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届けたい音がある。  作者: 奏多 悠
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あの笑顔をもう一度

『苦痛』

 一世を風靡したはずの、今では落ちぶれた会社の駐車場。

 愛用してきた車の中でタバコをふかして、くだらない思い出話でもしようか。

そう言えば、俺たち夫婦が律にピアノを習わせたのは律がまだ三歳の頃、妻でありピアニストでもあった理恵の提案だった。

 小さい頃から音楽教育をすることは、その後にとてもいい影響を与えると言うらしいうえに、俺自身もピアノは好きだったから、もちろんその提案には賛同した。

 律が三歳くらいの頃から教え始めて、律が小学生になってすぐの頃に、今度は俺の提案で、グランドピアノを買い与えた。

 律はそのピアノを本当に、これでもかというくらいに大切にしてくれていた。学校から帰れば必ずそのピアノで可憐な演奏を繰り広げ、毎日手入れもかかさなかった。コンテストやコンクールには、出場するたびに最優秀賞を取って、トロフィーと賞状をもって俺たちのところまで帰ってくる。

 律の活躍で俺の顔までたち、会社の経営もうまくいっていた。

 明らかに幸せな一家の形をしていた。

 しかし、そんな中で理恵の体調は悪化していった。

 仕事のない日はもちろん俺が律の演奏を見ていたし、家事も代わりにやっていた。しかし、それでも理恵の調子は戻らなかった。そして律が小学二年生の頃に、理恵は自宅で倒れ入院することになった。

 もちろん俺は理恵の病室に向かった。

 しかし俺のいない病室の中で聞こえたのは、理恵のお義母さんの声から発せられた衝撃の言葉だった。

 「あの男は一体何をしていたの」

 「巧真さんは私のために律の面倒も見て、家事もやってくれていたわ」

 「そんなわけないでしょ!?本当にそうなら、こんなことになったりしないわ!」

 そんなことはないと必死に反論する理恵を他所に、お義母さんは怒鳴り続けた。

 「もういいから出てって」

 静かにも憤りを含ませた理恵の言葉に、もう発する言葉がなくなってしまったのかお義母さんは黙り込んだようだった。すると間もなくドタドタ足を鳴らして歩く音がして、ドアの方へ近づいてきているのがわかった。しかし俺は構わずそこから動かない。

 勢いよくドアが開いて、お義母さんは驚いた様子だった。しかしすぐに表情は変わって俺を睨みつけた。

 「何、盗み聞きでもしてたわけ?」

 それは怒りに任せた目つきをしていた。

 「…いえ……」

 わざとらしい深めのため息を吐くと、それ以降は何も言わずに去っていった。病室内に目を向けると、俺を見て驚いた顔をしている理恵がベッドに横たわっていた。

 「ごめんなさい……」

 歩み寄ると、理恵は申し訳なさそうな顔で俯いた。

 「なんで君が謝るの。いいよ、気にしてない」

 椅子に腰かけそう言うと、理恵は安心したような微笑みを見せた。頭を撫でると頬を赤らめた。

 「どうだった?」

 切り出して病状はどうだったかを聞くと、理恵は目を伏せた。

 「……大丈夫よ」

 言葉を選んでいるようにも見えた。けれど、理恵の口から出た「大丈夫」がそうではないことを示していることくらいならわかった。

 「……巧真さん」

 力ない声で呼びかける理恵に、俺は間髪入れずに反応する。

 「何?」

 「……もう、ここには来ないで」

 躊躇いながらも、その声と言葉は確かだった。

 俯き声を震わせながら理恵はそう言い、そのまま黙り込んでしまった。

 黙り込む理恵の横で、ずっとその言葉の意味を考え続けた。

 お義母さんの嫌味から守ろうとしているのか?

 仕事のことを心配しているのか?

 「それ……どういう」

 掘り下げて聞こうとしたが、理恵は首を振ってそれ以外に何も教えてはくれなかった。

 また沈黙が落ちた。けれど、やっと理恵は口を開いてくれた。

 「お願い」

 理恵はそのあと何も言わなかった。面会終了時間になり、看護婦さんが病室に入ってきて俺に呼びかけた。結婚して初めて、理恵との何かの距離が生まれてしまったと思った。理恵が「来ないでくれ」と願った理由だけは、どうしても理解できなかった。

 そしてその頃のことだった。俺の部下の不祥事で会社の経営に大打撃。俺の会社は一気に経営難に陥った。新商品も、これまで売れていたはずのものも売れなくなった。

 そんな俺の情勢とは裏腹に、律のピアノに対する意識は高まり、その質も格段と上がっていった。数々の賞を俺の元へ持ち帰っては弾けるような笑顔で、健気に理恵の回復と俺からの激励を待った。

 しかし仕事で駆けずり回るようになった俺は、理恵への見舞いも満足にはいけないようになった。コンテストに律が出場するたびにそれを見に行く俺に、どこかの大人たちは口を揃えて、「お父さんとは大違いの息子だ」と褒めるようになった。

 俺の父親も、俺の経営悪化を知って叱咤した。

 「そんなんでどうするんだ」と。

 気づかない間に俺の頭の中はパンクしてしまっていた。理恵に会いたい一心で面会申請をしても、「面会拒否」と言われるばかりだった。それが理恵のしたことなのか、お義母さんの仕業かはわからなかったけれど、少しずつ、少しずつ俺の心は荒んでいった。

 俺の堕落とは対照的に輝き続け認められる律を見ていると、なぜか胸が苦しくなった。

 もちろん、律に対して嫉妬なんてしていなかった。会わせてくれない理恵に苛立ちを覚えることもなかった。それでも、心は疲弊しきっていた。

 そうやって数年たって、律が小学四年生の時、俺が最期を看取ることもないまま理恵はこの世を去った。葬式には参加しなかった。

 もうその頃には、俺の中で理恵を愛する気持ちが掠れてしまっていた。

 しかし理恵が亡くなってもなお、律はあのピアノを愛し、あのピアノで理恵が好きだと言った曲を何度も弾き続けた。それはまるで、「忘れさせない」と言わんばかりに。

 仕事に明け暮れ帰ってくれば、毎度のようにピアノの音がしていた。

 俺自身の中に、見舞いに行かなかったこと、葬式に参列しなかったことには、それなりの罪悪感があった。それでも俺は仕事を理由にそれをすべて忘れたがっていた。しかし、律の演奏はそうはさせまいと俺の耳に、心に響き続けた。

 全て自分が悪いとわかっていても、周囲の俺への批判は受け入れられなかった。

 全て自分の責任と知っていても、その全てから俺は解放されたかった。

 俺の中ですべてが嫌になってしまった。

 大の大人がこんなことを言うのは、餓鬼のようで情けないのだろう。それでも、それすら仕方がなかったと言い訳をしたかった。自分の会社のことも気にかけながら、ピアノに邁進する律の面倒を見て、体の弱い理恵の代わりに家事もして、平日はまた仕事に追われて、それが会社を持つ者の運命とでもいうのだろうか。「男」というだけで、一人馬車馬のように動かなければならないのだろうか。「夫」というだけで、自由を奪われてしまうのだろうか。理恵を楽にさせるために昇進して社長に就任したはずなのに、就任したら途端に理恵の家族の風当たりは強くなり、しまいには「ダメ夫」のレッテル。次第に会社の経営は悪化して、何も知りもしない他人に俺を勝手に評価されて、悪く言われ、律ばかりが褒められて俺は落ちぶれていく日々。

 俺には、何が残っている……?

