W-008_巻き込まれ勇者召喚 了
二話に分けようかとも思いましたが、一気にいきます。
◆
悪魔殿、ナンデモニウム――魔族の本拠地である巨大宮殿。
その中枢の円卓にて、来たる人類への本格侵攻のための評議が執り行われていた。
ほぼ全ての上位魔族が居並ぶ、厳粛な空間。
「――西の端の砦、陥落は時間の問題かと。ただ想定より消耗が大きく、追加の食糧の要望が部隊長から上がっておりまフゴッ」
その空気に臆することなく報告を読み上げるのは伯爵第三位、貪欲のポクチャプ。
豚面人身の巨躯は、身じろぎするたびに椅子に悲鳴を上げさせている。
「相も変らず、貴殿の部隊は粗放よの貪欲の。今すこし優雅に事を運べヌルものかね?」
「フゴフフフッ、手厳しいでブな深淵候。でブがこれが我が隊の持ち味ゆえ、どうか御容赦願いたいところ……」
三つ隣の卓から伸びてくる触腕。その持ち主の侯爵第四位、深淵のアタリルメからの文字通りの指摘に、豚面の巨躯はわずかに身を縮こまらせる。
しかしその目をよく見れば、推服の色など宿していないのがわかる。
隙あらば上に取って代わらん――そのようなひりついた空気が、魔の円卓には常に満ちていた。
「しかしおおよそ、侵攻そのものは着実に進んでいるのでワンないか?」
「うむ。南の森林に展開していたニンゲンの部隊も、ミャーの配下によってほぼ制圧済み……もはや我らにとって、並みのニンゲンの軍勢は脅威ではありますまい」
泰然と構え発言するのは、公爵第七位と八位の魔族。
忠心のトッブリダと、不羇のマッシグラ。ともすれば慢心とも取れる言葉はしかし、将としての才のみならず個の武勇も指折りの二者の口から発せられると、言い知れぬ重みを伴って場に受け止められた。
「……となればやはり目下の脅威は、勇者か」
ぽつりと、一言。
何気ないようなその呟きは、しかし円卓の空気をにわかに張り詰めさせる。
「呼んだようですな。ニンゲンは、勇者を」
「ああ、祈祷師共からの火急の触れのとおりだ。影の者共にも探らせてはいるが、その報告が届くのには、まだ日を待たねばなるまい」
訊ねる声は魔族切っての古参、老獪のホシブドウからのもの。
そして頷き、答えるのは鷲面の偉丈夫――先の呟きの声の主。
公爵第二位、静寂のビオフェルン。
魔王の懐刀とも称される、魔の軍勢の参謀である。
「けどよォ、静寂のダンナ。ビビりすぎるのもどうかとオレァ思うぜ? たかがニンゲン、しかも数人程度にナニができるってんだ?」
「こと勇者に関しては、慎重を重ねるに越したことはない。それは先の歴史を顧みれば明らかだ」
「先の大戦を辛うじて生きのびた身として、儂からも忠告じゃ。――勇者を侮るな。まぁ、恐れ知らずに突っ走れるのも、若人の強みかもしれんがの」
「へっ、わぁったよ肝に銘じておくよ。ダンナとじっちゃんには敵わねぇや、まったく」
やや軽佻に異議を唱えたのは細身の鳥面、紅蓮のレドホット。
しかし二人に窘められると、いたずら小僧のような態度ながらも首を竦めて引き下がる。
苛烈な性格で知られる者がそんな様子をみせることで、他の血気に逸りがちな者らも若干落ち着きを見せる。あるいはそういった流れを作ることこそ、狡猾さも知られる鳥面の真の狙いかもしれなかった。
「ふむ、突っ走ヌルといえば、誰ぞか先走った者がいるとの話も耳にした覚えが――」
ふと思い出したように、己の頭部のヒレを触腕で示しながら口にしたのはアタリルメ。
その台詞の終わりしな、
「――だ、誰ぞ、手を貸してくれェ!!」
勢いよく開かれる円卓の戸。
そこから転がりこむように入ってきたのは、牛面の巨躯。
「騒がしい。評議の最中であるぞ」
「ブモッ、す、すまねえ静寂公。だが無礼は承知で進言させてくれッ!」
