第125話 悲惨な事実
「うぅ……ひっぐ……ひっぐ……ちょっと勘違いしただけにゃのに……!」
アイティールはそんなことを言って泣く。真耶はそんなアイティールを横目に、男の子達と話をした。
「2人はなぜこんなところにいるんだ?」
「あの変なものに追いかけられたんだよ……。あのさ、お兄さん達って何者なの?何であの生き物を一瞬で倒せたの?」
男の子は純粋な目で聞いてきた。真耶はその問いを受けて少しだけ悩む素振りを見せる。
「そうだなぁ……坊主はアーサーのこと知ってるよな?」
「当たり前だよ!アーサー王様は俺の憧れだからね!どんな敵にも恐れずに立ち向かい、エクスカリバーでどんな敵も倒してしまう!それに、あの強い力で俺達を守ってくれるんだ!アーサー王様は俺の理想の姿なんだ!」
男の子はそう言って無邪気に笑った。そして、目をキラキラさせながら真耶に聞いてくる。
「ねぇ、もしかしてお兄さんもアーサー王様に憧れてる人なの!?」
「俺か?俺は……まぁ、憧れてるかどうか聞かれると、憧れてるな」
「やっぱり!だからあんなに強かったんだね!ねぇ、どんなとこに憧れてるの!?」
「……そうだな、仲間思いで、皆の信頼をすぐに得られて、仲間を忘れないところ……かな」
真耶はどこか遠い目をしてそんなことを言う。すると、男の子は純粋な目と言葉で聞いてきた。
「もしかしてお兄さん……友達いないの?」
その言葉を聞いた瞬間、真耶は巨大な矢で心臓を貫かれた気分になった。そして、とてつもないダメージを心に受ける。
真耶はちょっと拗ねたような顔をして小さな声で呟く。
「……いるし……別に3人くらい信頼出来る友達がいるし……」
「3人って、俺でも7人はいるぜ。お兄さん本当にいないの?」
男の子は呆れたような声で聞いた。流石の真耶もそこまで言われると腹が立つ。子供だからといって容赦はしない。
真耶はそう頭の中で思い、アイティールのお尻の前に立った。そして、悲しみの糸を取り出し極細の鞭のようにする。そして、真耶はその鞭もどきでアイティールのお尻を力いっぱい叩いた。
「いぎぃ!あがっ……!や、やだ……!それ……らめ……!痛すぎて……お尻が……壊れちゃう……!らめぇ……!」
アイティールは、普段のわがままな小悪魔な性格からは考えられないほど弱った声で、泣きながら言った。しかも、格好が格好だからか、土下座のようになっている。
真耶はそんなアイティールのお尻を20回ほどその鞭もどきで叩いた。その間アイティールは一言も言葉を発せず、ただその痛みに耐えていた。
「……で?なんか言ったか?」
「え!?な、なんでもないです!」
「よろしい」
真耶は恐怖で男の子に訂正させると、再び男の子の前に行く。
「とりあえず、あの謎の生物は倒せたが、まだ今の状況がわかっていない。それに、そこのお嬢ちゃんも怖がってる様子だしな。安心できるところに移動しよう。移動している間に何があったか話して欲しい」
「うん!」
男の子は強く頷き返事をする。
「あぁ、それと、まだ自己紹介をしてなかったな。俺は月城真耶。そしてあっちの猫耳がアイティール。俺のことはどんな風に呼んでもらっても構わないが、アイティールのことは『猫耳』、もしくは『アイっぴ』のどちらかで呼んでくれ」
「え?アイっぴ?わ、分かりました」
男の子は困惑しながらとりあえず理解はした。そして、その自己紹介の時にあることに気がつく。
「あれ?真耶さんって左腕が無いの?それに右目も眼帯つけてるけど……」
「ん?あぁ、俺は左腕と右目がない。それに、魔法もろくに撃てなくてな、戦力にはならないと思うから戦闘は基本的にアイっぴにさせたいと思っている」
「え?でもさっき戦ってたけど……」
「させたいと思っているだけだ。アイっぴはドジだからな。大事なところでやらかす。本当は今の俺より強いんだろうけどな、さっきもドジってやられかけてたからな。だが安心しろ。お前らは俺が必ず守る」
真耶はそう言ってアイティールを担ぎあげると、男の子に言った。
「それじゃあ街まで案内してくれないか?」
「うん!じゃあその時話すね」
男の子はそう言って街に向かって歩き始めた。真耶はその男の子について行く。男の子は真耶が着いてきているのを確認すると、話を始めた。
「ここから街までは15分程で着くよ。で、その街なんだけどね、今って空があんなふうに曇ってるでしょ?空が曇りだしたその日に世界中にあの謎の生物達がうじゃうじゃ出てきたんだ。そして、その次の日くらいに俺達の街に謎の男が来た。その男は大きな槍を持ってて、自由自在に水を扱うんだ。皆は最初は反抗したんだけど、魔法も効かないし、普通に殴っても効かない。だから、皆はその男の言うことを聞くことにしたんだ。そしたらね、男は突然街の人をどこかに連れていきはじめたの。大人の人は全員連れていかれるの。だから、僕のお父さんとお母さんも連れていかれちゃった……。子供の俺達は、最初は連れていかないって言われてたのに、突然男の部下が連れていくって言い出して、でも、皆大人からは逃げられないから捕まっちゃって、それで、それで……」
その時、突然男の子は泣き出してしまった。だから真耶はその先に何があったのかだいたい想像が着く。
「……お前、実はマセガキだろ?」
「ギクッ……!べ、べ、べ、別に、お父さんとお母さんにエッチなこと聞いてるわけじゃないよ!」
「……聞いてんだな。それで、友達が犯されたか?」
「……うん。男の友達と女の友達の2人が捕まって、皆の前で公開処刑みたいに犯されて……だから、皆怖くなって逃げたの……!俺は逃げずに立ち向かおうとしたんだけど、妹が捕まって……犯されて……」
「なるほどね。だからこんなに脅えてるわけだ。じゃあ、捕まった子供は返されたのか?」
「うん。だから、次捕まらないように皆隠れてる。今からそのアジトに連れていくよ」
「……そうだな」
真耶は少しだけ目を細めると、何か嫌な予感でもしたのか周りを確認する。そして、何十メートルも先、下手をすれば200メートル先かもしれない。それくらい先の景色を見る。
そして、前を向き直すと男の子に言った。
「アジトに着いたら、犯された子を全員俺のところに呼んでくれ」
「何するの?」
「記憶を消す。その、犯された時のな。あと、犯されたという事実も消す。そして、皆の意見を聞く」
「意見って……なんの?」
「決まってるだろ?その男と部下を、殺すか殺さないかの意見だ」
真耶はそう言って強い殺気を放った。まるで、その男を挑発するかのように、強く、強く、遠くにいても分かるように、殺気を放った。
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