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乙女様だっこ


 special、【三倍座】

 効果は字面よろしく“魔法効果を三倍にする”というもの。

 【倍支繰】や【鍬鑼振】の言わば魔法版だが、攻撃一辺倒のそれらとは違い、こちらはたとえば〔治癒〕なんかとも併用できる。〔消音〕等の効果時間も引き延ばせるので、用途の幅は広い。

 代わりにSP消費も効果相応で、さっきので700近く持ってかれている。……あれでも思えば、【鍬鑼振】のがもっと消費していたような……?

 まあそのあたりは、地元へ帰ってから試そう。夏休みはまだ始まったばかりなのだ。

 ……どうでもいいがこれ、読み方はやはりsun visorなのか。【次連魔】もたぶんdilemmaなんだろうし、どういう発想で命名したのか。

 いや、

 そもそも発想した“誰か”なんて、いるのか。


 話は変わって、magic〔極光〕について。

 こちらは光線のような攻撃魔法。ただし消費MPや覚えた順番のわりに、威力そのものはそこまで高くない。感覚では、〔魔玉〕どころか〔衝撃〕の方が強そうな気さえする。

 この魔法の強味は“不死者への特効”にある。詳しくはわからないが、さっきの感じだとおそらく威力の増加幅は足し算というより掛け算だろう。


 その特効に加えて【三倍座】。n倍にさらに三倍で〔極光〕は極太ビームと化し、

 “幽霊屋敷”の怪現象、その元凶を飲みこみ、跡形もなく消し飛ばし、

 ついでに屋敷の地下の天井までも、ぶっ飛ばし貫いていった。


 しかし、結果としては一撃で片がついたわけだが、油断があった点は内省すべきか。別段、毎回そこまで気を張っているわけでもないが、もう少しなんか、緊張感をもって事に当たるべきなんじゃないかと、思わないでもない。

 まあ今回に限れば、油断した原因は明白だが。




〈name:螟ァ莠ャ蟇コ貔?干 class:不死者 cond:死 怨毒 Lv:44 HP:-0〉




 今も余韻なのかなんなのか、【見る】ことが出来ている奴さんの表示。

 御覧のとおり、レベルが俺より低い。【警戒】が知らせていた危険性もそこまで高いともいえず、だから気が抜けるのもやむなし……とするのはさすがに自分に甘いか。

 ちなみに今はHPが(マイナス?)0表示だが、最初に見た時は-133あった。だからなんだ、という話ではあるか。初めて見るcondも少し気になるが、その詳細もこのままわからずじまいとなるか。

