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すれ違い

 

 エリスは、学校を出たらバートと結婚することになっていた。


 それなのに、たった一回、バートがエリスを送っていなかったといって、両親が嫌な顔をするなど理不尽だと思った。


 確かに貴族の男性にはありえないことではあるが、育ちが違うのだ。そこは二人でお互いに話し合って埋めていきたいとエリスは考えていた。




 茶会の席で、友人のシンシアに相談する。

 シンシアはローレン伯爵家の令嬢で幼いころから仲良くしていた。いわば、エリスの幼馴染で親友だ。


「ねえ、お父様のお話どう思う? 理不尽ではなくて? せっかくをお母さまが護衛を連れていけばと言ってくださったのに。私はバート様が育った場所が見たいし、好物だという串焼きも買ってみたいのに」

 シンシアはこたえた。


「それならば、護衛に私のお兄様を連れ行ったらどうかしら」

 シンシアの兄は伯爵家嫡男で、ほぼ貴族で占められている第一師団にいるエリート騎士だ。


「え? でもお忙しいのではなくて?」

「休みはしっかりとっているから、平気よ」

 シンシアの言葉を聞いて、エリスは暗澹となる。騎士爵をとったとはいえ、バートは第三師団所属で休みなく働いている。やはり、庶民出身だと貴族出の者に仕事を押し付けられたりするのだろうかと考えてしまう。


「そうなのね。……バート様はいつもお忙しくされているわ。なかなかお会いできなくて」

 バートが周りの騎士から下に見られて、大変な仕事を押し付けられ苦労しているのではないかと、ふと心配になった。


「ねえ、なら、サプライズしない?」

「え?」

 エリスは首を傾げる。


「バート様の家を訪ねるのよ。その串焼きをもって。それをプレゼントしてすぐに帰るの。そうすればバート様がお忙しくても、少しの時間お会いできるでしょ?」

「でも、殿方のひとり暮らしの家に、行ってはいけないと言われているわ」


「だから、私も一緒に行くし、兄にも近くにいてもらうから、玄関先でその串焼きをわたして帰ればいいじゃない。きっとびっくりして、とっても喜ぶわよ。どうしてエリスは自分の好物を知っていたんだろうって」


 そういわれてみると、とてもよい思いつきのような気がしてきた。ふだんのエリスならば、絶対に取れない行動だ。


「そうね、いい考えかも」


 バートの家の場所はしっている。最近バートは小さな庭付きの戸建てを買ったばかりだ。武勲で得た報奨金で手に入れたといった。


「結婚したら、あの家が俺と君の新居になる」と言って家の前をわざわざ通り、外観を見せてくれたことがある。しかし、まだ中に入ったことはないのだ。玄関先でいいから、少しのぞいてみたい気もした。


「先ぶれもなくお訪ねして大丈夫かしら?」

「あら、はじめのころはバート様もそうだったのでしょう?」

 バートは何度か先ぶれもなく訪れて、父から説教されたことがある。


「まあ、確かに、『先ぶれなんて面倒だね』と言っていたけれど」

 庶民は約束などなくとも気楽に人の家を訪れるのだという。

「だったら、大丈夫よ!」


 シンシアの案に、エリスは次第にワクワクしてきた。


 ◇


 その日も忙しく、バートは夜遅く仕事から帰った。ぐったりとして寝ていると、ドアをどんどんと強くたたく音で目が覚めた。


 こんな夜更けに何事かとドアを開けると、酔っ払ったアマンダがいた。

「ははは! ごめん、飲みすぎちゃった! 今日泊めてくんない?」

 深夜にすごい大声で話す。ここら辺の住民はお上品でそんなことはしないので、バートは焦った。


「そんなわけにいかない。俺はここに一人暮で住んでるんだ。女をあげるわけにはいかないよ。 ほかに友達はいないのか? なんで俺んちなんだ」

 困ったようにバートは言う。


「いいじゃない。別に、ただの幼馴染なんだし。それに、バート以外友達なんていないよ。あたし、今度の公演でヒロイン役とったから、やっかみで嫌がらせされてる。舞台衣装破かれたり」

 そういって、よっぱらったアマンダは泣き崩れた。


 ここは貴族が多く住む治安のいい地区なので、夜中に酔っ払って泣き叫ぶものなどいない。

 仕方なくバートはアマンダを家に入れた。



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