16.光魔法と聖なる乙女
ロゼッタの暴走を止めた翌日から、クリスティアンが行動を共にするようになった。
「アンデルセンさんとふたりきりになりたくないんです。彼女来年は絶対に赤薔薇クラスですよね。ボクは新興貴族で付き合いのある派閥もなくて。おふたりの近くにいさせてください」
と、頭を下げられたのだ。
(僕らと居ればロージィも居るけどふたりきりにはならないってことか。ロージィ……)
ウィリアムはロゼッタがクリスティアンに負わせた心の傷を心配した。
そして、クリスティアンが合流したことにより今まで遠慮しがちだったクラスメイトたちが、彼を仲介に接触を図るようになったのだ。
「まぁ、クリスティアン様。いつの間に殿下とお近付きになったのですか?」
別のクラスメイトの女子学生が話し掛けてくる。
「わたくし、エリーゼ・イエンセンと申します。ぜひ殿下とお話させてください。よければランチをご一緒にいかがですか?我が家のシェフに用意させます」
「イエンセン侯爵令嬢。先約があるので申し訳ない。それと昼はカフェテリアを利用しますから」
ウィリアムはやんわりと断った。
「私は殿下に同行しなければなりませんので」
いつもいなかったという不名誉を撤回するために、オスカーはきっぱりと断った。
「ボク、カフェテリアの日替わりランチで気になるメニューがありますから」
クリスティアンは空気を読み、ひとりこの場に残りたくない一心で断った。
三人連れ立ってカフェテリアへいき、途中でロゼッタと合流して席に着く。
「最近、クラスメイトがよく話し掛けてくるようになりましたね。殿下」
「すみません。ボクが仲介してますよね」
「クリスティアン、気にしなくていいよ。遅かれ早かれなにか切っ掛けをみつけて近づいてくるんだから。ロージィはクラスメイトとは仲良くしてる?」
「困らない程度に仲良くしてます。それより、殿下に近付いてくるのは男性ですか?女性ですか?」
「え? どっちも居るけど。女性だったら心配?」
「ええ、心配です」
ウィリアムは目を見開いてロゼッタをみる。
ロゼッタはニコリと笑ってウィリアムをみた。
ふたりだけの世界ができあがったことを確認したオスカーとクリスティアンは、察したようにふたりで会話をしはじめた。いつも通りのランチタイムを過ごすのだった。
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魔法学の講義は実習を行うことが多く、ペアもしくは四人一組でグループを組むことが多い。
ウィリアムは今までピッタリとついてくるオスカーと組んでいたので特に気にしていなかった。けれどクリスティアンが合流したことにより誰かもうひとり必要な機会が増えたのだ。その一枠に高確率でとある女生徒が入ってくるようになっていた。
「たまには違うペアで組むのも学びがありますよ」
笑顔を向けてくるのは、エリーゼ・イエンセン侯爵令嬢だ。
「そうですね。オスカーはイエンセンさんと組みなよ。僕はクリスティアンと組むことにする」
従者をあてがい、ウィリアムは女生徒を回避した。
「殿下、私のことはエリーゼとお呼びください。オスカー様もぜひ」
ナチュラルにクリスティアンを無視して距離を詰めてくる彼女に笑顔だけ返しておいた。
(早く進級してロージィと組みたいなぁ。はぁ)
そんなことを考えながらテキスト通りに魔法を実践していく。少し苦戦しているクリスティアンにフォローを入れながら問題なく作業を終えた。
(こんな風にロージィをフォローしながら講義を受けたかったなぁ。これは一生無理だろうなぁ)
ウィリアムはいつも通り現を抜かしながら講義が終わるのを待っていた。
「殿下、お隣よろしいですか?」
「イエンセンさん。実践は終わったんですか?」
「エリーゼとお呼びください。私実は成績上位者でこの前の中間テストも三位だったんです。殿下は二位でしたよね」
「そうなんですね」
ウィリアムは気のない返事を返したが、エリーゼはつぶらな瞳を大きく見開いて、柔やかに笑いながら会話をつづけた。
「私、実は光魔法の才能があるんです。開花すれば聖なる乙女として、この国のお役目を果たすことになります。なので殿下とは仲良くしたいと思っているんです」
「聖なる乙女、ですか?」
「ええ、そのために日々努力してます。早くお役目を果たせるように頑張りますね」
得意げに話をしたエリーゼは、用事が済むと自席へと戻っていった。一方的に説明を受けたウィリアムは不思議な顔をした。
(聖なる乙女、ってなに?)
 