 などと思っているうち表示も消えていき、




 てててててててててててててーんてててんてんてーん

〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レベルがあがりました〉




――status――


 name:久坂 厳児

 age:15      sex:M


 class:―

 cond:通常


 Lv:80


 EXP:3268  NXT:29


 HP: 469/ 469

 MP: 213/ 213


 ATK:546

 DEF:404

 TEC:204

 SOR:533

 AGL:466


 LUC:Normal


 SP: 3240/ 3240




――magic――


〔治癒〕〔蛍光〕〔浄化〕〔火炎〕〔雷鳴〕〔氷結〕

〔賦活〕〔解除〕〔防壁〕〔睡眠〕〔瘴毒〕〔消音〕

〔医療〕〔守護〕〔障壁〕〔衝撃〕〔影無〕〔幻奏〕

〔悠揚〕〔光彩〕〔放棄〕〔魔玉〕〔幻影〕〔暗闇〕

〔天恩〕〔示現〕〔曝露〕〔吸魔〕〔影縫〕〔魔封〕

〔蘇生〕〔極光〕〔城塞〕〔即死〕〔隕星〕〔業寄〕

〔仮初〕〔製薬〕〔注入〕〔収納〕〔念動〕〔鈍速〕

〔獣化〕〔読心〕〔錬魔〕〔入替〕〔歩加〕〔不動〕

〔陰陽〕〔忘却〕〔反転〕〔転移〕〔結界〕〔倍速〕

〔塩柱〕〔自爆〕〔核熱〕〔復元〕〔反射〕〔停止〕


――special――


【防御】【回避】

【鹿音】【八卦酔】

【手加減】

【広域化】【次連魔】【三倍座】

【精霊召喚】

【警戒】

【挑発】【威圧】

【見る】

【マッパー】【マーカー】





 例によって、レベル上昇。

 昨日に次いでまたいろいろと増えたり変わったり。休みの間の暇つぶしにはうってつけか。

 と、


「む」


 立ち眩み。

 いやこの感覚は、ここへ来た時と同じか。

 そう気づくのと同時に、景色と自身が前と同様にぐにゃりと歪むようにして――






「っと」


 ――次の瞬間、立っていたのはぼろぼろの屋敷のロビー。


「ひゃっ」

「!?」

「くっ」

「――!」

「……」


 ついでに喜連川以下の面子も、周囲に集い銘々驚きに声や息をもらしている。

 いや一人、古幸だけは座りこんで黙ったままか。“cond:睡眠”、継続中。


「……あ、れ? ここは」

「なん、だ……? どうなって……」


 呆然と呟く喜連川と、頭痛を堪えるような表情の賀集。


「なにかめまいを覚えて、それで……なんだったか……」

「夢を見てた……ような気がする。……や、ううん。よく覚えてない」


 大滝は現状を把握しようとし、志条も同様だが、両者とも上手くはいかない様子で。


 そんな中、事態を大体把握している俺は、さてどうしたもんか。

 説明も面倒だし黙っておきたいところだが、今寝こけている古幸があとでどう出るかが気がかりだ。余計なことを喋って欲しくはないが……けど見てそれとわかるような力の使い方をしたわけでもないし、なら問題ないか?


 などと考える途中、

 不意に働く、【警戒】。


「走れ!」


 感覚のまま、周囲へ叫び、


「崩れるぞ!」


 その事実を報せる。

 普段出さない声量もあってか、驚きの視線がこちらに集まる。

 一方でそこかしこから聞こえだす、みし、という嫌な軋み。

 それで皆、俺の言葉が冗談ではないと察し、一様に駆けだす。

 否、“cond:睡眠”のままの古幸だけは動かない。

 起こしたり治したりする猶予はなさそうなので、しかたなく抱えて、俺も駆けだす。


 開きかけの玄関の扉を、先頭を行く賀集が半分蹴破るように開け、外へ。

 他三人があとに続き、最後に俺も屋外へ飛びだす。

 同時に背後で、ばきばこ、というかなり剣呑な感じの音が。

 直後それは雷のような轟音に変わり、前方では女子らの驚いた悲鳴。

 そして風圧と、埃が舞うのを背後に感じる。


 屋敷から十分に離れ、林の入り口あたりまで駆けてきた一同。

 そうして背後をふり返れば、


「これは……」

「間一髪だった、な……」


 見事な瓦礫の山と化した“幽霊屋敷”。

 それを拝んで、賀集と大滝が呆然と呟いている。


「ん、う……?」


 ふと胸元から聞こえる小さなうめき。

 走った衝撃か、屋敷の崩れる轟音のせいか、とにかく古幸が目を覚ましたらしい。あるいは時間経過か自然回復で〔睡眠〕から復帰したのかもしれないが……もしそうなら、状態異常系魔法への認識をあらためなければらないか。そもそもあらためるほどの理解をまだ得ていない気もする。

 そう考えている間も、古幸は俺に抱えられたままもぞもぞと身じろぎし、


「あ……」


 やがて顔を上げ、こちらに気づくと、

 両手を俺の首にまわし、身を寄せてきた。

 端的に言えば、抱きついてきた。


「!?」

「――ッ、無事、だったんだね、久坂君ッ……よかった、ホント、に……!」


 顔をうずめた古幸の、くぐもった声が胸元から聞こえてくる。ちなみに「!?」というのは俺ではなく、脇で喜連川が息を呑んだ表現である。一応、念のため注釈。


「……アタシ、よく覚えてないけど、キミに、ひどいコトしたような……ごめん、なさい……調子のって、こんなことになったのに……それで久坂君がひどい目に遭ったらアタシ、あけみんにも合わす顔が、」


