第139話 冥界へ……
その光景を目にした真耶は、考えていたものを全て消し去られてしまった。誰になにかされた訳じゃない。だが、何かよく分からないものに、思考をかき消されてしまった。
そして、何かよく分からないものは、赤黒い煙に包まれていく。そして、段々とその色に染まっていく。
そして、そんな時モルドレッドの言葉が耳に届いた。真耶を壊す。その言葉はこれまで真耶が押さえつけていたものを解放させてしまう。
「あら?どうしたの?あなた……壊されたいのかしら?それとも、怖くて何も出来なくなっ……」
「ベラベラとうるさいぞ!」
「っ!?な、何よ?脅しのつもりかしら?私にそんなのが通用するわけ……」
「うるさいと言っている!たとえ昔の仲間で、結婚した中であっても……許されない行為というものはある。お前に会ったら、いつも通りに戻れると思った俺が馬鹿だった。お前は……俺が焼き殺してやるよ」
真耶はこれまで見た事もないほど怒ってそう言った。そんな真耶からは重たく暗い殺気が溢れ出てくる。そして、赤黒いオーラが真耶の周りにまとわりついた。
「この感じ……見たことない気配だわ」
モルドレッドは今の真耶を見てそんなことを呟く。そして、剣の柄の部分だけを取りだした。
「相手が真耶なら本気で行かないと死ぬわね」
そう呟いて剣の柄の部分に魔力を流す。すると、ディスアセンブル砲が伸びてきて、ビームサーベルのようになった。
「殺してやるよ……」
真耶はそれしか言わない。ただ、黒く冷たい目でモルドレッドを見つめるだけ。
「そんなボロボロの状態で、私を殺すなんて馬鹿な人よ!」
モルドレッドはそう言って駆け出した。その時、二人の間に人が降ってくる。それは、神々しいオーラを纏い、巨大な盾を持った人だ。
「「「っ!?」」」
人が降ってきた時、強い衝撃波が襲ってくる。真耶とモルドレッドはその衝撃はのせいで動けなくなる。
砂煙が上がった。それはまるで、中にいる人を隠すかのように立ち込めている。しかし、風が吹けば全て飛ばされる。巻あがった砂煙の中から現れたのは、なんとアテナだった。
「っ!?なんであなたがここに!?ロキ!これもあなたの考えの内なの!?」
「違う!こんなの……私の望んだ物語じゃない……!」
ロキはそんなことを言いながら顔に手を当てアテナを睨みつける。
「フッ、私の登場は誰も予想してなかったみたいだな。これはいい打撃になっただろう」
アテナはそんなことを言ってニヤリと笑う。真耶はそんなアテナを見ながら言った。
「誰が来ようと関係ない。殺すだけだ」
真耶はそう言って歩き出す。すると、胸元のペンダントが光を放ち始めた。そして、右腕が再生し始める。
「……」
真耶はどんどん足を進めていく。そのため、2人との距離は縮まっていく。
「……」
更に歩く。
「……」
更に、更に歩く。
「……」
かなり距離が近づいた時、突如として何かが体に流れ込んで来るのを感じた。
「っ!?」
その瞬間、全く経験したこともない記憶と感覚が真耶の体を襲う。
「なんだ……!これ……!?」
真耶の思考は奥深くへと連れ込まれていく。深く、深く落ちていく。まるで底なし沼のような深淵へと落ちきった時、真耶の目の前に人が現れた。
「やっと……やっと帰ってこれたよ。これで私達の役目は終わり。あとはまーくんの援護をするだけだね」
「そうだな。この力も苦労したんだ。その分感謝して欲しいな」
2人の人影はそんなことを言ってくる。そして、そこでやっと真耶は気がついた。
「あぁ……お前らか……。おかえりだな。ケイオス……奏……」
そして、真耶の意識とケイオスの意識は1つに混ざっていく。それと同時にケイオスが体験したことが全て頭の中に流れ込んできた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……あの時、ケイオスは真耶と別れて冥界へと向かった。真耶からほとんどの力を渡されたケイオスはその力を存分に使い冥界へと向かっていく。
まず最初に、冥界のもんをくぐるとその前に準冥界がある。普通はそこで条件を満たして冥界に行くのだが、今のケイオスは時間が惜しい。
「強行突破か時短ルートのどちらかで行きたいな」
ケイオスは奏にそんなことを言いながら冥界への入口の前まで来た。そこには1人の女性がいた。ケイオスはその女性に話しかける。
「こんなところに人がマイルなんてな。冥界に行くにはどうすればいい?」
「冥界ですか?それなら手続きが必要ですが……見たところ手続き出来そうな状態ではありませんね。お帰りください」
「無理な相談だ。無理だといなら強行突破する。それが嫌なら通せ」
ケイオスはそう言って女性の前に立った。
「……」
女性はケイオスを見て笑っている。
「なぜ笑っている?」
「なんでもないですよ。ただ……あなたは気づかないってことだけ分かったから、なんだかおかしくて」
「気づかない?お前何を言って……」
「おっと、もう私が話せることはこれだけよ。あとは自分で頑張ってね♪」
女性はそう言って冥界の扉を開く。
「はぁ?お前さっき通さないって言ってただろ?それに、自分で頑張れって……」
ケイオスは女性にそう言った。しかし、既にそこには女性はいなかった。ただ、開かれた門があるだけ。ケイオスはその状況に困惑しながらも前に進むことに決めた。
「ねぇ、ケイオス……今のって……」
「分からん。奏は分かるのか?」
「なんとなくどこかで見たことがあるんだよ」
2人はそんなことを話す。しかし、考えたところで分からない。少しの疑問は残るが、やはり前に進むしかないようだ。そう頭に言い聞かせて門をくぐった。
門の先は真っ暗だった。真っ暗で、真っ暗で、何も見えない。……いや、少し語弊がある言い方だ。明かりはある。ただ、不気味なだけ。もしかしたらケイオスはその恐怖心から無意識にその光を無いものとして捉えていたのかもしれない。
なんせ、その光というのは淡い紫色をしていたから。本来太陽というものはそのような色をしない。魔界であっても、そこまで恐怖心は感じない。しかし、この光だけは、なんとも言えない、ただ怖いという感情しか出てこなかった。
「……行くぞ」
ケイオスは見えずらい大地に足を踏み入れた。そして、まるで行くべき場所が分かっているかのように迷うことなく歩き始める。奏はその後ろをゆっくりついて行くのだった。
読んでいただきありがとうございます。