冷静ながらもわずかに苛立ちも混じったビオフェルンの声。
思わず怯む牛面――ミノロースだが、それで落ち着くことはなくむしろより焦りを滲ませている。
円卓から注ぐのは、奇異と好奇の目線。
ひとえにそれは、闖入者の片腕が失われているがゆえの。
「これはこれは。今ちょうど貴殿の話をしようとしていたのだよ、驀進の」
「深淵候……!」
「先走った、と申していたな。それが驀進候であったわけか」
「イカにも、静寂公。武勇名高い驀進候に、私めなどの心配など出過ぎた真似かとも思い、差し出口は控えましたが……しかし、その腕は勇者にでもやられましたかな? いやはや勇者とはまこと侮れヌル存在のようで、」
「――違う! 勇者じゃねえ! もっとヤベェのがいたんだッ!!」
皮肉めいたアタリルメの台詞を、遮るように叫ぶミノロース。
その声に怒りや羞恥の色が見られないのは、やはりそれだけ余裕がないがゆえか。
傲岸さと野心で知られる者の、これほどの取り乱しよう。
さすがに興味が湧いたのか、円卓の魔族らも話を聞くべく静観の構えをとる。
そしてミノロースから語られた顛末――
「この世界のニンゲンでも、勇者でもないモノ……?」
聞き終えて、思わずという感じで眉を顰めるのはビオフェルン。
「正気かぁ? 驀進のダンナ。勇者にヤラれて気でも触れたんじゃ――」
「嘘じゃねえ! 本当だ!! なんなら影の者に調べさせてくれッ。それで俺が言ってることが確かだってわかるだろッ? なぁっ!!」
レドホットもまた信じられない様子で、ついいつもの調子で軽口をたたいてしまう。
自身より下位の者からの嘲弄など普段のミノロースなら激昂するところだが、それに構う素振りすら見せず牛面を歪ませ訴え続けている。
「公爵方! 今すぐにでもニンゲンの王都へ! アレを叩くなら勇者が力をつけていない今しかねぇっ!!」
「さすがに口が過ぎますぞ、驀進の。己の意趣返しのために公爵方に頼るなど……」
「そうじゃねえ! そういう場合じゃねぇんだ!! アレがもし成長した勇者と組んでここへ攻め入れば、俺以下の連中などひとたまりも……いや、あるいはアレは、魔王様にさえ届きうる――」
必死な蛮声の響く円卓が、
「――ほう」
一言。
ただそれだけで刹那、静まり返る。
「侯爵第六位風情が王の力を測り、語るか」
「……っ」
声は円卓最上段の、上座から。
王の着くべき中央の座から右。ビオフェルンが着く左の座とは、対となる場所。
「つまりその勇者にあらざる者は、この我をも超えると……貴様はそう言うのだな?」
「め、滅相もないっ……動転のあまりつい口がすべっただけのことで……!」
そこに着いていたはずのその者は、しかしいつの間にか、ミノロースの眼前に。
円卓の誰一人とて、その動きを見切れた者はおらず。
生気を感じさせぬ、無機質な白き異形の相貌。
人間とさほど変わらぬ体格。その身を包む装束もまた、白く。
「ふむ、ならば王への不敬は不問とする。が、それはそれとして、貴様の振る舞いを看過するわけにはいくまいよ」
「――!」
静かに告げる真白き怪人の手が、おもむろにミノロースの肩へと置かれる。
「功を焦った独断の侵攻……それに伴う評議への不参……にもかかわらずこうして遅参し、栄えある円卓の席を徒に騒がしむるその非礼……」
「あ、あ……」
己の身の丈の半分もない相手……
にもかかわらず、その重圧はどうだ? あたかも巨山を背負ったかのようではないか。
「これらは、見過ごすわけにはいくまい。どう見る? 皆の者」
静かに、しかし重く円卓に響く声。
返答はない。
異など唱えられようもない。
公爵第一位、無明のチクワブ。
力こそ全ての魔族にとって、魔王に次ぐ者の言葉を、どうして否定できようか。