 自責の念に駆られる日々だった。自分でも自分に辟易としていた。こんな自分に、父親を名乗る価値もないと思っていた。

 それなのに、そんな俺を見ても、律は俺が与えたピアノを愛し、俺が好きだと言っていた楽曲を弾き続けていた。

 俺はその想いを、素直に受け取ればよかったはずだった。

 素直になっていれば今頃律を苦しめることは無かったはずだった。

 自分でも自分が見えなくなった俺は、相も変わらず俺を待ち続ける律に、苛立ってしまったのだ。

 あの日俺は、律の帰りが早いのを知っていて、律よりも早く家に戻った。

 知人から借りた金属バッドをもって、靴を脱ぎ散らして中へ入り、律の愛するピアノのある部屋へ向かった。

 壊すつもりでピアノの前に立った。

 ふと部屋を見渡して視界に入ったのは、理恵、律、俺の三人が映った写真だった。幸せそうな理恵の笑顔、律の笑顔、そして俺の笑顔。見ているだけで胸が苦しくなった。悔しさからだったのだろうか、バッドを床に落とし、飾られた写真の額を棚へ投げつけた。割れたガラスも構わずに写真を取り出して、一心不乱にビリビリと破いた。俺の顔だけは跡形もなく見えなくなるように。

 俺の視界はぼやけていた。手の甲に冷たいのか温いのかわからないものが落ちる感覚がして、それが涙だと頭が認知した途端に、それは絶え間もなくボロボロとこぼれ落ち続けた。蛇口の栓を開け放ったように流れ続けた。全て破いて立ち尽くしていると、庭先で鈴の鳴る音がした。その鈴が、俺が律にあげたお守りについていた鈴の音だということはすぐに分かった。

 ここでやめて律に謝ればよかった。それなのに、俺の手は止まることが出来ずに、床に転がったバッドをもう一度握りしめ、振りかぶって勢いよくピアノを叩いた。

 叩く度に壊れ落ちていくピアノと、その崩壊していく音に嗚咽が混じる。

 もう、満身創痍だった。

 こんなことをする前もずっと、俺を慕う律が怖くて何度も殴っていた。

 全ては言い訳に過ぎない。けれど、もう何もかもどうでもよくなっていた。

 全て壊しきっても、俺の心は満足なんてすることなく空っぽなままだった。

 恐怖に怯える律の顔を見て、俺は何を思ったのか笑っていた。思ってもいないような言葉ばかりが口から出ていた。絶望する律を尻目に、俺の涙は疾うに枯れていた。

 律の全てを奪った後で、俺は家から離れて車の中で一人泣き続けていた。

 もう、人間にすら値しない存在だと思った。

 仕方がないと言ってしまいたかった。もう自分でも自分のことがわからなかった。なぜあんなことをしたのか、なぜ律に当たり続けるのか、どうしたらいいのかなんてことは、自分の力ではわかりようもなかった。

 あの日から俺は家に帰ることはほとんどなくなった。

 もう律の顔も見れなかった。それだけではなく、律の前に現れる権利もないと思った。

 それから数年、俺が家に帰るのは年間に片手で数えられるほどになった。

 そして今。

 律は高校生か……。俺はいなくても、親戚がいるよな?

 親戚が頼りなくても、あの子と一緒なら生きていけるよな?

 俺がいなくても……。

 目を閉じて全てを覚悟した。

 これでいいと。

 薄れていく意識の中で脳裏によぎるのは、誰よりも幸せだと確信したはずの幼い律との記憶だった。直接ごめんと、言えばよかったか……?

 ごめんな、律。




『不器用』

 律へ。

 まず最初に、律、今までごめん。

 母さんのことも、ずっとごめん。

 俺がもっと律のために、母さんのために邁進すればよかった。

 母さんに、もう会いに来ないでくれと言われた日から、俺は何かを見失ってしまったのかもしれない。周囲の何も知らない奴に好き勝手言われることにも、耐えられなかった。

 でもきっともっと別のやり方で、二人を支えていく方法はあったのかもしれない。

 仕事を理由に律にも構ってやれなくなったな。

 俺は、律のために何ができたかな。

 酒に溺れて律に手をあげて、なによりもかけがえのないピアノをお前から奪って、思ってもいないような言葉ばかりを律に浴びせて。

 父親なんてもの以前に、俺は人間として失格だと思うよ。

 母さんのことも、律のことも、初めから今の今まで何も変わりはしない。二人をこの世界の何よりも愛している。今こんなことを言われても、俺を赦す気にはならないと思うけど、せめてこれだけは知っておいてほしい。

 律、お前の音は沢山の人を幸せにできる。

 俺は律の演奏が、惚れ込んだ母さんの次に大好きだ。

 こんな伝え方でごめん。

 こんな終わり方でごめん。

 こんな父親で、ごめん。



 便箋に連ねられた言葉から感じたのは、ねじ曲がって生きてきた、いや、そうせざるを得なかった父の苦しみに満ちた叫びだった。

 その手紙が何を意味するのか、こんなにも謝罪の言葉で満ちた手紙を見れば、ある程度の察しくらいはつく。でも、探しに行こうにもどうするべきかわからなかった。

 今度こそ僕の演奏で、父に認めてもらおうって思い切った矢先、どうしてこんなことになったのかわからなかった。一体父の、何がそうさせるだろうか?

 これじゃあの時と同じだ。父が壊れていった理由を知れないまま……。

 力が抜け項垂れていると、突然僕の携帯に電話がかかってきた。

 「りっちゃん!?」

 電話に出ると開口一番で相手は僕をそう呼んだ。でも呼び方で、その日とが親戚の万里子おばさんだということはわかった。

 「お父さんが……」

 万里子おばさんの声は震えていて、何かに怯えているようだった。

 「……病院で入院することになったの」

 万里子おばさんはそういうと、何も言わなくなってしまった。いや、微かに電話口からは嗚咽のようなものが聞こえた。僕には、なんとなくどうして入院することになったのかわかっていた。こんな手紙とお金を残して消えるなんて、「それ」以外に何がある?

