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【電子書籍化】転生!乙女ゲームの悪役魔女は冤罪処刑を回避したい(改題)  作者: 咲倉 未来
番外編 (ルートIF)

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そうだ! 聖地を巡ろう(前編)

 換気のために開け放った窓から、ふわりと心地のよい風が通る。レースのカーテンが呼応するようにゆらめいて、誘われるように流れてきた薔薇の香りが鼻をかすめた。


「春――。それは、はじまりの季節」


 学園を舞台に繰り広げられる乙女ゲームは、どれも入学式からはじまるのが鉄則。ゆえに春とは特別かつ特別な季節といえた。

 ゆっくりと息を吸い込んだロゼッタは、心躍る気候に勇気づけられていく。

 内に秘めた野望が、むくむくと頭をもたげていった。


「そうだ、――街へ行こう!」


 前世で古都旅行の宣伝につかわれていた誘い文句を真似てみた。思い立ったら即おいでませと、まるで古都が呼んでいるかのように錯覚させる魅惑の呪文である。


「植物園、プラネタリウム、美術館、原っぱでピクニック――」


 前世お世話になった攻略サイトの見出しが、頭のなかに浮かびあがっていた。デートスポットのマップとイベントが書いてあるページも鮮明に浮かんだ。


「ええ、ええ。――全部思い出せるわ」


 最低限の雑事(生きてくための活動+学生生活)以外を、すべてゲーム、漫画、小説、アニメに費やしていた成果は、まさかの転生後に役立った。


「なんでもいいから、一生懸命やりなさいって、――言ってた!」


 誰が言ったのかはキレイさっぱり忘れていたが、とてもいい言葉である。


「せっかく転生したんだから隅から隅まで楽しまないとね。しかもゲームじゃないから制限もない。イコール、どこまでも進むことができる!」


 両手を合わせて、うっとりと想いを馳せたあと、急に畏まった顔になり腕を組んだ。


「この計画には、突破しなければならない敵が二体いるわね」

 稀代の大魔法師であるロゼッタは、持ちうる魔法と相手方ふたりの性格を計算しつつ脱走計画もとい日帰り旅行プランを考えだしたのだった。


****


 ウィリアムの執務室。

 先程オスカーが開けた窓からの風で机の上に飾られた薔薇が揺らめき、花弁が一枚手元近くに落ちる。その様子を目にしたウィリアムは、思わず万年筆を持つ手を止めた。


「薔薇。――ロゼッタ。――なんだかイヤな予感がする」

「嘘でしょ。なんです、その直感」


 幼少期よりずっと仕えている従者のオスカーは、主である第一王子ウィリアムの病的な一面を垣間見てしまい思わずツッコミを入れた。


「僕の直感はよく当たる」

「キモ――。いえ、……ゴホン。あー、少し休憩をとりましょう」


 きっとストレスから最愛の婚約者を欲しているのだと、オスカーは自らに言い聞かせていた。生涯仕える主には、君主たるやを体現してほしい。そう願う彼の心は、目の前の不都合な事実をもみ消すのに必死である。


「茶を淹れた。――ふむ、この茶葉はなかなか香りがいい」

「お前、ルーカス! なんで自分だけ飲んでいるんだ!」

「毒見だ。問題ない」


 毒見も立派な従者の役目である。

 いつでもどこでも豪快不遜な態度のルーカス・ゴッドルに、オスカーはついつい構えて疑いの眼差しを向けがちだった。


「――そうか、すまない」

 ルーカスに謝罪を述べたオスカーは、バツの悪さを誤魔化すように頭を掻いた。

 ただ、この男は本当に予想外のタイミングで、従者にあるまじき選択をするので油断できないのである。



 先だって国の宰相にしてゴッドル公爵たっての願いで、ルーカスはウィリアムの従者に加わった。

 ルーカスはゴッドル公爵家長子であり、妖艶さを秘めた容姿でありながら清廉潔白な経歴の持ち主。どこをとっても、オスカーなど足元にも及ばない。


 けれど、ウィリアムはオスカーの部下にルーカスを据えてしまった。ルーカスもゴッドル公爵も特に異を唱えることがなかったのでそのままである。


(ダメだ、どうしても疑ってかかってしまう。ルーカスの扱いが難しい……)


 人生初の部下をもったオスカーは戸惑っていた。相手は名実ともに格上でクセが強いため、普通に考えても扱いづらいものである。けれど生来生真面目さの目立つオスカーは、諦めることはせず愚直に悩んで試行錯誤に明け暮れているのだった。


「ときに殿下」

「なんだ、ルーカス」

「先ほどの直感は、当たっているぞ」


 優雅な仕草でお茶を嗜むルーカスは、まるで執務室の主そのものであった。

(そういうところだ、ルーカス! そういう態度がだなぁ――)

 オスカーは目の前の主と部下のやりとりを、気を揉みながら眺めていた。


「当たっている、とは?」

「昨日、ラースがお忍びで街に行く方法を尋ねてきた」

 ラースとは、ルーカスの弟である。

「――まさか」

「少々てこずったが最終的に白状した。アンデルセンと秘密裏に出掛ける計画があったそうだ」


「お前、なんで朝一番に殿下へ報告しないんだ!」

 耐えかねたオスカーは声を荒らげた。


 現在、昼食も終えてしばらくたったあとのティータイムどきである。

 頭も切れるし身分も不足がない。けれどオスカーがルーカスに対してどうしても信用置けないのは、この予測不可能な思考回路のせいであった。


「慌てるな。白状させたのだから今頃は断っているだろう」

 ルーカスがまるで問題ないという態度を崩さないことにオスカーは苛立ち、グッと丹田に力を込めて荒れ狂う感情を呑み込んだ。


「――問題が起きなければ、報告しなくていいわけではないんだ、ルーカス」

「そうか、それは失敬した。以後気をつけるとしよう」

「ああ、そうしてくれ」


 オスカーとルーカスが騒いでいる横では、ウィリアムが大袈裟な様子で頭を抱えている。


「殿下、ルーカスもいっていた通りにラースが断ってくれるから大丈夫でしょう」

「大丈夫なわけない。だってロージィだもの」


 きっともう城内を抜け出したあとかもしれない。これまで何度もこういったことはあった。そのたびにウィリアムもしくはハンスが気付いて阻止をしてきたので、未遂ではあったが。


「ハンスが検知して包囲網をしいてくれているといいけど」


 その時、執務室にノックの音が響いた。ルーカスが扉を開けて確認するとクリスティアンが立っていた。


「失礼します、殿下。書類を届けにきました」

「ああ、受け取ろう。ところでクリスティアン、今日もハンスは息災か?」


 現在、クリスティアンはハンスの元で仕事をしていた。状況を尋ねる相手にはぴったりである。


「え、今日は確か郊外の研究施設へ出掛けていますよ。確か殿下が断った仕事の代理だったはず――」


「「「っ!」」」


 本日、ウィリアムとハンスの包囲網はザルであることが判明した。

 ロゼッタ、絶好の脱走日和である。

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