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W-011_狼子供と約束の地へ 2




  ~~~




 あたたかい。

 こんなにあったかく寝られたことなんて、いままであっただろうか。


 ああ。

 なんとなく、おぼえてるような……

 人間によって“どれい”にされるよりまえの、ほんのわずかなおもいで。

 まどからもれる日ざし。

 ほし草とシーツの、ふかふかしたベッド。

 あたまをなでてくれるやさしい手つき――これは、おかあさん?


『――』


 うすくひらいた目に、うつるほほえみ。

 その口がつむぐことばは……なまえ?


 よばれるこえも、えがおも、

 気づけばだんだんとぼやけて、よくわからなくなって――




「――……」


 目がさめた。

 かおにあたるのは朝の日ざしと、毛布のふかふか。

 ゆうべのこと、夢じゃなかった……そう気づくけど、

 かんじるあたたかさに、またまぶたがおもたくなっていてしまう。


 けれどもどうして、こんなにあたたかいのだろう。

 それも背中のほうがとくに、じんわりと……


「んー? 起きたのか? ボウズ」

「!!?」


 とつぜん、

 きいたことのないこえが、その背中のほうからして。

 びっくりして、がばっとふりかえれば――


「お? なんだ元気じゃねーか。おはようさん! なかなかにいい朝だぜ今日はよぅ」


 見たことない、黒くて赤くてひらべったい生きものがすぐそばにいて。

 たまらず、おもいっきりさけんでしまっていた。




   ■




「まあ、起き抜けにお(めえ)の見た目は結構刺激的かもな」

「なっはっは。まービビらせたのは悪かったってボウズ。けどおかげでサッパリな目覚めだろ?」

「……っ」


 ちょいとそのへんを散策してたら「ひょわあああ」みたいな声がしたので、

 戻ってみたら、犬的な子供がサンショを前におろおろしていた。

 火の精霊、サンショ。体温高めなうえ周囲を暖める力も持つので、野宿等のときなどは暖を取るのにわりと重宝。がりがりに痩せた子供はいかにも体温を保てなさそうで、だから毛布の中にもぐらせておいた。つまり、じつは昨夜からずっといた。


 俺が暖を取る必要がなかったからそうした、というのもある。焚き火だけで十分だったし、そもそも寝たのも一時間程度。前の世界を出る時はまだ午前中だったので、眠たくなかったというのが大きい。

 ちなみに同じ理由で、腹もそれほど空いてなかった。だから昨夜用意した豚汁的なもの――大人二杯分のうち、1.4杯くらいが子供の腹に収まる形に。


 で、そんな時差ぼけ対策も首尾よくいったか、今はちょうどいい腹具合。

 だから朝飯を用意している。

 とりあえず薪を追加した焚き火でまた湯を沸かし、入れた茶をマグに注いで子供にも渡しておく。


「ふぅ、ふぅ」


 声に出して冷ましつつ、ちびりと飲んでほう、と息つく子供。

 紅茶に似た、ちょっと甘い茶だった。保存食と一緒に拾ったものでティーバッグ式。そんなにかさばらないので、保存食の倍以上の在庫がある。死蔵品だったといえど、がめつく拾いすぎたかもしれない。

 そして肝心の飯のほうはまあ、また用意というほどの手間もないもの。


「ほい」


 個包装された焼き菓子――ブロックタイプの携行食だ。

 たぶん開けられないだろうから、渡す前に包みは解いてやる。これも一食分の栄養と謳われていた代物で、わりとでかい一塊が丸々一個入りというなかなか豪快な形態をとっている。


「……?」


 初めて見るものだからか、受け取ってから矯めつ眇めつしている。しかし子供の手の中にあると余計にでかく見えるな。

 俺も同じものを開けて、齧る。

 うん。その見た目から(故郷の)多くの人が想像するであろうそのままの味。バランスな栄養食。

 俺が食ったのを見てとったからか、子供もまた恐る恐る口にする。


「!? ――、――!」


 それからは速い。齧歯類めいた勢いだった。あんま頬張ると口の中ぱっさぱさになるぞ。

 そうだ、齧歯類で思いだした。


 昨日から犬的犬的言っていたが、じつは子供のclassは“牙狼人”という表示になっている。

 つまり犬じゃなくて、狼らしい。言われてみればそう見えなくもない、とんがった耳と口から覗く長めの犬歯、そしてもさもさした尻尾。


「……」

「?」


 食いながら、なんとなく子供を見やる。

 口のまわりを食べかすだらけにして首を傾げる犬顔、もとい狼顔。