 「……とりあえず、今から迎えに行くから家にいてくれる?」

 万里子おばさんは嗚咽を押し殺し、無理やり声を振り絞って出していた。

 「あ、いや、バスで行きます」

 申し訳なくなり、僕はそう返した。

 電話を切ってから、携帯と財布だけを持って家近くのバス停まで走った。

 バスに乗り病院近くまで行く。

 バスの中で、僕の心はバスの振動なんかよりも激しく揺れ動いていた。焦る気持ち、心配な気持ち、動揺、入り乱れて複雑な心模様をしていた。

 バスを降りて十分ほど歩くと、万里子おばさんに言われた病院に着いた。

 父の名前と僕の名前を名乗り、看護婦さんに案内されるまま茫然と廊下を歩いた。エレベーターに乗り、降りてから数歩くと、廊下で待っていてくれたのか、向こう側から電話口と同じ声の人に名前を呼ばれ合流し、父が眠る病室に一緒に入った。

 病室は父一人だけの個室で、人工呼吸器をつけて、腕に管を通された状態の父は、ピクリと動くこともできず、ただ横に倒されただけの人形のようだった。

 無機質で単調な心拍計の音だけがしていた。

 すぐにお医者さんが来て、僕らに父の容体を説明してくれた。

 父は車の中で眠ったように意識を失っていたらそうで、検査結果としては練炭を使用した自殺未遂だったそう。万里子おばさんは、父が自殺未遂をしたことを話すかどうか決めあぐねていたらしいけれど、僕としては知らないより知れた方がいいから、別に構わなかったけれど。諸々の説明が終わってから、万里子おばさんに促されベッドの横に置かれた椅子に腰かけた。

 動きもしない父の体を横に、僕の感情はあっちへこっちへと散在していた。

 こんな状態の父を見ても、手に触れることは怖くてできなかった。

 幼い頃は毎日のように手を繋いで歩いていたはずなのに、いつから父の顔すら見るのが怖くなったのか。いつから父の姿を見ることすら嫌になってしまったのか。

 「人は失って初めて大切なものに気づく」というけれど、父は気づいたのだろうか?

 そうやって眠る中で、父は気づいてくれるのだろうか?

 「妻」という大切な存在を亡くしたのに、どうして狂ってしまったの?

 そうやって、僕を置いていくの……?

 視界がぼやけて、心はぐしゃぐしゃだった。

 父に聞かせるためのピアノを何度も芽衣と練習して、今度こそ父を会場に招待して驚かせようって話もして、僕にとっては一番近しい存在である翔さんに会って、少しだけでも背中を押されて最近少しずつ勇気が湧いてきて、頑張れるって思ったんだよ。

 父に戻ってきてほしくて。もう一度だけでいいから褒めてほしかった。

 死んでしまうことを選ぶくらいなら……。

 万里子おばさんの温かい手が僕の背中を撫でた。

 でももうなにもわからないよ。今の僕がやろうとしていることは、本当に意味のあることだろうか……?


 眠り続ける父のそばには万里子おばさんがいてくれるそうなので、学校もある僕はその言葉に甘えてとりあえず家に帰ってきた。

 家に帰ってきても、僕の中の複雑な気持ちが解消されるようなことはなかった。

 ……こんなに、僕を苦しめたのに、そんなに呆気なく消えてしまうのか。

 ふとそう考えた瞬間に、心の奥底に眠っていたのか、今湧き上がって来たのかわからないけれど、でも、理性なんてものでは抑えることが出来ないほど心がむしゃくしゃした。

 靴を荒々しく脱ぎ捨て、僕は自分の部屋へ駆け込んだ。

 クローゼットを開け放って、その中から数々のトロフィーを強引に引っ張り出して、ガラスで出来ているのすら構わずに壁に、床に投げつけて壊した。

 トロフィーが壊れていく音は、まるであの日の、ピアノが壊れていく音に似ていた。僕の大切なものが、壊れていく音。大切なはずのものを、壊していく音。

 死のうとしているのか、ただ消えようとしているのか。

 僕はなんで今家にいて、こんなことをしているのか。父が危険かもしれないのなら、今すぐ家を飛び出して探しに行けばいいはずなのに……。

 もうわからない。わからないんだよ……。

 ほとんどのトロフィーを壊しきって、最後の一つを手に取った時だった。

 一番奥にしまい込んでいたそれは、母が亡くなった日、僕が初めて父に音楽を届けたいと願った日。見事に賞を取ったそのトロフィーは金色に輝いて眩しいはずなのに……。

 振りかぶって壊そうとしたのに、その瞬間急に体の力が抜け落ち、へたりと床に座り込んでしまった。

 項垂れてトロフィーに刻まれた自分の名前を見つめた。

 思い返せば、僕は誰のためにピアノを弾いていたのだろうか。

 今僕が自分の音を取り戻したいのは、一体何のためだったのだろうか。

 父に、あの頃の父に戻ってきて欲しかった。でもいつの間にかそんなこと、諦めてしまっていた。……いや、違うのか。諦めてなんていなかったのかもしれない。でも、僕の音では、芽衣のように誰かを「幸せな気持ち」にさせることはできない。

 何もかも今更なんじゃないのか?

 死ぬことが正解、なわけない……。

 もう何もかも、意味なかったじゃないか!

 握りしめたトロフィーをもう一度振りかぶった時、インターホンが鳴る音がした。

 うるさくてどこかの家の人が注意に来たのだろうか。

 僕はトロフィーをベッドに投げ捨てて玄関へ向かった。モニターで確認することもせずに玄関を開けると、そこには女の人と思しき人が二人、目の前に立っていた。

 「律!」

 同時に名前を呼ばれて、その声が芽衣と松井先生だとすぐにわかった。

 松井先生がいるとわかったところで、今の自分に愛想を保っている余裕なんてどこにもなかった。適当に会釈をすると、急に腕を引かれた。

 されるがまま引っ張られると、体中に誰かの温もりを感じた。

 頭に触れる手の感覚には覚えがあった。そして唐突に僕が今松井先生に抱きしめられているのだと気づいた。

 松井先生はそうした後もずっとし続け、でも何も言わずにただ強く、「離さない」といわんばかりに抱きしめ続けた。

 「……律は、生きて」

 芽衣が不意に僕にそういった。

 その感じはきっと、父に何があったかを知っているんだ。誰から聞いたのだろう?万里子おばさん?そういえば、二人は仲が……。あぁ、もうわからないからどうでもいいや。

 「……もう、何も意味がない」

 そっと松井先生が僕から手を放す中で、不意に僕の口からはそんな言葉が漏れてしまっていた。

 芽衣はそんな顔をしたのだろうか。松井先生は、何を思っただろうか。

 「そんなこと……」

 「ないわけないじゃないか!これで父さん死んだら、もう僕がピアノを弾く意味が何もない!誰のことも幸せにできないなら、価値がない!」

 芽衣の優しい声が消えた。いや、聞きたくなくて自分の声で掻き消してしまった。初めてだ、こんなにも大声で叫んでいるのは。

 「父さんには、僕が見えてないんだ。何も……何も見てない……」

 「そんなことない」

 ぼそぼそと呟くようにはなった僕の言葉に、松井先生は間髪入れずそう返した。

 「律を見ていたからこそ、責任を取ろうとしたの。間違っているけれど、そういう不器用なところは律も同じじゃないかな?」

 松井先生は、項垂れる僕の肩にそっと手を置いた。そして続けた。

 「律、明日また迎えに来るから、芽衣とちょっと一緒に来てほしいところがあるの」

 松井先生がそういうと、芽衣が「私も?」と返していたけれど、僕は黙って頷いた。

 「うん。じゃあ、今日はゆっくり休みなさい?」

 そう言い僕の頭を撫でると、芽衣は松井先生に連れられながら帰っていった。

 去り際に芽衣は「大丈夫だよ」と言ってくれた。

 申し訳なさと、情けなさが今は完全に勝ってしまっているけれど、それでも無性に二人の優しさが嬉しかった。

 家に入り、もう一度自分の部屋へ行く。リビングに電気がついていたからもしかしてと思いボタンを押してみると、僕の部屋の電気も見事についた。何年ぶりの光だったのだろう?その光はいつにもまして眩しく感じた。

