見知らない相手
「やー、先輩ってばホント小さいですよねぇ。人類の神秘では? あ、神秘だからさっきのところミスしても知らんぷりできたんですねぇ」
「そういうキミが大きすぎるんだよ。遺伝子解剖してもらっては如何かな?あぁ、そうか。大きすぎるから自分のミスにも気づかないのか」
「先輩こそ、小学生並みの骨格してるなんて、どういう成長してるんですかねぇ?だから同じミスしても成長しないんですよぉ」
「キミこそ遺伝子を科学者共に提供してみてはどうだい? 私みたいな背の低い者が成長出来る薬が出来上がるかもしれないからな。最もキミのミスを治す薬は出来なさそうだがね」
「あらぁ、大きすぎて申し訳ぇ.......ないなんて一言も思ってないですけどぉ。先輩、もうちょっと成長してみてはいかが?小さいミスでいつまでもグチグチ言うもんですからぁ」
「私とて好きで小さいままでいないのだよ。キミこそもう少し小さくなりなよ。そうすればミスを直せるかもしれないな」
これは日常風景。
彼女達の言い争いは常日頃から続けられている。
「あの二人飽きないねぇ、毎日毎日」
「あれで幼馴染らしいよ」
「はぁー.......だから息ピッタリなのかねぇ.......というか、今日の喧嘩の原因はなに?」
「さぁ? いつものくだらない行き違いじゃないの?」
周囲のメンバーもいつものことと思っているのか、特に何も言わない。
「はいはい、そこまで。さっきのところもう一度やり直すよ」
「先輩、次こそはちゃんとしてくださいよねぇ」
「キミが私に合わせるのだよ」
片方は男装の麗人、
もう片方はお姫様の格好をしながら、
演劇に励んでいく。
これはとある高校の演劇部の話。
家に帰ると私は僕に戻る。
かつて別の世界で生きていた自分を思い出す。
性別が全く変わってることに関しては神様を恨んだが。
僕はかつて別世界で王子を務めていた。
次期王を担うものとして、日々勉強に訓練の毎日。
疲れることもあった。
というよりは、1度全てを投げ捨てようかとも思った。
そんな時だった。
部屋の窓に手紙が張り付いていたのは。
一体誰だろうか。
気になって不用意に手紙を開いてしまった。
魔法使い達に調べさせてからが普通なのに。
その日の僕はどうにでもなれっていう気持ちが大きかったのかもしれない。
そこに書かれていたのはごく普通の何気ない日常。
ご飯が美味しかったとか、こんな本を読んだとか、景色が綺麗だとか。
ただそれだけ。
それだけなのに、惹かれた。
文字が綺麗だからとか、そんなのではなく。
そこに込めた気持ちを、その書き手を、
知りたくなった。
届くか分からない手紙。
それでも僕は返信を書いた。
届けるにはどうしたらいいだろうか.......
そんなことを考えたのは一瞬。
開いていた窓から手紙は風に乗って飛んでいってしまった。
書いた人もこんな感じで風に飛ばしたのだろうか。
届いたのならそれで。
届かなかったら仕方ない。
なんて思っていたのはその時だけ。
結局何年も続いた。
ある日を境に届かなくなるまで文通は続いた。
それでも手紙は送り続けた。
王である父が逝去し、僕が王になってからも、死の直前でも送り続けた。
返信は来なかった。
そんな日々もあったなぁ、なんて思いながら今日も手紙を書く。
近くに住む幼馴染には言えないが、
新しい人生を歩む今でも知らない誰かと文通をしている。
風に飛ばして。
今では返事はちゃんと返ってきている。
誰かさんは気まぐれ。
次は違うお話。