呪いは愛する者のキスではなく、この鏡で解けることは殿下には内密に
故意に教えないわけではありませんのよ?
問われればいつでも教えて差し上げますのに、わたくしの元へおいでにならないので教える機会がないだけですわ。
呪いで犬の姿にしただけで言葉は話せますし、問題があるとすれば興奮するとワンワンと吠えてしまう事くらいです。
しかもわたくしが持つこの鏡に姿を映せば元通りになるのですから、騒ぐ必要はありません。
あら、わたくしとしたことが食事も忘れて話に夢中になるなど、はしたない姿をお見せしました。あの令嬢のことをとやかく言えませんわね。
もう行かれるのですか?
呪いの件、殿下には内密にしてくださいませね。
「ワンッ!」
「兄上、落ち着いてください」
「ワンワンワンワンッ!」
「これが落ち着いていられるかと仰っているのですね」
「ワン……違う、もう大丈夫だ。話せ」
「お元気そうでした」
「ワンッ!……うぅ…そうじゃない。呪いを解く方法はわかったのか?」
「はい」
「……ゥワ…そ、そうか!では教えてくれ」
「それが、教えてはならないと言われましたので」
「ワン!!」
「フレデリカ様にお会いになれば教えてくださいますよ」
「……嫉妬でわたしを犬にするような者にわたしから教えを請う? バカも休み休み言え」
「あれは兄上が悪いのですよ。フレデリカ様の気を引くためとはいえ、レイチェル嬢と仲睦まじくしすぎです。いつもあのお胸を腕に当てられていたら仕方のない話ですがね」
「ワンワンワンワンッ!!」
「ああ、失礼しました。そのような下品な理由ではないのですよね」
「あ、当たり前だ。あれにはわたしも困っていたのだ」
「確かにフレデリカ様はレイチェル嬢に怪我を負わせましたが、ほんのかすり傷でした。牢に入れるほどのことですか?」
「……未来の国母たるもの嫉妬で人に手を出すなどありえない」
「婚約者様にはお厳しい」
「それより呪いを解く方法はやはり愛する者のキスか?」
『キスで呪いを解こうとしたら二度と人間には戻れません』
「……そうです」
「ワンワンッ…ではなく、やはりそうか!」
「殿下、やっとお目にかかれましたね」
「ワンッ!」
「良い毛並みですね。撫でてよいですか」
「ワン……ではなく! 呪いをとくために来た」
「はい」
「目を閉じろ」
「……あの」
「呪いはキスで解けるのだろう?」
「あの」
「違うのか」
「違います!! あの……わたくしでよろしいのですか?」
「愚問だ。弟よ、いつまで見ている。もう大丈夫だから行っていいぞ」
「……チッ」
いま気がつきましたが、弟の敬称も殿下ですよね……そのあたりは目をつぶってください。
弟が王太子の座を狙っていたのか、フレデリカを狙っていたのかはハッキリ決めていませんが、どちらもという感じで。