第131話 王都侵入
「言ってくれるね。そういうお前も、ただの嫉妬に駆られた猫にしか見えないよ」
「そんなことは言わなくても良いのよ。私が聞きたいのは質問の答えよ」
「何故そこまでこだわる?最終的な決断は俺がする。お前には関係ないだろ?それともあれか?俺がモルドレッドと出会うことが良くないのか?」
「おちょくらないで!どうせあなたも見たんでしょ!?だからあんないつもと違った慎重な戦い方をした!あなたはどこまで見たの!?そして、どの未来に決めたの!?」
アイティールはいつにも増して怒っている。普段は温厚なはずなのに、何故かこの時だけは怒っていた。真耶はそんなアイティールを見て少し黙り込むと、ゆっくりと話し始める。
「俺がモルドレッドと出会ったら何をするか。その答えは簡単なこと。あいつと話して、それから未来を決める。ただそれだけだ。お前は俺がかなり遠くの未来を見たと思っているのだろうが、そんなことは無い。お前もわかっているだろ?未来は2つに別れ続ける。たとえ最初が2つだとしても、1分先は何通りあるか分からない。もしかすると8通り位かもしれない。逆に、1024通りかもしれない。そんな中からたった一つの未来を決めるのは無理なはずだ。お前ならわかるだろ?」
「……そう……にゃんね」
アイティールは真耶の言葉を聞いて納得する。しかし、直ぐにもう1つの可能性に気が付き言った。
「でも、真耶なら他に見れる方法があったんじゃにゃいにゃんか?例えば、たった一瞬だけ何もしない時間を作り出して、未来の選択肢を減らす、とか」
「それは不可能だ。その選択肢を選んだ時点で、その先の未来は増え続けていく。そのとてつもない情報量は人の脳を破壊する」
「でも、壊れなかった。まだにゃあに嘘つくにゃんか?本当は知ってたんでしょ?」
「……何故そこまで話す必要がある?たとえ俺が先を見たとして、それがお前となんの関係がある?」
真耶は少し声を低くしてアイティールに言った。アイティールはそんな真耶を見ながら歯を食いしばって言う。
「真耶が!未来を見て、真実を知って、そんな状況てまモルドレッドちゃんの事をどう思ってるの!?モルドレッドちゃんは何も知らないんだよ!真耶の選択で未来だって変わるんだよ!どこまで見たのかは分からないけど、もうわかってるんでしょ?モルドレッドちゃんのことも、私のことも。クロエちゃんのことだって見たはずだよね?もうあなただけの問題じゃ無くなってきてるの。だからさ、教えてよ……」
アイティールは少しだけ泣きそうな顔で言ってきた。真耶はそんなアイティールを見てため息をひとつ着くとゆっくりと話し始めた。
「全く……仕方ないやつだな。俺が誰を選ぶか?だろ?知りたいことは。……誰を選ぶかはまだ決めてないよ。見たものが真実とは限らない。俺自身で会って、話してそれから決める。だから、悲しい思いをする人も出てくれば、喜ぶ人も出てくる。それが俺の答えだ」
真耶はそう言った。その言葉には強い意志と信念を感じた。アイティールは真耶のその答えを聞いて強く頷くと、納得したのか静かになる。
「……もうそろそろだ。そろそろ王都が見えてくるはず。気を引き締めろ。ここから何があるか分からないからな」
真耶はそう言った。すると、アイティールはいつもの口調で言う。
「関係にゃいにゃ。にゃあは見えてるにゃ」
「……たしかにな。ただ、無理はするなよ。未来を生きるんじゃなくて、今を生きろ。そして、明日を求めろ」
「分かったにゃ」
2人はそんな会話をして森を抜ける。すると、目の前には巨大な壁が見えた。どうやら城壁のようだ。
「見えたな。王都が」
「ここが王都……どうするの?城壁があるけど、どうやって中に入るの?」
「普通に入る……と、言いたいところだが無理だろうな。とりあえず蹴破る……も無理そう。となると、飛び越えるだよな」
