第112話 過ぎ去る時と戻る時といずれ来る時
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━何年経っても変わることは無い。時が経てば、いずれ人の心は変わっていくはず。それなのに、彼は変わらない。
未来にいる人は過去の自分を止めようとする。たとえバタフライエフェクトが起きてしまい、そのせいで未来が大きく変わったとしても、最悪の未来を変えようとする。彼はそれに巻き込まれてしまったのだ。
そして、彼の仲間はそれを知らされた。知りたかったわけじゃない。逆に、知りたくなかった訳でもない。それでも、彼の友達……言わば彼女らはそれを知った。
「……もう、この手しかないんだよ。きっと、こうなったのも私が原因だから」
彼女はそう言って時空を超える。理由は分からないが、荒れ狂いまともに進むことも出来ないような時空を突き進んでいく。彼女の仲間もその後ろから追ってきていた。
「待てよ!例えそうかもしれなくとも、それで無事に帰れるとは限らないだろ!」
「それでも、やらなきゃ行けないの」
彼女は強い意志を持って進んでいく。彼女の仲間はそんな彼女を見ながら少しだけ後ろを振り返った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ゲートを超えた先に果たして何があるのだろうか?仲間がいるか?友達がいるか?それは分からない。もしかすると、全員殺されているかもしれない。もしかすると、全員消されているかもしれない。
だが、そんなこと誰も思っていなかった。どうせいつも通りだ。そう思って4人はゲートを超えた。
そして、いつも通りだった。
「……」
そう、いつも通り……
「……」
魔王城は……
「……クソが……」
壊されていた。
「あ、あ、あ、あ、サタン様!!!」
無為は崩れ去った魔王城を見て慌てて走り出す。しかし、ムラマサがそれを止めた。
「なんで!?なんでよぉ!私達が居ない時に何があったっていうの!?」
「……あぁ……またか……また、やり直しだ」
真耶はそう呟いて左腕で魔法陣を描き始める。
「どうやら、あっちの世界のモルドレッドはまだ行動を起こしてないらしい。これももう100回……いや、もっと経験したかな」
「今頃の俺はどうなってるのだろうか?あの時俺はアポロンを倒した。ルリータという犠牲を払って……。もしかしたら、ルリータは助けられたのかもしれないな。……フフフ、そうだったら良いなぁ。ほんと、そうだったら良いのに……」
真耶はそう言って振り返りどこかに向けて歩き出す。無為とフィトリアはその後ろを着いていこうとした。しかし、ムラマサはそれを止める。恐らく真耶が何をしたいか察したのだろう。真耶はそんなムラマサに礼も言わずに歩いていく。暗く、冷たく、重たく……これまで感じてきた負の感情が渦巻く空間を、ゆっくりと、ゆっくりと、歩いていく。
「未来を変えてくれ……。俺はもう、もう何も出来ないんだ。ずっと同じ道を進んでいる。どこでどう変えればいいのか分からない。もしかしたら、異世界に召喚された時か?それとも……いや、言い出したらキリがない。ても、布石は打った。ターニングポイントはここだ。必ずここで変えなければならない。頼んだよ。あっちの世界のモルドレッド……」
真耶はそう言って巨大な時計を作り出す。そして、その時計の針を何度も何度も逆回転させる。すると、時計の前に謎のゲートが現れた。
「何回世界を繰り返そうとも、未来は変わらないのかもしれない。人は神に勝てず、仲間は散っていく。恐らくこの先も同じだろう。仲間は全員惨殺され、アポロンは潰される。モルドレッドは犯されアーサーは皆の前で公開処刑だ。そして、俺は神を全員殺し、そして誰もいなくなる。無になった世界で1人悲しく生きていく。そうなる前に変えなければ……」
真耶はそう言ってそのゲートに入った。すると、時計から鼓動が聞こえ、戻っていく。死んだ人は生き返り、壊れたものは直っていく。
そして、完全に時間が戻ったところで真耶がでてきた。
「さて、また始めるか。頼んだよ。皆……」
その言葉は小さくその場に響いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……ゲートを抜けた先を見た真耶は少し安心した。そこにはいつも通りの風景が写っていたからだ。
「……変わらない……いい日常だ」
真耶はそう言って歩き出す。しかし、何故かすぐに足を止めた。
「あれ?どうしたの?」
「……離れてろ。”忘却状態”」
真耶はそう唱えて再び先程と同じ状態になる。しかし、どこか苦しそうで、キツそうな表情をする。
「ちょ、何してるのよ!?」
「”忘却・忘れられる記憶達”」
その瞬間、真耶の左手から真っ白の光の弾丸が放たれる。その場にいた3人はそれの矛先を見る。すると、そこには紫色の禍々しいものが落ちてきているのが見えた。
「っ!?」
その禍々しいものは真耶の攻撃に気が付き矛先を変える。そして、真耶の攻撃を躱して真耶の目の前まで降りてきた。
そこには巨大な砂埃が巻き上がる。そして、強い衝撃と振動を感じた。しかし、真耶は平然とした顔でそれを見つめる。
「……」
「”冥槍グングニル・魂魄の乱喰い”」
その時、はるか上空から槍が降ってくる。その槍は、淡い紫色の光を纏って周りに魂のようなものを引き連れていた。
「……」
真耶はその槍を何事もなく躱すと腰に着けている剣を抜く。そして、その剣に体にまとわりつく力を流し込んだ。
剣の形がゆっくり変わっていく前回フェアリルによって砕かれた剣は、ロストテクノロジーの力で修復はしたものの、それを失い強くなっていた訳では無い。そして、今もそうだった。しかし、再びロストテクノロジーの力を流し込むことによってプラネットエトワールは強くなる。
「ターニングポイントはここみたいだ。俺が悲しまないためにも、今ここであいつを殺す必要がある」
真耶はそう呟いて剣を構える。その剣が向いている先にはオーディンが立っていた。
「俺を殺すか……無理なことは口にするべきでは無い」
「無理じゃないから口にしてるんだよ。神を殺し、聖戦を終わらせる。そして、何事もなく平和に暮らす。それが俺の目的だ。その目的のためにはお前という存在は邪魔でしかないんだよ」
「なら、もっと邪魔をしようか。絶望するほどの邪魔をな。”冥槍グングニル・オーバーキル”」
オーディンはグングニルの矛先を真耶に向ける。真耶はそれを見て避けるか弾くか考える。そうしていると、オーディンのグングニルが放たれた。その瞬間、グングニルに赤い光が灯る。そして、巨大な赤い槍となって真耶を襲う。
「……逃げは無い。弾き返すだけだ。”忘却・記憶の切断”」
その刹那、空間は切り裂かれる。そして、ちょうど切り裂かれた場所にいたグングニルは真っ二つに切り裂かれた。
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