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3.断罪イベントを回避する方法

 乙女ゲーム『World of Love & Magic』の舞台は十六歳の魔力持ちの少年少女が魔法学園に入学するところからはじまる。


 ゲームのヒロインの敵役(かたきやく)であるロゼッタ・アンデルセンは、十歳で王子の専任治療魔法師として仕えたあとは、なかなか完治しない王子の世話を一生つづけるために婚約者となる。ロゼッタが仕えることで、王子は日常生活を支障なく過ごせるようになり、その(はかな)く線の細い雰囲気が庇護欲をそそると評判の王太子に成長するのだ。


 その後、ゲームのヒロインが学園で光魔法を開花させ、王太子の虚弱体質が実はロゼッタの呪いによるものだと暴き呪いを解く。王族への悪質な不敬を働いた罪によりロゼッタは処刑されるのだ。


 プレイヤーが知ることのできるロゼッタ・アンデルセンの設定は、この程度だ。


(でも私、そんな呪いなんてかけてないのよね。確かゲームでもロゼッタは最後まで「私は無実よ!やってない」って訴えながら死んでいったし)


 プレイ中は、ロゼッタが素直に認めないことで勧善懲悪(かんぜんちょうあく)(がた)のハッピーエンドにしたのだと思っていた。けれど自分がロゼッタとして生まれ変わり、十歳までの記憶と前世のゲームの攻略情報とを照らし合わせれば、ゲームにはなかった真実が導きだされた。


(ロゼッタは呪いをかけてなんかいなかった。ずっと王子の側で治癒魔法をかけつづけて、冤罪で処刑されたなんて――)


「可哀想すぎでしょ」


 しかもそれはロゼッタの未来の予定調和なのだ。ぜっっったいに回避しなければならない。思わず拳を強く握った。


「ん。ロージィ?」

「おはようございます、殿下。気分はいかがですか?」

「――ロージィ。今日も来てくれたの?」

 力無く喋るウィリアムは、まだ少し苦しそうに息をしている。


「はい、それが私の仕事ですから。さぁもう少し寝てください」


 治癒魔法と睡眠導入魔法をかける。すぅすぅと寝息を立てるのを確認してから作業に戻る。


 ****


 前世の攻略情報を持っている十歳のロゼッタは、ウィリアムにかけられた呪いを徹底的に調べ上げた。そして城の図書室の禁書を読み漁りたぶんこれだろうという魔法を探り当てたのだ。


(魔力の保有量を拡張する魔法が施されてるんだわ)


 禁書の魔法だから、断罪イベントで呪い扱いされる理由も説明がつくというものだ。そして残念ながらロゼッタには解くことができなかった。


(やっぱり、光魔法しか解くことができないのね)


 だからといって諦める訳にもいかないロゼッタは必死で回避策を考えた。そしてひとつの答えに辿り着いたのだ。


 そもそも、この魔法は拡張後にその魔力補填(まりょくほてん)ができないと対象者が死んでしまう危険なものだ。そして強欲な魔法師が己の魔力の保有量を高めるために他者を生贄(いけにえ)にして使ったことから禁止されていた。


 ウィリアムにかけられた魔力の保有量の拡張は、広がった器を維持するだけで常に魔力を消費しつづけている。そのせいで体調不良を引き起こしているから絶対に完治しない。ゲームのロゼッタは治癒魔法を使い不調を抑えることでウィリアムの体調を保たせていた。だから未来永劫側にいる必要がでてきてしまうのだ。


(だとすれば、広がった器を魔力で満たして魔法が完成したらウィリアム殿下に体調不良は起きなくなるはず。ロゼッタも必要がなくなるから婚約者になる理由も消えるのよ!)


 幸いロゼッタ・アンデルセンの魔力は国一番の保有量だ。対するウィリアムの拡張後の保有量はロゼッタの器より小さかった。

 こっそり持ち出した禁書を読みながら、ウィリアムの魔力補填計画を羊皮紙(ようひし)に書き記していく。


(一度に入れると好転反応で命の危険に(さら)される可能性があるわね。一年かけて少しずつ様子を診ながら、ね)


 書きあげた羊皮紙を丸めてしまう。こっそり拝借した禁書をバレないうちに返すため、ロゼッタは図書室へ返却しに行くことにした。


 ****


 ロゼッタは眠りつづけるウィリアムの様子を確認しながら一日に何度も治癒魔法を暗唱する。落ち着いて一日眠ると夕方に少しだけ元気になったウィリアムが目を覚まして活動をはじめるのだ。


「殿下、昨日ほど動いてはいけません。今朝体調を崩したのですから」

「うん。でも元気になったのが嬉しくて」


 ロゼッタに注意され、ウィリアムはしょんぼりと肩を落とす。


(そうね。読書を二時間しただけで体調崩すなんて、つらいわよね)


 将来自分を処刑する相手に同情するなんて、どうかしてると思う。けれど目の前で十歳の子供が苦しそうにしていたり、遊びたいのを我慢(がまん)しているのだ。


(可哀想すぎでしょ)


 それに、今のロゼッタは全てを覆す方法を手に入れたのだ。最早おそれることはない。むしろ目の前の王子は目的を共にする同士だといえた。


(昨日の敵は今日の友なのよ!)


 コホンと咳払いをし、ロゼッタはウィリアムの両手を握って顔を近づける。


「殿下。今日は殿下に相談があります。新しい治療方法をみつけたんです。私と一緒に頑張って治しましょう!」

「え?」

「一年ほどかかりますが完治できるはずです。元気になって好きなだけ遊んで、好きなだけ本を読めますよ」

「――それはロージィに危険がある方法?」

「いいえ。ですが好転反応で殿下に負担がでるかもしれません」


 伝えながら少しだけ凹んだ。今だって体調が悪いのに治すためとはいえ更に負担を()いるのだ。


「ロージィに危険がないならいいよ。僕なら大丈夫」


 ニコリと笑ったウィリアムをみて気持ちを立て直す。


「ありがとうございます、殿下。私精一杯頑張りますね!」

 これが成功すれば、断罪イベントの冤罪処刑を回避できるのだ。ロゼッタは満面の笑みで喜んだ。

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