 床にはボロボロに傷つき壊れたトロフィーが転がっていた。

 ベッドには、さっき投げ捨てた最後の一つのトロフィーがあった。嫌味なほどに金色に輝いて、僕に何かを訴えかけているかとも思った。

 部屋の中へ入り、ベッド上のトロフィーを手に取った。

 泣き疲れたのだろうか。意識がボケっとして、涙も流れなかった。

 どうして父さんは、僕の前から消えることが正しいなんて思ったんだろうか。その答え合わせは、父さんが目を覚まさないことにはできないのだろうか。死んだから許しますなんていうのが罷り通るなら、僕はきっととっくに父さんを手にかけてる。

 でもそうしなかった。そうできなかったんじゃない。

 そうすることは正解じゃなかったから。僕がしてほしかったのは、それじゃなかった。

 なんだかトロフィーを見つめているとまたむしゃくしゃしてきそうだったので、気持ちを誤魔化すためにも今日はさっさと風呂へ行った。

 風呂から上がっても、自分の部屋へ行かずにリビングのソファーに倒れこんだ。なんとなく、今の気持ちのまま部屋に入っても苦しくて眠れない気がした。

 ソファーに横になるとあっという間に眠気に襲われた。感情の起伏の激しさで、きっと疲れてしまったのだろうと思った。瞼が重たく感じて、開けることを諦めた。体が感じる眠気のまま眠りに落ちた。




『自信』

 目が覚めると朝日がリビングに差していた。携帯をつけて時間を確認するとまだ朝の七時だった。芽衣からは「十時ごろに迎えに行くよ!」というメッセージが送られていた。松井先生は十時に僕を一体どこへ連れていくつもりなんだろう?

 そんなことを考えながらソファーの上で寝返りを打ち、リビングの天井を見つめた。

 別に、死にたいのは僕じゃなくて父さんだ。

 傷心旅行にでも行こうと言うのか?

 ピアノの練習しなくちゃ……。誰のために?

 色々考えこんでいると、また眠気が襲ってきた。

 もう一度携帯で時間を確認する。まだ七時半にもなっていない。少しくらい、いいか。

 気を許して二度寝をしてもう一度目が覚めると、時間は九時半になってしまっていた。慌てて起き上がり着替えを済ませて、洗面所で寝癖を直し歯磨きをする。口を濯いだ後はリビングの水道から水をコップ一杯出して飲み干した。そして一度自分の部屋へ戻り、持っていくものの用意をする。昨日よりも気持ちに一ミリくらいの余裕があるせいか、部屋に入ってもあまり気が動転するようなことは無かった。手持ちの準備が終わって、忘れ物がないか部屋を見ていると、ベッドに放置したままのトロフィーが目に入った。心臓がわかりやすく音を立てたけれど、茫然とそれに囚われている時間は無い。インターホンが鳴る前に家を出ておこうと急いで部屋を出て階段を降り、リビングの電気を消してから玄関で靴を履く。外に出てドアに鍵をかけ、なんとなく玄関先の階段のところで座り込んで待っていることにした。

 携帯を見ると、時間は十時ちょっと前。ギリギリでなんとか間に合った。そうこうしていると車の音が近づいてきた。その方へ目をやると、見慣れない車が庭先に停まった。すると車の中から人が下りてきて、僕の方へ直進してきた。歩き方から察するに芽衣だ。

 「おはよ!」

 芽衣は昨日の様子から一変、元気な声を出していつも通り接してくれようとしていた。僕もそれに応えるように「おはよう」と返す。

 芽衣に連れられるまま行き車に乗り込むと、運転席からは松井先生の声がして、その車が松井先生のものだとわかった。

 「おはようございます」

 僕が言うと松井先生もいつもの明るい声で「おはよう、良く寝れたかい?」と返してくれた。眠りすぎるほど眠ってしまっていたので、僕は迷わず「はい」と返した。

 「よかった。よし!行くか!」

 「はいっ!」

 どことなく二人とも気合いが入っているような気がして、本当にどこに行くつもりなのか予想ができないけれど、変なことはしないだろうと信じて聞かないでいてみる。

 何もわからないまま車は進んでいき、次第に辺りは全く見たことのない景色になっていた。そもそも遠出しないから周りの景色を知らないだけかもしれないけれど。

 ボケっとしたまま時間が過ぎていき、車が停まったのは、どこかもわからない施設の駐車場だった。車から降りて目に入ったのは小さな施設だった。自然に溢れたその場所は、とても長閑な雰囲気で、自然と心が落ち着いていくのがわかった。

 芽衣と松井先生の後ろを歩いて施設の中に入った。受付には女性が一人立っていて、松井先生とはすごく親しげだった。そのまま通され手の消毒をしてから中を進んでき、左手に小さな庭が広がるガラス張りの廊下を歩いていた時だった。

 「芽衣ちゃんだぁ!」

 左の庭から小さな子供の声がした。

 「まいぃぃ!」

 芽衣はそれに気づいてその子の名前(?)を叫びながら窓を開けた。するとそんなの子は芽衣の方へと駆け寄り、二人はそのまましばらく遊んでいた。

 僕はしばらく松井先生の後ろをついていけばいいかなと思いながらいると、松井先生が足を止めていることに気づいた。

 「翔」

 松井先生が庭に向かって名前を呼んだ。

 「あれ?来てたの?」

 庭の方からはそんな声と一緒に、タイヤのようなものが動く音がした。少しずつ近づいてきて、視界にそれが入った瞬間に、それはこの前芽衣の公演会で会ったことのある翔さんだと気づいた。

 「律くん!?」

 廊下で立ち尽くす僕に、翔さんは突然声を張り上げて驚いているようだった。

 「え?知ってるの?」

 松井先生の頭にはクエスチョンマークがいたけれど、僕は翔さんに挨拶と会釈をする。

 「この前ちょっとだけ話したことがあるんだよ」

 「そうだったの?」

 翔さんがいうと、松井先生は僕にそう聞いたので、「はい」と返す。

 「でもどうして?」

 翔さんが聞くと、松井先生は「ちょっとね」とだけ言った。僕が何か言うべきだろうかと考えていると、松井先生が話してくれた。

 「私よりは翔の方が話しやすいかなって思って」

 何を?とは思わなかった。きっと、僕が今一番何を解決させなければならないかわかっているんだ。僕も、実際のところはわかっている。けれど話しにくくて無視してきたのは確かに事実だったかもしれない。

