第129話 未来を見ながら
『慎重にって……でも、そんなの気にしてちゃ満足に戦えないでしょ?』
クロエは心配しながら聞いてきた。しかし、真耶は首を振って答える。
「いつもと同じじゃない。多分アイっぴとユニオン状態に入ったからだろうけど、未来が見えるせいで未来が変わってしまったんだ。だから、間違いは許されなくなった。世界神であるアイっぴの力は、俺だけじゃなくて世界の未来すらも決めてしまうようになったんだ」
真耶はそう言って駆け出した。2人がその話をしている間、アイティールはずっと黙り込んでいた。真耶はそんなアイティールを気にしてなのか、話しかけることはしなかった。
そして、真耶は高く飛び上がり再びポセイドンに攻撃をする。ポセイドンは振り下ろされる真耶の剣をトライデントで防ぐ。
カキンッ!という甲高い音が鳴り響き、その場に大量の火花が散った。真耶はポセイドンのトライデントを蹴ると、1度地面に降りる。そして、剣を振り上げ地面に叩きつけた。
「”地裂・大地の剣”」
地面から巨大な剣が現れる。その剣は寸分の狂いなくポセイドンの心臓に向かって伸びていった。ポセイドンはそれを気が付き躱そうとするが、その速さに体がついていかず突き刺さってしまう。
そして、その剣はポセイドンの左腕を切断した。そして、真耶はその隙を狙って飛び上がると、一瞬で間合いを詰めた。
「終わりだな。”星剣・深淵斬 《ポイント》・零”」
真耶の剣に白黒の光がまとわりついた。その剣はブラックホールとホワイトホールのように恐怖心を煽るような光を放っている。
真耶はその剣でポセイドンの右肩から左の脇腹にかけて切り裂いた。振り下ろされた剣は曇り暗くなった空を白い光で埋め尽くす。
少ししてその光は収まり始めた。そして、その光の中から2人の人影が現れる。1人は片腕で剣を握りしめ笑っており、もう片方は胸を押え苦しんでいる。
「……これが、王の力だ。神ごときが勝てると思うなよ」
真耶はそう言って剣をさやに収めた。その時、ポセイドンは力なく落ちていく。そして、ポセイドンが作り出していたヤマタノオロチも霧散した。
真耶はその霧散したヤマタノオロチが作り出す雨に打たれながらゆっくり地面に落ちていく。そして、地面に着地すると空を見上げる。
すると、空からポセイドンが降ってきていた。その体からは大量の血が吹き出している。そして、体は動くことなく死んでいるようにも見えた。
真耶はポセイドンのその姿を見て慌てて結合状態を解除した。
「っ!?」
アイティールは突如真耶の体からはじき出されて何が何だか分からなくなる。しかし、直ぐに体制を整え真耶の元に向かおうとした。しかし、その刹那に真耶の胸にトライデントが突き刺さった。
そのトライデントの勢いは強く、真耶の体を遠くに吹き飛ばしてしまう。アイティールは目の前で刺される真耶を見て言葉を完全に失ってしまった。
「真耶!」
アイティールは慌てて真耶が飛ばされた方向に進む。すると、その威力を示すかのように地面がえぐれていた。アイティールはその跡を追って進んでいく。すると、少し離れた場所で真耶が倒れていた。
「真耶!大丈夫!?」
「……あぁ、問題は無いよ。まったく……この戦いが無駄に思えてしまったよ」
真耶は刺さったトライデントを抜きながらそんなことを言う。そして、その胸の傷を再生させた。
「え?無駄って、どういう事だにゃ?」
「このトライデントと言い、さっきのポセイドンと言い、全て偽物だったんだよ」
「え!?」
「ほら見ろ。このトライデントも本物じゃない。本物の魔力が込められてはいるが、偽物だ」
真耶はそう言ってトライデントを見せる。すると、そのトライデントは普通の槍に戻っていた。
「ほんとにゃ……!?」
「な?言っただろ?それに、ポセイドンも偽物だ。切った感触で分かったよ」
真耶はそう言ってポセイドンを見る。すると、ポセイドンの体は燃えていたが、神々しい力は何も感じられなかった。
「じゃ、じゃあ、私達って偽物にあんにゃ本気を出してたのにゃ?」
「まぁ、そうなるな。だが、偽物と言って侮れない敵だった。ポセイドンの力が入った神界の敵だ。どちらにせよ神と何ら変わりない」
「そっか……。じゃあ、ここで手加減にゃんてしてたら、逆ににゃあ達がやられてたにゃ」
「そういう未来もあったかもしれない。なんにせよ、こういう土地を支配する神ってのは神界でもかなり上位層だ。全力で潰しに行かなければ負ける可能性だってある」
「分かったにゃ」
真耶はアイティールの返事を聞いて優しく微笑むと、静かにアイティールの頭に手を乗っけた。
「じゃ、あとは連れていかれた人達を見つけてここに帰ってくるように言えばいいな」
真耶はそう言って立ち上がると、服に着いたホコリを払い落として周りを見渡した。すると、先程の戦いの壮絶さを示すかのようにえぐれた地面が目に留まる。
「このレベルでこれだけの被害か……本気を出せば……」
真耶は改めてこれからの戦いに向けて気持ちを入れ直す。そして、アイティールの方を向いた。既にアイティールは立ち上がり真耶の顔を見て微笑んでいる。
「……どうやら俺にも守るべき存在というものはあるみたいだ。ただ、今は……間違い探しは無しだな」
「ん?どういうことだにゃ?」
「……今は知らなくていい。いや、知っているのかもしれないが、考えなくてもいいことだな。とりあえず今、俺が言えることは1つ。お前の苦しみが少しは理解出来たってことだよ」
真耶はそう言って頬に手を当て摩る。そして、優しく撫で回して唇に手を当てた。
「とりあえず先に進もう」
真耶はそう言って歩き出した。アイティールはわけも分からずその後ろについて行く。そして、2人が歩き出した時突如後ろから声をかけられた。
「真耶さん!あの敵はどうなったの!?」
「ん?あぁ、アイツか?アイツなら偽物だったよ。殺しはしたが、偽物だった。それより、何故ここにいる?出入口は塞いだはずだ」
「これを届けようと思って、みんなで何とか壊したんだ……」
「届けるって……なんだそれ?」
「この村の秘宝なんだって。俺もあんま知らない」
「秘宝か……確かに魔力は感じる。中に謎の魔力と魔結晶が含まれているな。それに、この感じは古代武器だ。だが、不完全なもの。恐らく古代の遺物だろうな」
「そうなんだ……知らなかった。でも、真耶さんにあげるよ。これで強くなって敵を倒して」
「いや、必要ない。それが必要なのは俺じゃなくてお前らだ。あまり秘宝を他のやつにやらないようにしろ。そして、お前が強くなった時初めて俺の前に来い。俺が、お前がこれがなくても強いと思えたら初めて貰ってやるよ」
真耶はクロウにそう言って頭を撫でた。そして、振り返りどこかに向けて歩き始める。クロウはその後ろ姿を見て少し尊敬の眼差しを真耶に向けた。
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