第134話 憎しみの中に
真耶は走り出したのと同時に地面に落ちてあった石を、地面に足をつける時の衝撃で浮かせて掴み取った。そして、そのまま走り続ける。
当然アーサーは向かってくる真耶を見て、剣を構えて走り出した。
「……」
「……」
「……」
「……」
両者一言も話すことなく走り出し続ける。そして、2人の距離はだんだんと詰まってくる。真耶はアーサーとの距離が10メートル程度になったところで石に魔法をかけた。
その石は真耶の魔法によって剣に変えられる。その技の名は『物理変化』だ。しかし、2人とも本気になっているため技名を口に出すことは無い。もしくは、この程度の魔法なら無詠唱で出来るということなのかもしれない。
とにかく、2人は一切話すことなく距離を詰める。そして、ギリギリまで来た時に2人は殺気を爆発的に増やした。
「……」
「……」
2人はほぼ同時に刃を向ける。アーサーはその剣を、真耶は作り出した短剣を構え斬りかかった。その時、かなり大きい甲高い音がその空間に鳴り響いた。そして、かなり強力な衝撃波が発生する。
その衝撃はは瞬く間にその場を駆け巡る。そして、強力な風を起こし草木をざわめかせる。
2人は少しの間剣を交えると、小さな衝撃波が剣と剣の間に発生し弾かれる。そして、両者共に距離をとるような形になる。
しかし、アーサーはそんなことで動きを止めるような男ではなかった。着地をするのと同時に真耶に向かって技を繰り出す。
「”閃光撃・斬”」
アーサーの体は黄色い光に包まれた。そして、目にも止まらぬ早さでかつ、四角形を空中に描きながら真耶におそいかかる。
「”真水・明鏡止水”」
真耶は向かってくるアーサーに気が付き剣を持ち変えると、ピタッと止まってアーサーの姿を捉えようとする。
そして、光の速さで繰り出されるその刃の攻撃を、全て見切り弾き返し防いだのだった。さらに、そこから真耶はアーサーに向けて反撃を繰り出す。背後に現れたアーサーに向けて真耶は短剣を振り下ろした。
しかし、短剣はそこで壊れてしまう。やはり、急遽作り出したものだと上手くその物質を構築できないみたいだ。
「”明閃撃・斬”」
真耶の攻撃が外れた時動きが止まった。アーサーはその隙を狙って攻撃を繰り出す。光り輝くその剣は、真耶の体目掛けて振り下ろされた。
「……」
そして、光る刃は真耶の体を斜めに切り裂く。しかし、あまり切った感触がない。
「……」
それもそのはずなのだ。真耶は切られた瞬間に影技を使い避けたのだ。ちなみに、影技と言うのはいわば身代わりの術のようなもの。攻撃を食らう瞬間に残像だけ残して高速で逃げるというものだ。
「”真紅・炎惨華”」
真耶は避けるのと同時に攻撃も行う。その刃から放たれる紅い炎の斬撃は空気さえも燃やしながらアーサーを襲う。
流石のアーサーもその攻撃は防げなかったのか、後退し避けた。そして、1度真耶と距離を取り呼吸を落ち着かせる。
「……」
しかし、そんな時でも2人は喋らない。両者ともに言葉を放つことなくただその刃を交えるだけだ。強いて言うなら、技名くらいだろう。言葉に出しているものと言ったら。
「……」
真耶は剣を握りしめる力を強めると、少しの間目を閉じる。アーサーはそのすきに攻撃することは無い。何故か真耶が目を開けるのを待っている。
もしかすると、真耶が目を閉じたことが何かしらの罠のように思えているのかもしれないが、実際のところは分からない。
それでも、アーサーが真耶に対して攻撃しなかったというのは事実だ。そして、それは今後を大きく変えるほどの、失敗だった。
少し時間が経つと、真耶はゆっくりと目を開いた。
「……そうか、真耶……お前は本気を出すわけだな」
ついにアーサーがその静寂を破る。そして、開かれたその目を見つめながら手に持っている剣をさやに収め、もう1つの剣を背中から抜いた。
「希望皇剣エンペラドール……これを抜いた意味がお前にわかるか?」
「……見つけたんだな。絶望真剣エンドワールはどうした?」
「……白々しいやつだ。お前、本当は知ってたんだろ?これがどこにあったのか」
アーサーはそう言ってエンペラドールを見せつける。
「……さぁな」
「しらばっくれるなよ。エルマに全て聞いた。この剣がお前の宝物庫にあったことも、お前が意図的に我から隠していたこともな。ずっと不思議に思っていたのだよ。何故お前は知らないのか。考えてみれば簡単な話だ。『ケイオス』だから知らなかったのだ。なんせ、隠したのは『月城真耶』だから」
「……」
「どうした?我の名推理に言葉を失ったか?」
「……おめでとう。やっと、ここまでたどり着いたね。本当はもっと後になって言うつもりだったけど、こうなったらもう仕方ないね。お前となら、もっとこう、馬鹿なことやって平凡な……それでかつめんどくさい事に巻き込まれながら楽しい生活を送れそうだったんだがな」
真耶はそんなことを言って空を見上げた。気がつけば既に空は暗くなってきていた。
「お前は……俺が憎いか?これまで仲間だと思っていて……かつ、娘の婚約者だ。そんな俺が憎いか?」
「あぁ。憎いよ。当たり前だろ?」
「だよな。ま、分かってたけどね。その答えを聞いた俺が、これからどうすると思う?」
「……さぁな。知りうることじゃない。ただ、娘に辛い思いをさせたお前は、生かしておくわけにはいかない」
「へぇ……。俺を殺す……か。無駄なことは辞めた方がいい。でないと……怪我するよ?」
その刹那、真耶に向けてアーサーが攻撃を放った。無言で放たれた斬撃は、暗闇を照らすように煌めきながら真耶に襲いかかる。
真耶はニヤリと笑うと背中からリーゾニアスを抜いた。そして、その斬撃を切り裂いた。
「お前の野郎としていることは全て分かっている。例えここで俺が行動不能になろうとも構わない。なんせ、殺される訳にはいかないからな」
真耶はそう言って左目に孤独の目、そして、眼帯の下の右目に冥界の目を浮かべた。
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