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【電子書籍化】転生!乙女ゲームの悪役魔女は冤罪処刑を回避したい(改題)  作者: 咲倉 未来
本編(Web版)

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10.デビュタント

 結上げた髪に薔薇のコームをつけた。ふたつの花のあいだに連なるパールとクリスタルがチラチラ揺れて光っている。胸元は髪飾りにあわせて選んだ連珠のパールに大振りのダイヤのペンダントトップとピアスをつけた。水色にレースのドレスを着て姿見の前でくるりとまわって全身を確かめる。


(ああ、かわいい!)


 ロゼッタはグローブをつけた両手を胸の前であわせて、これからはじまるデビュタントに思いを馳せた。

 コンコンとノックが聞こえる。扉をあければロゼッタと同じ水色の正装に着替えたウィリアムが立っていた。


「え。ウィルも水色なんですか!」

「うん。ロージィと揃いのモノを仕立てたんだよ」


(そんなぁ。それ、めちゃくちゃ目立つやつ!)


 少しショックを受けたロゼッタに、してやったりと笑いながらウィリアムは部屋に入る。


「今日は可愛らしく仕上げたんだね。うーん。水色も可愛いけど僕の選んだ赤のドレスも素敵だったのに」


「私の髪と同じ色では凄く目立ってしまいます」


「ロージィの美しさが輝くのに。次は絶対赤いドレスを着てね」


「……そのときは、ウィルも赤い衣装を着るのですか?」


「紺色の衣装を仕立ててあるよ。反対色だね」


(もう、ペアで仕立ててあるなんて!)

 ロゼッタはウィリアムの手際のよさにショックを受けた。


「さぁ、そろそろ行こう。お手をどうぞ、お姫様」


「はい、喜んで!」


 ふたりは手と手を取り合って歩きだす。廊下に待たせていたオスカーと連れ立って、三人は舞踏会の会場へと向かっていった。


 ****


 ロゼッタはファーストダンスをウィリアムと無事に踊り終え胸を撫で下ろした。


(次はオスカーと踊るのかしら?)

 顔見知りがオスカーしかいないロゼッタは辺りを見回した。けれどウィリアムに腕を引かれて、そのまま連続して踊りはじめてしまったのだ。


「殿下!二回も連続して踊るなんてっ」


「ロージィは僕の婚約者だもの。大丈夫だよ」

(それはそうだけど、ペアの衣装で二回も連続して踊るなんて!)


 いつの間にウィリアムはこんなに大胆になってしまったのだろうか、とロゼッタは困ってしまった。

 そして踊り終わると、察したオスカーがロゼッタを誘いにきた。


「ああ、オスカー、よろしくお願いします」

「そこは男性が声掛けするまで待ちましょうよ。こちらこそお相手願います。ロゼッタ様」


 ロゼッタがその場を離れると、ウィリアムの周りにいっせいにほかの令嬢が集まってきた。


(わぁ、凄い人集(ひとだか)り。ファイトです! 殿下)

 心でエールを送りながら、ロゼッタはオスカーとフロアへと歩みでた。


「ロゼッタとふたりきりで話す機会がありませんから、なんだか新鮮ですね」

「そうですね。オスカー様は誰か意中のかたはいらっしゃるのですか?」

「いいえ。特にいませんよ」


(よし、ならぜひヒロインと結ばれていただこう)


 本人の意思を丸無視して、ロゼッタは魔法学園で会うことになるヒロインの相手にオスカーをあてがった。


「ロゼッタ様は、殿下と仲睦まじいですね。羨ましい」

「そうですね。殿下が毎日通って頑張ってくれるから、私は受け取るばかりですけど」

「まぁ、そういうことにしときましょうか」

「ふぇ?」


 当たり障りのない会話を楽しみ、オスカーとのダンスを踊り終える。戻ればオスカーの元にも令嬢たちが殺到した。


(まるでエサに群がる鯉のようね!)


 彼女たちが群がる姿は壁際にいるロゼッタからみても凄い勢いだ。ビチビチと生きがよさそうだなと観察していると、こちらに歩いてくる男性と目が合った。


(あ!)


 金髪で、男性にしては華奢(きゃしゃ)体躯(たいく)に可愛らしい顔立ちを、ロゼッタは知っていた。


「はじめまして、姫君。クリスティアン・モーテセンです。よかったら私とダンスを踊っていただけますか?」


(『World of Love & Magic』のキャラクター。クリスティアン・モーテセン子爵子息だ)


「はじめまして、クリスティアン様。モーテセン子爵のご子息ですよね。私はロゼッタ・アンデルセンです。こちらこそ喜んでお受けします」


「我が家の爵位をご存じなんですね。嬉しいな」


 朗らかに笑う彼の手を取り、ロゼッタはホールへと戻っていく。


(父親が貿易で成功した新興貴族よね。馴染める派閥がなくて孤立気味なことを気にしている。本人は植物を育てるのが趣味だったわね)


