第136話 2人の思い
「ゴポポ……!」
モルドレッドは水に閉じ込められてしまった。どうしようも出来ないモルドレッドはただアイティールの姿を見つめるだけだ。
しかし、アイティールは手を突き出し不敵な笑みを浮かべていた。その笑みを見てモルドレッドは少しだけ苦悶の表情をうかべる。
「どうしたにゃ?にゃあが強すぎて手も足も出にゃいにゃ?」
「……!」
「にゃあの強さに恐れをなすにゃ」
「……!」
アイティールはモルドレッドを見てニヤリと笑ってそんなことを言い続ける。
「さて、あとは真耶の前に連れていくだけにゃんね」
アイティールがそう言った時、突如それは起こった。なんと、水の牢獄が破られたのだ。そして、閉じ込めていたモルドレッドが出てきてしまう。
「っ!?にゃ、にゃんで……!?」
「フフ、こんな猫耳ロリにやられるなんて、あなたもまだまだですね」
「うるさいわね」
「ま、彼女もなかなかやりますからね。あの男を封じ込める手玉にも使えそうですし、捕らえていたぶりますか」
「なかなかに酷いこと言うわね。でも、それだったらやっぱり足は奪わないと無理よ」
「分かってますよ。”ショックスピア”」
ロキはアイティールに向けていくつもの雷を帯びた大きな針を放つ。アイティールはそれらを難なく躱してロキ達から距離をとった。
「やっぱり避けられますか……」
「あら?あなたもまだまだね」
「そのようですね。では、少し本気を出しますか……”ユグドラシルの根”」
ロキがそう唱えてミストルティンを地面に触れさせた時、突如アイティールの足元からいくつかの木の根が生えてきた。それらは一瞬でアイティールを足元を絡め取り、全身を縛り上げる。
「きゃっ……!やっ!ダメ……!」
そのままアイティールは妖艶な格好をさせられながら縛り上げられ行動を制限された。
「フフ、呆気ないものですね」
「じゃあ、あとは足を消し飛ばすだけね。”リトル……」
モルドレッドは冷たい目でアイティールを睨みつけ手を前につきだす。その手のひらには高密度の魔力が溜められていた。
「……ブラスター”」
そして、光線が放たれた。それは、真っ直ぐアイティールの足に向かって突き進んでいく。
「いやぁっ!助けて!」
「”真紅・炎惨華”」
「っ!?」
その時、突如真耶が現れた。アーサーと戦っていたはずの真耶は、何故かアイティールの元まで来てロキが生やした木の根を切り取る。
しかも、全くと言っていいほど疲れる様子を見せない。真耶はそんな様子でアイティールを助け出す。そして、颯爽と過ぎ去っていく。
「なんで真耶が……っ!?」
真耶がアイティールを助けたすぐ後に、アーサーが真耶を追ってその場を駆け抜けて行った。その様子から、真耶がわざと逃げ出しアイティールを助けたのだと分かる。
「アーサー!真耶を抑えててって言ったでしょ!」
「無茶を言うな!我は初めから無理だと言っただろう!」
モルドレッドの言葉にアーサーはそう言い返して真耶を追いかける。モルドレッドはその様子を見て少しだけ強く奥歯を噛んだ。
そしてアーサーは……真耶に追いついていた。真耶を攻撃の射程圏内に入れ後ろから声をかける。
「戦いに集中しなくていいのか!?」
「……」
「仲間を助ける余裕があるとは……我も舐められたものだな!」
「……」
「戦いの中でお前のことがわかるかと思ったが、ずっと手を抜いているせいで何もわからん!お前、我のことを舐めてるだろ!出会った時からずっと……」
「違うな。俺はお前のことを舐めているのでは無い。お前のことを測っているのだ。どれだけの威力が通用するのか、どのくらいの速さなら勝てるのか、どんな技なら対応されないかをな。逆に、俺はお前のことが分かったよ。だから、そろそろ本気を出すよ」
