第130話 次に向けて
真耶達はクロウと別れて5分程進んだ。すると、謎の転送装置を発見する。真耶はそれを見てニヤリと笑った。
「これにゃんにゃ?」
「見たことがないやつだ。そもそも、アヴァロンに転送装置は無い。だから、ここに入れば目的地にひとっ飛びで行けるって訳だ」
真耶はそう言って中に入る。アイティールはそんな真耶を見て慌てて中に飛び込んだ。
アイティールは中に入って驚くべき光景を目の当たりにする。なんと、転送装置の周りに神界の兵士が倒れているのだ。アイティールはその異常な光景に目を疑う。
「にゃ、にゃんだこれ……?」
「あ、アイっぴも来たのか。あの村の奴らはほとんど助けたよ。今頃ぞろぞろとこっちに向かってるはずだ」
「そ、そうにゃんね。てか、それよりこの兵士達はにゃんにゃ?」
「転移したらいたから気絶させた」
「こんな大量ににゃ?」
「仕方ないだろ。それに、無限転移させてないだけマシだろ?」
「にゃにそれ?」
「知らないのか?転送装置には転移したあと一定時間転移しない時間が生まれるんだが、その時間を過ぎると当然転移する。だから、そこにい続ければ転移し続けるって訳だ。今こいつらは気絶してるから転送装置に投げ込めば起きるまで無限に転移し続けるんだよ」
真耶はそう言ってどんどん人を逃がしていく。アイティールはそんな真耶を見ながらこの場所の特定を始めた。
「怖いにゃんね。でも、無限に転移するだけだったらにゃにもにゃいにゃんね」
「な訳無いだろ。転移装置は言わば簡易転移魔法だ。そして、この転移魔法は不完全なもの。人などの生物は不完全な転移魔法を連続して使用すれば体がその移動についていけなくなって壊れる。だから、もしこいつらが無限転移を始めれば、二、三回目くらいで体がバラバラになるぞ」
真耶はそんなことを言う。アイティールはその言葉を聞いて言葉を失った。そして、ここにいる人が無限転移されてなくてよかったと心から思った。
「ほんっと真耶って根っからの悪にゃんね」
「うるせぇ。それよりここがどこか分かったのか?」
「あ……」
「え?お前この時間何してたの?俺なんか全員助け終えたぞ」
「ご、ごめんにゃあ。話してたから仕方にゃいにゃんよ」
「仕方なくねぇよ。お前やってんな」
真耶はそう言ってアイティールに呆れた目を向ける。そして、ため息をひとつ着いて地面に手を置いた。そして、魔法を唱える。
「”広域探知魔法……ぽいやつ”」
真耶がそう唱えるとその空間に大量の魔力が走り始めた。そして、その空間の場所と形、大きさなどの情報を頭の中に流し込んでいく。
「……何となくわかった。ここはそもそも別の世界だな。アヴァロンですらない。多分、この事のために作られた専用の施設といったところだ。あの転移魔法も普通のものじゃなくて時空間転移魔法だったのだろうな」
真耶はそう言って静かに立ち上がると、転移装置の前に立つ。そして、振替って言った。
「この空間を破壊する。死にたくないなら早く出ろ」
「了解にゃ」
真耶の言葉を聞いてアイティールは駆け足で真耶の後ろに立った。真耶はそれを確認すると魔力の玉を作り出す。
「今は火力が出ないからな。連鎖的に破壊させてもらおうか。”振爆弾”」
真耶がその玉をはなった瞬間、2人は転移装置の中に入る。すると、真耶達が転移したすぐあとにその場が崩壊し始めた。
そして、その崩壊に巻き込まれた転送装置も当然のように破壊され転移出来なくなってしまった。
真耶達は転移し終えて村に着いた時、突如として転送装置が破壊されたのを見てそれを理解した。そして、静かに村の方を見てどうなったのかを確認する。
村には捕らえられていた親が子供の元に帰っていくのが見えた。そして、皆は再開することが出来て喜んでいる。真耶はそれを見て僅かに笑った。アイティールはその笑顔を見て安心する。
2人は楽しそうな明るくなった村を見届けると、誰にも気づかれないようにそっとその場を去った。
━━それから2人は1時間ほど歩いた。気がつけばあたりは既に暗くなっており、静けさだけがその場に広がっていた。真耶は暗くなった夜空を見上げながらこの後のことを考える。
「……」
「これからどうするにゃ?周りの村を助けながら行くのもいいにゃんけど、早く行かにゃいといけにゃいにゃんよ」
「……」
アイティールの言葉に真耶は黙り込む。すると、唐突にその場に風が吹いた。その風は静かにその場を駆け巡り、2人にぶつかりながらどこかに行ってしまう。
風邪でゆらされた草木は、風が無くなった途端静まり返ってしまう。そんな静寂が2人を襲う。
「……周りの村を助けるのも必要な事だ」
少しして真耶はその静寂を破った。
「そうにゃんね」
アイティールはその言葉にそう答える。
「だが、結局大元を潰さない限りは終わらない。前の戦いでそこら辺を支配しているのがオリュンポスでは無いとわかった。だったら、早く中心に向かってゼウスを倒す。それが俺たちのやるべき事だ」
真耶はそう言って前を向くと、静かにその手を握りしめ歩き出した。アイティールはそんな真耶を後ろから見ながらゆっくりと笑った。
そして、さらにそれから1時間が経過した。2人は周りの敵を切り倒しながら走り去っていく。その姿はまるでかまいたちのようだった。
「……ねぇ、真耶はモルドレッドちゃんに出会ったらどうするの?」
2人が走っている時、唐突にアイティールが聞いてきた。語尾ににゃんがついてないことや、その雰囲気からかなり深刻な話なのだとわかる。
「……それを聞いてお前はどうする?」
「質問に質問で返さにゃいで欲しいにゃ」
アイティールは少しだけいつものような雰囲気に戻った。しかし、直ぐに雰囲気を変える。やはり、いつもとどこか違うようだ。
「もう一度聞くわ。あなたはモルドレッドちゃんと出会って、何を言って、何をするの?」
その言葉はまるで、とてつもなく重たい鉄の塊のように真耶にのしかかる。
「……俺が何をしようと勝手だろ?」
「そんな答えは求めてないわ。ちゃんと答えて」
「そう言われても、俺にだって話せないことがある」
「そう言って嘘つくの?」
「俺が誰に嘘をつくんだ?」
「誰にでもよ。自分に嘘をついて、にゃあに嘘をついて、そしてモルドレッドちゃんに嘘をつく。こんなことを言うのもあれだけど、今のあなたは浮気性のクズにしか見えないわ」
アイティールは静かにそう言った。真耶はその言葉を聞いて少しだけ眉をひそめた。
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