プレゼントを渡したい!(前編)
『あの、今日って誕生日ですよね? よかったら受け取ってください』
ヒロインへの好感度が低い場合
「……」(不愉快そうな顔をしたあと、立ち去る)
ヒロインへの好感度がまずまずの場合
「ああ、もらおう」(やぶさかではない表情)
ヒロインへの好感度がMAXの場合
「ありがとう、大切にするよ。プレゼントは、はじめてもらったな」(頬を赤らめた笑顔で)
(あ~、好感度の低いウィルだと確かにそんな反応したわ)
スマホで攻略サイトを読んでいた視線を戻して、コントローラーを握り直しプレゼントの選択リストを開いた。
(今は好感度がMAXだから、嫌いなものを渡しても受け取ってはくれるのよね)
でも、どうせなら喜ぶものがいい。ヒロインの刺した『手作りのイニシャル入りハンカチーフ』を選ぶ。
(はじめてもらったなんて、ロゼッタはあんなにべったりくっついている割には、ウィルへ愛情表現が足りないのかもね~)
奇妙な感覚に襲われた。ロゼッタは自分であり、ウィリアムの婚約者も自分である。
(あれ? あれれれれ???)
画面に映るヒロインは、金髪サラサラストレートがトレードマークの愛らしさ抜群な令嬢エリーゼ・イエンセン。
(いやいやいや。あれで結構性格悪かったし)
ザ・我儘令嬢を具現化したらあんな感じだろうと素で思ったのだから、きっとそう。
(違う違う。大事なのはそこじゃない。――私、ウィルへの愛情表現が足りていないの?)
思い返せばウィリアムの誕生日パーティなんてやったことない。
(興奮するのがよくないからって虚弱体質時代はやめていたはずだけど、元気になったあとも復活していない⁈ それに――)
プレゼントは受け取るばかりで、あげたことなど一度もない。
(だって、ウィルは王子様だからヘタな品物は渡せないのよ――)
ロゼッタの給金では、王室御用達の品々には手が届かないのであった。
(あれ、これって……)
「やっばいヤツだ!」
勢いよく起き上がると、そこはロゼッタの寝室だった。時間は早朝6:30。
「なーんだ、夢か。それにしても前世の記憶かぁ~。なつかしー」
背筋を伸ばしたロゼッタだったが、次第に顔色が悪くなっていった。
(いやいやいや。夢だったとして、私がウィルにプレゼントあげてないのは事実じゃん。――ありえなくない?)
ドッドッドッドッと心臓の音が早鐘を打つ。
「あげなきゃ、プレゼント! 『イニシャル入りのハンカチーフ』!」
善は急げ、思い立ったが吉日と、ロゼッタはベッドから飛び起きた。
「確か学校で買わされた裁縫道具があるはず。おかーさーん!」
勢いそのままに、床に倒れてうずくまってしまった。
「ないし、いないし」
ここは『World of Love & Magic』の世界。魔法学園はあっても学校はない。簡単に外出もできないし、手芸店も百円均一もありはしない。頼めば準備をしてくれた母親だっていないのだ。
前世の夢をみたせいか、今のロゼッタは死ぬ間際の十六歳だったころの人格が色濃くでていた。
「ええい! しっかりしろ私!」
パチンと両頬を叩いて、ロゼッタは日和った心を奮い立たせる。
「大丈夫よ! だって私は稀代の大魔法師だもの。まずは裁縫道具を入手するのよ。――でも、どこから?」
ウィリアムにバレないよう入手するのなら、城での知り合いには頼めない。ハンスには根掘り葉掘り聞かれそうなので、できれば避けたい。そうなるとほかに頼れる相手などいないのであった。
「え、嘘でしょ⁈ つんでる!」
稀代の大魔法師の全知全能性は、この件に関しては無力であった。
「どーしよう……」
どんなに困っても買い物をするコマンドが開くことなどない。ロゼッタは心当たりをもう一度洗い直して、とある人物を思い浮かべたのだった。
****
「お願いがあるの!」
「イヤです」
即答で断られたロゼッタは、下唇をゆがめて不満を隠そうともしなかった。
断った相手は、イヤだというのが精いっぱいだったようで半泣きになっている。
「内容を聞く前に断るなんてひどいわよ。クリスティアン」
「だって、アンデルセンさんのお願いって、いっつも危険なものばかりじゃないですか。それに殿下に秘密にしたいことは必ずボクに声かけますよね」
「そんなこと、――ばかりじゃないはずよ。たぶん」
「なら、殿下にお話ししますから」
「それはダメ!」
「ほらやっぱり! 絶対に面倒なヤツでしょ!」
己の身を守りたい一心で、クリスティアンは必死にロゼッタのお願いを断ろうとしていた。
「せめて聞いてから考えてくれてもいいでしょ!」
「聞いたら最後、断れないように巻き込むじゃないですか!」
「そこをなんとか!」
大袈裟に手を合わせて頭を下げだしたロゼッタに、クリスティアンはついに折れた。城の一角で、稀代の大魔法師が頭を下げる姿などみられたら問題になりかねない。
「クリスティアンのご実家は、確か商家だったわよね。あのね――」
おっかなびっくりロゼッタの話に耳を傾けていたクリスティアンは、次第に落ち着いた様子を取り戻していった。話を聞き終わると少しだけ首を傾げる。
「――それぐらいなら、お引き受けできますけど」
「やった!」
「でも、どうして殿下に内密なんです? 別に話が耳に入ったって――」
「ダメよ。だって私、これから刺繍の勉強をするんだもの」
刺繍など前世も今世でもやったことすらない。前世の授業でなみ縫いと返し縫を習ったことは、ギリギリ覚えているくらいだ。
「ウィルは、作っているところから近くでみようとするに決まっているもの」
はじめてのプレゼントに浮かれる姿が目の前に浮かぶ。きっとニコニコしながらソファの対面に座って刺繍するロゼッタを眺めるに違いないのだ。
(はっきりいって、そんな状況で刺繍とかしたくないから!)
となれば秘密裏に完成させて、サプライズで渡すほかない。
「あとこれ代金。一番上等な刺繍糸とハンカチーフをたくさん用意してほしいの」
「わかりました。――って、これ、いくらなんでも多すぎです!」
「いいの、いいの! 絶対に失敗するもの。たくさん買っておきたいの」
それを加味したとしても多すぎる。クリスティアンは相場の説明をして必要な分だけを受け取った。
「クリスティアンって真面目ね。余ったら手数料にしてよかったのよ?」
「そういった経費も込みの値段なんです。ウチは良質でお手頃価格をモットーにしてる商会ですから」
「そう、ステキね。今度からクリスティアンのところで買い物するようにするわ」
家業を褒められてクリスティアンはにっこりと笑った。反りの合わない父ではあるが、仕事の姿勢は尊敬しているので嬉しかったようだ。
「いつかお父様にもご挨拶させてね」
「イヤです」
「ちょっと! なんでよ、おかしいじゃない」
「おかしくありません。父は少々変わっているというか、――と、とにかく難しいんです!」
足早に立ち去っていくクリスティアンを引き留めはしなかった。無事に目的を達成したロゼッタは、次なる目標へとターゲットを変えていたのだ。
(裁縫道具はなんとかなったわ。あとは練習あるのみ!)
刺繍の本を借りるため、軽い足取りで城の図書室へと向かった。
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