プレゼントを渡したい!(中編)
城の図書室。
取り寄せを頼んでいた本が入ったと連絡を受けたオスカーは、休憩時間を利用して図書室を訪れていた。
(諸外国の本は、ここで取り寄せるのが一番確実だと聞いたが、本当だな!)
王都の本屋もダメ、個人輸入もアテがない。諦めていたのだが、雑談程度にルーカスに話したところ彼は真剣にアドバイスをくれた。
『王宮の図書室を経由して頼めば国の書物として取り寄せが可能だ。ヘタな内容では却下されるが国外の工芸品についてであれば通ると思うぞ』
さすが公爵子息は視点が違うと、素直に感謝した。
そういった経緯で、オスカーは城に勤めるようになってからはじめて図書室という場所に足を踏み入れたのだった。
「ああ、魔剣に関係する書物がこんなにも借りられるなんて、夢のようだ」
中身は外国語で書かれているため読むのもひと苦労だろうが、好きなモノのためならば微々たる障害だ。入手自体ができなかったことを思えば、言語の壁くらいぶち破る気満々である。
ホクホクとしたオスカーが図書室を出ようとしたとき、真剣に探し物をしているロゼッタを見掛けた。
「ロゼッタ、探すのを手伝おうか」
「ひぇ!」
「どんな本を探してるんだ?――『刺繍~令嬢の嗜み~』『裁縫の基礎』『刺繍の図案全集』?」
てっきりここは魔法関連の棚だと思い込んでいたオスカーは、並んだタイトルに驚いて端から読み上げてしまった。
「ちょっと、どうして声にだして読むのよ!」
「――あ、ああ。いや、すまない。なんか意外すぎて」
幼少期から互いに付き合いのある間柄なため、オスカーはひどく違和感を持った。
「ロゼッタなら、刺繍なんて家庭魔法でできるだろうに」
その手があったか、と一瞬だけ思ってしまったロゼッタである。
「ぷ、プレゼントなら魔法じゃダメでしょ」
「ああ、プレゼントのために手作りするのか。――誰に?」
オスカーの詮索にロゼッタが頬を染めた。口元がわなないたあと、キッとまなじりを吊り上げて責めるように言い返す。
「信じられない。私があげる相手なんてひとりしかいないでしょ――って、なに亜空間に放り込まれたような顔してるのよ!」
「……いや、ロゼッタが殿下のために刺繍をするって、ちょっと意外だったから」
「失礼しちゃうわね!」
「すまない」
受け答えはなんとかしていたが、オスカーは放りだされた未知の領域で混乱していた。彼の中ではロゼッタが誰かに提供するものなど魔法か魔法薬しかない。
(ロゼッタが刺繍――。ロゼッタが魔法を使わずに刺繍???)
とても失礼な思考である。長い付き合いからオスカーの考えていることなどお見通しなロゼッタはぷくりと頬を膨らめた。
「なによう。別に私が刺繍したっていいでしょ?」
「ああ、――すまない」
オスカーは口に手を当てて動揺したままだ。悔しくなったロゼッタは、刺繍の基礎について書かれていそうな本を数冊手に取るとそっぽを向いて立ち去っていった。
残されたオスカーは、目をぱちぱちと瞬いたまま動こうとしない。
「ロゼッタが、刺繍。魔法を使わずに――」
魔法でなにもかもを解決しがちなロゼッタが。
ウィリアムを最強の魔法戦士に育てるために一役買ったゴーレムを作ったロゼッタが。
魔法だけは夢中で取り組むロゼッタが。
魔法を使わない選択をするなんて、信じられない。
頬を染めて恥ずかしがる姿を目にしたのもはじめてかもしれない。
(女の子らしい一面があったなんて、知らなかった)
イジらしさに、ちょっとだけ心がときめいてしまったオスカーだった。
****
数日後。
クリスティアンから刺繍道具を受け取り、借りてきた本を熟読したロゼッタはやる気に満ちあふれていた。
「まずは練習あるのみよ!」
いくらでも失敗できるよう、無地のハンカチーフも刺繍糸も山ほど用意をしてある。
「コツさえつかめれば、きっと大丈夫」
ロゼッタは、前世で習得したミニゲームのタイミングを思い浮かべていた。ゲームのコントローラを微細に動かし、お菓子を作ったり小物を作ったりしたのが懐かしい。
意気揚々と針を手にとったのだが、一時間後には浜に打ち上げられた魚のようにソファーに寝そべっていた。
「む~り~。絶対ムリ。全然綺麗にできない。指に針が刺さってハンカチが血で汚れちゃう!」
はじめの勢いはどこへやら。もう全てを投げ出してしまいたいと両手両足をバタつかせた。
『ロゼッタなら、刺繍なんて家庭魔法でできるだろうに』
悪魔の囁きならぬ、オスカーの素直な感想が脳裏をよぎる。
きっと魔法を使えば、手本通りに仕上がるだろう。
『ありがとう、大切にするよ。――プレゼントは、はじめてもらったな(頬を赤らめた笑顔で)』
婚約者に贈るはじめてのプレゼントである。あまり見栄えの悪いものを渡して引かれたらどうしよう。
「ぐにゅ~」
魔法で手堅く仕上げるか、多少見栄えが悪くとも手作りにこだわるべきかの葛藤がつづく。
「――そうだ! 魔法で作るところを見ながら勉強すればいいのよ!」
最初から練習ありきではじめたのだから、魔法の動きを参考にするのは悪いことではない。
「前世でも学べる動画配信があったし、一緒よ!」
なんとなく後ろめたい気持ちをおいやって、ロゼッタは裁縫道具を魔法で操りはじめた。
刺繍枠にピンと張られた布地のうえを針が動きまわり、糸が図案を描いていく。
「なるほどね! ふんふん。わ~綺麗な仕上がり! ――よし、もう一回見てみよう!」
机の上に、複雑な刺繍入りのハンカチーフが次々と重ねられていった。
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