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【電子書籍化】転生!乙女ゲームの悪役魔女は冤罪処刑を回避したい(改題)  作者: 咲倉 未来
本編(Web版)

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20.舞踏会のパートナー

 国の第一王子であるウィリアム・フォン・カッセルは困惑していた。確かに学園の舞踏会で踊るパートナーをまだ決めてはいない。正確には当然のごとく婚約者とでるつもりでいただけで、あえて公言していないだけだが。


 なのに、である。校内では誰もが口を揃えていうのだ。


『ウィリアム殿下は舞踏会のパートナーに、光魔法を開花させた聖なる乙女であるエリーゼ様を指名された』


 なんとも不可解なこの現象にウィリアムは頭を抱えていた。噂を耳にして直ぐに断りを入れに向かった。あまりに慌てていたものだからエリーゼを見付けてその場で話をつけようとしたのがまずかった。


「殿下、わたくしと参加すると約束したではありませんか!」


 叫びながら大勢の前でエリーゼが泣きだした。まさか泣くとは思っていなかったのでウィリアムは動揺した。


「そもそも、僕には約束した記憶がないんだ。なにかの間違いだと思う」

「カフェテリアで、みんなの前で誘っていただきました!」


(えーーーー?)


 全く身に覚えのない事実に言葉が思いつかない。なんとか謝って取り下げようと口を開いたときだった。


「どちらが誘ったかは問題ではありません。私という婚約者がいるのです。エリーゼさんは遠慮するのが常識でしょう!」


 ウィリアムの腕にしがみついたロゼッタが、通る声で叫ぶ。


「これは殿下とわたくしの問題です。アンデルセンさんこそ遠慮してください」

「嫌です。殿下のパートナーを務めるのは、昔もこれからも私です!」


 泰然自若(たいぜんじじゃく)な自分の婚約者が、噛み付かんばかりに荒ぶるその姿をみてウィリアムの思考は停止した。


「殿下、わたくしと出席してくださいますよね?」

 エリーゼは涙に濡れた瞳を大きく見開き、ウィリアムを見つめつづけた。


「……」

「しつこいですよエリーゼさん。諦めてほかの人を誘ってください。いきますよ、殿下!」


 ロゼッタは話を打ち切りウィリアムの手を引いて立ち去った。ふたりがいなくなったあとには泣きながら座り込むエリーゼと、周囲にいた大勢の生徒がざわついていた。




 ロゼッタはウィリアムの手を握ったまま、あてもなく歩きつづけた。


「ロージィ。ねぇ、どこまで行くの?」

 心配したウィリアムが話し掛けると歩みが止まったが、そのまま反応がない。


「ロージィ?」

 背中を向けて少し(うつむ)いたロゼッタが心配になって回り込めば泣いていた。



「殿下は――」

「ん?」


「なんで、そんなに、嬉しそうなっ、顔をしてるんですか!」

 泣きながら()めつけられて、さらに頬が緩むのを必死でこらえた。


「もぅ! 殿下のばかっ。どうして直ぐに断ってくれないんですか!」


「ごめん。ロージィが嫉妬してるって分かったら、頭が真っ白になって」


 あまりの嬉しさに昇天したのだ。断ってくれないことを泣いて責めるロゼッタなどはじめてみたので、気持ちは浮かれっぱなしだ。


「わ、私がどんなに不安だったと思ってるんですかっ。笑うなんてヒドイ!」


 肝心なところで役に立たなかったウィリアムは、泣き止まないロゼッタの涙を拭って怒りがおさまるまで謝りつづけた。


 ****


 この事件が切っ掛けで、下火になっていたロゼッタに対する悪評は再炎上する。しかしウィリアムと常に行動を共にしているロゼッタは特に事件に巻き込まれることもなく日々を送っていた。


 そして、まだパートナーを決めていなかったオスカーが気を利かせてエリーゼを誘い、こちらも一旦問題解決となった。そしてそれ以降、頻繁にオスカーに話し掛けるエリーゼの姿を見掛けるようになる。


「彼女は聖なる乙女ですからね。あまり邪険にもできませんから」


 オスカーは紳士的に対応をしてくれている。


「ねぇ、ロージィ。聖なる乙女って知ってる?」


「さぁ。私は光魔法に詳しくないですから。今度城の図書室で調べてみますね」


(ロージィが詳しくないって、珍しいな)

 そんな会話をしていると、オスカーが戻ってきた。


「殿下、ずっと部室倉庫に置いていた魔剣の譲渡先(じょうとさき)が決まりました。剣術系の全クラブが共用で使えるように、学園管理の備品にしてイベントホールの倉庫で保管してもらえるそうです」


 期限を軽く無視しつづけていたオスカーの魔剣問題が解決の糸口をみつけたようだ。


「よかったね、オスカー」


「はい。今日中には移動しますので」

 その宣言通り、ウィリアムとロゼッタが部室に行くと倉庫は魔剣二十本を残して綺麗に片付け終わっていた。


「この残した魔剣はなかなか質のよいものばかりですね。オスカー様は腕の立つ(たくみ)になるかもしれません。そちらの道に進む気はないのでしょうか?」


「うん、趣味としてつづけたいらしいよ」


 実はどこからか噂を聞いた工房から引き抜きの打診があったのだ。念のため本人に聞いてみたところ――

「私は騎士です! 魔剣は趣味ですからっ。殿下の従者を絶対にクビにしないでくださいねっ」

 と絶叫された。


「まぁ、魔法を使いたい目的をみつけられたことが一番素晴らしいことですから。成績アップの効果もあっていいこと尽くめですよね!」


 クリスティアンは特殊な薬草を育てる土や水を作るために、オスカーはより強い魔剣を作るために、夢中で魔法学を勉強している。結果、ふたりは成績上位者に名前を連ねる猛者(もさ)へと成長したのだった。

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