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【防御】と【回避】とmagic




   ◇




{どうしよう


さっちゃん{つかれたー ちょっと休憩


さっちゃん{っておっとあけみんどしたん? 久坂君となんかあった?


{あ! さっちゃんお疲れさま 休憩中?


さっちゃん{そだよん もーあっつい! これ五月の気温!?


さっちゃん{で、どしたん? なにがあったん?


{久坂君、不良みたいな人とどこか行っちゃって


さっちゃん{おおう!? 思ったよりバイオレンスな話だった!


景人君{何だかヤバいことになってるみたいだな 大丈夫か?


{あ、景人君も休憩?


さっちゃん{おつおつ~


景人君{うん、暁未 柚もお疲れさん


景人君{それで、久坂が不良と、っていったいどうしてそんなことに?


{うーん、実は私もよくわからなくて 道でばったり会ったと思ったら、そのままって感じで


{向こうは久坂君のこと知ってるみたいで、久坂君もなんか、わかってる風ではあったんだけど


守久流君{ただの知り合い同士ではないのか? それは


さっちゃん{うおう! いきなり来たね守久流君!


守久流君{ちょうど手が空いたところで目についたんでな


守久流君{普通に連れ立って遊びに行ったのではないか?


{私もそう思いたいけど、遊びに行くって雰囲気には見えなかったから……


{それこそほんとに、これからケンカしに行くみたいな


しおちゃん{わたしが様子見に行ってみようか?


さっちゃん{しおりんもいきなりだね! いつものこととはいえ


{それは危ないよ! もし本当にケンカだったら


{そもそも二人がどこに行ったかまでは、私もわからないし


しおちゃん{連絡つかないの? 久坂には


{うん というか、番号もアドレスもわかんない……


景人君{あれ? この間の日曜、誰か聞かなかったのか?


さっちゃん{そういえば聞いてなかった!! 不覚!


景人君{柚ならてっきり聞いてるものと思ってたけど


守久流君{連絡先は、明日にでも交換しておくべきだな


守久流君{無事登校してくるのならだが


さっちゃん{縁起悪いこと言うの禁止ー!


しおちゃん{けど


さっちゃん{?


しおちゃん{久坂ならなんか、ケロッとして学校来そう


さっちゃん{たしかに、すっごいそんな気がする!






「……久坂君」


 端末を手にしたまま自室のベッドに仰向けになり、ぽつりと呟く暁未。

 友人達とのやりとりで幾分軽くなった心。

 それでもかすかな胸騒ぎが、どうにも彼女の心からは消えてはくれなかった。




   ■




 specialの内のひとつ、【防御】

 防御姿勢を取り攻撃を防いだ時、受けた体の箇所が不明の原理で強化される力。試した印象だと、ただの素肌でもほとんど盾を構えたような堅固さという感じ。ちなみにその検証自体は、先輩方を殺した際の凶器を、上空に放り投げて受けるという方法で行った。

 下手な刃物くらいならば、それこそ真っ向から受けても弾けそうな印象だったが……


「ぐ」


 要は槍男の槍が、下手な刃物ではなかったということ。

 刺された痛みと不快感に呻きつつ、ひとまず俺は飛び退き穂先を引き抜きにかかる。


「あァ?」


 一方、槍男の方も同様に後退。表情から見て取れるのは、困惑と少々の動揺。なんにせよ向こうも引いてくれたことで槍から抜けれたし、それに様子から追撃の心配もなさそうか。


 ならば今のうちにと、〔治癒〕

 そうして気づいたが、どうも〔治癒〕で治すと飛び散った血なども消え去るようだ。その様はどことなく、死体が消える現象を彷彿させるような。


「……ナルホドなァ」


 不意に槍男から、なにか得心したような声。


「読めたぜ。――つまりおめえの“得物”はその右腕ってワケか。刃物を受けつけねェのか、それとも再生力が異常なンか……どのみちそれがおめえの、妙な余裕の源なンは間違いなさそうだな」

「……」


 なんとなくだが、さっきから奴はなにか勘違いしているような。

 なんというか、あちらとこちらで根本的なルールの認識に齟齬があるというか。

 けどそのへん、訂正しない方がこちらに優位に働きそうな気もする。相手に与える情報は、少ないに越したことはない。


「てこたァ、だ。右から攻めるのは得策じゃねェ……だったら、左かァッ?!!」


 再度構え直し、突っ込んで来る男。

 俺が右利きなのは間違いないが、別に【防御】に左右で優位性の差はない。

 そしてどのみち、次の対処は【防御】ではなく、


 【回避】


(……相変わらず、妙な感覚だな、これ)


