W-008_巻き込まれ勇者召喚
新作書こうとして見事に討ち死にしたのでこっち書きます。書きました。
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ワタシの名前はエメリー・E・日南。
名前のとおり両親がアメリカ人と日本人のハーフで、金髪に青い瞳が目立つ容姿をしているけれど、それ以外はごく普通の日本の女子中学生……
だったんだけど、
「――やり、ましたっ。召喚、成功です……ッ!」
ある日突然、放課後の教室が一変し、
気づけば映画のセットみたいな、無駄に豪奢な石造りの広間の中に。
「――ッ?」
「これって……」
「……ええと?」
「これはもしや、もしかしなくてもッ――?」
一緒にいた馴染みの三人共々、ワタシもまた唖然としていると、
「我らが世界によくぞお越しくださいました、勇者様方! どうかこの世界を、悪しき魔王の手よりお救いくださいませ――!」
最初に聞こえた声の主、これまた映画の衣装みたいなローブ姿の妙齢の美人が、側に駆け寄り跪き、大仰な仕草で頭を下げてくる。
「勇者って、……え? 僕らが?」
「あら、まあ」
「ハイキターーーッ! マジ異世界召喚ッ!! こんなテンプレイベントがよもや自分に起こるなんてッ、……いやぁオタクとして徳を積んできた結果ッスかねぇこれってば!」
「ちょっとヒカル、うるさい」
一人、異様に盛り上がっている友人をたしなめつつ、あらためて女性へと向きなおるワタシ。
「その、どういうことか説明してくれますか? いきなりこんなトコに来て、勇者なんて……」
「ええ。我々の都合で無理にこちらへお連れしたことについては、お詫びのしようもございません。……ですが、はい。私に答えられることであれば、なんなりとお訊ねくださいませ。それが貴女への――」
ちょっとトゲのある聞きかたをしたけれど、気を悪くした様子もなく答える女性。
つまりそれだけ彼女に、いや、この世界に余裕がないのかもしれない。それがひしひしと伝わるほど、女性の表情は真剣そのもの。
それを見て他のみんなも、すこし顔つきが引き締まる。
つまりこの日から、
ワタシたちは普通の中学生から、異世界の命運を握る勇者への道を歩き始めた――
だけならまあ、まだよかったんだけど……
「――いえ、あなた方五人への、私どもの示せるせめてもの誠意とお考えいただければ、」
「ん?」
「え、待って?」
「自分ら四人……スよね?」
覚悟を決めようとしたところへの、女性の台詞への引っかかり。
お互い顔を見合わせ、
ややあってからワタシたちは四人とも、視線を背後へ。
「あ、どうも」
そこには見知らぬ、怪しい行商人のような格好の男が一人。
「誰?」
「誰!?」
「誰ッ?!」
「どちらさま?」
思わず声を上げるワタシたち。
――そう。
ワタシたちはどういうわけか、異世界の勇者としての道を、
全然知らない男もう一人を交えて、歩み出すことになってしまったのだった……。
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「ハァッ! ――ッヤア!!」
「ほっ」
響くかけ声と、剣同士のぶつかる金属音。
ここはとある世界の、騎士のための訓練場。
剣を振るうのはすこし年下の少年で、それを同じく剣で受けるのが俺、久坂厳児。
今、行なっているのは見てのとおり、戦闘訓練。
いや、俺が稽古をつけてやっている形、になるのだろうか。
なぜこんなことに、というと、遡ること数日前……
例によって【境界廊】を歩き、次の世界を目指しているところ、
『!?』
突如足元の床が消失し、落下。
『んっ?』
咄嗟に〔歩加〕で踏み止まろうとしても、なぜだか足は空を切り、
『ああ』
そのまま闇に吸いこまれるようにして、下方へ落ちていってしまった。
唐突でわけがわからないなりに、さすがにこれは死んだかな? と早々に諦めた俺だったが、
『――やり、ましたっ。召喚、成功です……ッ!』
気づけば次の瞬間、立っていたのはやけに荘厳な広間の床で。
目の前でやりとりする少年少女と、魔法使いのような格好の女。
