第141話 もう1人の……
ケイオスは火の海と化した中で静かに剣を握りしめていた。そして、攻撃してくるのを待つ。
しかし、そんな様子は全くなかった。いつ攻撃が来るのか考えていたが、来ないところを見ると既に消滅したのだろう。
ケイオスはそう思って剣を鞘に収めた。そして、奏の方をむく。
「行くぞ」
「んっ」
2人はそんな短い会話をして再び歩き始めた。
━━それから何時間か経過した。それでもなお目的地までは遠いそうだ。ケイオスは小刻みに休憩を挟みながら来たため、そこまで疲れているというわけではなかった。
しかし、いつまでたっても目的地に到着しないという事実は、奏を苦しめる。だからなのか、確実に進む速さは遅くなっていた。
「……ごめんなさい。私が遅いから遅くなってるよね……」
奏は顔を暗くしてそうつぶやく。
「なんの事だ?」
ケイオスはそう聞き返した。
「気を使わなくて良いよ。私が悪いって分かってるからさ」
すると、奏はそう言う。
「本当になんの事だ?」
ケイオスはそんな奏にそう言い返した。
「……ありがとう」
奏は小さくそう呟く。
「本当になんのことかわからん」
ケイオスはそんなことを言う。どうやら気を使っていたわけではなかったらしい。しかし、それでもケイオスが奏に合わせてくれているのは事実。
「……全てのことにおいてありがとうってことよ」
奏はケイオスにそう言って少し歩く速さを早めた。ケイオスはなんのことか分からなかったが、特に気にする事はなかった。
それから2人は長い間歩き続ける。その道中、当然と言っていいほど死霊が襲ってきたが特に問題はなかった。ケイオスは襲ってくる死霊達全てと戦いながらも、前に進み続けたのだ。
「なんだか嫌な空気が流れてる……」
「……ま、それだけボスとの距離が縮まってるってことだ。先に言っておくが、嫌なら帰ってもいいんだぞ?怖いなら俺の陰に隠れてても良いんだぞ?もしそうなら……俺が必ず護って見せるからさ」
ケイオスは心配して奏にそう言った。すると、奏はぷくっと頬を膨らませて言った。
「私だって戦えるもん!逆にケイオスを守ってやるんだもん!」
「ほぅ、俺を守るか。そりゃあ頼もしいな」
ケイオスはそう言って微笑む。そして、ポンっと頭の上に手を置いて前を向いた。
「……ま、お前に指1本触れさせない気持ちで頑張るよ。だからさ、早く出てこいよ」
ケイオスはそう言った。すると、何も無い、ただ闇だけが続く空間から人が現れた。
それは女性だった。しかも、露出の多い服を着ており、どこか神々しさまで感じる。しかし、それ以上にこれまで感じたこともないようななんとも言えない恐怖が奏を襲い震えてしまう。そして、そんな奏を見たケイオスは少し睨むような目でその女性を見た。
「もぅ、そんなに怒んないでよ。せっかく逢いに来たのに」
女性はおちゃめな笑顔でそんなことを言ってきた。しかし、ケイオスはその殺気を止めることはしない。冷たい目で睨みつける。
「……はぁ、やっぱりケイオスは真耶と違って素直じゃないわよね」
「……」
「そうやって……」
「……」
「すぐ本音を隠す」
その女性はそんなことを言いながら消えてしまった。そして、消えたのと同時にケイオスの背後に現れた。
「っ!?」
ケイオスは突如現れた女性を見て驚く。そして、即座にその場から離れる。突然のことすぎて体も頭もついて行かないが、それでも無理やり体を動かし離れる。
「あら、速いわね。でもまだ足りないわ」
女性がそう言った瞬間ケイオスの胸に矢が突き刺さる。しかも、それはちょっと特殊な矢だった。
唐突にケイオスの目に何かが流れ込んでくる。そして、一瞬にして見える世界が変わった。
「っ!?これは……!?」
「ふふ、これで準備は整ったわ。あとは、あなたが試練に打ち勝つだけよ」
女性は楽しそうに笑いながらそんなことを言う。
「何?」
ケイオスはその言葉聞いてそう言う。
「ちなみにだけど、今のあなたが勝てる可能性は無いわよ」
女性はそう言って消え始めた。しかし、その前にケイオスは言う。
「待て。ペルセポネ、お前は何をしにここまで来た?俺を強くしただけか?」
「ん?何言ってるの?ペルセポネなんて知らないわ〜」
「黙れ。一体お前は何がしたいんだ?」
「ふふ、真耶もあなたも記憶が消えてて嬉しいわ」
「は?それどう言うこと……っ!?」
その時、どこからか攻撃が飛んでくる。ケイオスはそれを難なく避ける。そして、すぐに飛ばしてきた人を確認する。
「っ!?俺……!?」
