見知らない相手
「やー、先輩ってばホント小さいですよねぇ。人類の神秘では? あ、神秘だからさっきのところミスしても知らんぷりできたんですねぇ」
「そういうキミが大きすぎるんだよ。遺伝子解剖してもらっては如何かな?あぁ、そうか。大きすぎるから自分のミスにも気づかないのか」
「先輩こそ、小学生並みの骨格してるなんて、どういう成長してるんですかねぇ?だから同じミスしても成長しないんですよぉ」
「キミこそ遺伝子を科学者共に提供してみてはどうだい? 私みたいな背の低い者が成長出来る薬が出来上がるかもしれないからな。最もキミのミスを治す薬は出来なさそうだがね」
「あらぁ、大きすぎて申し訳ぇ.......ないなんて一言も思ってないですけどぉ。先輩、もうちょっと成長してみてはいかが?小さいミスでいつまでもグチグチ言うもんですからぁ」
「私とて好きで小さいままでいないのだよ。キミこそもう少し小さくなりなよ。そうすればミスを直せるかもしれないな」
これは日常風景。
彼女達の言い争いは常日頃から続けられている。
「あの二人飽きないねぇ、毎日毎日」
「あれで幼馴染らしいよ」
「はぁー.......だから息ピッタリなのかねぇ.......というか、今日の喧嘩の原因はなに?」
「さぁ? いつものくだらない行き違いじゃないの?」
周囲のメンバーもいつものことと思っているのか、特に何も言わない。
「はいはい、そこまで。さっきのところもう一度やり直すよ」
「先輩、次こそはちゃんとしてくださいよねぇ」
「キミが私に合わせるのだよ」
片方は男装の麗人、
もう片方はお姫様の格好をしながら、
演劇に励んでいく。
これはとある高校の演劇部の話。
家に帰ると私はワタシに戻る。
小さい背は流石に戻らないが、記憶『だけ』は戻る。
かつて私は異国の姫だった。
異国というよりは、異世界だけど。
名も知らない誰かとの文通。
それだけが私に許された日々の楽しみ。
王であるお父様と継母である妃はいつの日からか魔女の言いなり。
それにいち早く気づいた私は部屋から出されることなく、常に監視される毎日。
ある日気まぐれで手紙を飛ばしてみたことがあった。
もちろん検閲された上で。
誰かの目に留まればそれはそれで。
別に何の期待もしていなかった。
と言えば嘘になるだろうか。
手紙の返信はすぐに来た。
物好きな人もいたものだ、とその時は思って、また返してしまった。
結局何年も何年も続いたのだけど。
結局国は民の反乱もあり、廃れてしまった。
国の政治に携わる者は全員処刑。
私は一つだけ神に祈った。
もし別の私になれたのなら、名も知らない誰かと一緒になりたい、と。
神様は気まぐれなのだろう。
人としての新たな生を与えてくれたようだ。
背だけは伸びなかったが。
そこまで思い返して、ふと窓の縁を見る。
そこには『いつものように』手紙が添えられていた。
こんな物好きなことをするのは一体誰だろう。
前の人生でもあった、名も知らない誰かなのだろうか。
なんて思っては頭を振る。
そして私は今日も返信を書く。
何年も何年も続いている文通を楽しむために。
神様は気まぐれ。