妄想の帝国 その47 新型肺炎ウイルス感染拡大防止協力金音頭
新型肺炎ウイルスの感染拡大防止と称し、飲食店に対して時短要請が幾度となく行われているニホン国。各自治体から時短要請に協力した店舗に協力金が支払われることになっていたが、一見意味不明の支給要件をクリアするために居酒屋ほか飲食店店主たちは右往左往。そして第13弾めの協力金の支給要件が発表された…
首都近郊のとある町の、とある居酒屋の店内。事業用パソコンのモニター画面に張り付いていた若い店員が叫んだ。
「て、店長!第13弾新型肺炎ウイルス感染拡大防止協力金の詳細がアップされました!」
「そ、そうか。こ、このウイルスのせいで、緊急事態宣言だのなんだので、飲食店で感染しやすくなるから、営業短縮だの、マスク会食やれだので、うちの店も大赤字だ。で、こ、今度の協力金の支給要件はなんだ!マスク会食推奨リーダーも決めたし、マスク会食講習会受講証も掲示したし、マスク着用なし来客に配布するマスクは用意したし、PCR検査案内のチラシ設置箱も置いたし、あれもこれもやったぞ!」
「ズルズル延長される飲食店時短要請も、もう半年近くですからねえ。いったいいつになったら通常の、終電まで営業に戻れるのか。いっそランチとテイクアウトで」
「そしたら、お前を雇うほどの売上はないぞ。だいたい時短営業のおかげで、売り上げは落ちまくり。クリスマスどころか、忘年会、新年会、年度末の歓送迎会、さらにゴールデンウィークの稼ぎ時もずーっと営業時間短縮だぞ。協力金をもらってやっとなんとか。しかも来年の確定申告時には協力金が雑収入ってのになっちまうんだ。税金取られるから、その分の金もキープしとかんと」
「え、支給しといて税金で取り上げですか!ひでえなあ、まったく。とはいえ、確かにタダで金もらえるしなあ」
「バカ!本来なら売上があるのに協力して休んだ補償金みたいなもんだから、もらって当然。第一、書類をそろえ、多少あほらしい要件をクリアしないともらえないんだからな!で、今度の支給要件はなんだ!」
「えっと、“新型肺炎ウイルス感染拡大防止音頭を店内で放送すること”?て、えええ!」
「な、なんだ、そりゃ!」
二人の叫び声が店内に響き渡る。外まで声がもれたのか、玄関先で寝ていた猫が飛び起きた。
「その、“感染拡大防止策をわかりやすく歌詞にした音頭です。お客様のみならず聞いている従業員の方にも幅広く感染防止策を広めるために知事の発案で、一流の作詞家、作曲家に作っていただきました。覚えやすく歌いやすいので、誰でもが感染防止策を理解できます”だそうです」
「あほか!感染拡大防止策なんて、もうみんな知っとるわ。ここ半年以上、テレビ、ネット、いたるところに掲示してあるポスターだのステッカーだの。下手すりゃコマーシャルより多いわ!今更なんだ」
「そうですよねえ。電車乗っても、バス乗っても、マスク着用、ソーシャルディスタンス、手洗い、大声出さないとか。もううんざりするほどですよ。ウチの前で寝てる猫だって知ってんじゃないですか」
外からニャアアという鳴き声が聞こえた。
「猫ですらあきれとるわ。一体全体なんだってこんなバカバカしいことを」
「店長、ひょっとして、落ち目の作詞家とか作曲家への支援つうか、金回すためじゃないですか。なんか公募とかじゃないらしいし」
「そ、そうだな。カラオケとかの規制もあるし、著作権料が少なくなったとか?まあ著作権協会が損するだけって話もあるが、ライブとかコンサートとかなくなって、音楽業界も大変なのかもな」
「曲流すのにはCD買わないとだめみたいですよ、これ!録音禁止、YouTubeなどで流したものは違法として摘発しますって。CD再生機器がない場合は専用有線放送をいれろって。それだと四六時中曲流してるのには専用有線放送いれるかCD買うしか、ないっすよね。これ利権、そのまんまじゃないっすか!」