 自責の念を口にする古幸。


「その喜連川、なんか言いたそうな顔してっけど、今」

「……え?」


 しかしその途中で俺に指摘され、やおら顔を上げ、あたりを見まわし、

 そうして目が合った、当の彼女の親友はというと、一言。


「お姫様だっこ……」

「!!?」


 なんのこっちゃ。

 そう思う俺を余所に、古幸はというと動揺からか全身をびくつかせている。


「や! ぁ、ぅ、これはね!? そのっ、違――」

「そろそろ下していいか、古幸」

「やーあーうん! どど、どーぞどーぞッ!!」


 上昇したステータスに古幸の軽さもあって、たとえどれだけ身動きされようとも抱え続けること自体はなんの苦にもならない。しかし夜風が涼しいとはいえ、今は夏。いつまでもくっつかれていると汗とかしっとりしてきて、ちょっと暑苦しい。

 そう思い提案し、了承も得られたのでそのようにしたのだが、


「んっ、……あ、あれ?」


 降ろした途端、体勢を崩しすがりついてくる古幸。

 その様子をじっと見つめる喜連川がなにやら見たことない顔をしていて、目についた。


「ゆずちゃんもしかして、腰抜けた?」

「か、かもしんない……え? え、うそ……」


 近寄り、問いかけてくるのは志条。それに応じる古幸は、動揺半分我を疑う様子が半分、といったところ。自分の体が思うように動かないのは、運動部所属の体力自慢には受け入れがたいことなのかもしれない。

 【見る】限り、とくにおかしなcondはない。そこには表れない程度の心理的なもの、といったところか。


「歩けるようになるまで、休んでいくか?」

「う、うん。出来ればそうし……いや待ってスグル君、今何時?」


 大滝に問われ、答える途中で顔色を変える古幸。

 そうして呈された疑問に、端末を取りだして確認する各々。

 俺だけ手が塞がれていてそれが出来ない状態だが……はたして現在時刻は、


「マジか……」

「一時間近く経っているな……」


 そういうことらしかった。軽く愕然としている賀集と大滝、そして珍しく驚いた様子を見せている志条もおそらく、喜連川同様どこぞに閉じこめられて眠らされていたのだろう。つまり屋敷にいた時間を体感することが出来たかどうかは怪しく、だから驚くのも無理はないかもしれない。

 では意識を奪われなかった俺はどうかというと、こちらも少し驚いていた。妙な仕掛けに結構あちこち歩き回されはしたが、それでも体感は精々数十分程度だったはずだ。

 時空でも歪んだのか。

 あるいは俺も気づいていないが、意識が落ちていた時間があったのか。

 なんにせよすんだ今は、確かめようのない話ではある。


「早く戻った方がいい、よな?」

「戻ったところで大目玉かもしんねえがな」

「ありうる」

「では急ぐとして、古幸はどうする? まだ歩けそうにないようだが……」


 顔を見合わせる一同。

 そして大滝の言葉と同時に、皆の視線はこちらへと集まり……


「しゃあねえ、担ぐか」

「ちょちょちょ待って久坂君! なんで肩に持っていこうとすんのッ!?」

「不服か?」

「不服! KOMEDAWARA styleは乙女的にノウッ!!」

「んじゃさっきの持ち方か」

「そっ――れぇもぉ……」


 しかたなしと諦め運びにかかるが、その方法に難色をしめされる。

 見れば古幸は目を逸らし、なにやら顔を赤らめ、それからちらと喜連川の方を窺い、


「ぉ……」

「?」

「……おんぶでッ、まかりませんか……?」


 やがて妙な物言いで、おずおずと要望。

 そんな彼女に俺はなんとなく呆れて溜息を吐き、


「ほれ」

「っ――し、失礼します……」


 背を向け屈む。どの道運搬方法にこだわりなどない。

 ややあって、恐縮しきりにおぶさってくる古幸。

 その膝裏を両手で支え、立ち上がる。やはり彼女はつくづく軽く、あとほんのり柔らかい。

 ともあれそうして俺は“幽霊屋敷”跡から林を抜けるまで、古幸を背負って歩いた。

 さすがに神社の近くまで戻るころには歩けるようになったらしく、境内に入る手前で降ろして欲しいと頼まれた。その時点でもまだふらつくようだったが、高校生にもなって人前でおぶられるのも恥ずかしいのだろう。若干顔の赤い古幸を見て俺はそう判断し、それ以上手を貸すのは控えた。


 余談として、遅くなったことと“幽霊屋敷”への無断侵入については、きっちり叱られた。

 一同反省しきり。志条夫妻こわい。

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― 新着の感想 ―
[一言] KOMEDAWARA styleって、もたれる側が体を地面と並行に保たないと頭に血が昇らない?
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