 以前試した時と同じことを思う。【防御】は防御姿勢という“行動”によって発動するが、【回避】それとは違い、回避を試みようという“意思”だけで発動状態となる。

 そしてその顕現も、体の部位などの“外部”ではなく“内面”――


 【回避】を発動すると、自身の“感覚が加速”する。

 もっと単純にいうと、周囲の景色がゆっくりと感じられる。この感覚で相手の挙動、その把握が容易になり、それがひいては的確な対処にも繋がる……そういう力。


「――」


 周囲のすべてがスロー再生のように感じる。とはいえ、別に俺自身が加速するわけでもなく。

 槍男の動作は実に緩慢に見えるが、俺の動作はその動きよりもなお遅い。


 というかこれ、避けられるか?

 明らかに間に合わないような。

 槍の切っ先は、ほとんど俺の体に触れる位置で――




 そういえば、この状態で魔法撃ったらどうなるんだろう。




 〔火炎〕


「ごおェッ?!?」


 ふと思いつきで放ってみた魔法。

 至近距離に突如出現した〔火炎〕は、さしもの槍男も避けようがないらしく。

 顔面に炸裂し、炎上。


「うぶ」


 しかし同時に、【回避】による感覚加速も切れる。

 攻撃に転じた時点で【回避】は働かなくなるようだ。当たり前か。

 槍は穂先もばっちりと俺の左脇腹を抉っておりううわなんだこれ痛気持ち悪。

 けど、


「ぎ、ァ――ッ?!!」


 予想以上に激しく炎上している槍男。上がった叫び声も、炎に巻かれて掻き消えるほど。

 なんにせよ、ここを逃す手はないだろう。


 〔火炎〕〔火炎〕


「ア゛ッ、ァ……――?!?」


 そう思い、畳みかけて魔法を連射。

 胸部、下腹部と体の中心線を沿うように狙えば、いよいよ槍男は激しく燃え上がっていく。いやあっついあっつい。

 熱気に堪らず後退しようとし、そこで喉奥からせり上がる刺激的な感覚。


「え、ぶ」


 嘔吐。というか吐血。槍が腹部に刺さったままなのだから、当然といえば当然。

 失血のせいで服がびしゃびしゃと生温かく、にもかかわらず体自体は芯から寒気がする。それに加えて、あってはならない凶器(もの)が体内にある異物感。


「っ! ぐ……っ」


 さすがに俺も、これは堪える。幸い持ち主からはすでに手放されているので、気張って柄を手にして槍を引き抜きにかかる。失血からくる指先の震えが煩わしいが、


「――う゛」


 〔治癒〕


 それでもどうにか引き抜き、同時に魔法も行使。

 直前、栓が無くなった傷口からどっと血が吹き出て肝を冷やしたが……


「……はあ」


 魔法は問題なく効果を発揮し、傷は無事塞がる。ついでに溢れて制服に染みついた血も、やはり綺麗さっぱりに。たんに消滅しているのか、それとも体内に戻ったりしているのか……失血による悪寒がないから後者か? それもなんか嫌だが……どのみちクリーニングに出さなくて済むなら、それに越したことはないか。


「あ、シャツ穴開いてら」


 けどあいにく服までは保証対象外らしい。けどいくら超常の力とはいえ、そこまで求めるのは虫がいいか。こうなるとやはり、上着を脱いでおいたのは正解だった。〔火炎〕でMPを使い切らなかったのも、思えば俺らしからぬ機転の利きようだ。


「……………………」


 ふと見下ろせば、足元に横たわる黒い人形(ひとがた)

 とりもなおさず、先程まで槍男だったものだ。あれだけ激しかった〔火炎〕による炎上も今は鎮火し、もうしわけ程度に煙が上がるのみ。やがてそれらも存在ごと徐々に薄れていき――




