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サメなので手足くらい生えるし魔法も使える

という風潮(サメ映画界限定)




   ■




 海に面して開いた洞穴だが、浸水しているのは入り口付近のみ。

 そこから少し奥からは上りの傾斜がつき砂地が露出している。

 そこまで這入り砂地に上がったところで、


 ごごん、と。


「お?」


 背後で洞穴が、その口を閉じる(・・・・・)


「……」


 いや実際、最初洞穴を目にした時、海面で口を開けるでかい魚のようだ、とも思いはしたが。

 真っ暗になってしまったので、ひとまず〔蛍光〕を灯しておく。しかしまさか、これを活用できる日が来ようとは。

 魔法の光に照らされた洞内は、見た感じもそして触った感じも、普通の岩としか思えない。

 しかし普通の岩窟が口を閉じるはずもなく。

 加えて閉じた瞬間から働き始めたのは、もはやお馴染みの【警戒】の感覚。


「つまり、そういうことだよな、こりゃ……」


 【警戒】の出所である洞の奥を見やり、一人呟く。

 新手の“レベル持ち”

 そうでなくても俺を脅かしうる存在が、この先に確実にいる。


 しかし旅先で、しかも脈絡もなくこんな事態に出くわすとは……正直少し、期待はしてた。地元で他の“レベル持ち”と遭遇できないなら、出先ならばあわよくば、とか。

 そんな美味い話そうそうないだろう、とも思っていたが……

 あるいはこの先にいるのが並外れた脅威で、今日俺は死ぬのかもしれないが、


(まあそうなったらなったで、そんだけか)


 どのみち、ろくでなしが一人死ぬだけ、と。

 ここに這入った時と同様、たいした気負いもなく俺は洞の奥へと進む。


 洞はゆるやかに左へ曲がってから、以降はゆるく弧を描くような右曲がりに。なんとなくだが、岩場の外壁に沿って通じているような気がする。

 【マッパー】は屋内形式に切り替わったが、表示自体は予想どおり全面真っ黒……と思いきや、黒地の中央に白抜きで“NO DATA”の文字が。情報が取得できていないのではと思ったのも、あながち間違いでもなかったか。とはいえ、なんもわからんのに変わりはないが。


 そもそも洞は枝分かれもなく一本道なので、【マッパー】の必要性は感じず。

 多少上り下りはしたが、道のり自体もさほど長いものでもなく――


「おお」


 ほどなく行くと、開けた場所に出る。

 ちょっとしたドームという感じの空間で、広さは体育館、の半分くらいか。

 砂地のところどころに、岩や水溜まりのある底面。壁面はこれまで同様岩盤。

 そして壁面上部と天面付近に裂け目か穴か、何箇所かから外光が漏れ、注いでいる。


 童心を刺激するような光景。

 それこそ、地元の小学生などが遊び場にしてもおかしくなさそうな場所といえる。




 奥の壁際に、正体不明の巨大生物がうずくまっていなければ、の話だが。




「なあんだ、ありゃ」


 思わず間抜けな声が出る。


「――、…………」


 唸りか、いびきか、そんな感じの音を発している“それ”。

 丸まった背に太い腕と、おおまかな形はヒトのようにも見える。

 しかしその背から伸びるのは……ひれか?

 飛行機の翼のような一対のそれは、まずヒトにはありえない部位。

 むしろそう、鮫のひれ。肌の色も灰色で、質感もそれっぽいし。


「…………!」

「うお、起きた」


 やおら体を起こす謎生物。

 膝立ちの姿勢になったその姿は……いや本当になんだこいつ。

 体幹、それに手足は、やはりおおまかにヒトっぽい。

 膝立ちの姿勢で三メートル近くはありそうなので、ヒトでないことは明らかだが。

 人間の胴ほどの太さの、筋骨隆々の手足。前腕にもひれがついていて、指先には鋭い爪。長い尾も持つらしく、背後でそれがゆらゆらと揺れている。あ、尾の先はやっぱ尾びれなんだな、鮫の。

