第101話 呪印
「……ったく、雰囲気ぶち壊れだよな」
真耶はそう言う。そして、ルリータの顔を見る。
「そうですね」
ルリータは真耶にそう言う。そして、2人は見つめ合う。どうやらこれで今回は終わりらしい。さすがにほぼ一日中戦っていたせいで、ありえないほど疲れている。
さらに、今更になって気がついたのだが、街中で戦っていたはずの真耶達はいつの間にか町外れまで来ている。どうやら戦っている最中に移動してしまったらしい。
「さて、帰るとするか。一旦あのおっちゃんに話しかけに……っ!?」
真耶がそう言って歩き出した時、唐突に胸に痛みを感じる。そして、両足に力が入らなくなり倒れ込む。目を見開き全力で痛みに耐える。
ルリータはそんな真耶を見て慌てて近寄り背中を優しく撫でたり慌てて声をかけ意識があるかの確認をしたりなどをした。
そして、そのかいがあってか真耶は直ぐに胸の痛みが収まる。そして、足に力が入るようになった。真耶は不思議に思いながらも立ち上がると、自分の体を見る。すると、そこには驚きのものがあった。
なんと、真耶の心臓の部分に魔法陣のようなものが描かれていたのだ。しかし、それは見たこともない絵柄だった。それに、それは魔法陣と言われればそのようにも見えるし、呪印と呼ばれればそう見える、そんなものだった。
とにかく、2人はその魔法陣を見て言葉を無くす。
「……!」
「……これって……!?」
「……まさか……ルリータ、お前も脱げ」
真耶は少し焦った表情でルリータにそう言う。ルリータはその言葉を聞いて驚き頬をあからめる。そして、胸を腕で隠すような仕草をして照れる。
だが、真耶はそんなルリータを気にもとめず、服の中に手を突っ込み胸が見えるようにまくった。そして、服の下にあったものを見て言葉を失う。
「……ペルセポネめ……やってくれたな」
真耶はそう言ってルリータの服を握る手に力を込める。そして、はい強く食いしばり怒りのオーラを放つ。
「ど、どうしたのですか?」
「……ルリータ、お前の胸にも俺と同じ種類の魔法陣が描かれていた。形は違うがな。だけど、俺はそれを知っている。なぜ知っているのかは分からないが知っている。その魔法陣は……いや、呪印は、俺とルリータの生命力を繋げる呪印だ」
真耶はルリータにそう言った。すると、ルリータは少し驚いた表情を見せる。しかし、そう言われてもあまりピンと来てないみたいだ。ルリータの表情からそうわかった。
「生命力を繋げる……いわば、俺とルリータの命はリンクしたわけだ。だから、俺の生命力が減れば減った分ルリータのものが俺に分けられるってことだ」
「え!?じゃ、じゃあ、私の生命力が減れば真耶様のも……」
「減る。そして、この呪印をかけられて1つわかったことがある。それはな、俺は……ルリータがいるから今こうして生きていられるということだ」
真耶のその言葉を聞いたルリータは言葉を失った。そして、目を見開き手や足、体、唇を少し震えさせながら言った。
「っ!?そ、それって……じゃ、じゃあ、真耶様は……」
「そういうことだ。俺は……もう……死んでいる」
真耶はそう言った。その、口から放たれた言葉は、重たく冷たいように言った訳では無いのに、そう聞こえてしまった。
「ま、真耶様が……死んでいる……?い、嫌ですよ。そんな冗談は……。真耶様はいつも強気で変な人じゃないですか……。今だって、私が慌てふためく姿が見たくてそんな冗談を言っているんでしょ?ほ、ほら、もういっぱい驚きましたから……反応が気に食わなかったなら後でいっぱい好きなことしていいですから。真耶様の好きなプリンとコーヒーゼリーにホイップクリームをたっぷりと乗せて、その上からチョコレートソースをかけたスイーツをいっぱい用意しますから……だから、嘘だと言ってくださいよ!」
ルリータは泣きながらそう言う。しかし、真耶はそんなルリータに首を振って言う。
「すまん。これは嘘じゃない。今こうして俺が生きているように見えているが、本当は死んでいる。恐らく、生命力は既に尽きているのだろう。たまたま魂が体に引っかかっていたか何かでまだこの体の中にいて、そんな状態だった時にペルセポネが何かしらの魔法で定着させたんだ。だから、生命力を失っている俺は死んでいるのと変わらない。今こうして動けているのは、ルリータの生命力を使っているから。そして、ペルセポネの魔法で魂が生と死の精神世界に行かずに体に留まっているからだ」
「じゃ、じゃあ、もしかしたら、真耶様は死んでしまうということですか……!?」
「可能性は無くはない。ペルセポネの魔法が何かわからない以上、ちょっとした事で魂が定着しているのが弱まれば、恐らく俺は直ぐに冥界へと引きずり込まれる。なんせ、俺の本体ともう1つの人格が冥界にいるからな。それに、この呪印も恐らくペルセポネのやったものだろうが、どれだけ作用するかが分からない。突然呪印が無くなることもある。そうなれば、俺の生命力は0になり、魂と体を動かす力が無くなる。そうなってしまえば自動的に俺の体は冥界へと引きずり込まれるだろう」
「そんな……!」
ルリータは真耶の言葉を聞いて涙を流す。そして、真耶の胸に顔を押付け力強く抱きしめた。
真耶はそんなルリータの頭を優しく撫でて言う。
「安心しろよ。俺はそう簡単に死ぬことは無いから。いつか何とかするから、安心しておけよ」
そう言ってルリータに微笑みかけた。しかし、それで納得するほどルリータは甘くない。ルリータは怒ったような表情で問いかけてくる。
「じゃ、じゃあ、その足は誰のなんですか?まさか、私のものですか?それじゃあ私が転けちゃったりしたら真耶様が危ないじゃないですか」
「いや、この足はルリータとは繋がっていない。恐らくだが、この足は俺のもので間違いないだろう。ただ、細胞は俺のものだと言うだけだ。おそらく魔力で構築しているのだが、その元になっている魔力は俺のものじゃない。クロエのものだ。その証拠に足からクロエの魔力を感じる。しかも、龍神の力をな。ま、いつからクロエが神になったのかは知らんが、それは今は置いておこう……て、なんでそんなに怒ってんの?」
「だって、すぐそうやって話しを逸らすんですもん!真耶様は頭が悪いのですか!?人の話が聞けないのですか!?」
ルリータはプンプンしながら言ってくる。その、頬をふくらませて怒っている姿はすごく可愛かった。
「あ……そうか……ごめんな」
そして何より、真耶はその可愛い顔以上に可愛いかった笑顔を奪ってしまったことに気が付き、胸が締め付けられるような気持ちになる。そのせいか、自然とその言葉が漏れていた。
「……もぅ!今回は許しますけど、当分私と一緒に寝てもらいますよ!」
ルリータはそう言ってぷいっとそっぽをむく。真耶はそんなルリータを見ながら少しだけ、隠れて涙を流して、ルリータを抱きしめた。強く、強く、もう絶対離さないように、優しく抱きしめた。
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