「うぬぬ、無理矢理買わせる商法か!自治体つうか知事公認の押し売りか、これは!せめて公募で選べよ」
「広告会社が主催して、コンペやったらしいですけど、応募条件が…、やっぱ関係者じゃなきゃだめじゃん、著作権協会推薦とかって。もうなんだよ」
「くそ、しかし、CD買って店内で流したことにしとかないと協力金はもらえん」
「そうですねえ。あ、数分間試聴できるらしいんで、聞いてみます」
「あ、ああ」
ちゃんちゃんちゃん♪パソコンから流れる曲を聴いて、二人はガクッと肩を落とした。
「なんすか、これ」
「な、なんなんだ。この昭和臭漂う、古臭い歌は」
「わああ、歌手のHKさん!この人まだいたんですか!」
「俺は懐かしい…いや、かなり歌唱力落ちてるわ、やっぱり。昔ほどうまくねえな」
「なんか、もう、ウイルス対策にかこつけて贔屓の歌手とか作曲家に金をやるつもりなんですかね、ウチの知事」
「それはそう…、だとしても、協力金をもらうためにはCD買って曲をながさなきゃならん。要件違反して申請する奴等を摘発する協力金Gメンがいつ店に来るとも限らんし」
「こんな歌ウチの店の雰囲気にあいませんよ…、あ、Jポップバージョンとかある。歌ってるのは、なんだFFB49か」
「なんだよFFB49って」
「人気歌手グループの卒業生がさらにグループ結成って感じで。高校卒業して、大学いや大学院生とかになったみたいな。あんまし売れてませんけど」
「つまり、なんだ、若人向けってのも売れない歌手グループの救済CDなわけか」
「まあ、さっきのよりましかもしれませんけど。なんか他にもラップとかKポップとかいろいろあるみたいだし」
「要するにウイルス蔓延で音楽業界も苦しいからってわけか。感染拡大防止を理由にやりたい放題だな。かといってCD買って曲流さないと協力金はもらえないし、うーん」
「どうします、店長。やっぱ最初きいたCD買います?一番安いけど、カッコよさそうな曲のCDのほうがよくないですか。値段は高いけど店の雰囲気からしたら、こっちのCDのがいいですよ。有線放送は他のバージョンとか織り交ぜて聴けるけど、毎月金がかかるし」
「歌おう」
「へ」
「いっそ俺とお前で歌うんだ!アカペラだ、アカペラ」
「はあああ!て、店長、む、無理です!歌いながら仕事なんて、できませんよ!第一歌詞とか、俺、知らねえし」
「どうせ、どっかで曲かけてるだろ。聞いておぼえてこい!試聴のやつ何回も聞いて、そこだけ覚えるって手もあったな」
「店長、それだと歌詞の一部ですけど」
「サビだけ何回も流すってのが、あっただろ、あれだ、あれ。いっそフリもつけるか、ほれ、こんなんでどうだ」
店長が試聴分の曲に合わせて、盆踊りのようにヒョイヒョイと踊りながら外に出た。バイトの若者もやけくそに踊りだす。その様子をみた猫も二本足でたって踊りのまねごとをしはじめた。
「おお、猫まで踊っとる。新型ウイルス撃退の猫踊りだぞ」
「そういや、踊ったり、お囃子で疫病退散ってのがあったって、ばーちゃんがいってましたけど」
「節分とかそういうのだろ、確か。それ、踊れ踊れ、ウイルス退散、拡大防止音頭だ」
「あ、そーれ」
二人と一匹はリズムをとって踊り続ける。いつまでか?もちろん時短要請が完全に終わるまでだ。
どこぞの自治体では8弾の時短要請がはじまるそうですが、いったいいつまで続くんでしょうか。飲食店の方々も大変でしょうが、年度末の忙しい時に協力金のホームページやら、申請書やらつくる各自治体の職員の皆様もさぞやお疲れでしょう。ウイルスで死ぬか、ア〇なトップのせいで死ぬかという、トンデモナイ状況のようです。いっそ花見しつつ、気のおけない人々と楽しく飲みつつあの世にいったほうがマシ、でなことにならないようにしてほしいものですねえ。