思わずケイオスは言葉を漏らした。なんと、目線の先には真耶がいたのだ。いや、ケイオスなのかもしれない。ただ、ケイオスは自分がオリジナルだと思っているから、今目の前にいるもう1人の自分がケイオスだと思っただけだ。そもそも、もう1人の自分かどうかすら分からない。
奏はそんなもう1人のケイオスを見て言葉を失った。そして、直ぐに振り返りペルセポネに向かって言う。
「何をしたの!?」
「何もしてないわ。ただ、試練を与えただけよ」
「試練!?もう1人のケイオスを作り出すことがなんの試練だって言うの!?」
奏は思わずそう叫んだ。すると、ペルセポネが少しだけ笑っていう。
「作り出す?笑わせないで。それは紛れもない本人の魂よ。あと、先に訂正しておくけど、ケイオスはオリジナルじゃないわ。オリジナルは真耶よ」
「何?どういうことだ?」
「そのままの意味よ。あなたがオリジナルって思われてたみたいだけど、勘違いしないでよね。私の息子はあなたじゃないわ。まぁ、普通に考えたら、オリジナルから離れた魂だけの体がそう長く持つはずがないものね。神と戦うなんて以ての外よ」
ペルセポネはそう言った。そして、もう1人の真耶の方を向いて言う。
「ま、何でもいいけど彼を倒してね。話はそれからよ。全てを知りたいなら、試練を突破する事ね」
ペルセポネはそう言って暗闇に消え始めた。しかし、奏がそれを止める。
「待ちなさい」
「何かしら?」
「あなたの相手は私よ。敵に背を向けるのかしら?」
「あらあら、ご冗談を」
ペルセポネがそう言った刹那、奏が仕掛ける。
「”ゴッドフェニックス”!!!」
奏の手のひらから巨大な火の鳥が放たれた。それは、真っ直ぐペルセポネに向かって飛んでいく。
「無駄よ」
ペルセポネはそう言って姿を消した。そして、瞬く間に移動して奏の背後に現れる。
「っ!?速……きゃっ!?」
ペルセポネは奏の背後をとると、奏を魔力の糸で束縛した。
「突然襲うなんて悪い子ね。そんな子にはお仕置が必要だわ♡」
ペルセポネはそんなことを言い出す。そして、奏のスカートの中に手を入れた。
「きゃあっ!?何してるの!?」
奏は思わず声を上げる。しかし、ペルセポネは手をとめなかった。そのままペルセポネはスカートとパンツを脱がしてポンプを取り出す。
「ふふ、無力化するのはこれが一番よ」
ペルセポネはそんなことを言って思いもよらないことをした。
「ひぎぃ!あぐぅぁ!や、らめ……!」
奏はその行動をされ悲鳴をあげる。しかし、ペルセポネは手を止めない。
「はぐぅ……!お、おにゃかに……入って……くりゅう……!にゃ、にゃにかが溜まって……くりゅう!」
奏はそんなことを言いながらお腹を抑える。すると、奏のお腹がギュルキュルと嫌な音を立て始めた。
「あら?もう限界が来ちゃったの?でもまだお仕置は始まってすらないわよ。さぁ、お膝の上に来なさい」
ペルセポネはどこからか椅子を作り出し、そこに座りそんなことを言う。しかし、奏はお腹の痛みから動けずにいる。
ケイオスはそんな二人を見て呆れてしまった。
「……お腹壊させて無力化したわけね。下品なやり方だな。色んな意味で」
ケイオスはそんなことを言った。しかし、ペルセポネはニコッと笑うだけ笑って奏に魔法をかける。
「っ!?何……!?これ……!?」
「かなり敏感になる魔法よ。感覚が普段より2~10倍まで膨れ上がる。時間が経てば経つほど感覚は倍になっていくわ。30分もすればMAXになるわよ」
「っ!?ひぐぅっ!?や、やめて……!」
「無理よ。さ、今すぐお膝に来なさい」
ペルセポネはそんなことを言う。そして、奏は何科に操られたかのように体を動かしながらペルセポネの膝の上にうつ伏せのような形で乗っかった。
「ふふふ、久しぶりね。こういうの」
ペルセポネはそう言っておしりペンペンを始めた。それを見たケイオスは呆れて言葉を失う。
「……あのなぁ、こんなところですることじゃないだろ?」
「そうかもしれないわね。てか、私にばっか気を取られてて良いのかしら?」
ペルセポネがそう言った時、ケイオスは慌てて振り返る。すると、既に真耶が攻撃をしてきていた。その手には淡い紫色の光を溜めている。真耶はその手で殴りかかってきたのだ。
「っ!?」
ケイオスは迫り来るグーパンを難なく躱す。そして、反撃を繰り出す後ろに躱したため、その勢いを利用することが出来た。ケイオスは後ろに倒れながら右足を上げ蹴りを繰り出す。
しかし、真耶には効果がない。何かにあたる感触はあるものの、その足は真耶の体に当たってはいない。恐らくシールド的ななにかに防がれているのだろう。
「ちっ、めんどくさいやつだな」
ケイオスは一言そう言って1度距離を取った。
読んでいただきありがとうございます。