第138話 壊されて……
━━10分前……アイティールとモルドレッドの戦いは激しさを増していき、ちょうど最高点までたどり着いていた。
「”ディスアセンブル砲”」
「”忍法・水鏡”」
モルドレッドの攻撃を見たアイティールは即座に水の鏡を作り出す。それは、写ったものをそっくりそのままの形でコピーするというものだ。しかし、形が同じだとしても、威力まではそっくりそのままコピー出来ない。劣化コピーとなってしまう。
しかしそれでも跳ね返せることに変わりは無い。アイティールは角度を考え上手く反射させることにより、コピーした攻撃で直接モルドレッドを狙おうとした。
アイティールはその鏡を傾け、光線が反射するように向ける。そして、即座にその場から逃げ出した。
そうすることで攻撃をかわし、反撃まで同時に行うことが出来る。アイティールは水の鏡へと迫っていく光線を見ながら少し呼吸をおちつける。そして、目を開いて青白い光を灯した。
「失敗は許されにゃいにゃ」
そう呟いて親指を噛む。すると、親指が切れて血が出てきた。アイティールはその血を使い、手のひらに絵を描いていく。
そして、呪印を描き終えると地面にその手を付き術の名を唱える。
「”口寄せの術”にゃ」
その時、アイティールの手を中心として放射状に瞬く間に呪印が広がった。そして、ボンッと言う音と共に大量の煙が発生する。
モルドレッドはそれに気を取られて一瞬頭の中が真っ白になった。しかし、直ぐに光線が迫っていることに気づき避ける。
「ふふ、逃げても無駄にゃんよ」
アイティールは小さな声でそうつぶやく。すると、その数秒後に巨大な剣が空に浮かんでいるのが見えた。その剣を追って見ていくと、大量の煙の中に人がいることが分かる。その人と言うのは、本当に人と言っていいのか分からないくらい巨大で、鎧を身につけていた。
「鎧武者にゃ。さぁ、怯えるにゃ!」
アイティールはそんなことを言う。すると、鎧武者が剣を振り上げ、凄まじい勢いで振り下ろした。モルドレッドはそれを見て少しだけ慌てるが、直ぐに魔力を手に溜め始める。
「”エンペラーレイ”」
そして、モルドレッドは容赦なく光線を放った。しかし、鎧武者には通用しなかったらしい。特に傷がついたわけではなかった。
「っ!?強い!?」
さすがのモルドレッドでも危ないと感じたのだろう。直ぐにその場から離れる。そして、さっきまでモルドレッドがいた場所には巨大な谷ができた。
「どうにゃ?これでもまだ本気じゃにゃいにゃ!」
アイティールはそう言ってモルドレッドに向かって駆け出した。すると、それに合わせて鎧武者が攻撃をする。
鎧武者の持つ巨大な剣がモルドレッドに向けて再び振り下ろされた。モルドレッドはそれを見て避けようと考えるが、向かってきているアイティールのことも考え逃げない。そして、手を剣に向けて掲げた。
「舐めないでよね。”トリニティオーラ””オーロラレイ”」
その時、モルドレッドの体に3つの光が宿る。それらは全て融合し1つになる。そして、強力なオーラを纏うエネルギーとなった。
モルドレッドはそのエネルギーを光線に変え放った。すると、凄まじい勢いで剣に向かっていく。そして、その2つは激突した。
アイティールはそれを見た時なんとも思わなかった。なんせ、先程は剣の方が強かったから。未来を見ても、壊される未来は見えない。そう高を括っていた。
そして、その光線が剣を破壊した時、アイティールは言葉を失った。
「っ!?にゃ、にゃんで……!?」
アイティールはその異常なことに理解が追いつかない。だからなのか、これからの未来も読めなくなってしまう。そして、そこでアイティールの負けは確定した。
「っ!?」
アイティールがクナイを構えて攻撃しようとした時、突如として鎧武者が倒れる。見ると、鎧武者の腹にポッカリと穴が空いてしまっていた。
鎧武者はそのせいで、この世に顕現する力を失い元の世界に戻ってしまう。そして、再びその場が煙に包まれた。
アイティールはその状況に困惑する。普段なら未来を見て攻撃を避けるが、全く未来が読めない。恐らく、未来を無理やりねじ曲げられたせいで見れなくなったのだ。
だから、この後何をするべきなのか全く分からない。普段から未来を見てきたアイティールにとってそれは未知の恐怖だ。だから、アイティールは戸惑いながらただ周りを見渡すことしか出来ない。
「や、やだ……!真耶……助けて……っ!?」
その時、突如アイティールは腹に痛みを感じる。その痛みは絶大で、言葉が出なくなるほどのものだった。しかし、出ないと思っていてもやはり声は出る。
「いぎぃっ!」
あとから遅れて痛みが襲ってくる。その痛みは想像を絶するもので、一瞬で足がガクガクと震え出す。
「い、いらいよぉ……」
「そう……じゃあ、これは耐えられなさそうね」
唐突にモルドレッドの声が聞こえる。アイティールが慌てて顔を上げると、そこにはエネルギーを溜めるモルドレッドがいた。
モルドレッドはそのエネルギーを光線に変え放つ。すると、それはアイティールの体を貫く。
「あぎぁぁぁぁぁ!」
アイティールはその痛みに聞いたこともないような声で叫ぶ。そして、その綺麗で色白な体から真っ赤な鮮血が飛び散った。
地面が赤く染っていく。それと同時に痛みは耐え難いものへと変化していく。アイティールはその痛みに涙を流すも、必死に堪える。そんな時、モルドレッドが言った。
「無様ね。その程度でそんなになるなんて……やっぱり弱いわ。温室育ちの世界神さん」
そして、それを聞き終えるのと同時に全身に強力な電気が流れた。かなりの電圧だ。1万ボルトをゆうに超えている。そんな電圧をくらえば普通の人は皆死んでしまうだろう。しかし、幸いなことにアイティールにはスキル『全属性耐性』があった。だから、死ぬことは無かった。
しかし、体は動かなくなる。全身が麻痺して力が入らない。そのせいで失禁してしまう。
「どう?私だって普通の魔法が使えるのよ?これだけだなんて思わないで」
そう言って持っていた剣をアイティールの体に突き刺した。そして、立てかけるように持ち上げる。
今、アイティールの体には6つほどの大きな穴が空いている。それらは、右の太もも、左肩、左目、右足のふくらはぎ、左の脇腹、左手に空いている。
そして、そこにさらに剣をつきさされた。それは右手のひらと左手のひら、右胸に剣が突き刺さる。その姿は誰がどう見ても酷いものだった。
「あーあ、もう壊しちゃった。この姿を真耶に見せたいわ」
モルドレッドはそんなことを呟く。その時、突如大きな音を立てて何かが飛んできた。それは、ちょうどモルドレッド達がいる場所の右側に落ちてくる。そのせいで、そこにあった家は崩されてしまった。
「……この感じ……やったわ!やっと来たわ!」
モルドレッドはそう言って喜ぶ。そして、立ち込める煙の中からフラフラとした足取りで一人の男が出てきた。
「あら、あなたもボロボロね。壊してあげようかしら」
モルドレッドはその男にそう言った。
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