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夢のような現実


私は男になりたかった。

小さい頃からお人形やピンク色など女の子が好きになる物に興味が湧かなかった。女の子のはずなのに男の子の好きな物を好きになり、女の子の友人とは話が合わず孤立することもあった。それではいけないと幼心に察して無理やり周りと話を合わせた。この違和感は成長するに連れて大きくなっていったが、誰にも分からないようにひた隠した。自分が異常であることが知られたらひどい目に合うんじゃないかと怯えていた。

成人して社会に出ると、より女性らしさを求められるようになった。周りの女性達はここぞとばかりに綺麗に着飾り、男性達はそれを当然のことのように享受している。私はそんな世間から浮かないように程よく身嗜みを整えて女性のフリをした。

しかしこの違和感を感じているのは私だけではないらしく、性同一性障害という病名があるそうだ。その人達の中には自分の思う性別に手術して変更している人達もいた。自分だけではないという事実と、自分の正しいと感じる性別に変えられる事は私に勇気をくれた。と同時に不安も襲ってくる。周りにどう思われるだろうか、親は何と言うだろうか。私は夢と現実との間で悩みながら日々を過ごしていた。


その日もいつものように仕事を終えて帰路についていた。古ぼけた横断橋の階段を登りながら今日の夕飯について考ていると、階段を登り終えようとした頃に向かい側から走ってきた男とぶつかった。その男はよほど急いでいたのか、私たちは激しくぶつかり階段を転げ落ちていった。階段下に打ち付けられ全身に痛みを感じながら意識が遠のいていった…。


微睡から目覚めた視界の先には真っ白な天井があった。ぼやけた意識で何があったか思い出していると、知らない女性に顔を覗かれた。


「恭弥!目が覚めたのね!良かった…」


知らない女性は私の母くらいの年齢だった。その人は私の手を握り安堵した表情でこちらを見てくる。私は分からない事続きに慌てて思わず聞いてしまった。


「どちら様ですか…?」


私は自分で話しながら自分の違和感に声を無くした。自分の口から出てきたのは聞き慣れた女の声ではなく男の声だったからだ。


「まだ混乱してるのね、先生呼んでくるから!」


女性は私を置いて行ってしまった。私はその間に不可解な事実を確認しようと恐る恐る声を出してみた。あーと力なく出した声は間違いなく男の低い声だった。体を見える範囲で見てみると、手は大きく長く、胸は脂肪がなくしっかりとした胸板があるだけだった。気は進まないものの一番確認出来る場所である股間を触ると明らかな物体が付いていた。こんな事本当に有り得るのだろうか?しかしそれしか今の現状を説明出来るものはなく私の頭は恐れから冷たくなっていった…。


私は今、自分でない誰かの体の中にいる。しかも男の体に…。


私が現状に唖然としていると私の側にいた女性が看護師さんを連れてきて戻ってきた。


「ね!起きてるでしょ!?」

「はい、そうですね… 中井さん大丈夫ですか?痛いところはありませんか?」


看護師さんに言われた事にただ肯くしかなかった。痛いところはないが、この変異をどう伝えたらいいのか分からない…。


「ご自分のお名前言えますか?」


当たり前に答えられるはずの質問に首を横に振るしかなかった。


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