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婚約者って必要?

お父さまはアナスタシアさんを溺愛です。

 私以上に動揺してパニックになったおとーさまは、侍女長さんに一喝されて大人しくなった。カッケェスッテキー。


 おとーさま曰く、私がおバカな理由で意識不明の間、亡きお母さまの忘れ形見である私になにかあったらと、そらもうなにも手につかない日々を過ごしていたそうで、テンションがおかしくなっていたのだと。


 そういや目の下にクマさん常駐させとんなと思ったわ。前世は見慣れた光景だったから流してたよ、ごめんね。


「意識が戻ったのは喜ばしいが、しかし、記憶喪失とは」

「ごめんなさい」

「いや、謝ることはないよ。ただ、記憶は戻るのかい?」


 前半は謝った私に、後半はお医者さんに問いかけるおとーさまは結構やり手の実業家っぽい。


「確実とは申せません。なにかのきっかけで戻ることもあれば、そのままかもしれません」

「そうか」


 戻らないかもしれないな。ラノベとかみたいに眠ってる間に記憶が混合した覚えもなければ、別人格として身体が覚えてる記憶を知ることもできない。


 症状的に、階段から落ちて頭を打った衝撃で、アナスタシアさんの魂がどっかに飛び出て、替わりに前世でなんかあった私の魂がアナスタシアさんの身体に入ってしまった感じ? うん、それが1番しっくりくるかな。


「……うん、さて。アナスタシア」

「はい」


 なにやらぶつぶつ言ってたおとーさまは、私に向き直った。私の返事に頷くと朗らかに話し始めた。


「君は一応、公爵令嬢としてこの国の第一王子の婚約者候補だったんだが、どうしたい?」


 一応? え、どうしたいとか私に聞くの? 聞いていいやつ? 決定権私にないやん?


「どう、とは?」

「うん、今までの公爵令嬢としての教育も、王子妃教育も忘れてしまっているだろう? 君がまだ王子妃になりたいのなら、教育し直すしかないんだけど」

「ああ、はい、そうですよね」


 アナスタシアさんの全てがリセットされてる今を、おとーさまはちゃんと理解してるんだね。そして、アナスタシアさんはどうやら王子妃になりたかった模様。ならば、アナスタシアさんには申し訳ないが私の結論は決まってる。


「公爵令嬢として学び直すことと同時に王子妃教育は、私には無理かと思います」


 アナスタシアさん、ひとりっ子だから本当なら婿取りだったはず。けど、本人の希望を聞いてくれてたんだと思う。そして、候補ということは、私の他にも王子妃になれるご令嬢がいるということだろうし。


 おとーさまも一応と言ってたし、私の候補ランクは低かったんじゃないかな。なんか残念なドジっ子だったみたいだし、アナスタシアさん。


 なら、そんなめんどくさそうなものは放り投げてしまえ。今なら許されるだろう。


「そうか、辞退してもいいんだね!? じゃこれから王宮に行ってくるから! 撤回は出来ないよ!?」

「はい」


 言うなりおとーさまは駆け出して行った。あーっ、とか叫び声が聞こえたから、どこかでコケたんだろう。階段じゃないだろうな? ……アナスタシアさん、父親似だな多分。



 そんなのほほんと私がお茶シバいてる間に、王国の宰相である(らしい)おとーさまの手で、その日の内に、私の名前は王子妃候補から消えたのだった。仕事早ー。



 ケガの療養が終わったら、家庭教師をつけてもらって、公爵令嬢教育を再度受けることになった数日後。


 お医者さんの許可が降りたその日、私にお客様が見えた。


 第一王子とその取り巻き御一行だそうで。


 ……なにこのラノベ感。



お父さまドジっ子の予感

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