第114話 壊れる目
「真耶……あ、そうだ!サタン様達は……!」
戦いを終えると無為が慌てて魔王城へと向かおうとする。その場の全員はそれを止めずに見ていた。
すると、魔王城の方からも人が出てくる。それは、サタン達だった。サタン達はかなり慌てた様子でこちらに向かってきている。
「お前ら!無事か!?」
「サタン様!良かったです!サタン様が無事で……!」
「心配してくれてたのか。ありがとな。それより、お前達は無事か?」
サタンは深刻な顔つきで問いかける。
「無事だよ。今の戦いだと、死者0名。負傷者俺だけ。3人は怪我をしてない」
真耶はその場に座り込みながらそう言う。
「そうか。お前の傷の具合はどうだ?」
「傷って言ってもほぼ自爆だからね。クールタイムを無視してロストテクノロジーを使った代償が今来ている。左目が霞んでもう見えなくなってきてしまった」
「そうか……どうにもならないのか?」
「俺の力ではもう治りそうもない。目薬があるが、これは目を一時的に見えるようにするだけだ。なんの解決策にもならん」
真耶はそう言って左目を押えた。先程血を拭ったはずなのにまた溢れ出てきている。恐らく目の近くの血管が切れているのだろう。全く血が止まる気配を見せない。
真耶は止まらなくなった血を止めようと何度も拭う。しかし、全く止まらない。
「ちょっと目を出してくださるかしら?暗黒樹の力を使えば治せるかもしれません」
そう言ってアルラウネが真耶の前に立った。アルラウネは真耶の前に立つとその目に手を当てる。そして、自分の手の甲に暗黒樹の枝を突き刺した。
暗黒樹の魔力がアルラウネの手を通して真耶の目に注がれていく。そのおかげで真耶の目の血が止まり始めた。そして、視力が回復していく。
「……」
「……こんな感じです。どうですか?」
アルラウネはそう言って真耶の目から手を離す。
「治っている……。さっきよりクリアな世界が見えるよ」
「そうですか。良かったです。ですが、これは全て治った訳ではありません。同じことを繰り返していれば、いずれその目も見えなくなるでしょう。気をつけてくださいよ」
アルラウネはそう言って真耶に指を指す。
「へいへい」
「返事は1回だけですよ」
「りょーかい」
真耶はアルラウネの言うことに適当に返事をしてあしらう。そして、ゆっくりと立ち上がって自分の体を確認する。
「真耶さん、今すぐ集中治療室に行きますよ」
「……そうだな」
アルラウネの言葉に真耶は少しだけ気持ちを沈ませながら答える。そして、ゆっくりと立ち上がろうとした。しかし、両足の血管が切れていて血が通ってないのか、うまく立つことが出来ない。
「おっと……」
よろめき倒れそうになった時、たまたま隣にいたルリータが真耶の体を支えた。
「もぅ、危ないですね」
「あ、悪い悪い。俺なんか歩けそうにないからおんぶして連れてってくれよ」
真耶はそう言ってルリータの背中にもたれ掛かる。すると、ルリータがめちゃくちゃ嫌な顔をして言った。
「嫌です」
その言葉を聞いた瞬間真耶は真顔になってルリータを見る。しかし、ルリータも真顔で真耶を見る。2人は真顔で見つめ合うという奇妙な光景になってしまった。
しかも、ルリータ突然ぷいっと顔を背けて震え出す。そして、杖を握りしめた。
「……あの、ごめんなさい。謝るから魔法は撃たないで」
真耶はそう言って慌ててルリータの背中から離れる。そして、逃げようとするが足が動かず逃げられない。
「真耶様。申し訳ないんですが、調子に乗らないで貰えますか?」
そう言ってルリータはメラメラと炎を滾らせる。その様子を見た真耶は慌ててその場から離れようとする。しかし、足が動かず逃げられそうもない。
だが、一つだけ逃げる方法がある。それは、あと5秒程度でアーティファクトのクールタイムが終わるということだ。そうすれば、足を切断し血の噴射で離れることが出来る。
「……」
「よし!」
その刹那、真耶は植物に絡め取られた。
「何がよしなんですか?今逃げようとしましたよね?その状態で逃げたらどうなるか知っててやろうとしたのですか?」
「……はぁ、やっぱり分かるのね」
「当たり前ですよ。このまま連れていきますからね」
アルラウネはそう言って真耶を城まで連れて行く。サタン達はそのおかしな状況に頭が追いつかずにただお互いに見つめ合うだけだった。
それから真耶はアルラウネの部屋まで連行された。そして、ベッドの上に寝かされ緊急治療が始まる。
「……何でこんなになるまで戦ったんですか?またここに来るなんて、私の事好きなんですか?」
「バカか?聞くまでもないだろ?俺はお前のことをモルドレッドほどでは無いが好ましく思っている」
真耶はそう言ってアルラウネの顔を見る。すると、アルラウネは少し笑って言った。
「ふふ、そう言って私の期限を取ろうとしても無駄ですよ。……前にあなたが修行?みたいなのしてた時と同じことになって、そしてまた私のところに来てますよね?学習しないんですか?」
「学習はしたさ。したけどこうなった。神と戦うにはこうする他ない」
「それなんなんですか?神と戦うって、別に神と戦う必要ないじゃないですか。何で神と戦うんですか?」
「……」
「言えないんですか?」
アルラウネは少し怒ったような声でそう聞いてくる。すると、真耶は小さな声で言った。
「……ここだけの話なんだけどさ……本当は知ってたんだよ。それをするのは良くないって。でも、俺は手を出した。ダメってわかっていたのに我慢できなかった。多分それが良くなかったんだと思う」
「なんの話しなんですか?」
アルラウネは何の話かわかってない様子でそう聞いた。すると、真耶は流れてきた涙を少しだけ拭いとって言う。
「規則とか、法律とか、そういった『ルール』ってのがあって、神界ではそれがすごく厳しいんだ。1度でも違反してしまえば呪われる。神の呪いは俺らでも抗えない。たとえ神でも……ね」
真耶はそう言ってアルラウネを見た。そして、自分の右手を見つめる。
「その呪いって何なんですか?」
アルラウネはそう聞いた。本来はこんなこと聞くべきじゃないんだろうけど、思わずそう聞いてしまった。すると、真耶は小さな声で言う。
「それは……まだ言えない……」
その言葉は小さくその場に留まり続けた。
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