 そして顔面、頭部は、これもやはりというかおおまかに鮫。

 さらにはどういうわけか、頭頂部に磯巾着のようなものがついている。あたかも王冠のようなそれは……いややっぱ磯巾着にしか見えねえわ。うねうね動いてるし。


「……、……」


 一歩、二歩と、こちらに近づく謎生物。歩法はヒトのものよりゴリラに近いか。腕と脚が同じくらいの長さなので、そうするしかないのかもしれない。


「で、本当にいったい、なんなんだ? お前」

「……」


 試しに話しかけてみるが、返答はない。言葉が通じるのか、そもそもそれだけの知能があるのか……()えような気がすんなあ、見た目的に。


「――」

「?」




「――――――――!!!」




 突如、咆哮。


「ぐっ……!」


 岩壁をも震わせるかのような謎生物の叫びが、衝撃をもって俺の身にも襲いかかる。

 つかダメージ入った。HPにして8。鼓膜を痛めるような代物でないのは幸いか。

 ついでとばかりに膨れ上がる【警戒】の感覚を受け、


「……とりあえずやる気はまんまん、か」

「……!」


 向こうさんの気概を見てとり、溜息混じりの呟きが出る。

 それを理解してかいないでか、まるで笑うかのように牙を剥き出しにする“それ”。


「まあどの道、」




〈name:??? class:大喰 cond:通常 Lv:?? HP:????〉




「レベルがあんなら、殺すまでか」


 【見る】で出てきた案の定の表示に、一人頷く。

 “Lv:??”――格上の“レベル持ち”

 そしてなんだかわからん、鮫頭……巾着頭? ……いややっぱ鮫頭の、謎生物か。


「とりあえずいろいろ試すか」


 相手はでかく、加えて表示が“HP:????”。

 これまでを鑑みれば、“?”の数はそのまま桁数を表す可能性が高いと思われる。

 的が大きく頑丈そうな手合い。magicやspecialを試すのにはうってつけか。見て明らかに異常とわかる力な以上、おおっぴらに他人に向けて使える機会というのは意外にない。……この場合相手はヒトではないがまあ、“レベル持ち”ではあるわけだし。


「んじゃ上からいくか」


 ひとまず攻撃魔法から。〔火炎〕、〔雷鳴〕、〔氷結〕と、続けざまに魔法を放っていく。

 といっても魔法の連続使用には溜めというか、使ってから次に撃てるまでに若干間が空く。前に撃った魔法が着弾し消えてから一秒……はないと思うが、とにかく断続的な連射となる。


「! ?! ~~!!」


 ゆえに鮫頭への被弾は、ぼうん、ばちぃ、ぱきぃ、という感じ。

 予告も予備動作もなく飛んで来た攻撃に、身じろぎ頭をぶるぶると振る向こうさん。

 やはりそれなりに耐久力があるのか、せいぜい小突かれた程度しか効いていないようだ。

 鬱陶しさ七割、動揺三割、といった様子でこちらを睨めつける鮫頭が、


 不意に踏みこみと同時に、その腕を振り上げる。


「!!」

「おっと?」


 すると動作に合わせて射出されるのは、水色の弾丸。

 かなりの速度に驚きつつも、ひとまずかわす。

 背後でばしゃあ! と飛沫のような音。


「向こうも飛び道具持ち、か」

「……!」


 勢い数歩左へ行きつつ、頷く。

 そんな俺を見て、ほくそ笑むような唸りを上げる鮫頭。『その程度、自分にも出来る』とでも言っているかのよう。

 先程の向こうのmagic(?)、弾の大きさはバレーボールほどあり、速度も俺の〔雷鳴〕より速いかもしれない。しかし思えば、こういう魔法的な攻撃を他者にやられるのは初めてか。いきなり来ると結構驚くな。


