケイオスはその剣を勢いよく振り下ろした。すると、圧縮された高密度の濃い魔力が黒っぽい紫色の軌跡を作りながら飛んでいく。
そして、容赦なくもう1人の真耶を襲った。そして、もう1人の真耶の体を切り裂く。
「やった!?」
思わず奏はそう言った。さすがにもう限界だったのだろう。それに、ケイオスのあの一撃を喰らえば、『普通の人』なら死ぬ。……そう、普通の人なら……
「残念。あの程度じゃ彼は倒せないわ」
ペルセポネのその言葉と共に、無傷のもう1人の真耶がでてきた。ケイオスはそれを見て少し集中する。
「まぁ、絶対倒せないってわかってたからね。本気は出てないよ。”超集中”」
ケイオスはそう言って目を瞑り集中力を高める。すると、急激にケイオスの魔力が増大した。ケイオスはいわゆるゾーン状態と呼ばれるものに入ったのだ。
「やるだけやってみる。それしかないからな。”覇道・青聖剣”」
ケイオスはアヴァロンナイトを構えると、一瞬にして姿を消す。そして、目にも止まらぬ速さでもう1人の真耶に近づき剣を振るった。すると、剣から青色の光を放つ波動の斬撃が飛ばされた。それは、無慈悲にももう1人の真耶におそいかかる。
「っ!?」
奏はその攻撃を見て少し身構えた。なんせ、凄まじい勢いの余波が奏を襲ったからだ。しかし、ペルセポネは動じることは無い。ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて奏のお尻を叩くだけだ。
ケイオスはその一撃を繰り出した後、すぐさまその場から移動する。そして、別の場所へと移動し再び攻撃をする。
そんなケイオスの連撃は辺りの空気を巻き込みながらもう1人の真耶を何度も何度も襲った。
「す、凄い……!」
「えぇ、凄いわ」
「え?それってどういう……」
「ほんと……本当に凄いわ。こんなに弱かったなんてね」
ペルセポネがそう言った刹那、ケイオスの体が吹き飛ばされた。そして、近くにあった壁に激突しその壁を破壊する。そのせいで巨大な瓦礫にケイオスは押しつぶされた。
「っ!?ケイオス!」
「うるさいわ!」
思わず奏は叫んだ。すると、その言葉にペルセポネは怒ってお尻をさらに強く叩く。そのため、その場には乾いた悲痛な音が鳴り響いた。
「ひぎぃ!」
奏は泣きながら情けない声を吐き出す。そして、全身に電撃を受けたようにピクピクと痙攣をする。
「全く……弱いくせに来ないで欲しいわ。これで”また”真耶の勝ちね」
ペルセポネは呆れたような口振りでそんなことを言い始めた。
「ど、どう言う……こと……?」
「あら?何も知らないのね。……ま、それだけ私の魔法が強いってことね。いいわ、どうせ死ぬのだから教えてあげる。真耶のこと」
ペルセポネはそう言って立ち上がった。そのせいで奏は膝の上から転げ落ちる。奏は真っ赤に腫れ上がり、普段よりふたまわりほど大きくなったお尻を泣きながら、かつ抑えながらペルセポネの顔を見た。
「あらあら、可愛らしいお尻ね。もっと叩きたいわ。まぁ、そんな冗談は置いといて、まずはあなたの後ろにいる真耶について教えるわ。彼はね、簡潔に言うと真耶よ」
ペルセポネはニヤリと笑いながらそんなことを言う。
「そ、そんなこと……わかって……」
「まぁ、簡潔に言えば真耶なだけよ。正確に言えば違う。彼は真耶の体から分離した陰の気を持つ魂よ」
「っ!?」
奏はその言葉を聞いて言葉を失う。
「それって……!」
奏は何かを察したかのように目を見開き震え出す。そして、か細い声で無理やり吐き出すように言った。
「じゃ、じゃあ……真耶の体はどうなるのよ……?」
「わかってるくせに。そうよ、あなたの想像通り死ぬわ」
「っ!?」
その言葉で奏は何も言えなくなった。そして、泣きたい気持ちと、殺したいほど憎いという気持ちを抑えこみ言う。
「そ、そんなの……許されるわけないでしょ……!」
「知らないわ。そんなもの。それに、嫌なら早く倒してしまえばいいのよ。弱いから悪いのよ。孤独の苦しみにさえ勝てないで、弱すぎだわ」
ペルセポネはそう言ってもう1人の真耶を自分の元に近づかせ、自分の体に抱き寄せる。
「それに比べてこの子は強いわ。だから強い子を選んだまでよ」
「そんな……!」
奏はその言葉を聞いてさらに衝撃を受ける。そして、なんとも言えない気持ちになり、心の底から目の前にいるペルセポネを殺したくなった。
「殺したいって思ったでしょ?でもあなたじゃ無理わ。とりあえずあなたを始末しようかしらね」
ペルセポネはそう言って手を上げる。すると、その手には凄まじい勢いの光が収束する。
「さようなら。また新しい人を連れてくる事ね」
ペルセポネはそう言ってその手を振り下ろす。しかし、その手は奏に触れることさえ出来なかった。
なんと、奏はシールドのようなものを作り出したのだ。そして、金色の光を放っている。
「舐めないでよ。私だって、まだ負けてないんだから……!」
奏はそう言って脱がされたパンツとスカートを履いた。そして、全身に魔力をめぐらせる。
「”ゴッドノウズ”よ」
奏はそう言って天使の羽をはやす。すると、その余波でペルセポネは少し吹き飛ばされた。さらに言うなら、その余波で奏の羽が舞い散る。
「これでも一応神よ。それも上級の。たとえあなたが十二神の1人でも、戦えるわよ。戦わずして死ぬなんて出来ないわ」
奏がそう言うと、ペルセポネはニヤリと笑った。奏もそれを見てニヤリと笑った。
「どうやら風向きが変わってきたみたいね」
ペルセポネは少し嬉しそうにそう呟いて右腕に凄まじいほどの陰のエネルギーを溜めた。すると、その腕に黒くおぞましい装飾が施され、怪獣の爪のようなものまで増える。そして、その腕はまるで悪魔や怪獣のようなものになってしまった。
「それじゃあ、あなたの相手は私。真耶の相手はケイオスってことね」
ペルセポネがそう言うと、赤黒い殺気を溢れ出すケイオスが剣を持って立っているのに気がついた。
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