 ついでになんとなく【見る】も使ってみれば――




〈name:ロン class:牙狼人 cond:衰弱 Lv:0 HP:11〉




「ロン?」

「!」


 昨日の“47番”というものから、nameの項目が変化していた。なんでまた。

 思わず呼んでしまうと、見開いた目でこっちを向かれる。

 まるで思いもしなかったかのような反応だが、俺もわりと思いもしていない。あるんだな、nameが変わるなんてこと。


「いやお前の名前だよな? 違うのか」

「~~~っ、――、――ッ!」


 重ねて訊ねると、ぶんぶんと首を横に振ってから縦にも振る。どっちだ。


「っ!」

「ん。ロンでいいんだな。ああ、なんでそれを俺が知ってんのかは……気にすんな」

「なーところで(あに)さんよー、オレにはなんかメシねーの? ずりーよ二人だけ食っててー」

「そのへんでなんかとっ捕まえて食ってろ」


 再度大きく頷くのを見るに、名前はそれで合ってるらしい。ちなみにこの“ロン”というのは【意訳】で俺に読める形になっているだけで、この世界での実際の表記はまた違うはずだ。

 また齧歯類に戻るロンを横目に、食事を再開。サンショが前肢で俺の膝をぺちぺちしながら言ってくるのは適当にあしらう。にべもない扱いにみえるが、べつに食わなくても平気な奴らに保存食を浪費する気はない。

 俺の言葉に「えー」とか漏らしつつも、木々のほうへと這っていくサンショ。一見勝手気ままなようで、基本俺の言うことには逆らわないのも精霊(やつら)だった。


「お、ネズミみっけ。――うっま! この世界(ココ)のネズミうめーぞ兄さん!」

「さよけ」


 生餌をそのままいくサンショを見やりながら、のんびり朝食を済ませる俺と、狼子供。






 それからしばしのち。


(わり)いな、勝手に埋めちまって。放っておくのもどうかと思ってな」

「…………」


 片づけと火の始末をしたあと、俺はひとまずロンを、昨日老人を埋葬したところへと連れてきていた。この二人の間柄は知らないが、老人がこいつを庇うようにしていたところからも、少なくとも顔見知り以上の関係ではあるだろう。ならばお別れくらいはさせてやるのが人情な気はする。


「…………」


 膝をつき、呆然と墓石を見やるロン。

 いわく言い難い表情は、悲しいというより起きた事態を掴みかねている印象。

 共感は、悪いがしてやれない。両祖父母とも健在だし、その他身近な人間を亡くした経験もない俺だ。いや、自身の薄情ぶりを考えれば、たとえ亡くしていたとしても共感できない可能性のが高いか。


(〔蘇生〕でもしてやれりゃよかったかもしれんが)


 俺が死の現場を認識していない対象には、〔蘇生〕は及ばない。俺がここに着くのがもうすこし速かったら……そう考えると老人は運がなかったといえるが、

 さて一人生き残ってしまったロンは、はたして運がよかったのか、あるいは。


「――」


 気づけば当の狼子供は、こちらを振り向き見上げている。


「もういいのか?」

「っ」


 訊ねれば、首肯。

 表情にもあまり翳りなどはなく、一応気持ちの整理みたいなものはついたとみえる。


「っし。んじゃとりあえず道なりに進んで、……いや、」


 それを認め、俺はひとつそう呟くが、ふと思う。

 見下ろすロンの姿。念のため顔を近づけて、ひとつ鼻呼吸。

 洗ってない雑巾みたいな臭いがした。


「まず風呂だなお前は」

「……?」


 そういうことにした。






 起き抜けの周囲の散策で、近くにそれなりの規模の湖があるのは確認済み。

 で、その水辺の浅瀬にて。


「アータひょっとしてこういうの初めて? んもぉ~そぉんなにカタくならなくてい~のっ☆」

「――ッ」


 身ぐるみ剥がれた(といっても襤褸切れ一枚だが)ロンが、液状のおかまに言い寄られていた。

 べつにやましいことをさせようってんじゃない。水の精霊、ウンディーネちゃんの力でもって、ロンの体を洗ってやろうというだけ。


「んぅ、そこでじっとしてなさいネェ? そしたらアテシがぜぇんぶシてあ・げ・る♥」


 ウンディーネちゃん(ふざけたことにここまでがname記載)の持つ【泡浴】は水属性の遠距離攻撃だが、威力を限界まで抑えると、ほどよい洗浄効果の泡の放出となる。身を清めるにはうってつけで、実際俺も風呂に入れない野営時など、しばしば活用している。


「はぁーい、ウンディ姐さんの極上ソープ、ご堪能あれ~!」

「?! ~~~ッ!?」


