4.冤罪処刑回避作戦、決行中1
ベッドに横になって熱にうなされるウィリアムに治癒魔法と冷却魔法を暗唱して手をかざす。魔法を掛け終わると待ち構えていたオスカーがロゼッタに詰め寄った。
「どういうことだ。殿下の体調がここのところずっと悪い。お前手を抜いてるんじゃないのか?」
腕を力強く掴まれてロゼッタは顔を歪める。
あの日からロゼッタはウィリアムに自分の魔力を毎朝少し渡して様子をみた。予想通り一時間待たずに好転反応で発熱し、そのまま夕方までうなされることになった。
「僕が、夜中に、起きて遊んだんだ。オスカーこのことは、内緒にしてほしい」
ウィリアムはオスカーがロゼッタを疑うたびに、自分が悪いと嘘をついて守ってくれた。
「……殿下、無茶は控えてください」
「うん。気を付けるね」
魔法が効いてきたのか、ウィリアムはそのまま目を瞑り眠ってしまった。
「殿下に感謝するんだな。ロゼッタ」
「そうね」
わかっていたことだが、ウィリアムの具合の悪さを目の当たりにすると心が傷んだ。
俯いて悲しい顔をしたロゼッタをみて、無理矢理納得したオスカーはそれ以上の追求はしなかった。
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半年ほどが過ぎた頃。ウィリアムの体調が目にみえてよくなった。
ロゼッタの魔力を渡すと、相変わらず好転反応はでるが二時間ほどで治まるようになり、午後は普通に過ごすことができるほどに回復した。
「今日は庭を散歩しに行こうと思うんだ。これからは少しの時間だけど家庭教師に勉強を習う。遅れた分を取り戻さないとね」
ニコニコと笑顔のウィリアムからは、毎日が楽しくて仕方ない気持ちが伝わってきた。
「少しでも変だなと思ったら無理せず休んでください。私もすぐに駆けつけますから」
「うん。でも庭の散歩はロージィも一緒に付いてきて欲しい」
「分かりました。お供します」
そして、午後になると必ず顔をみせるようになったオスカーも一緒に連れ立って、城の庭園へと散歩に出掛けていった。
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気持ちのよい風が吹き抜ける。目の前の花壇には庭師が丁寧に育てた薔薇が綺麗に咲いている。その先にある城の庭園の散歩道は、大人の目線を遮らない程度の植木で仕切られて剪定されていた。
「この前、ここで鬼ごっこをしてたら庭師にみつかって怒られたんです」
「確かに隠れんぼをしたくなる散歩道ですよね」
子供の背丈なら迷路のようで楽しめそうな散歩道だ。オスカーの言葉にロゼッタは思わず頷いた。
オスカーを先頭にウィリアムとロゼッタが並んで歩く。その歩みはウィリアムの体調に合わせてゆっくりと進んでいた。急にオスカーから少しだけ距離をとって歩きだしたウィリアムがロゼッタに耳打ちする。
「ねぇ、ロージィ。ちょっとオスカーを揶揄ってみようか」
「え?」
いつも優しい笑顔のウィリアムが、なぜが悪い顔をしてロゼッタの手を掴む。少しだけ隙間のあった植木の間にさっと入って小走りに進んでいった。
(えぇ~と。これは大丈夫かしら)
ウィリアムは直ぐに見付からないようにと大分入り組んだ先に進んでいく。開けた場所にでると真ん中に噴水のある広場だった。目立たない場所まで移動したところで急に立ち止まったウィリアムは、胸を押さえしゃがみこんでしまった。
(やっぱり、大丈夫じゃなかった!)
ロゼッタは慌てて治癒魔法を暗唱しウィリアムの体を支える。
「ロージィ、もう、大丈夫。苦しくないよ」
「もぅ。まだ無理はダメです。あと半年したら走れるようになりますから」
「今でも夢みたいなのに、もっと元気になれるなんて信じられないよ」
ウィリアムは、まだ少しだけ息が荒かったが顔色はとてもよく頬は赤みが差していた。
(もう少しで、専任治療魔法師は卒業ね!)
確実にロゼッタはウィリアムの婚約者から遠離っている手応えを感じて、笑顔で頷いた。
「ありがとう、ロージィ。君のおかげで僕は救われたね」
「私も、念願叶いそうで嬉しいです」
ふたりが笑い合っていると、茂みから頭に草と小枝を差したオスカーが現れる。
「もう!勝手にいなくならないでくださいよ、殿下」
「僕の従者なのに気付かないなんて、鍛錬が足りないんだよ」
ぷりぷり怒るオスカーをウィリアムが揶揄って大笑いする。そして咳き込み痙攣を起こして、ロゼッタは慌てて治癒魔法を暗唱したのだった。