 「じゃあ、よろしく」

 そういうと松井先生は僕の方へきて、すれ違い様に肩をポンっと叩いてどこかへ行ってしまった。どういう意味だったのか深いところはわからないけれど、その行為が励ましとか、背中を押す行為であったことはわかった。

 どうすればいいかわからなくなり、なんとなく視線をちらつかせて、芽衣とあの女の子が楽しそうに遊んでいる光景を眺める僕に、翔さんは優しく名前を呼び話しかけた。

 「律くん、今日は来てくれてありがとね」

 不意に話しかけられて声が詰まりそうだったけれど、頑張って絞り出す。

 「…いえ……」

 「僕も、君ともっと話してみたいって思ってた」

 翔さんは松井先生譲りの優しい声色でそういう。

 その声に絆されて、張り詰めた気を緩ませた僕はそのまま翔さんにピアノの話をした。音が聞こえないことも、ピアノを弾く意味がわからないことも。会話がひと段落したところで、松井先生は職員の人に呼ばれてその場を離れた。その隙にと言っては言い方が悪くなってしまうけれど、僕は松井先生にも相談できなかったことを話すことにした。

 「……僕は…人の顔を見るのが怖いです」

 そう言って少しの沈黙が落ちた。けれど、翔さんはまるで最初から知っていたかのように答えてくれた。

 「うん。なんとなくそうなんだろうなとは思ってたけどね」

 そして翔さんは笑い交じりに自身の話をしてくれた。

 「僕もそうだった。でも、今は大丈夫なんだ。なんでだと思う?」

 そう聞かれ、僕は思わず普通に首を傾げてしまった。

 「思い出したからだよ」

 そういうと、翔さんは風に乗って消えてしまいそうなほど儚い声で話を続けた。

 「自分をちゃんと思い出したんだ」

 「自分を……?」

 クエスチョンマークが飛び交う僕に、翔さんは松井先生と同じように優しい声で問いかける。

 「僕は忘れていただけなんだ。失ってなんかなかった。僕はピアノと共に過ごしてきたこの十年以上もの時間が、幸せだったんだって思い出せた。だから、震える両手なんて関係ない。僕がやりたいことをやりたいようにやって、大切な人に僕の見せたい景色を見せる。それが今の僕にできること。考えるうちに自信が出てきたんだ。人の顔を見れないのは、自分に自信が無いからだと思うよ」

 翔さんはそういうとゆっくりと僕の方へ顔を向けた。その動きに反応して、僕は翔さんの顔が視界に入らないように視線をずらす。こんなに親身に話を聞いてくれて、自分の話まで隠すことなく話してくれる人の前にいるのに、僕はどうしてこんなにも失礼な態度しかとることができないのだろうか。僕が生きる人生の中でなかなかいないだろう。こんなにも僕を正面から受けてくれるような人は。それなのに……。

 俯く僕と対照的に、翔さんはさっきから光輝いて見えた。加えて、こんな僕にも何も言及したりしないのだ。いつか叱られたってなにもおかしくはないのに。

 「失礼とか思わなくていいよ?」

 翔さんは途端に口を開いてそんなことを言った。まるで今僕が何を考えているのか透視したかのように。

 「それが自分を守るための唯一の方法だっただけ。でも、そんなことしなくても大丈夫じゃないかい?」

 そういうと、翔さんは車いすを電動ではなく自分の手の力で僕の方へ向かせた。

 「律くんの音は、人の心を動かす原動力になるって言ったけど、僕ね、律くんのピアノの演奏を聞いて、もう一度ピアノを弾こうって決めたんだよ」

 「僕の……?」

 「エドヴァルド・グリーグ、抒情小曲集第七集、感謝」

 翔さんはとあるクラシック楽曲のタイトルを言った。それは紛れもなく僕が、母が亡くなったことを知る前にコンクールで弾いたものだった。でも、どうしてそれを今?

 「それは…」

 「そうだよ。あの日の演奏、僕が今まで聞いてきた中で最も美しいものだった」

 「……そんなことは……」

 「いろんな感情が伝わってきた。中でもタイトル通りの感謝の気持ち、それはあの演奏から強く伝わってきた」

 翔さんがあの頃に見ていた僕の姿の話をするたびにフラッシュバックする、自分の中に封じ込めていたはずの記憶。母の笑顔と父の笑顔。昨日見た、父の顔。

 翔さんは何度も褒めてくれるけれど、違う。本当は、本当は……。

 「……違うんです…」

 母に伝えたかった感謝の気持ち。でもあの本番の日、僕はその感情にかこつけて、自分の中の欲を果たそうとしていた。変わってしまった父に、帰ってきてほしくて。

 「……父に、褒めてほしかっただけなんです」

 なぜか自然と、翔さんの包み込むような優しさに、僕は勝手に松井先生と似たようなものを感じていた。やっぱり親子って似るのだろうか。

 「僕のピアノを、母が愛したピアノを、もっと見てほしかった。褒めてほしかった。父がどんなに周囲の人に貶されたとしても、僕の父は変わらないって信じたかった……でも何も父には届いてなかった……死ぬなんて…でも、その思いが父を苦しめてたのかもしれない。戻らない父に何度もピアノの音を聞かせて、自分勝手に苦しめて……」

 話すごとに涙が溢れて、言葉が詰まってしまった。

 「律くんは優しんだね」

 言葉が詰まり話せなくなる僕の次の言葉を待つわけではなく、翔さんはそんな僕についていくように言葉を並べる。独りにさせないと言わんばかりに。

 「優しすぎたんだよ。もっと怒っていいんだ。もっと我儘言っていいんだよ」

 翔さんの言葉が頭の中で何度も響いて、じわりじわりと視界がぼやけて歪んでいく。

 「君のせいじゃない」

 自由に動かせないはずの体を力を振り絞って動かして、翔さんはか細い腕を伸ばして僕の頭をそっと撫でた。なぜかその途端に心が温かくなる感覚がした。松井先生のようで、でも違う。松井先生から感じた温もりとは違った、翔さんが感じさせる温かさ。

 考えるよりも先だった。僕の躊躇いなんて構いもしないほどにすんなりと、僕の目線は上へと上がっていき、ぼやける視界の中で僕の目は確かに、翔さんの顔を認識した。

 はっきりしない視界の中に映る翔さんの顔は、朗らかな笑顔をしていて、その表情に嘘も偽りも感じなかった。

 人の顔を見る度によぎっていたのは、父の恐ろしいほどの怪奇の笑顔だろうか、母の悲しみと寂しさを含ませた笑顔だろうか。それらがすべて怖くて、無意識のうちに拒んでしまっていた人の顔。それなのに、今僕の目の前にある翔さんの顔はこんなにも温かくて、優しくて、まるで太陽の光みたいに眩しい。

 茫然と翔さんを見つめるだけの僕に、翔さんは特にこれと言って何かを言うことはしなかったけれど、その微笑みは何かを確信しているように見えた。

 その不思議な時間を終わらせるように、翔さんはすっと僕の後ろを指さした。つられてその方へ向くと、縁側を上がった少し奥に、黒いアップライトピアノが置いてあった。

 さっきまでの朗らかな気持ちとは一変、ピアノを見た瞬間に心がギュンと音を立てて縮こまったけれど、もう一度翔さんの顔を見ると、翔さんは変わらず微笑んでいた。

 「君のピアノは、幸せのピアノだよ」

 小さくそう言うと、そっと僕の背中を押した。

 押されるままに縁側を上がる。黒くそこに佇むピアノに手をかけ、その蓋を持ちあげて鍵盤を出す。椅子に腰かけると、さっきまではしゃいでいたはずの女の子と芽衣の声が止んだ。背中に翔さんの温かな眼差しを感じながら、僕は震える指をそっと鍵盤にかける。

 周囲の静けさ。多分、僕の演奏を聞こうとしてくれているんだと思う。でも、人に聞かせるだけの完成度のある演奏力じゃない。

 聞こうとしてくれている人が、幻滅してしまいかねない。

 音が聞こえないのに、一人で演奏なんてできるのか……?

