第115話 月日は流れて……
「まだ言えないってことは、いつかは言ってくれるんですか?」
「……ま、いつかは……ね。話さなきゃならない時が来るはずだから」
「フゥン……あなたは大変ね」
「……そう……だな。ただ、俺は古臭いルールに縛られるつもりは無いって思ってたから、たとえ呪われることになっても後悔はしてない。今だって、ルールなんかに縛られるつもりは無い。俺は……理の王者だから」
真耶はそう言って静かに微笑んだ。その微笑みを見たアルラウネはため息をひとつついて言う。
「はぁ、あなたはしょうがない人ですね。神に抗うなんて普通の人は出来ませんよ。ましてや、呪いなんて……今こうしてあなたの体の具合を見てるはずなのに、全くその呪いが分かりません。それくらい高度な呪いだってことですよね?真耶さんはそんな神様に抗っているのですよ。辛くなったら直ぐにやめていいのですよ」
「言葉で言うのは簡単さ。ただ……」
「『呪いがそれを許さない』ですか?」
「いや、違うよ。確かに呪いも許さない。でも、呪いなんかじゃない。それよりももっと辛く苦しいもの……俺の心が許さないんだ。愛してる人のために、そう思うと、何故か体が勝手に動くんだ。だから、俺は俺より強いものにも戦いを挑む。勝ち負けなんか考えずにね」
「それが愚かな選択だって言われてもですか?」
「人の評価なんかどうでもいい。それに、俺は言ったはずだ。これまで俺がしてきたこと全てにおいて、全く後悔なんかしてないってさ」
真耶がそう言うと、アルラウネは少しだけ微笑んだ。そして、真耶の手首に木の根を差し込む。
「今回は特別です。普通の人なら出来ないんでしょうけど、あなたなら出来ると思ったのでやりますね。暗黒樹の根をあなたの焼ききれた魔力回路の代わりにします。少し違和感があるかもしれませんが、我慢してくださいよ」
アルラウネはそう言って暗黒樹の根を真耶の手の奥まで差し込んでいく。真耶はその根を抗うことなく中に入れていく。そのせいか、体の中に何か入っていく感覚が凄かった。
「……」
「これで多少の魔法は使えますよ。ですけど、もしあなたが理滅を1度でも使えば簡単に壊れます。だから、次戦闘になったらなるべく初級魔法で決めてくださいよ」
アルラウネは根を切り取り元に戻すと、暗黒樹を地面の中に埋めていく。そして、1度真耶の方を見てからその場を去っていく。
「あなたは少し安静にしておいて下さいよ」
アルラウネはそう言い残して部屋から出ていってしまった。真耶は誰もいなくなった部屋で静かにベッドに横たわる。片腕がないためか、寝転がった時にいつもより少し楽な感じになった。
「安静に……ね。何も起こらなきゃ安静にできるんだけどね……」
真耶はそう言って深い眠りについた。その眠りの深さはこれまでとは比べ物にならないくらい深く、夢を見ることさえしなかった。
そして、珍しく1時間以上の眠りについた真耶は、次の日の朝に起きてすぐ、真耶がいたことを忘れて裸で眠るアルラウネがいることに気がつき二度寝したのだった。
━━……そして、その日から3ヶ月後……
真耶はフェアリルとの戦闘で経験した、『再生能力を持った存在』の対処の仕方を考案し実験していた。
と言っても、この3ヶ月間ずっとのことをしてきたわけじゃない。これからの先頭に備えて様々なことをしてきた。例えば、魔力を使用せずに炎を発生させたり、切れ味だけで風の斬撃を作り出してみたりと、そんなことを繰り返していた。
そして、その中で最も重要だったのが『再生能力を持った存在』との戦闘方法だったのだ。真耶は3ヶ月前にアルラウネによって魔力回路の補強をしてもらい、ある程度の魔法は使えるようになった。しかし、当然のように理滅は使用出来ず、切り札を使用することは出来なかった。
さらに、魔力回路の補強はしたが魔力量が増えると簡単に壊れてしまい、何度も補強し直してもらうことがあった。
そして、3ヶ月経った今も真耶は訓練をしている。木の剣を握りしめ人形に向かって攻撃をする。
「……」
「真耶様!」
真耶が人形の体を切り裂いていると、ルリータが慌てて真耶の元まで来た。
「どうした?」
「緊急会議だそうです!至急集まってください!」
「了解した。すぐに行くよ」
真耶はそう言って荷物をまとめる。前回はかなり汗をかいていたが、今回はそこまで汗をかいていない。そのためすぐに用意も終わった。
真耶は荷物をまとめると急いで会議室まで向かう。自分の部屋はその道中にあるため投げいれれば良い。そして、真耶は少し急いで会議室へと向かった。
真耶が会議室の前に来ると、他の人も集まりだしていた。そして、みんな慌ててきていたようで、寝癖が酷い人やパジャマの人もいた。アルラウネ至っては下着だけで来た。
「お前らもっとどうにかならなかったのか?」
「かなり焦ってたんですよ!急げって言われたからこうやって服も着ずに急いできたんですよ!」
「そうだとしてもだろ」
真耶は呆れながらそう言って会議室の扉を開いた。中にはサタンとルリータとルリエールがいる。どうやら3人だけは集まっていたらしい。そして、今はいつまで来たのが真耶を含めて11人だからこれで全員だ。
「よし、全員席に着いたな。単刀直入に言う。アヴァロンが攻められた」
「「「っ!?」」」
「それはどういうことです!?」
サタンの言葉を聞いてアルラウネはそう聞く。すると、サタンは苦しそうな顔をして言った。
「そのままの意味だ。今朝、神の動きが怪しくて調べてみたらな、どうやらアヴァロンに攻め込んだらしい。まだ落とされてはないようだが、かなり被害が出ていると推測できる」
サタンはかなり深刻な顔でそう言った。そんなサタンに真耶は言った。
「それで、どうする?行くか?」
「……それなんだが……俺としては、お前らに言って欲しくない。だが、アヴァロンも落とされたくは無い。わがままに聞こえるかもしれん。それに、辛く聞こえるかもしれん。だが、それでもお前らには『行かない』で欲しい」
サタンは俯いてそう言った。
「「「……」」」
その言葉にその場の全員が言葉を失う。しかし、真耶だけは言った。
「懸命な判断だ。だが、悪いが俺は行かせてもらう。お前の考えもわかるし、お前の命令に逆らうことになることもわかっている。だが、それでも俺は行かせてもらう。髪が攻めてきているということは、神を一気に葬れるということだ。そして、本来俺だけが目的のはずが、何故かアヴァロンを狙っている。この意味わかるよな?」
真耶は聞いた。すると、サタンは言う。
「誘われている……だろ?」
「そうだ。恐らく神は、アヴァロンに俺を呼びだし殺すつもりだ。だから、逆に出向いて殺してしまえばいい。それに、恐らくアヴァロンが攻められたということは、モルドレッド達も帰ってきているはずだ。行かない訳にはいかない」
真耶はそう言ってサタンの顔を見た。サタンは苦しげな表情を見せて真耶の目を見つめた。
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