真耶はそう言って城壁を触り出す。そして、右手首のシューターに目をやった。
「アイっぴ、捕まれ」
真耶がそう言うとアイティールは真耶の体に抱きつく。真耶はアイティールがちゃんとしがみつけているかを確認すると、シューターから悲しみの糸を放つ。そして、急スピードで収縮させた。
城壁のてっぺんに着いた糸は真耶の体を引き上げながら縮こまっていく。そして、かなり速いスピードで城壁を昇ることが出来た。
真耶は城壁に登ると直ぐに王都を見下ろし状況を確認する。すると、王都はかなり悲惨な状況になっていた。
「嘘……でしょ……!?こんにゃのあんまりだよ……!」
アイティールは思わずそう口に出してしまう。だが、それもそのはずなのだ。王都はほとんど破壊され、建物の原型を留めているものはほとんど残っていない。その様子はまるで、巨大な竜巻が発生し建物を壊された挙句その破片を王都のあちこちに散らばらせたかのようだ。
しかし、そんな中でも唯一形として残っているものがあった。それは、王城だ。アーサーの城は壊されることなく残っていた。
「と、どうするにゃ?中に入るにゃ?」
アイティールは少しだけ震えながら聞いてきた。恐らくこの状況を見て怒っているのだろう。だが、それは真耶も同じだ。真耶は怒りを堪えながらアイティールに言う。
「神であるお前が俺の住んでいた場所のことで怒ってくれるなんて……嬉しいよ。嬉しいけど、それ以上にゼウスに対しての殺意の方が強くなる。……ゼウスを殺すぞ」
真耶はそう言ってアイティールに手をさし出した。アイティールはその手を見て優しく握る。そして、真耶の体に抱きついた。
「……行くにゃんよ」
「……いや、待て。別に恋人繋ぎをすることは嬉しいし、抱きついてくれたことも嬉しいんだが、この体制だと確実にお前を落とすから危ないぞ。俺、左腕ないからもうちょっとしっかり捕まってて欲しいんだけど」
「あ、ごめんにゃ」
アイティールは確かに、といった顔をして真耶にしっかりと捕まる。真耶はそれを確認すると城壁の下に向けて走り出した。
最初は飛び降りようかと思ったが、今は手持ちに水が入ったバケツなどない。ハシゴもないしボートも無いためこの高さから落ちれば痛いだろう。
だから、飛び降りるのは止める。だが、降りる必要はある。真耶はそのことを頭の中で考えながら、壁に向かって垂直に走り出した。
真耶は壁を垂直に駆け下りていく。その光景はまるで壁に重力が発生したかのようだ。更に言うなら、その速さはいつもより早い。まぁ、当然と言えば当然なのだが。
「にゃにゃ!?このままだと地面に激突にゃ!」
「分かってるって!要は向いてるベクトルを上に向ければ良いだけの話だ!舌噛むから歯ぁ閉じて口食いしばっとけ!」
「逆にゃんーーー!!!」
アイティールはそう叫びながら何とか歯を食いしばる。その刹那、真耶は剣を抜いた。ジャキッという甲高い音と共に刃が煌めく。
「”星剣・ビッグバンスラッシュ”」
真耶は青白い光を剣に纏わせ斬撃に変え放った。すると、その斬撃は地面に直撃するなり大爆発する。真耶達はその中に突っ込んで行った。
そして、その爆発は青白い光の波動のようなものを広げていき、さらに黒い煙も撒き散らす。黒煙に包まれる中真耶は何事もなく走り抜けてきた。
「今ので周りの敵の位置を把握した。この地区の敵は一掃する」
真耶はそう言ってその地区を駆けていく。その途中に謎の目玉がいたが、そいつも当然のように殺す。そうして、その地区を一周するかのように爆発した場所まで戻ってきた。
「これで雑魚は倒した。……ここからが本番だな。改めて、勇者パーティらしく神退治と行くか」
真耶はそう言って笑った。
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