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W-000_世の果てで 3


 そんな感じで、

 俺はアンネを背負い彼女の示しに従って、件の機構とやらを組み上げるのに足りない部品を、方々巡って集めてまわった。

 壊れた時計のような機械。

 ぜんまい状にねじくれた木片。

 多腕多頭の仏像のような石碑から、

 果ては不気味に脈動を続ける心臓のような肉塊まで……

 ともかくまあ、集まったのは雑多かつ用途不明な物品。

 本当にこれでどうにかなるのかそこはかとなく不安は募っていくが、それはわざわざ口に出すまい。そもそもが、駄目で元々のつもりで手伝っているのだし。


 この廃界とやらは、広い。

 見た目どおり宇宙のように無限に広がっている……わけではないらしく、果てはあるとのこと。

 それでも方々に散らばる物品の収集のため、ときには半日近く(時間は流れてないらしい以上、あくまで体感だが)移動に費やすこともあり。

 その間、アンネも黙って負ぶわれてはおらず。

 むしろしきりに、あれこれ俺へと話しかけてきた。おかげで彼女の人物像(神物像?)やら身の上やら、図らずも知ることとなった。本来の姿は絶世の美女だとか、あの年の奉納の御神酒は格別だったとか、双子の妹がいてずいぶんと可愛がっているらしいこととか……

 時折こちらにも話を振るので、俺についてもいくらかアンネに話すことにも。例によって俺の受け答えは最低限で、それ以外はもっぱら相槌ばかりの雑談ではあったが、

 それでも背中の女児は終始賑々しく、楽しげにみえた。






 その後、

 例によってアンネが土くれの山から目当ての物品を掘り出し、俺へと渡し、


「さて! ――時空干渉機構の再構築、そのために必要な要素の収集は、次が終いぢゃ!」


 こちらへ向きなおり、もったいをつけて口にしたのはそんな台詞。

 俺は言葉の続きを待ちがてら、ひとまず物品を〔収納〕。これまで集めたものも同様に、すべて〔収納〕の中だ。全部合わせると両手で抱えきれないほどの荷物になるので、当然といえば当然。

 ちなみに元々〔収納〕枠を圧迫していた回復薬等の瓶は、一旦取り出し旅行鞄のほうに詰めて、ひとまとめとした。もうひとつちなみに、なぜ〔収納〕に旅行鞄が入っているかについてだが、これは元の世界で万一俺の所業が露見したとき、高飛びなどするための備えだったもの。


 ……そういえば、結局そのへん元の世界ではどうなったんだろな。速水らは警察関係者みたいなことを言っていたし、であれば俺はすでに犯罪者扱いでもおかしくない。いや、扱いもなにも、れっきとした犯罪者なのは事実だが。


「……なんぢゃ? このしみったれた場所からいよいよおさらばできるのぢゃぞ? もそっと喜ばんか! すま~いるすまいるっ!」

(わり)いがこういう面なんだ。で、次はどっち行きゃいい?」

「あー、うム。それなんぢゃがな……」


 景気の悪い俺の風采を訝り、つっこむアンネ。

 それにおざなりに詫びれば、今度はすこし気まずげに言いよどむ。俺の態度に呆れた、という風でもないようだが……ひとまずまた黙って言葉の続きを待てば、


「……うム。じつは最後の要素はちと厄介でな。ゆえに今一層、そなたの力が頼みとなるのぢゃが……」


 切り出しにくそうにたっぷりと躊躇ったあと、やがて彼女はそう口にして――






「――あれぢゃ」


 数時間(体感)ほどの移動ののち、

 最寄りの物陰。俺の背から降りたアンネが窺い、指差した先。


『――………………――――』


 そこにあった、否、いた(・・)のは、

 一際大きな塵芥の山。そこに埋もれるようにして眠る、

 あれは……竜、か?