「――沈黙は是と見做す。なれば貴様への裁き、我自らが下そう」
無慈悲に告げる、
その声と同時に牛面の巨躯が、おもむろに床に沈み始める。
否、床ではなくいつのまにかそこに現れていた、奇怪な白き文様の中へと。
「ヒィッ、やめ、やめてくれェッ?!!」
「墜ちよ、我が永遠の白き牢獄へ。――なに、貴様に相応の力があれば、いずれは抜け出すことも叶おう」
「い、いやだぁ! 助けてくれェッ!!?」
チクワ穴界――魔族でも彼の者のみが操れる固有領域。
空間を創造するという、膨大な魔力がなければ成し得ない、畏れとともに語られる御業である。
「いやだ、おれはっ、おれはまだ、――……」
やがて無情にも、牛面の巨躯はすべて白き文様へと呑まれていく。
それを見届けるには及ばぬとばかりに、やはり一瞬で自席へ移動し、そこに着く異相の怪人。
「ときに、当の王の御身は、いずこへ?」
それからふと、今思い至ったかのように振り返り、そう訊ねる。
訊ねた先は、円卓上座の壁際。
そこに常に控える、扇情的な肢体を隙の無い礼服で覆い隠す麗人――
「それが……」
魔王に代わって執務の一切を取り仕切る、直属秘書ヤラシィは、
すこし困った表情を見せてから、投げかけられた問いへと答える……
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久坂からの唐突な模擬戦の提案。
おっぱいオバケと鎧の人? の二人で十分みたいな言い草に、ついカチンと来たワタシたち。
すると追加でヒゲのお爺さんとニンジャが呼び出され、ちょっと怯んだけど今更後にも引けず。
「あ、はじめ、とか、俺が合図したほうがいいか?」
そうして久坂から、そんな暢気な声がかかった、
その時、
途轍もないプレッシャーが、いきなり天から降ってきて。
「――ほう。見ればなにやら楽しそうなことをしているではないか」
見上げた空は、黒く染まり、
その黒を背景に、プレッシャーの主は昂然たる立ち姿で、宙に浮遊していた。
燕尾服のような装い。その長い裾は蝙蝠の羽のように広がり、ゆるく羽ばたいている。
黒髪の頭には、二本の禍々しい形のツノ。
瞳孔が縦に割れた金の瞳。
そして紫がかった病的な白の肌と、どことなく吸血鬼を思わせる風体。
「そんな、まさかありえないはずっ……けどこれほど凄まじい力は……っ」
愕然として呟くクマトリヤ先生。見ればその顔は蒼白で、全身が震えている。
牛の魔族が現れた時さえ、そこまで明白にうろたえてはいなかった。
つまり今頭上にいるのは、あれをも超える脅威ということで……
「さて。勘づいた者もいくらかおるようだが、あらためて名乗らせてもらおう。
――今代魔王、ディアボロー。汝ら勇者が倒すべき相手が、余ぞ」
まさか、という思いと、やっぱり、という思い。
半分ずつくらいだったけれど、それでも驚愕は大きく。
銀次たちみんなもそれは同じようで、かつてないほど緊張しているのが見て取れる。
「して、その余を倒す算段として、己を鍛えておるのだろう? されど……ふむ。化生の者を鍛錬の相手とするとは、なかなか考えたではないか」
そんなワタシたちを余所に独り言ち、頷く魔王はいっそのんきにも思えるほど。
だけど全身から発するプレッシャーは、片時も弛んだりしない。
今のワタシたちじゃ、どうあがいても勝てない……
四人の中で一番魔力の感知に長けているらしいワタシが、確信めいてそう痛感してしまっている。
そういえば、あいつは、
勇者ではない久坂は、今のこの状況をどう感じているのだろう。
さっきから黙ってるけど……そう思ってそちらを見てみれば、
「……」
わかんない。
ぱっと見ポカンとしてるだけっぽいけど、おおよそなに考えてるか全然わかんない……!