 音楽が鳴りだしステップを踏む。


「アンデルセンさんは、ウィリアム殿下の婚約者なのですね」

「はい」

「今日はデビュタントですか?」

「はい」


 ロゼッタは、ウィリアムとオスカー以外ではじめて遭遇したキャラクターに魅入っていた。


「その、気の利いた会話ができなくてすいません。アンデルセンさんは、どんな趣味をお持ちですか?」


「薔薇の花が好きです。あとは植物を育てています」


 嘘ではなかった。しかし育てていたのは薬草で趣味ではなく退職前の仕事の話である。そして薔薇は好きだが自分で育てたことは一度もない。


「そうなのですね! ボクも植物を育てるのが大好きなんです」


(よし! 一人称が『私』から『ボク』になった)

 攻略知識をフル活用しながら、ロゼッタは会話を楽しんだ。


「今はなにを育てているのですか?」

「今はですね――」


 クリスティアンの植物談義を存分に聞きだしたロゼッタは、適度に好感度を上げてダンスを踊り終えた。


 喉が渇いたので給仕からシャンパングラスを受け取って、人の少ない場所へと移動する。


(もしかしたら、ほかの攻略キャラも居たりするのかしら?)


 前世でドハマリしたゲームなのだ。できれば全員のキャラクターの顔を拝みたいものである。もちろんウィリアムが一番だがロゼッタの中ではそれとこれとは話が別だった。

 目の前の料理を摘みつつ、リンゴジュースを飲みつつ、目が合わないように気を付けながらキョロキョロと周りを観察する。


(うーん。ほかは見当たらないなぁ、残念。――なんだか熱いなぁ)


 熱気に中てられたのだと思ったロゼッタは、夜風に当たりにバルコニーに移動したのだった。


 ****


 ウィリアムは、フロアのどこにも見当たらないロゼッタを散々探し回り、バルコニーのベンチに座っているのをみつけて安堵した。


「ロージィ、やっとみつけた。声をかけてくれたら一緒に付き添ったのに」

「なんだ、ウィリアムか」


 その物言いにショックを受けて言葉を失った。けれどいつもと様子の違うロゼッタをしげしげと観察する。目がトロンとして眠そうでなんだか顔が赤い。


「なにを呑んだの? ロージィ」

「リンゴジュース」


(ジュースは確かオレンジとグレープしかなかったはず。あ!)


 ロゼッタが間違えてお酒を呑んだことを理解したウィリアムは、直ぐに水を持ってくる。隣に座ってロゼッタの肩を抱き水を飲むように促せば素直にグラスに口をつけた。ひとくち口に含んで嚥下したのを見届け、さらに口元に添える。


「……次はリンゴジュース飲む」

「リンゴジュースはダメ。ほら、もう少しお水を飲んで」


 気に入らないとばかりにロゼッタがむぅと口を尖らせてウィリアムの懐に顔を向ける。グリグリと顔を押し当ててどんどん押し倒していった。


「待ってロージィ。僕の心臓が止まりそう」


 久々に死にそうな動悸(どうき)を感じてウィリアムは焦った。それなのに、ロゼッタはそのままの体勢で眠り込んでしまったのだ。


「ロージィがこんなになるなんて珍しいなぁ」


 ウィリアムからみたロゼッタは、しっかりしていて隙がない。だからお酒に酔って異性に抱きついたまま寝るなんて、実際に目の当たりにしても信じられなかった。


「まぁ、オスカーに人払いさせてるから誰もこないし、仕方ないよね」


 少しの間、ウィリアムは眠るロゼッタを胸に抱いて舞踏会のワルツの音色に耳を傾けた。けれど、直ぐに飽きたのか、懐にもたれている華奢な婚約者を遠慮なく観察していた。


 出会って五年、互いに男女の体格へと成長していった。特にウィリアムは一生懸命に身体を鍛えた。


(寝たきりのガリガリだったからね。あのままじゃ絶対にロージィに振り向いて貰えなかったよ)


 ロゼッタが自分のことを異性として意識しはじめたときのことを、ウィリアムはしっかりと覚えていた。それは声変をわりして、喉の違和感を訴えたときのことだった。


 ――とても素敵な声ですよ。もっとお喋りしましょう。


 頬を染めて話を聞きたがったロゼッタのことが、今でも忘れられずにいる。

 剣術でオスカーを負かし、ロゼッタがくれた魔力を使いこなせるように一生懸命勉強した。


(なのに、ちっとも安心できない。だってロージィがどんどん綺麗になっちゃうから)


 出会ったころは可愛らしい女の子だったのに五年で綺麗な女性になった。髪は毛先までサラサラで、肌は真っ白できめ細かくて唇はいつも艶めいている。指先の形のよいピンク色の爪はいつも常に輝いている。細部まで手入れを怠らないロゼッタの努力の成果を、ウィリアムはしっかりと気付いていた。


(綺麗なのは嬉しいけど、悪い虫が寄ってきそうで心配なんだよね)


「ん、――ウィル?」

「おはよう、ロージィ。気分はどう?」

「私、寝てました?」

「少しだけね。間違えてお酒を呑んだんだよ。もう少し休んだら今日は帰ろうか」

「~~っ」


 真っ赤になって顔を隠すロゼッタの頭を撫でる。


「ちゃんと人払いさせてあるから、大丈夫だよ」

「ウィルの前です。大丈夫じゃありません!」


 ちゃんとお互いに通じ合ってる手応えは感じていた。だからこそ異性として意識してしまい心が振り回されてしまう。お互いがたまらなく愛おしい。このまま好きでいてもらえるように全力で頑張ろう、と強く思ったのだった。

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