「この廃界において、我ハイとそなた以外ではおそらく唯一意思を持つ存在……暫定的に、“廃竜”とでも呼ぼうか」


 背中のアンネが緊張を隠せない様子で呼んだそれ――廃竜。

 全体的な姿形は、首長竜に翼をつけたような、いわゆる西洋の竜のそれ。

 竜的ななにかというと、以前の海の鮫頭を連想するが……あれよりもよほど竜らしく、なによりでかい。鮫頭とやり合った洞穴に、ちょうどすっぽり収まるくらいの図体ではないか。……でかすぎていまいち距離感が狂っている可能性もある。


『……――』


 拍動か、あるいは呼吸のような、規則的な身じろぎをするのみの廃竜。

 要するにただ寝ているだけ、そう思われるが――


 それでもそいつから感じられるのは、

 物理的な重さすら覚えるような、威圧感。

 現に、この遠距離でも【警戒】が働くほどで。


「機構の構築に必要な最後の要素(パーツ)は、あやつの核。……ガンジよ、そなたにはなんとかしてあやつを無力化し、その腹かっさばいて核を獲ってもらいたい」


 それをぶっ倒せとの、アンネの仰せ言。


「やり合えってか、あれと」

「……無茶は承知。ぢゃが世界の最外縁たるこの廃界から、真っ当な世界への道をこじ開け、貫き通すほどの時空干渉を実現するには、それこそ膨大なエネルギィが必要となる……」


 思わず聞き返すが、無理を言っている自覚は彼女にもあるらしく、その口調は変わらず堅い。

 廃竜(あれ)の核……機構そのものの動力源、それが最後の要素、か。

 これほど危機感を覚える存在の核ならば、たしかにその役目は相応しかろうが。

 てか核って、なんだ? 心臓的な?

 そもそもあれって、生きものなのか? 形はおおまかに首長竜だが、その表面は鱗っぽくない。光沢のある淡い青色で、どちらかというと金属的。なので本当は機械とかの人工物だと言われれば、頷けてしまうところはある。


「あやつがなんであるか、何故(なにゆえ)このような場所におるのか、それはわからぬ。わかるのは、我ハイが堕ちるより遥か古より、おそらくあやつはここにおること。そしてそれだけ古くより今も変わらず存在しているということは、その存在の維持のための内在エネルギィは計り知れぬぢゃろうこと。おそらく神格並み、否、ともすれば、本来の我ハイを超えるほどやも……」


 ふと湧いた俺の疑問を、汲んだかのようなアンネの言葉。

 ここの先客の彼女にも、正体の掴めぬ存在か。

 俺にわかることがあるとも思えないが……


「ガンジよ」


 なにやら改まって向きなおり、俺の名を呼ぶアンネ。

 その肩越し、数百メートルは先にいる廃竜を、なんの気なしに【見る】――


「無理強いはせぬ。時の流れぬここでは、たとえ致命の傷を負おうが“死”は訪れぬ。あるいは死に至るほどの傷を受けながら、死ねず永久(とわ)に等しい時を、ここでさまようことにもなろう」


 ――?

 なんだ? なんか目が、変な感じが……


「我ハイでは、そなたの傷は癒せぬ。権能が十全に振るえるのなら、たとえ死からでもそなたの時を引き戻せようが、今の我ハイにそれは叶わぬ……」


 アンネがわりと大事そうなことを言っている気がするが、

 それより、一瞬ざざっと視界が乱れたあと――




――status――


 name:廃竜

 age:??????… sex:―


 class:―

 cond:████████


 Lv:0


 EXP:―   NXT:―


 HP: 17█86█/ 1█9████

 MP:  54██0/  █49██


 ATK:204█

 DEF:1█87

 TEC: ██9

 SOR:2█54

 AGL:14██


 LUC:―


 SP: ████/ ████




 目に映ったもののほうに、思わず意識が向いてしまう。

 もはや馴染みの、ステータスボード。

 しかしそれは俺ではなく、廃竜のものに他ならず。

 なんだってこんなものが急に……いや【見る】の効果なのは明らかだろうが、これまでは一部の情報しかわからなかったのに、なぜ今になって――

 不意に、目の奥というか頭に、嫌な痛み。


「――ッ」


 なんとなく不味い気がして咄嗟に【見る】を解除し、ついでに目も瞑り視覚そのものを遮断。

 ……ややあって、ぼんやりとした心当たり。

 (ともえ)の魔法に焼き殺された後と、自称神のいる空間に出る前の、

 その間に、あったような気がする出来事。

 空白というか無というか、とにかくそんな中に意識だけが浮かんだ感覚。

 あの自称神が『“システム”に直接(・・)干渉した』とか言ってたあれ。

 なにをどうやったか、いまだに自分でもよく思いだせないが、

 おそらくあの時俺は、“レベル持ち”の力を自分に都合がよくなるよういじった(・・・・)