「なれどニンゲンに斯様な召し寄せの遣い手がおるなど……む? とくと見ればその化生の者ら、なんぞ妙な……? 使い魔とも妖ともつかぬ、なにか……」
こちらを見下ろしていた魔王。その様子がふと、変わる。
久坂が呼び出したモノたち。それらに目を留め、しげしげと観察するように。
……っていうかアレらってそもそも、なんなのかしら? 久坂はさも当然のように呼び出してたけど、具体的になんなのかの説明って、そういえば聞いてないわね……。
「御下がりください、主様。この者の相手、まずは私どもが――」
魔王の視線に、庇うように久坂の前に出るおっぱいオバケ……もといアスタ? とか呼ばれていた天使。
挑むような目つき。その手にはいつのまにか白銀のレイピアも握られていて。
その姿を真っ向から捉えた魔王が、
「うわあああ痴女だああああああああ――ッ!!?」
いきなり取り乱した。
ええ……?
「? いったいなにを言っているのです?」
「なにをだとッ?! 然様な形で何故首を傾げる!?」
「……?」
「――よもや自覚がないのかッ?!」
あたふたと手で顔を覆うようにして、外聞もなく叫んでいる魔王。
手の隙間から見える顔色は紫に染まっていて……もしかしてあれがアイツなりの、紅潮?
一方、言われているほうは不思議そうにするだけ。
いや、正直、今どういう場面なのかを無視すれば、ワタシも全面的に魔王に同意。
「主様、あの者はなにをあれほど狼狽えているのでしょう?」
「お前の格好にだよアスタ。この際だから言うが、もうちょっとどうにかなんねえの? その服」
「どうにか、と仰いましても……」
いまだになにもわかってない様子で、今度は久坂にも訊ねる彼女。
聞かれたほうは、あからさまに呆れた様子。だって、ねぇ……?
全身を覆う純白の薄絹という格好。
それこそ天使とか女神とかそういうイメージで、肌の露出はたしかにほとんどないんだけれど……
問題はやはり、薄絹すぎるということ。ボディラインが完全にくっきりなだけでなく、胸の先の色がちょっとわかるほどの透け具合という有り様。
加えて露出のなさですら、前から見た場合のみの話。
翼があるせいか背中の生地がかなり大胆に開いていて、角度によってはお尻の始まりの部分まで見えなくもないほど。
そんなだから魔王が慌てるのもしかたないだろうし(というか性別あるのかしら? 魔族って)、あと、銀次もわりと露骨にチラチラ見てるのよねアイツめ……!
まあ、あの格好が呼び主の久坂が意図したものでないらしいのは、ちょっと意外というか誤解してたかも。というか自分の趣味であんな格好させてたらすこし、いえかなり軽蔑ものだわ。
「無自覚どすけべ天使に対して、唐突なピュアさを発揮してギャップ萌えを狙う魔王……この戦いはいったい、どこに向かおうとしているというんスか――!」
「ワタシが聞きたいわ、そんなこと」
「けれど見れば見るほどすごいよねえ、天使さん。あそこまで行くといっそ嫉妬すら湧かない、……おっと銀次クン? さっきも言ったけど凝視はどうかと思うな」
「!? 見てないッ、そんな見てないから痛った!? 本気ローキックやめてエメリいったッ!?!」
ひととおり銀次をシバき倒してから、あらためて混乱の場へ目を向ける。
久坂に言われたからか、天使は身を翻すようにしながら自身の格好を検めている。宙で舞うようなその様は……なんかエッチなダンスみたいにも見える。本当に自覚ないのかしら? あのおっぱい女……
「この姿が私の在り様そのものですし……いえ、装いを改めること自体は不可能ではございませんが」
「あれ? そうなのか」
「ええ。私を召し寄せる際に強く思い描いてくだされば、そのとおりの装いになるはずかと」
「……それ俺の感性次第だよな? じゃあやめとこう」
「左様ですか? 主様が望みとあれば私、如何な格好でも……」
「そもそも一旦戻さなきゃなんねえんだろ? SPがもったいねえ」
胸に手をあて、前屈みになって久坂に身を寄せ問いかける彼女は、あからさまに主従以上の感情を抱いているように見える。
にもかかわらず久坂の対応は、露骨に素気無い。いや、時々胸に視線は行ってるから、まったくなにも思うところがないわけでもないんだろうけど……
それでもワタシたちの二つ上ってだけで、あそこまで冷めるものかしら?
