第99話 伊邪那美(再)
真耶はアテナにずっと攻撃をする。そして、反撃される前に岩陰に隠れ、死角から攻める。それを何度も繰り返す。
「っ!?この……!小賢しい真似を!影からコソコソと、卑怯な!そんな手を使って勝って嬉しいのか!?」
アテナは真耶に向かってそう言った。しかし、それに対して真耶も言い返す。
「卑怯もクソもない。これはお遊戯会でも発表会でもない。殺し合いだ。どんな手を使ってでも殺すのが俺のやり方だ。逆に、卑怯だのなんだの言ってたら殺されるってことだよ。そもそも、これだけハンデがある戦いでお前はよくそんなことが言えるな」
真耶はそう言ってさらに速いスピードで攻撃をする。岩陰から神速で出てきて繰り出されるその一撃にアテナは怯み、体を硬直させてしまう。
真耶はそれを見て即座に攻撃の仕方を切り替え連撃を繰り出す。片腕なのにそれを思わせないほどの速さと量の連撃にアテナは何も出来なくなる。
真耶はそんなアテナを気にもとめず切りかかる。しかし、アテナも一応神だ。神ならば、弱いはずは無い。真耶はそれをわかっている。そして、反撃されればすぐに殺られることもわかっている。だから、こうして反撃の隙を与えず殺そうとしているのだ。
真耶の腕が振られる度に剣が揺れ、アテナを殺すべく向かっていく。しかし、アテナはそれを避ける。もしくは弾く。
剣と剣がぶつかり会う度に甲高い音が鳴り響いて火花が散る。真耶はそんな音で溢れる中集中してアテナの動きを見る。
「……クッ!この……!神を舐めるな!」
「無理だね。この程度の力でかつ、卑怯だのどうのこうのほざくんじゃあ舐められるのは当たり前だよ!」
真耶はそう言って岩陰に隠れ攻撃する。
「ゼウスも人をゴミのように思ってやがる。頭の悪いやつだ。だから人間に舐められるし、人より何倍も劣ってるんだよ!」
真耶は移動しながらそう言った。すると、突如アテナの攻撃が止む。その代わり、とてつもない殺気が真耶を襲った。
「……?」
「……」
アテナは無言でただ殺気だけを放つ。真耶はそれを見て少し立ち止まって様子を見ることにした。しかし、それが失敗だった。
「御父様を……馬鹿にしないで!”赤い閃光”」
その刹那、アテナは盾から凄まじい威力の赤黒い光線を放った。しかも、アテナはそれを振り回す。そのせいでどこにいても石化してしまう危機が真耶を襲う。
しかし、真耶はその光線を岩に隠れて全て防いだ。そして、光が止んだのを見てアテナとの距離を詰めようとする。
しかし、その時アテナが攻撃を仕掛けてきていることに気がついた。アテナは盾に黄色い光を纏わせ投げてきている。真耶は体を回転させそれを難なく躱すとアテナに切りかかる。
しかし、突如としてそれは真耶を襲ってきた。なんと、突然背後が黄色い閃光をあげる。慌てて振り返ると、なんと石化光線が当たった石が黄色い光を纏って四散していたのだ。その四散した破片は他の岩に当たり、連鎖反応を起こして連続的に他の岩や石まで破壊する。
そして、そのうちのいくつか……いや、かなりの数が真耶に向けて飛んできていた。真耶はそれを慌てて避けるとその場から離れようとする。しかし、周りにあった岩は全て破壊され移動ができない。
そう思っていると、アテナが真耶を蹴り飛ばした。そのせいで強く地面に叩きつけられる。しかし、地面を何度もバウンドしながら体勢を整え上手く着地しようとしたその時、ちょうど真耶が立ったその時にアテナは空を飛びながら真耶の首を絞め体を持ち上げた。さらに、その状態で長い間真耶を地面に引きずりながら進み続ける。そして、ある程度進んだところで突如上空に急上昇した。
真耶はそこで嫌な予感がした。そして、何とかアテナから離れようとする。しかし、アテナはしっかりと真耶の首を掴んでおり、離れられそうにない。
「終わりよ。早く死んでね。目障りだから」
アテナはそう言ってかなり高い位置まで来て急降下する。そして、真耶は自分の予想が合っていたことがわかり、高速で思考をめぐらす。
しかし、この場から離れられそうでは無い。さらに、魔法を使って衝撃を吸収することも出来ない。そして、そう考えているといつの間にか地面が目の前に来ていた。
アテナはそのまま真耶を地面に叩きつける。そのせいで地面に巨大なクレーターが出来、さらに地面に巨大な亀裂が走る。そして、地面に落ちた衝撃で衝撃波が発生し地面を削り始めた。
その場には津波のように風が襲う。その風は遠く離れた場所にいるルリータさえも吹き飛ばしてしまう。
当然その中心にいる真耶は、地面に叩き付けられたことでかなりのダメージを負ってしまった。そして、そのダメージのせいで体が上手く動かずその場から離れることが出来ない。しかし、アテナは容赦なく殺しにくる。剣を突きつけられ、振り下ろそうとしてくる。
真耶は右腕を伸ばし悲しみの糸を放とうとした。しかし、前に右腕を切り落とした時シューターも一緒に外れていたことに気がつく。そのため糸は出ない。
真耶は慌てて後転をして、ちょうど足が真上に来たところで腕の力を使い無理やり起き上がる。そうしてその場から離れた。
「……」
「そんなフラフラな体じゃ勝負ありね」
「そうだな。お前の負けで終わりだ」
「うふふ、馬鹿ね。あなたの負けよ」
「いや、今のでやっと条件が整った。これで、全力が出せる」
真耶はそう言って頭から流れてくる血を拭いとると、これまで以上に集中する。そして、両目に宇宙の様な煌めきを放つ目を浮かばせた。
「っ!?それは……!?」
「……フフフ、やっと、ルリータから離れられた。範囲外出てくれた」
真耶はそんなことを言う。そして、恐怖に満ちた笑みを浮かべる。それを見たアテナはなんとも言えない悪寒を覚える。
「それって……!?」
アテナがそう言った瞬間、真耶は姿が消える。そして、突然アテナの目の前に現れた。
「っ!?」
「残念。もう範囲内だ」
真耶がそう言うと、突然アテナが何も出来なくなる。体も動かせないし、思考も出来ない。呼吸も出来ない。でも、死ぬことも出来ない。
「……俺は、任意のものを全て否定できる。範囲内に入ればな。お前はもう俺の領域の中に入っている。終わりだ」
真耶はそう言った。そう、これが真耶の必殺技。その名も伊邪那美。領域内に入った者の指定した物全てを否定できる。
アテナはその領域内に入ってしまった。だから、もう終わりなのだ。
真耶はほとんど否定され動けなくなったアテナの首元に剣を突きつける。そして、振り上げ、容赦なくその首を切り落とした。
さらに、両腕両足を切り落とし心臓にいくつもの剣を突き刺した。この剣は、物理変化で作りだした剣だ。
そして、真耶は領域を解除する。すると、アテナから大量の血が吹き出し絶命した。
「言っただろ?勝負ありだってね」
真耶はそう言ってアテナの死体を見下ろした。
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