 今の【見る】の効果の変化は、その影響だろう。現に意識を内に向けてみれば、手持ちの力のうちのいくつかの性能、効果が若干変わっているのが自覚できる。


 ……そのせいで多少無茶になっている部分もあるようだが。たとえばさっきの【見る】、あのまま続けていたら俺の“なんらかの処理能力”を超えていたような気がする。若干危険性をはらむというか、少なくともたんに便利になっただけでないのは確か。


 しかし、いくつかの項目や数値はちらついてて判然としなかったが、おおまかに見た感じ……


「……ぢゃ、ぢゃからの? もしそなたが然様なメに遭うのは御免ぢゃというのなら、彼奴には挑まず……、――いっそ我ハイと一緒にこの廃界で安穏のうちにくらすのもいっそ、わ、悪くないとは思うんぢゃ? な、なぁに! この虚空をのんべんだらりと漂うのも、慣れればなかなか乙なものぢゃぞ? 加えてそなたと一緒であれば、我ハイも、」

「んじゃ倒すか。あれ」

「ここで決断されると我ハイも傷つくんぢゃがッ?!!」


 あるいはどうにかなるかもしれない。

 そう感じて頷き、呟けば、アンネからなにやら悲痛そうなつっこみ。

 あ、完全に意識の外だった。


「うぅ~ッ、我ハイと共にあるのがさほどにイヤぢゃとっ?」

「なんの話だ? わり、あんま聞いてなかった」

「なんぢゃとぅ!?」

「いや、本当はまったく聞いてなかった」

「ムゥゥゥッ、我ハイ一世一度のぷろぽーずをなんぢゃと~~~ッ!」


 ぺぽぺぽぺぽ、と駄々っ子のように俺の胸を殴りつける彼女。擬態語ではなく、どういう仕組みか実際にそういう音が出ている。これが神の力か。


「話戻すぞ?」

「う、うム……」

「まあなんか大儀そうな相手じゃあるが、やってやれんことはねえと思う」

「ま、まことか? ……けしかけておる我ハイが言うのもなんぢゃが」

見た(・・)感じ、そこまで無茶ってわけでも。つっても五分五分だろうが……」


 なんとなくだが、あの自称神のように存在自体がどうしようもない感じでもない。

 ちらついててはっきりとは見えなかったとはいえ、桁だけなら大層そうなパラメータだったが、

 それでも所感では、速水ら四人よりやや厄介そうという程度。そんな気がする。

 そうと決まれば、話は早い。


「さてんじゃ準備して……あ、お前はもうちょい離れてろ」

「りょ、了解ぢゃっ」

「――っし」


 〔防壁〕〔障壁〕〔守護〕〔悠揚〕〔光彩〕〔天恩〕〔城塞〕〔反射〕……

 手持ちの防御系、補助魔法のすべて。

 加えて〔消音〕〔影無〕で自身の存在を隠しつつ、

 〔倍速〕からの、【鹿音】【八卦酔】で、


 まだ効果の残っている〔歩加〕で虚空を踏みしめ、

 物陰としていた、浮遊する巨大な石塊を掴んで、


 ぶん投げる。


「――――――ッ!!!」


 砲丸投げ等の選手よろしく、声を張り上げながらの投擲は、

 しかし〔消音〕の効果でなんの物音も発生させず、


 無音かつ凄まじい速度で飛ぶ、小型車ほどの石塊は――


『!!?!?』


 眠る竜に真正面から激突し、

 石塊と塵芥が、爆裂したように周囲に弾け飛ぶ。

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