「うぬぅっ! 汝がその猥褻物の呼び主かッ!? どういうつもりか――いやなんでもいい! 早うそれを戻せ!! 斯様な狼藉あってはならんッ、けしからんぞッ?!!」
魔王はあんななのに。
今時小学生でももっと耐性あると思う。
「……」
その魔王の醜態を、なにやら考えるようにしばし見やる久坂。
そして、
「行け、アスタ」
「仰せのままにッ!」
「きゃあああ来るなぁあああああ――ッ!?!」
無慈悲に命じる。
即座に応じて突撃するおっぱい。
へっぴり腰に後ずさる魔王。
「ヤァッ、ハァッ!」
「や、やめ、暴れるなァ!」
白銀の剣を振るい、突き出す――
天使の速度は驚異的で、目で追うのもやっとなくらい。
だけどやはり魔王も伊達ではないのか、うろたえながらも躱しきっている。
空中で繰り広げられる激戦、と言えなくもないけれど……
「避けるばかりですかッ? 私も侮られたものですね――!」
「ちが、やめ――その品のない暴れぶりをどうにかしろォ!!」
魔王の動きはとても優雅とはいえず、というかはっきりとみっともない。
一方の天使も戦いそのものは見惚れる所作だけど……胸元の落ち着きがなさすぎる。「ばるんばるんッスね……」なんてヒカルも呟くほど。というか痛くないのかしら、あれ。
総合して、バトルというよりはどうしてもギャグに見えてしまう。
あれ本当にこの世界を震撼させてる魔王なのよね……? そう思って先生のほうを見てみれば、ものすごくいわく言い難い顔になっていた。なんか、お察しします。
「くっ、くぉお――大概にしろォッ!!!」
不意に魔王がそう叫び、繰り出された剣を素手で弾き返した。
そうして天使が怯んだ瞬間、大きく後方へと飛び退り、
「…………っ」
「?」
「――こ、この場は一度退こうではないか勇者よ! フ、フハッ! 思えば余自らがここで手を下すのも風情がない! あ、悪魔殿の最奥にて待とうではないかッ! 再び余に相見えるその日まで、精々研鑽を怠らぬことだな勇者どもよ!! フハ、フハハハハハハハハッ!!!」
言うが早いか、全身から黒い稲妻を迸らせたかと思うと、魔王の姿は跡形もなく消え去っていた。
えっとつまり、捨て台詞を残して、テレポートで帰った……?
「あ」
また不意に、今度は久坂が声を上げる。
見れば懐中時計のようなものを手にしていて、それを確認しているようで。
かと思えば、またまた不意に光の扉のようなものが、久坂のちょうど目の前に現れて。
「クサカ様……?」
「なんか繋がったみたいです。というわけで、俺は行かないと」
「え、えっ?」
「これ逃すと次いつ繋がるかわからないんで……んじゃ、失礼します」
そうして戸惑う先生を余所に、短く言ってさっさと光の扉をくぐってしまう久坂。
同時にバシュン、バシュン、と、天使や鎧たちも消えていき、
最後にブツン、と、光の扉もまたスイッチを切ったライトのように消えてしまう。
「え? まさか世界を……? クサカ、様……?」
怒濤の展開に頭がついていかない。
そんな様子の先生に、ワタシたちはかける言葉が見つからず。
かくして、見ず知らずの男を交えた勇者への道行きは、
そもそも歩み出す前の段階で、唐突に終わりを告げたのだった……
と、
この時はそう思ったのだけれど――
続くかもしれないし、続かないかもしれない。
どちらにせよ次は別のお話で、投稿がいつになるかも未定です。
ゆるりとお待ちくだされば。




