第107話 更なる脅威
「フェアリルがどうかしたのか?」
サタンは真耶にそう聞いた。すると、真耶はサタンに言う。
「今朝からいない。誰か居場所を知っているか?」
「いや、知らないな。俺はてっきりお前と一緒にいると思っていたよ」
サンドドラゴンは腕を組みながらそう言う。しかし、真耶はそんなサンドドラゴンに言った。
「朝起きた時からいなかった。前にも何度か俺の部屋を脱走することがあったし、どこに行ったのか分からない時があった。だが、基本的には俺がトレーニングを終えた時に帰ってきていた。だが、今日は帰ってこなかった。こんなのは初めてだ」
真耶はそう言って腕を組む。そして、椅子に深く腰をかけ足を組み考える素振りを見せる。その様子を見てその場の全員は少し戸惑う。そんな様子を見て真耶は言った。
「お前らに1つ頼み事がある。最悪の場合の話だが、もしそうすべき状況が来た時俺がいなかったら俺の代わりにお前達でフェアリルを……」
その先は、その場の全員は聞こうとしなかった。ちゃんと聞こえていたし、理解も出来たが、その先は聞きたくなかった。
しかし、真耶は真顔でそう言う。そのせいでその場にいた全員はちゃんと聞いてしまった。だから、その場に沈黙が訪れる。
「……ま、そんな未来が来ないのが1番なんだろうけどさ、もしかしたらって思ってね。頼んだよ」
真耶はそう言って立ち上がった。そして、歩いて扉の前まで向かう。真耶は扉の前に立つと振り返り言った。
「じゃあ行ってくるよ」
そして、その部屋から出た。ムラマサはその後を追って部屋から出ていく。無為とフィトリアは少し涙目になりながらその後を追って出ていった。
それから5分後……真耶はいつも通り部屋で支度を済ませていた。今回はかなり嫌な予感がする。備えて言って損は無いだろう。そんな思いで武器の手入れなどをする。そして、リーゾニアスに目をやった。
あの時魔法を使えなくなってから真耶はリーゾニアスを使うのをやめた。別に使ってはいけないなんてルールは無いが、それでも使わなかった。別に負担がかかるとかそう言うわけじゃない。それでも使わなかった。
「……この腕も、目が覚めた時いつの間にかなくなっていた。もしかすると、俺の知らない何かがあるのかもしれない。それに、得体の知らない力が働いているのかもしれない」
真耶は自分の左腕を抑えながらそう呟いた。そして、その手を退けて机の上に置いてあったアーティファクトに目をやる。
このアーティファクトはこの8ヶ月の間に入手したものだ。この8ヶ月間で真耶はかなり強くなった。前は魔法が中心の戦闘だったが、魔法が使えなくなったことでそれを辞めた。
大気中の魔力を使った魔法を使おうかと考えたが、それは出来なかった。そうなってくると尚更近接戦闘が中心となった。
そして、それを手助けする物が必要となった。そのため真耶はこのアーティファクトを手に入れる必要があった。だから、3週間かかって真耶は手に入れた。
真耶はそのアーティファクトを手に取って、リーゾニアスを背中に背負うとドアの前に行き開けた。しかし、向かう場所は3人がいる場所では無い。向かった先は拷問部屋だった。その拷問部屋は真耶専用の部屋である。真耶はそこにいる人に話しかけた。
「それで、話す気になったか?」
「話すって……何をにゃ?」
真耶はそこにいる女性に話しかける。すると、女性はそう言った。
今真耶の目の前にいる女性はアクエルアの街にいた猫耳少女だ。真耶はこの女性を拉致してきた。
「変態にゃ。か弱い女性を裸にして拘束するにゃんて……」
「そんなことはどうでもいい。それより、このペンダントをお前はどこで手に入れた?」
真耶はそう言ってあるペンダントを取りだし見せつけた。それは、女性が持っていたものだ。
「そ、それにゃ?教えにゃいにゃ」
「そうか、じゃあこちょこちょの刑だ」
そう言って真耶は猫耳少女をこちょこちょした。
「にゃははははは!や、やめるにゃ!」
「辞められないな。そもそも、お前がここまで焦らすからこうなる。早く話せ」
「嫌にゃぁ!話せないにゃあ!」
「なぜ話せないんだ?」
「話せないものは話せないにゃあ!!!」
猫耳少女はそう叫んで泣き出した。真耶はそんな女性を見てため息を着くと、女性の前まで行って胸に手を当てる。
「はにゃあ!?」
「言いたくないならいい。どうせ後で言ってもらうだけだからな。ただ、このペンダントは俺が使わせてもらう」
真耶はそう言ってペンダントを首にかけると歩き出した。そして、魔王城の入口まで向かう。すると、そこには既に3人がいた。
「遅いわよ」
「早くしなさい」
「……」
「待たせたつもりは無い。お前らが早すぎるだけだ」
真耶はそう言って目的地に向けて歩き出した。
━━それから3時間後……
真耶達は死霊の街……ゴーストの街に到着した。到着するなり無為とフィトリアは真耶にしがみついてくる。そして、ブルブル震えながら泣きすがりついてきた。
「……おい」
「嫌なの!離れたくないの!」
「妾も嫌なのじゃ!離れるのは嫌なのじゃ!」
「いや離れろよ!お前ら本当に12死星か!?歩きにくいわ!ムラマサを見習えよ!」
「うるさいわね!嫌なんじゃ!」
「てか、口調変わってんぞ」
「「「っ!?」」」
2人は真耶に言われて慌てて口を抑える。そして、顔を真っ赤にして真耶を見る。真耶はそんな二人を見て呆れながら歩き出した。
静かな街にコツコツと足音が聞こえる。真耶の足音だ。真耶は静かな街並みを堂々と歩いていく。そして、不穏な空気が漂う場所を突き抜けて進んだ。
「ね、ねぇ、もっと静かに歩いてよ。起こしちゃったらどうするのよ?」
「何故だ?別に構わないだろ?それに、起こすってどういうことだ?」
「ここは死霊が行き交う待ちなのよ。死霊の活動時間は基本的に夜で、昼は皆寝てるの。だから、あまりうるさくすると死霊達が起きちゃうの」
「へぇ〜、死霊なんか戦ったことないから分かんねぇな」
真耶はそう言って変わらず歩いていく。そんな真耶に無為とフィトリアは怯えながらついて行った。
そして、真っ直ぐ進んで古代遺跡へと到着する。
「ここだな」
「警戒して行きましょ」
古代遺跡に到着すると真耶達は警戒を怠らずに中へと入る。そして、ゆっくり遠くまで進んで行った。
「……」
その間真耶はずっと静かで何も喋らなかった。そして、最奥部まで到着して置いてあるアーティファクトを見ると、少しだけ怒ったような雰囲気を出して手に取った。
そして、ゆっくりと振り返ってそこにいた少女に目をやる。
「「「っ!?」」」
「……」
「……」
なんと、そこにはフェアリルがいた。
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