 てててててててーんてててんてんてーん

〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レベルがあがりました〉




「んん゛っ?!」


 予想どおり鳴り響いた効果音と合成音声は、しかし予想に反して多重奏。

 その大音量に俺は、思わず変な叫びが出る。


「……なんだってんだ?」


 訝りつつ、表示状態になったボードを確認し、




――status――


 name:久坂 厳児

 age:15      sex:M


 class:―

 cond:通常


 Lv:10


 EXP:60   NXT:5


 HP: 70/ 70

 MP: 24/ 24


 ATK:77

 DEF:73

 TEC:31

 SOR:70

 AGL:62


 LUC:Bad


 SP: 55/ 55




――magic――


〔治癒〕〔蛍光〕〔浄化〕〔火炎〕〔雷鳴〕〔氷結〕

〔賦活〕〔解除〕〔防壁〕〔睡眠〕〔瘴毒〕〔消音〕


――special――


【防御】【回避】

【警戒】

【挑発】【威圧】

【見る】





「ああ、そういう」


 納得し、頷く。

 レベルが3から、一気に10へ。

 つまりあの音声は、その分だけ鳴ったのだろう。だからって重ねて鳴らす必要もないだろうし、そもそもなぜわざわざ音声でアナウンスする必要が……と疑問は湧かないでもない。

 それより、急に上がったレベルの方が問題か。まあ十中八九、殺した相手が“レベル持ち”だからだろう。思えば槍男も、なにやらそれらしいことを言っていたし。


 さておき、ボードをざっと眺める。上がったレベル数相応に、各数値も大きく伸びている。magicやspecialもなにやら増えているが、そのへんの検証は後でいいだろう。

 今はひとまず、さっさと帰りたい。腹を刺されて死にかけたせいか、変にだるい。

 ステータスの数値だけ見れば、健康そのものではあるんだが。


「てか、回復してんだよな。HPとMP」


 そんなことにも、遅ればせながら気づく。〔火炎〕三回と〔治癒〕二回で、レベルアップ前のMPは空になっていたはず。レベル上昇に全回復効果がある、というのが妥当な線だが、それを確信するためには、次のレベル上昇を待たなければならないか。

 なんにせよ、とりあえずは帰ろう。そう思って階段方向へ足を向ける。


「って」


 そこで不意に、なにか固いものを蹴った。

 なんだ? と思って足元を見れば――


「……消えねえのか、これ」


 槍だ。

 男の振るっていた槍が、奴が消えたまさにその場所に落ちている。


「……」


 嘆息しつつ、なんとなく拾い上げる。槍は全体が均一の素材のようで、質感は金属的。しかし鉄という感じではなく、重さもどうもそれらしくない。いや重いことは重いが、扱えないほどではない。もっともレベルが上がった今の俺の感覚が、一般的である保証はないが。

 にしても、まただ。殺した奴の持ち物が残ったのは二度目。前回の不審者のスタンガンと、共通するのは凶器という点だろうか。こうぽんぽん残り物が出るのは、俺の立場上あまりよくはない。

 いわばこれは物証でもある。遺体血痕その他は変わらず消えているから犯行の足はつかないはずだが、痕跡はないに越したことはない。

 というか、槍だ。こんな大仰な物、あるだけで問題とさえいえる。


「……隠すか」


 少し考え、目が向いたのは部屋の隅。机など、この建物の備品だったろう物が雑多に積まれている場所。そこに紛れ込ませてしまおうという浅知恵。もちろんあれらが運び出される段になったら無意味だろうが、部屋の真ん中にぽんと置いてある状態よりはましな気がした。個人的には、そのまま取り壊しが始まって瓦礫に埋もれるのを期待したいところ。

 そう思いつつそちらへ向かおうとし、


『……――ッ』


 また足が止まる出来事が。

 これは、あれだ。最初のレベルアップの時と同じ。なんかへんな緑色。


『――――るッ? ――、そ――……!』


 ざらざらとした立体的ノイズ。

 けど前回と違って、そこからは微かな声が聞こえる。

 途切れ途切れかつ小さ過ぎて、なにを言っているかはまるでわからないが。


『きこ――、――っ、……――――ない……っ』


 にしてもこれは、なんだ。やはりレベルに付随する現象か?

 ふと思い立ち、手にしていた槍をなんとなく緑色に突き刺してみる。


「そい」

『?! ――……』


 ばちっという静電気のような音を残し、ぷつんと消滅。

 なにかまちがえたかもしれない。


「まあいいや」


 あまり気にしないことにする。

 気を取り直してごみの山に近づき、一応指紋等を拭ってからそこへ槍を隠し、

 それからあらためて、俺は廃ビルを立ち去ることに。

 ふと誰かに見られていた可能性に思い至り、一応帰りはビルの別の出口から別の通りへと出た。

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