表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

偶然の再会

 エリスはバートの言葉を聞いて、花がほころぶように微笑んだ。

「まさか、もう、終わったことではないですか」

 まるで冗談を聞き流すように彼女がいう。

 バートは焦りを覚えるとともに、目の前が暗くなった気がした。

「もしかして、ほかのやつと結婚するのか?」

 それに対して、エリスは微笑んだだけだった。


「あなたは本当に変わっていませんね。私はここで庶民の生活を二年間見てきました。この孤児院でいろいろな子供たちや、いろいろな人たちと触れ合いました。ひとつ言えるのは、人の誠意というのは貴族も庶民も変わらないということです」

「え?」

 バートが彼女の言葉に首を傾げる。


「常識やしきたりは、それぞれ違っていても、人の誠意というのはかわらないのです」

 彼女がもう一度噛んで含めるように同じことを言う。


「ああ、君の言う通りだと思うが、君が何をいいたいのかかがよくわからない」

 バートは戸惑った。


「あの頃、あなたの誠意は誰にささげられていましたか?」

「君に決まっているじゃないか! 俺は君を愛していた。多分今も君を。俺は君とやり直したい。だから」

 するとエリスが己の口元にすっと人差し指を当てる。それが黙れと言っていることはバートもわかった。


「やめてください。私とあなたは、もう何の関係もありません。それから、あなたは、あなたの『大事なお友達』と結婚したのですか?」

 バートは唖然とした。

「それはどういう?」


「あなたが、私に手をあげてまでも誠意を貫き通したお方ですよ。お忘れですか?」

「そんな……彼女はただの幼馴染で……」

「あの頃の婚約者だった私より、大切で信頼できるお友達、でしたよね?」

 そういって、エリスは眩いばかりの笑みを見せた。


「いや、そうじゃない。彼女はただの幼馴染だ」

 またしても同じことを言う。しかし、エリスの表情はおだやかなままで。


「あなたが、こうしてここへたずねてくるのなら、私はもうここへは来ません。今日が最後です。もう二度と会う事はないでしょう。さようなら、大事なお友達とお幸せに」


「待ってくれ、俺は、君を愛しているんだ」

 彼の叫びに、エリスが振り返ることはなく、彼女は迎えの馬車に乗り込んだ。


 そのときバートは、初めて己の本当の過ちに気づいた。二人を割いたのは彼女の誤解でも身分差でもなかったのだ。


 どれほど、恋しく思ってももう二度と手に入らない女性。胸が張り裂けるような思いで、彼女をのせた馬車を見送った。



「本当にあのお嬢さん身勝手だね。言いたいこと言って立派な馬車に乗り込んじゃってさ。あんたもびしって言ってやればよかったのに」

 後ろから聞き覚えのある声がした。


「アマンダ、お前いつからそこに?」

 驚いてバートは振り返る。


「いつからって初めっから最後まで、今回は口挟まなかったよ。あんたらの問題だからね」

「どこから見てたんだ」

「そこ」


 指さした先は、ちょうどバートからは見えなくて、エリスからははっきり見える場所だった。


 バートは、やっと以前にいだいた違和感の正体に気づいた。

「お前……、わざとか? 二年前のこともすべて、お前の計算か?」

「ちょっと何のこと?」

 大袈裟にアマンダは目を見開いた。


「とぼけるな!」

 気付くとバートは叫んでいた。いますぐアマンダを殴ってやりたいとすら思った。アマンダがバートの剣幕にあとずさりする。


「やめてよ。あたしが、あんたの味方じゃない時が一度でもあった? それなのに何も告げずにあたしの前から消えるなんて、あんまりだよ。あたしがどれだけあんたをさがしたことか」


「お前、騎士団の詰め所に何度もきただろ? どうしてだ?」

 バートがアマンダに鋭い目を向ける。


「それはあんたを心配したにきまっているじゃない。なぜ面会してくれなかったの?」

「当たり前だろ、婚約者でも家族でもないのに。それに俺は詰め所で仕事をしているんだ。遊んでいるわけじゃあない」

 バートは怒りにこぶしを震わせた。


「ひどいな、あたしら、一緒に育ったんだ。家族も同然じゃない!」

 バートはアマンダと過ごした日々を思い出す。


 アマンダに女優は金がかかるからと言われ、何回か金を工面してやったことがある。それに舞台で使うネックレスや装飾品も買ってやったことがあり、ずいぶんと金を使った。


 その一方で、エリスには何をやった? 安いブローチを送っただけだ。彼女からプレゼントされることに慣れていた。


 宝石のはめ込まれたカフスもシルクのクラバットもベストもすべて彼女に買ってもらった。そのことに気づきバートは愕然とする。


「もう二度とお前に会うことはない。騎士団の詰め所には訪ねてくるな」

 どんなに彼女を怒ってもエリスは帰ってこない。もともと原因はアマンダにではなく、バート自身にあったのだと気づいた。


「そんな……。やっぱり、あんたらが別れたのはあたしのせいだと思っているんだね」


「そんなこと。もう、どうでもいい」

 本当に今更、どうでもよかった。過去に戻ってやり直すことはできないのだから。とっくにエリスとバートの仲は終わっていたのだ。



つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