真耶はそう言って剣を前に突き出した。そして、剣先をアーサーに向ける。そして、ニヤリと笑って言った。
「いいことをすれば、いいことが帰ってくる。人を助ければ、自分も助けられる。俺はそれをこの人生の中で思い知らされたよ。お前もすぐわかるさ。こんなふうに……」
真耶がそんなことを話していると、唐突に強力な魔力が下から襲ってくる。さらに、その魔力はとてつもない熱量を持っており、まるで地獄の炎のようだった。
そして、それは2人の間に柱を作るように通り過ぎていく。そこで初めてその魔力が黒い炎だとわかった。そんな地獄の炎は真耶の剣を燃やすように刃に当たる。
「……助けた仲間が俺を助けてくれる。そういうことだ。”獄炎・倶利伽羅”」
真耶はそんなことを言った。そして、剣に黒い炎を纏わせアーサーを見る。アーサーはその剣を見て少しだけ汗を垂らす。
「我を舐めるなよ。”瞬閃撃・炎”」
アーサーがそう唱えると、突如その体がどこかに消える。しかし、真耶は消えたアーサーに驚くことなく構えるだけだ。
「……」
そして、その場に静寂が訪れる。真耶はそんな中目を瞑り感覚を研ぎ澄ませた。
「”真紅・炎神”」
真耶は一瞬にも満たない速度で剣を振る。すると、黒い炎が真耶を中心として全方位に斬撃となって飛んで行った。
その斬撃は7つ飛ばされた。そのどれにも黒い炎が纏わりついている。その斬撃は空気を燃やしながら、かつ切り裂きながらどこかに向かっていく。
そして、その斬撃のうち1つが切り裂かれた。と言うより、剣で防がれたような感覚だ。真耶はそこに向けて駆け出した。そして、攻撃を繰り出す。
「”真紅・円惨華”」
真耶は剣を縦と横に1回ずつ振った。すると、真耶を中心として炎の円が出来る。その円はとてつもない鋭さを持っており、かつ常に回転している。そのため、弱いものなら触れたものを全て切り裂いてしまう。
そして、真耶はそんな攻撃を何も無い空中に繰り出した。すると、甲高い音が鳴り響く。そして、そこからアーサーが現れた。
「なぜ分かった!?」
「逆になんで分からないと思ったんだよ!」
2人はそんなことを言い合い剣を混じえ合う。2人の剣戟は激しさを増していき、大量の火花を散らせていく。
「お前が王様だからなんだろうな!何も知らない!何も気づかない!俺がお前に嘘をついていたことも、俺がどんなことを思っていたかも、何も理解しようとしなかった!初めて俺を見た時も、俺のことが哀れに見えて仕方なく拾ったとでも思ってたんだろ!」
真耶はそう言って凄まじい勢いの攻撃を繰り出す。そして、真耶の剣には黒い炎がまとわりついているため、その炎が辺りに巻き散らかされる。
アーサーはそんな攻撃を完璧な動きで受け流し捌いていく。そして、真耶の言葉に言い返す。
「そんなことは無い!我はお前を仲間にしようと思った!それだけだ!それだけなのに、お前が勝手に勘違いをして裏切ったんだろ!」
「っ!?裏切ったのはお前の方だろ!違う世界を見て初めて気がついた!俺の記憶を全てお前が変えたってことをな!」
「っ!?」
その言葉でアーサーの動きが一瞬止まる。どうやら図星だったらしく、動揺してしまったらしい。
「やっぱりか!」
真耶は剣を振り上げると勢いよく振り下ろす。アーサーは剣を横にしてそれを防いだ。
「……!おまえが……なんでそれを知っているんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アーサーはこれまでに聞いたこともないような咆哮を上げ真耶に斬りかかった。真耶はそれを見て剣を握る手の力を強めた。
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