 ―「できるよ」

 翔さんの声が耳の奥で聞こえた。

 「……ふぅ」

 息を整えて、ガチガチに固まった指を動かす。曲としてのイメージはなんとなく「きらきら星」。なんとなくでもいいんだ。とにかく、脱線しなければそれで。

 そう思いながら、自分の知っている感覚、知っているあの慣れた感覚を辿るように鍵盤を叩いた。

 予想通り、音なんて聞こえないと思っていた。

 音階なんて崩壊していて、どうしようもないほどに汚いものだと。

 ピアノに触れ、鍵盤を叩いた瞬間耳に飛び込んできたのは、ずっと欲していた、鍵盤の鳴る音だった。驚いてそこで止まることもできたけれど、弾き始めたら止めることなんてできなかった。知っているあの楽譜の音を辿って歩く。

 ずっと拒み続けたピアノを弾いているはずなのに心は浮き上がって、それはとても、とても「楽しい」と思えた。

 音を鳴らすたびに耳によぎるのは、ピアノが、鍵盤が鳴る音。そして、母の、父の、楽しそうな笑い声。そうだった。僕は、僕は……。

 弾き終えてそっと鍵盤から指を離すと、たちまちに拍手が鳴り響いた。

 それはまるで、あの日見た芽衣のステージのように華々しく、綺麗な音だった。

 背を向けていた翔さんの方へ体を向けなおすと、さっきと変わらない柔らかな微笑みを浮かべて僕を見ていた。

 「律……」

 小さく呼び声がしてその方を見ると、そこには拍手をしながらも茫然とする芽衣が立っていた。何年ぶりかにきちんと見た芽衣の顔にはキラキラと光るものが伝っていて、でもそれは悲しいとかいうマイナスなものではないように感じた。僕と目が合っていることに気づいた芽衣は、ボロボロと涙を零しながら太陽に負けないくらいの眩しい笑顔で僕に笑いかけた。その口は小さく「よかった」と動いていた。ぼやける視界の中で輝くその笑顔をみて、心のどこかで何かを確信した。僕は、人を笑顔にしたくてピアノを弾くんだと。




『届けたい音』

 翔さんのおかげでピアノの音を取り戻した僕は後日、学校で芽衣と松井先生からとんでもない提案をされていた。

 なんと、お父さんに向けてピアノを演奏する律の映像を届けようと言うのだ。

 「つい数日前に弾けるようになったのに?」

 「善は急げ!今なら、ちゃんとお父さんに分かってもらえるよ」

 「いやいやいや……」

 「お父さんの所へは私が行くから」

 「そういう問題ですか?」

 そもそも、ちょっと前に言っていた小さい規模とかのやつはどうなったんだ?

 「芽衣がこの前言ってたやつはどうなったの?」

 「ん?あー、それ、これ」

 え?

 「前から考えてたってこと?」

 そう聞くと、芽衣と松井先生はふふふっと悪巧みな笑みを浮かべた。

 「まぁ?事前に?」

 何も言い返せず黙り込むと、芽衣はその場の空気感を回収しようと一枚の紙を見せた。

 「これプランね。弾く曲は律が決めていいからさ」

 言われるがまま紙を受けとる。どこか満更でもないような気もした。

でも、父が僕のピアノを嫌がるのは、母を思い出すからじゃないのか?もし火に油なんて展開になってしまったら……。

 「大丈夫だよ」

 考えこんでいると、また芽衣は僕の心を見透かしたようにそういう。

 「……うーん」

 でもそうはいっても易々と決断は下せなかった。

 弾けるようになったってまだ怖いものは怖かった。また思考がグルグルと回ってしまいそうだったので、ゆったりと深呼吸をした。

 父さん……。

 「わかった。やるよ」

 「え!」

 僕がそう返すと、その返答が予想外だったのか、芽衣は拍子抜けした声を出した。松井先生も驚いた顔をしていた。

 「笑顔にするために、音を届けたい」

 そういうと、松井先生は嬉しそうな顔をして静かに頷いた。でも芽衣はそれとは正反対に声を張り上げて「でかした!!」と肩を叩いた。

 それからまた毎日のように練習をした。ちなみに曲はエドヴァルド・グリーグ、抒情小曲集第七集、感謝。もう一度、あの日と同じ演奏を、今度こそちゃんと父に届ける。もう一度、父に笑顔になって欲しいから。


 そうして練習に練習を重ねて数週間。日曜日のお昼ごろに家でテレビのバラエティー番組を見ていると、唐突に家の電話が鳴り響いた。

 「もしもし?」

 電話に出ると、病院からの電話だった。

 「竹中さんのご自宅で合ってますかね?」

 「はい」

 「息子さんですか?」

 聞かれる質問に答えていると、ようやく本題に入った。

 「お父さんの目が覚めましたよ」

 それは僕にとってこの上ないほどの吉報だった。跳ね上がりはしなかったけれど、どうなってしまうかわからない父の容体は悪化せずに回復していると知れたので、心の底から安堵した。脳への後遺症も残っていないらしい。

 「わかりました。ありがとうございます」

 やりとりを終えて電話を切る。

 会いに行くか迷ったけれど、そんな不貞腐れた子供みたいなことはしたくなかったし、この目でちゃんと顔を見て、一度くらい怒鳴ってやりたいとも思った。

 適当に着替えてバスに乗った。バスの中で芽衣に「父さんの目が覚めた」とメッセージを送っておいた。一応芽衣も心配してくれていたから、知る権利はあるだろうと思い伝えておくことにした。

 病院に着き、受付を済ませて父さんのいる病室へ向かう。看護婦さんには「僕が来たことを言わないでください」と伝えた。黙ったまま病室の前まで来た。看護婦さんはそこで会釈をしてその場を去っていった。

