第113話 記憶の先に
「……」
二つに分かれたグングニルが真耶の横を通り抜けて飛んでいく。真耶はそれを見届けてからオーディンの姿を見た。
オーディンはグングニルが壊されたにもかかわらず、何一つ動揺することは無かった。その以上とも言える精神力に真耶は少しだけ目を細める。
「そんな殺気を強める必要は無い。お前はもう死ぬ未来が見えている」
オーディンはそう言って二つに分かれたグングニルを手元まで戻すと、それを魔力を使ってくっつけてしまう。
「我々が使う神器はこうして壊れようとも修復される。自動的にな」
「自動修復か。そんなものはとうの昔に知っていた。それよりお前、その体はどうした?もう限界か?」
真耶はそう言って指を指す。その指はオーディンの腹の当たりを指していた。オーディンはその指を見て少しだけ目を開く。そして、手でそこから流れ出る血を抑えた。
「いつの間に……?」
オーディンはそう問いかける。なんせ、さっきまでは攻撃されたことすら気が付かなかった。そう聞くのが普通だろう。
真耶は静かにオーディンの問いかけに対して答える。
「さっき、お前が飛ばしたグングニルを切った時、その攻撃はグングニルだけに収まらなかった。ギリギリお前の腹まで範囲内だったって訳だ」
真耶はそう言った。すると、オーディンは少しだけニヤリと笑って言う。
「ほぅ、だから縦に切られているのか。奇妙な技だな」
「そう。そしてお前は死ぬ」
真耶はそう言ってエネルギーの球体を作り出す。オーディンはそれを見て咄嗟に空に浮かび上がった。すると、その数秒後にオーディンがいた場所にエネルギー砲が通っていく。
「逃げても無駄さ。いずれ終わりは来る」
真耶がそう言って左手を突き出しさらに多いエネルギーの球体を作り出した。しかし、オーディンは球体を無視して真耶に攻撃をする。
「”冥槍グングニル・終わりの槍”」
グングニルが赤黒い光を纏った。そして、容赦なく真耶を襲う。普通の人ならこの攻撃は避けられないだろう。足がすくみ動けなくなるはずだ。そう、無為達がそうだった。無為達はその技から放たれる突き刺すような殺気に足がすくんで動けなくなる。
「ま、真耶……!」
「……」
「う、動け……!」
3人はそう言って動こうとする。しかし、真耶は3人を見て言う。
「動くな!」
「「「っ!?」」」
「ロストテクノロジーの力はこれだけでは無い!周りの被害を考えて力を抑えていたが、もうそうは言っていられない!”忘却・破裂する時空”」
その時、破裂音とともに時空は壊れる。そして、そこにあったものは全て吸い込まれていく。
「「「っ!?」」」
「っ!?」
その場の真耶以外の全員は、そこから発生する強力な風のせいで、その壊れた空間に吸い込まれそうになる。しかし、全力で踏ん張り何とか耐える。
「壊れれば修復される」
真耶がそう言うと、壊れて空間が歪み初め、壊れた場所が結合し始める。そして、ぐにゃぐにゃに歪んだ空間は全てをくっつけ元通りにする。
「このまま終わらせる。”忘……っ!?」
その時、突如胸に痛みを感じる。そして、そこで気がついた。自分の体にこの上ないほどの負荷がかかっていたことに。そして、その負荷のせいで体の器官が壊れ始めていたことに。
「ごフッ……!」
思わず真耶は吐血する。普通の人からは出てくるとは思えないほど大量の血を吐き出すと、唐突に力が抜ける左膝に動揺しながらその場に倒れ込む。
「真耶!?」
思わずフィトリアは真耶の名前を叫んだ。しかし、真耶は立つどころか動くことすらままならない。このままでは殺されてしまうだろう。
そん時、真耶は迫り来るオーディンを見ながら奥歯をかみ締め体を無理やり動かす。そして、必死に立ち上がった。
「っ!?貴様……まだそんな力が……!」
「フフフ……久しぶりにオタクの力を出してやるよ。徹夜明けでも平然とした顔をするオタクの力を……」
真耶はそう言って目を閉じる。そして、左目から血の涙を流し始めた。
「……!」
その嫌な気を感じ取ったオーディンは即座に逃げようとする。しかし、無為達によって動けなくさせられてしまう。
「逃がさないのよ」
「……」
「今だぞ!真耶!」
フィトリアはそう声をかける。すると、真耶が一気に目を開いた。その目には冷たく暗く、見てるだけで苦しい紋様が浮かんでいた。
その、エネルギーが通る回路のようなものが縦に1本描かれ、その後ろには淡い光を放つ縁が3つ描かれる目を見たオーディンは、何故かその目に吸い込まれそうになり恐怖を覚える。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………死ねよ」
その刹那、空間に亀裂が入り始める。そして、回路のような模様が出来ていき、その空間に穴ができる。その黒い穴からはとてつもない風が吹き、中に吸い込もうとする。
「クッ……!」
真耶が作り出した穴はどんどん大きくなっていく。まるでブラックホールのように全てを吸い込みながら、空間を壊していく。
「………………!」
真耶は公文の表情を浮かべながらその目を閉ざさないようにオーディンを見つめ続ける。しかし、強力な技なためか目から血の涙が溢れだしてくる。
オーディンはそんな真耶を見て攻撃をしようとするが、グングニルで自分の体が吸い込まれないようにしているためその他の方法でしか攻撃出来ない。
しかし、他の攻撃だと意味が無い。全て吸い込まれ無効化される。地獄の始まりのようなその技は容赦なくオーディンを襲った。
しかし、それだけ強いということは、それだけ代償が大きいということ。そして、その代償は耐え難いということ。
「っ!?」
真耶は唐突に左目に激痛を感じる。そのせいで左目を抑え、技を解除してしまった。手を離すとその掌には真っ赤な血がべっとりと着いている。
「クッ……!あ……!」
「フッ、コレがお前の限界のようだ。”冥槍グングニ……」
「まだだ!お前は1つ大事なことを忘れている!」
「何をだ?」
「それは……」
真耶は息を整えるとプラネットエトワールを鞘に収め、背中のリーゾニアスに手をかける。そして、言った。
「お前の死は既に決まっているということだ。忘れるなかれ。これが現実だ。”忘却・メメント……っ!?」
真耶が攻撃をしようとした時、目の前に巨大なユグドラシルが生やされる。上を見上げるとロキがいた。ロキはニヤリと笑ってオーディンをユグドラシルでさらっていく。
「さようなら」
ロキのその言葉がその場に降り注いできた。真耶は去っていくロキ立ちを見ながらその目から流れる血を拭いとった。
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