「――――!!!」


 鮫頭が、腕を無茶苦茶に振りまわし始める。

 そのひと振りひと振りで飛んでくる、水色弾の連打。


「よっと、っと」


 しかし来るとわかっていれば、避けられない速度でもない。

 【回避】の感覚を使うまでもなく、とんとんと危なげなく弾道から跳び退いていく。


「おっと」


 ただ、足場には気をつけた方がいいかもしれない。

 ところどころにある水溜まりは、いくつか意外と深いものもあるようだ。近づかないとわからなかったそれを、つんのめりつつもなんとか跳び越す俺。


「!」


 それを隙と見たか、鮫頭の狙いすましたような射撃。体勢的に避けるのは無理と判断し、俺は仕方なく【回避】の感覚を使いつつ【防御】の左手の甲を構える。


「――っ」


 ばちっ、と目の前で弾ける飛沫。

 ダメージはないが、そこそこの衝撃。

 無防備の脳天に喰らえば、おそらく少しの間意識が飛ぶだろう。そんな感じに威力を見積もる。


「そういや、あれ忘れてたな」


 ふと思い至り、自分にmagicを使用。

 使うのは〔防壁〕、〔障壁〕、〔守護〕そして〔悠揚〕。効果は順に物理、魔法防御力上昇、自身に不利になるcondの防止、そしてHPが減った場合徐々に回復させる、といった具合。

 ようするに守りを固めたわけだが……これも正直、どの程度効果があるのかまだいまいち判然としないところはある。まあないよりはましだろう、程度の判断。


 魔法をかけながらも足は止めていない。止まったら水色弾の餌食だから当然だ。

 彼我の距離は十メートルほど。

 射線から逃れるよう左右に動きつつ、機を見て次に放ったのは〔衝撃〕。


「!!?」


 見えない攻撃に動揺を見せる鮫頭。様子からして〔火炎〕等よりは、やはり効いているか。

 不意に弾の連射を止め、顔をうつむける向こうさん。


「……――――――――!!!」

「またか!」


 それから両手を地べたにつけ、再びの咆哮。

 とっさに両腕で【防御】姿勢。同時に腕に走る衝撃。

 先程よりは軽減できたかもしれない、と思って確認すれば、ダメージ0。


「~~~~~!!!」

「おおう」


 三度の咆え声に目を戻せば、こちらへ突っこんで来る鮫頭が。どうもダメージになる声とそうでないのがあるらしい。前者はspecialかなんかで、後者はただの行動か。

 などと思っているうちに振り上げ、振り下ろされた鮫頭の大腕が迫る。せっかくだから、力比べでもしてみようか。横薙ぎ気味に振り下ろされる大腕を、迎え撃つように拳を合わせ――


「――おげ」


 ぶっ飛ばされました。


「っが! っは……!」


 一瞬意識が飛び、気づけば膝立ちにうなだれていた。岩壁に叩きつけられ、そのまま落ちたのだろう。ぐわんぐわんと戻る視界から、俺はそんな風に当たりをつける。

 まったく、完全に油断していた。なめていた、ともいえるか。

 あちらさんのが、膂力は圧倒的に上らしい。

 加えて体格差、重量差もあるだろう。というか普通に考えたらそうなるよな、という話か。


 驕った、かもしれない。

 非常識な力を身につけたとはいえ、

 俺が今まで死なずにすんだのは、結局のところは“たまたま”でしかないというのに。

 白いの――“切り裂きキラー”に遭った時にも、似たような油断をしたにもかかわらず、

 なんというか、学習しねえなあ、俺。


「そりゃ、殺されもするわな。わけわかんねえ化物相手なら、なおさら……」

「…………!」


 知らず、ぼそりと呟かれる独り言。

 その意味をわかっていてかいないでか、のしのしと四足で詰め寄ってくる鮫頭。


「……まあ、だからって」


 牙を剥き出した、笑顔のような鮫頭を見上げ、


「素直に殺されてやるつもりは、ねえけど」


 こちらも不敵に笑い返す――

 そんなことが出来るのならば、多少は気の利いた反応なのかもしれない、などと、

 衝撃でまだぼんやりした頭のまま、なんとなく俺は思う。

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