 ドアの取っ手に手をかけた。深呼吸をして静かにドアを開けた。

 中に入り床を見て居る視線をゆっくりと上へ上げ父さんの方へ向けると、父さんも僕の方を見ていた。その顔はとても驚いていながら、申し訳なさそうな表情だった。

 「父さん……」

 ドアを閉めて数歩近づく。

 怒鳴られるかと思ったけれど、父さんは何も言わずに目を伏せた。それはとても申し訳なさそうに。

 「なんで……」

 小さく問うと、父さんは小さく「ごめん」と返した。違う。そういうことじゃない。

 「なんで消えようとしたの」

 少し強く問うも、父さんは謝るだけだった。

 「謝って欲しくて来たんじゃない。教えてほしいだけだよ、父さん」

すると父さんは黙り込んでしまった。僕はあえて何も言わずに、父さんが話し出すまで待った。それは、松井先生が僕にしてくれたように。じっと、何も言わずに待った。

 「……律のためだって、思ってた。でも、違ったよ」

 口を開いた父さんは悲しさを含ませた声で続けた。

 「俺のためだった。逃げたかった。何もない自分が許せなくて、律に当たる俺が大嫌いで、どうすればいいかわからなくなって。全部手遅れだって気づいたら、死ぬしかないと思っちまった」

 初めて、父さんのそんな弱音を聞いた気がした。

 「嫌われればそれでよかったはずなのに……。律が俺に戻ってきてほしいってピアノを弾き続けることが苦しくて……俺はあの日、お前からあのピアノを奪った」

 いつも笑顔で笑っていたはずの父からは聞けなかった、本音だと思った。

 あの怒りの顔は、自分から僕の悪者になって消えようとした、不器用な父さんの最大限のSOSだったのだとも気づかされた。

 「なぁ?嫌な父親だろ?もう、俺を父さんなんて呼ぶなよ……」

 一瞬父は笑ったように見えた。でもそれは、あの日の狂気に満ちた笑顔でも、昔の楽しそうな、幸せそうな笑顔でもなく、ただただ悲しみに暮れる中で全てを諦めた人の笑顔だと思った。

 「……呼ぶよ」

 そんな全てを悟ったような顔を、してはいけないものだと僕は知っていた。また繰り返す前に止めたいと心の底から思ったら、口は勝手に動いていた。

 「たった一人の父さんだから」

 「律……」

 「あのピアノがなくても、僕はピアノ弾けるよ」

 そう言いながら、僕はポケットの中から小さな紙きれを取り出して、歩み寄り父さんにそれを渡した。

 「これは?」

 その紙は、あの提案を芽衣と松井先生にされたその日に、芽衣の提案で作った父さん専用の僕のピアノライブチケットだった。

 「今度やるんだよ。その特別チケット」

 父さんは黙ってそれを受け取った。

 「父さん、僕がピアノを弾くのは、人を笑顔にするため。ピアノを弾いていたのは、父さんに笑っていて欲しかったから。父さんの思いも知らずに苦しめ続けてごめん。でも、これだけはわかってほしい。僕は父さんを恨んでない。父さんはいつまでも僕の父さんだから」

 そういうと、父さんはチケットを胸に寄せて抱きしめるように握りしめ、静かに涙を流した。

 「じゃあ、練習してくるから僕は帰るけど、父さん、ちゃんと休んでね」

 そういうと、父さんは何度も頷いて「わかってる」と震えた声で返した。

 病院を後にして、僕はなぜかバスの中で涙を流していた。

 あんなにも冷静になった父さんを見たのは何年ぶりだったのだろう?父さんの顔を見たのも久しぶりだった。ちゃんとみた父さんの顔は、やっぱりあの頃のまま優しさを残していた。やっぱりお酒しか飲んでなかった父さんは昔より痩せこけてしまっていたけれど、面影はちゃんとあった。あの恐ろしい顔は作りものだと思えるほどに。

 涙を拭いバスから降りると、携帯のバイブレーションを太もも辺りに感じた。ズボンのポケットから携帯を取り出して見てみると、芽衣から電話が来ていた。

 「父さんと、ちゃんと話せたよ」

 電話口の芽衣に聞かれるよりも先に僕はそう言った。

 安心したような芽衣の声がして、僕もその声になぜか安堵した。そして何を話したかについてもある程度は教えた。

 「どう?あと一週間くらいだけど、うちで練習する?」

 芽衣にそう聞かれ、僕は即答で返答して電話を切った。バス停から、いつも歩く道とは反対方向へと歩いて、十分程度で芽衣の家に着いた。

 インターホンを鳴らすとすぐに芽衣が出て、僕を中に迎え入れてくれた。中に入ってから、芽衣の後ろを歩いて「レッスンルーム」と看板の掛けられた部屋に入った。中は防音壁のがっちりとしたピアノ練習専用の部屋になっていて、部屋のど真ん中に芽衣の白いグランドピアノが置いてあった。

 「よし!やるぞ!」

 そう言いながら芽衣は、壁際にあるガラス戸の棚の中から黒いファイルを取り出して、それを開いてピアノの譜面台の上に置く。準備をする芽衣の横で僕は携帯を財布をピアノの横にある小さなテーブルの上に置き、椅子の位置を調節して座った。

 周りの音すら一切通さないその部屋で、あの日感じた感覚を思い出すように鍵盤を鳴らした。やっぱり、ピアノを演奏するのは僕にとって何よりも楽しいことだった。

 その日は夕方ごろまで演奏の練習をした。夕飯の心配をさせると申し訳ないので、芽衣のお母さんが帰ってくる前に芽衣の家を出た。家に帰ってからはイメージトレーニングを繰り返した。こうやって一日中ピアノのことを考えるのは中学生以来だった。楽しくて、楽しくて仕方ない。

 そんなこんなで、本番までの一週間を過ごした。

 

 約束の日。撮影は学校の放課後の時間を使って行う。場所は体育館のステージ。僕の学校は体育館にもグランドピアノがあるので、その辺の心配はいらない。鏡を見て制服と髪の毛の乱れを直し、運動部が部活動をする体育館の中へ気配を消すようにささっと入り、いち早くステージへと向かう。

 僕が着く前に芽衣はステージ前に立っていて、写真部の顧問の先生と一緒にカメラとパソコンの設置をしていた。ライブ中継なので、松井先生は父さんのいる病室で僕の映像を見せに行ってくれている。

 「お、来た来た」

 芽衣はそういうと、長机の上から演劇部から借りたイヤモニとピンマイクを持ってきた。イヤモニは受け取って両耳にはつけずにみだり耳の方だけつけて、右耳の方は首から下げた。マイクは芽衣が僕のブレザーの襟につける。

 「椅子以外は準備できてるよ」

 つけ終えると芽衣はそういい、ウインクとグーサインをした。僕は頷いてステージの上へあがる。周りにいる運動部の人たちが僕らの様子にどよめいていたけれど、気にせずに椅子の調節をしていつでも弾けるように準備する。

 「始まりますよ」

 左耳につけたイヤモニから、父さんにそう言って知らせる松井先生の声が聞こえた。

 体育館内のどよめきにも動じずに深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせていると、芽衣が小さい声で「いつでも大丈夫だよ」と言ってくれた。