 そんなわけで、膝丈くらいまで湖に入ったロンからすこし離れたあと、容赦なく泡を浴びせていく液状おかま。野太い声での台詞も相まって、結局やましい絵面だった。故郷でやったら署まで御同行願われるだろうか。


「次は背中流すわよぉ、ほぉら向こうむいてっ。ん、ちょっと水温下がってるわぁ? もすこしアゲていきなさいなサン坊や(ボーヤ)!」

「わーったよー(あね)さん」

「っ~~」


 春先程度の気候とはいえ早朝。そのまま入ればまず風邪を引く温度なため、水辺に控えたサンショが【温帯】――周囲を温める力でもってそのへんを調節していたりもする。

 ちなみにサンショ、湖の中には頑なに入ろうとしない。姿からすると泳げそうだし、実際そのとおりではあるようだが、当人いわく「なんかイヤだ」とか。【水属性弱点】だからか? 思えば液体おかまにも頭上がらない様子ではある。


「ん……オッ、ケ~イ! こんなものかしらっ。店長(テンチョー)、上がったわよぉー?!」

「……ああ。【精霊召喚:風(マキ)】」

「はいはーい!」


 俺のことを店長(テンチョー)と呼んで憚らないウン(略)の呼びかけを受け、今度は風の精霊であるマキを呼び出す。

 女児向けアニメ的な光と音とともに、俺の隣に現れる薄緑色の小人。


「ごーごごー!」

「~~~ッ」

「うわっとっとあんまブルブルするな! 水がかかるっ!」


 そいつの【飄々】とサンショの【温帯】の合わせ技で、湖から上がったロンを温風乾燥。タオルで拭いてやってもいいが、こっちのほうが洗い物が出なくて済む。

 犬めいて全身を震わせるロンに、サンショが抗議しつつすこし後ずさっている。

 んで体が乾いたら、あとは着替え。


「ほれ万歳しろ万歳。おし、っと」

「兄さんそのシャツのプリント……なんなんだ?」

「俺にもわからん」


 両腕上げさせたロンに、これまた最初の世界で拾ったTシャツのうちの一枚を被せてやる。

 袖の通されたシャツを見たサンショから、一言。その答えを俺は持ち合わせていない。描かれているのは、魚類とも哺乳類ともつかない四つ肢のなにか。ちなみに似たような柄のシャツはあと数枚ほどある。


「……」


 着心地が気になるのか、腹のあたりを両手で撫でているロン。

 その下に穿くものは、残念ながらサイズの関係で用意できていない。まあ膝まで隠れているし問題ないだろう。少なくとも最初の襤褸切れより露出は抑えられている。

 その襤褸切れは、湖岸にうち捨てられている。ごみは片したほうがいいか。いや放っといても自然に還るか。故郷みたいに化繊製ってわけでもないだろうし……


 そう思いつつ、なんとなく拾い上げたそれから、

 不意にぽろりと、なにかが落ちる。

 ぼろ過ぎてちぎれたか?

 そう思ったが、よく見るとどうも材質からして別物のようで。

 気になって、襤褸切れは放ってそちらを拾いなおしてみる。


 それは葉書よりすこし大きめの、厚手の革製の当て布のようであり、

 裏返せば、地図のような図柄が印字されていた。

精霊のステータス紹介(まだ出てない分だけ)




――status――


 name:ウンディーネちゃん

 age:―      sex:?


 class:水の精霊

 cond:液体


 Lv:99


 EXP:―   NXT:―


 HP: 2/ 2

 MP: 8/ 8


 ATK:180

 DEF:504

 TEC:440

 SOR:507

 AGL:359


 LUC:Normal


 SP: 4950/ 4950




――magic――


〔加魔〕〔欲情〕〔治癒〕〔賦魔〕


――special――


【流渦】【泡浴】

【水属性吸収】【土属性弱点】【金属性活性】

【融和】

【隠行】







――status――


 name:マキ

 age:―      sex:M


 class:風の精霊

 cond:通常


 Lv:99


 EXP:―   NXT:―


 HP: 3/ 3

 MP: 7/ 7


 ATK:359

 DEF:180

 TEC:504

 SOR:440

 AGL:507


 LUC:Normal


 SP: 4950/ 4950




――magic――


〔加速〕〔曝露〕〔賦活〕〔歩加〕


――special――


【飄々】【風刃】【帯操】【歌宴】

【風属性活性】【雷属性無効】【重力属性半減】【時空属性弱点】

【自在天】

【隠行】




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