その脇と広間の入り口に控える鎧の騎士たち。床に描かれた複雑な図形と文字。
それらを黙って見るとなしにしていたら、少年少女らがこちらに気づいたようで、
『誰?』
『誰!?』
『誰ッ?!』
『どちらさま?』
と声を上げられた。
以上、回想終了。
……まあこれだけじゃなんのことやらだが、
要するに俺は、どうも無関係な世界からの時空干渉に巻きこまれたらしい。
ある人物を別の世界から呼びこむ術。
その術的なのか空間的なのかは知らないが、とにかく軌道上にちょうど【境界廊】がかかってしまっていたらしく、そこを歩いていた俺が巻き添えを喰らった形……だと思う、たぶん。
「このっ――これでッ!」
「おっと」
そして今目の前で、俺へ向かって果敢に剣で切り込んできているのが、今いる世界への本来のお客の一人。
内城銀次君。中学二年生。
優しげな顔立ちでやや茶っぽい髪色。俺よりすこし低いくらいの背で体格も普通だが、現時点でも常人より遥かに身体能力は高い。レベルで言うなら……たぶん20くらいのステータス。
けどそれも元からではなく、この世界に来て変化したものとか。
“救世主”――それが彼のここでの役割らしい。
実際俺からも【見る】と、classの項目もそうなっていたりする。
「――っだあ!! もう、限界……」
「ん。お疲れさん」
元気に剣を振るっていた銀次だったが、それが十数分も続くとさすがにばてたらしい。
鍔迫り合いからすこし押してやると尻もちをつき、そのまま仰向けに倒れて音を上げる。
それを見て、俺も剣を収める。これはもちろん私物ではなく、銀次共々この国の人が訓練用に貸してくれたもの。
もちろんついでに、俺に剣の心得などない。
それがなぜ彼に稽古をつけているのかというと、請われたからだ。
以下、回想――
先の回想の続き。困惑する少年少女とこの世界の人に、自分の身の上を簡単に説明した(訳あって世界を渡り歩いているが、その途中でこの儀式に巻きこまれたらしい……たぶん、と)俺。
それで場が幾分落ち着いたところで、今度はこの世界の人から本来のお客へ向けて、簡単な事情の説明がなされた。
世界が魔王とかいう脅威に晒されていること。
魔王を倒せるのは勇者しかおらず、しかもそれは別の世界から呼ばなければならないこと。
そしてその勇者に選ばれたのが他でもない、本来のお客である四人の少年少女なこと。
大体このあたりまで説明が終わった、その時。
突如、割れる石壁。
降りそそぐ瓦礫。
咄嗟に動いてそれらを弾き飛ばしつつ、側にいた人らへ逃げるよう促す俺。
そうこうするうち、
『――ブモフフフッ! ちょっくら勇者とやらを拝みに来てみれば、脆そうなガキではないか!』
壊れた壁の向こう、土煙の中から姿を現したのは、喋る牛。
でなくて、牛なのは頭だけで、全体はおおまかに三メートルほどの巨人か。
といっても背中には蝙蝠のような翼があるし、両手は人っぽいが足は蹄。
牛頭の悪魔――総合すると、そんな印象。
『まさか、上位魔族ッ!? そんな、場内への侵入を許すなんて……ッ』
『ブモフッ、いかにも! 侯爵第六位、驀進のミノロース! 二つ名さながら、勇者の首級獲りに一番乗りよ!!』
あ、驚愕する魔法使い風の女を余所に、少年少女らが笑いを堪えている顔。そうだよな、あの面でその名乗りは焼肉しか思い浮かばねえもん。音がそう認識できるだけで、この世界でそんな意味はないのだろうといえど。
同時にこの子ら、やっぱ同郷か? とこの時は思ったもんだったが……
『ここで勇者を叩いてしまえば我らの勝利は約束されたようなもの……なによりここでの手柄は、俺様の力を魔界に知らしめるまたとない好機ッ!』
『くっ――』
言いながら、歯を剥き出しにしてたぶん笑っている牛頭(何分牛面なので表情がわからない)。
それを見て歯噛みする女。
おそらく彼我の力の差を痛感しているのだろう。この世界の人らと、少年少女ら。その中で【見る】限り一番強そうなのは、意外というか屈強そうな兵士らではなく、他でもない魔法使い風の女。その彼女もあの牛頭と比べると、レベルでいえば20くらいの差がある。
というか当の勇者である少年少女らが、兵士とどっこいの強さなのは、いいのか?