 「父さん」

 落ち着ていく思考の中で、僕は小さな声で父さんを呼んだ。返事は無かったけれど、聞いてくれているのはわかっていた。僕はそのまま続ける。

 「……父さん、僕は恨んでないよ」

 きっとこんな言葉、僕らにしか分かり合うことのできない言葉。これを聞いて、父さんが何を思うかはわからない。でも、事実だったから。

 父さんに願っていたことはたった一つ、戻ってきてほしいってことだけ。

 言っておきたいことを言った後に深呼吸を繰り返して何回目か。深い呼吸を繰り返すたびに、頭の中には色々な思いと今までの記憶がよぎった。何回目かの息を吐き切って、ようやく弾く覚悟ができた。息を吸うと同時に指を動かした。

 想いは変わらない。

 聞く曲も変えていない。

 僕の中のコンセプトも、父への思いだって。

 ずっと待ち望んだ、僕の、僕だけのピアノの音。鍵盤は鳴り響いて、そこに僕だけの空間を作り出した。自分にもヒシヒシと伝わってくる、そこに間違いなく存在する僕一人だけが存在する僕一人の空間。でも、自然とそれは「独りぼっち」ではないと思えた。

 楽譜は目の前にあるけれど、もうこの心は、指は、耳は、その音を知っている。

 弾く度に溢れるのは、母さんが見せてくれた世界と、父さんがくれた沢山のもの。僕を挟んで幸せそうに笑う二人の顔。それだけじゃない。あの日、翔さんから貰った大きな勇気、変わるための僕の意思。芽衣と楽しそうに笑うあの女の子の笑顔、翔さんが見せた優しすぎるほどの柔らかな微笑み、芽衣が見せる弾けそうな眩しい笑顔、松井先生がしていた温かい眼差しと僕の全てを包み込むような微笑み。

 美しすぎて、綺麗すぎて語りつくせないほどの思い出が脳裏を過る。

 沢山迷惑をかけた。芽衣に、松井先生に、翔さんに、それだけじゃないきっともっと多くの人たちに。でも、僕はやっぱり……。

 幼い頃の自分の記憶。ピアノを弾いて、父さんに認めてもらって、そうしたらまた音が聞こえるようになると思っていた。でも違った。怖いのは「誰か」じゃなかった。見たくないのは「誰か」じゃなかった。信じてないのは自分で、嫌っていたのも自分で、怖がっていたのも自分で、見たくないのも全部自分自身だった。

 あの夢の中で助けを求めて泣く僕は、父さんに認められたい僕の姿だったように思う。

 音が鳴る。鍵盤が、僕の指でちゃんと鳴り響く。

 今僕の耳にしているのは、誰かの野次でも、心配するような声でもない。

 それは紛れもなく、自分の音だった。

 僕が父さんに一番に届けたい音だった。

 ラスト一小節の最後の音を弾き終えた瞬間、ピアノの余韻の残るこの耳に飛び込んできたのは、部活をしていたはずの運動部だけに限らずありとあらゆるところから僕の音を聞きつけてやってきた他の先生や生徒が、一斉に鳴らした沢山の拍手の音だった。

 鍵盤から指を離し腕の力が抜け落ちて、天井を見上げて荒くなった息遣いを整える僕は、ゆっくりと顔をステージの外。フロアにいる人たちの方へ向けた。

 ずっと恐れた視界に映る皆の顔は、僕が想像していたものとは正反対にも眩しく、光り輝く顔をしていた。その光景は、幼い頃の僕がずっと見てきたものによく似ていて、同時にそれは僕がずっと見たかったはずの景色をしていた。

 ふと手前へと焦点を戻すと、そこには涙を流しながら拍手をし続ける芽衣の姿があった。

 さらにまた視線をずらすと、パソコンの前に立っていた先生が僕の方へパソコンを向けてくれた。その画面には父さんと一緒に映像を見る松井先生の顔が映っていた。

 松井先生も涙を流していたけれど、その少し奥に映る父さんは驚いたような顔をして、目を濡らしながらも、幼い頃に見たのと同じ、柔らかな微笑みを見せた。お互い特別何かを言いあうことはしなかった。でも、父さんのその微笑みは、ずっと僕が待ち望んだものだった。

 やっぱり僕は……ピアノが弾きたいんだ。


 その後、学校へ戻った松井先生と、片付けを終えた芽衣と僕の三人で、応接室を借りて小さな打ち上げパーティーをした。パーティーと言っても、飲み物は学校の自販機で買って、お菓子なんかは松井先生が戻る前に買ってきてくれたものを食べたりしてお話をするって感じだったけれど。

 「それより、律はこれからどうするの?」

 僕の横に座る芽衣はチョコクランチのお菓子を一つ口へ放り込むと、お茶を飲んで二人の楽し気な話を聞いていただけの僕に急にそんなことを聞いた。

 お茶を噴き出すまいと必死に飲み込んで、噎せそうになった呼吸を整えてから、スッと視線を上げて向かい側に座る松井先生を見て、横に座る芽衣にも目線を配った。

 ……正直、今まで二人のどちらかの提案に乗っかってピアノを弾いてきた。今までしてきた行為の中に、僕の意思があったかどうか、それを一番知っているのは僕だ。でも今回演奏しようってなったことに関しては、「二人の意見に乗っかって」なんて曖昧な意思なんかではなかった。本気で弾きたいと思えた。父……父さんに聞いて欲しかったし、天国にいる母さんにも自慢したかったし、なによりも、「弾かない」なんて選択肢、元々がピアノ少年だった僕にはこれっぽっちも無かった。

 そして今、僕は進む路を決めなくちゃならない時期になっている。あのままだったら今頃、勉強に明け暮れるとかして大学進学を生半可な気持ちで目指していたかもしれない。でも、でも今僕がしたいことはそれじゃない。

 だって翔さんに背中を押されたあの日に思い出した。翔さんの言っていた「自分」というものを。僕は、母さんに初めてピアノを習ったの日からずっと、ピアノが大好きだったんだ。

 「……僕は」

 僕が口を開くと、二人はどこか真剣な表情に切り替えたように見えた。

 そんな二人を見て、少し気持ちが緩んで、おまけに頬まで緩んでしまった。でも、今自分は今までで一番自然な笑顔が出来ているような気がする。

 「ピアノを弾きます」




 

 真っ暗なホール。ピンホールライトが照らすステージの上。

 真っ白なピアノがライトに照らされて、より一層輝きを増すころ、新調した青色のスーツを身に纏い、革靴の音を鳴らせながら、純白色に輝くグランドピアノへ歩み寄る。椅子の高さと位置の調節を済ませゆっくりと腰かける。

 久々の大きなコンテスト。やっぱり観客多いなぁ……。まぁ、気にしない、気にしない。

 鍵盤の上にそっと指を乗せてから、ゆったりと深呼吸をする。

 呼吸の間で、途端に記憶がフラッシュバックしてきた。振り返れば色々あったように思う。あの頃は、こうして鍵盤の上に指を触れさせることすら怖がっていたっけ。

 ありがとう先生、芽衣、翔さん。

 今日は観客席に父さんと、母さんも来てくれている。

 でも、もう誰かのために弾くのはやめた。

 僕は僕のためにピアノを弾く。

 その延長線上に、誰かの笑顔があればそれでいい。

 僕には、届けたい音があるから。 


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