第126話 子供の街
「っ!?殺すって……そ、そこまでしなくても……」
「いや、殺す。何があろうとも殺す。今こうしてこの世界がめちゃくちゃになったのは、俺が甘かったからだ。口では殺すと言っておきながら、心の中では殺さなくてもいいと思った俺の甘えからこんなことになった。だから、甘えは捨てる。殺すべき相手は必ず殺す。でなければ、こっちが殺されてしまう」
「っ!?そ、そうなんだ……」
男の子は真耶の言葉を聞いて言葉を失う。真耶はそんな男の子を見ながら優しく微笑みかけて言った。
「安心しろ。お前達は守るよ」
「う、うん……」
真耶の言葉に男の子は歯切れの悪い返事を返した。すると、真耶によって担ぎあげられていたアイティールが泣きながら男の子に言った。
「ま、真耶は有言実行する男……にゃ。ひっぐ……だから、暖かい目で見てて欲しいにゃ」
「え?う、うん。わかったよ……」
男の子は真耶の暗い過去について察したのか、頷いて前を向く、そして、その沈黙に耐えられるように歩いていく。
しかし、その沈黙は容赦なく男の子を不安にさせる。そのせいで心音は大きくなり、自分の鼓動が大きく聞こえるようになった。
「……」
ドクンドクンと音が鳴る。ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン……
「……」
「うにゃぁ……あ、あんまゆらるにゃ〜。痛いにゃあ」
アイティールが弱々しい声でそんなことを言った。そのおかげもあってか、その場の雰囲気が和む。そして、なんと女の子が笑いだした。
「ふふふ」
「あ、やっと笑ったな。さすがはネタキャラのアイティールだ」
「にゃにゃ!?ネタキャラ言うにゃ!」
アイティールはそう言って真耶の肩の上で暴れる。そして、ポカポカと真耶の肩を殴る。
そんなことをしていると、薄暗い街が見えてきた。真耶はその街を見て男の子に聞く。
「ここか?」
「うん。ここだよ。僕達のアジトまで行くから着いてきて」
男の子はそう言って街の中を歩いていく。そして、迷うことなくとある一軒家へと向かった。
真耶はその一軒家の前に来ると、少しだけ周りに警戒をして中に入る。そして、男の子について行く。すると、男の子は地下室の入口の前まで案内してくれた。
そして、男の子達は地下室に入っていく。真耶もその後を追って中に入っていく。そして、少し長い階段を降り、開けた場所に出た。
「ここが俺達のアジトさ。ここにみんないるよ。ねぇ!皆!俺だよ!帰ってきたよ!」
男の子がそう言うと、物陰に誰かいるのが見えた。そして、その人影は少しずつ大きくなっていく。
そうして段々と人影の数が増えていく。気がつけば、数十人まで増えていた。真耶はそんな人影を見ながら男の子に話しかける。
「よく、これまで生き抜いたな。お前らは本当にすごいよ」
「……皆両親のおかげだよ。お父さんやお母さんがいたからここまで生きてこれた。皆連れていかれちゃったけど、今もこうして強く生きてるんだよ。それじゃあ、一旦みんなを呼ぶね」
男の子はそう言ってその場の全員に謎の合図を送る。すると、その男の子に向かってその場の人達が全員集まってきた。
しかし、集まってきたのは皆子供で、真耶のことを恐れている。だからなのか、皆警戒して真耶には近づかない。
「皆、この人は大丈夫だよ」
男の子のその言葉で少しずつ真耶に近づく人も増えてきた。真耶はそんな中男の子に問いかける。
「なぁ、なんでお前は俺の事を信頼出来る?俺が裏切る可能性もあるだろ?」
「分かんない。でも、あの時俺達を助けてくれたから、それが全てだと思う。悪意があって助けたんじゃなくて、善意で助けてくれたって、直感的に分かったらか」
男の子は真耶にそう言った。すると、真耶は少しだけ考えて男の子に言う。
「お前、凄いな」
真耶は優しく微笑みかけてそう言った。すると、男の子はにっこりと笑って真耶を見つめる。そして、すぐに振り返ると、その場の全員の指揮を取り始めた。
「皆!とりあえずあの男達に捕まった人達はこっちに来て欲しい!あと、その様子を見た人もだ!」
男の子がそう言うと、お互いの目を向き合わせながらみんなよってくる。
「全員か?」
「そうみたいだね」
「お前はどうする?」
「僕だけは残しておいて欲しい。その他の人は全員消してくれ」
「了解した。お前だけ離れてろ」
真耶はそう言うと、男の子だけ離して他のみんなの前に立つ。そして、手を突き出し魔法を発動する準備をし始める。
(……クロエ。お前は魔法を使えるか?)
頭の中にそう呼びかけた。すると、クロエの声が聞こえる。
『出来るわよ。もう完治したからね。変わって欲しいんでしょ?意識は真耶のものにするから肉体は変えるわ』
クロエはそう言った。すると、真耶の中になにか入ってくるような感覚がする。そして、真耶の体から煙が発生し女体化する。
「じゃあ、始めるよ。”理滅……」
真耶が魔法を唱え始めると、真耶の手の前に巨大な魔法陣が現れる。
「……記憶の施錠”」
真耶がそう唱えた時、その場の皆の記憶に何か鍵のようなものがかかる感覚を覚えた。そして、これまで経験した嫌な記憶が封印されていく。
「”理滅・世界の革新”」
真耶がその魔法を唱えると、世界の理が変更される。そのため、ここにいるみんなが犯されたという事実は消え、記憶からも消去された。
「これくらいで良いな」
真耶はそう言って女体化を解除する。真耶自信が体の主導権を手に入れ男の体に戻る。
「成功したの?」
「あぁ。成功したよ。みんなに話しかけてみな」
真耶がそう言うと、男の子はこくりと頷き話しかける。すると、皆はさっきとは違って楽しそうに話し返していた。その微笑ましい様子を見た真耶は優しく微笑む。
「ありがとう!真耶さん達のおかげでみんなを助けられたよ。僕達の命の恩人でもあるし、本当に感謝している。2人の夫婦仲が今より仲良くなることを祈っているよ」
「「「っ!?」」」
「いや、俺達は夫婦じゃない。既に俺は既婚者だからな」
「え?そうなの?でも、なんだかアイっぴさんは嬉しそうだけど……」
「え?」
真耶は男の子に言われて振り返る。すると、平然とした顔で口笛を吹きながら横を向いているアイティールがいた。
「……」
「……」
「……ま、色々あるんだろうよ。俺自身も俺の記憶が正しいのか分かってないしな」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。それより、今更だけどお前達の名前って何?」
「俺達?忘れてた。俺の名前はクロウ。で、こっちが妹のリンネルだよ」
「よろしくね!お兄ちゃん!」
そう言ってリンネルが抱きついてきた。クロウはその様子を見て笑っている。真耶はその2人の笑顔を見て、より一層神を殺すことを強く心に決めた。
読んでいただきありがとうございます。