この疑問はのちに解消されるのだが、それはおいて。
『さぁ、俺様自ら手を下そうと言うんだ。ガキといえど容易く壊れてくれるなよ……?』
ゆっくりと一歩、威圧するように前に出て、
背中に手を回し、背負っていた大剣を前に構える牛頭。
剣か。なんかこう、フォークというか農具みたいな槍というか、そっちのほうが似合いそうだなと思ったが、でっけえお世話か。
ふと見ると、俺の足元にも剣。
壊れた壁の近くに兵士が倒れていて、その手にあったものがここまで飛んできたのだろう。
『――喰らえぃッ!!』
いよいよ剣を振りかぶり、猛然と振り下ろす牛頭。
それに対処できるのは、位置的にも実力的にも、
『ほっ』
『がああああっ?!!』
俺しかおらず。
牛頭の打ち下ろしに合わせ、咄嗟に拾った剣をそのまま振り上げる。
そうして狙いどおり、牛頭の手首を断ち切る。
さほど難しいことではなかった。ステータス上、ATKでは1.5倍、AGLでは二倍以上こちらのほうが上だったのだから。
驚愕の表情……かどうかは相変わらずわからないが、濁った悲鳴を上げる牛頭。
周囲からも息を呑む音。まあたしかに、みすぼらしい格好の男がいきなり剣を振ったら驚くかもしれない。前の世界で埃っぽい荒野を歩きどおしで、風呂にも入れてなかったのだ、この時は。
『あああ俺の、俺様の腕がッ!? な、なぜだ!! というか貴様何者だァッ?!!』
『久坂厳児』
『な、にィ?』
『あ、ガンジ・クサカとかのが通じるか? 俺の名前』
『~~名前なぞどうでもよいわ!! 貴様はなんなのだと聞いている! 身なりも気配も、明らかに勇者ではないただのニンゲ、……いや、ただのニンゲンでもない? ――本当になんなのだ貴様ッ!!?』
俺からなにかを感じ取ったのか、牛頭の様子が驚愕から困惑へ。
俺はというと、手首切り落とすのはやりすぎか? とすこし思っていた。むやみに殺しはしない、というのは一応継続中の指針ではあるが、命さえ取らなけりゃなにしてもいい、というのもいかがなものか。かといってわざわざ〔医療〕で治してやるというのも逆にいかれた行いだろうし。
『なんたる誤算ッ、俺様の力を示す絶好の機会が……! クッ、だが図に乗るなッ? 俺の階位はあくまで侯爵! 貴様らの力など及びもつかない方々が、さらに上の階位にはいるのだからな!!』
歯噛みし、手首の切り口をもう片手で押さえながら、牛頭は翼を広げて飛び退る。
よく見ると傷口からは血ではなく黒っぽい染みのようなものが滴り、ややあって消えている。
あとは切り落とされた手首のほうも。やはり黒っぽい砂状になって消えていっている。
『とくに貴様ッ! ガンジと言ったか! 貴様も所詮公爵方の前では赤子も同然よ! なす術なくやられるその日を、首を洗って待っているがいい! ブモハハハハハハ――ッ!!!』
そうして捨て台詞とともに、壁の穴から飛び立ち逃げていく牛頭。
そういえば剣、置いてったな。まあ手が塞がってたから持ってけなかったんだろうが。
しばし、静寂。
『――あ、あのッ』
それを破ったのは、少年の声。
『ん?』
『あの、助けてくれてありがとうございます! あ、あと、僕に、』
振り返れば俺はその少年、銀次に、
『――僕に剣を、教えてくれませんかッ? 強くなりたいんです、ガンジさんのように!!』
そんな風に請われていた。
ここまでが、回想。
やっぱめちゃくちゃ書きやすいですこいつ。




